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社会

高齢者食堂が映す男性の孤立

9月5日の日経新聞夕刊に「高齢者食堂が映す男性の孤立 地域での交流にハードル」が載っていました。

・・・地域のシニアが集まって食事をともにする「高齢者食堂」が増えてきた。子どもに無料か低額の食事を提供して育ちを見守る「子ども食堂」のように、シニアの新たな居場所として注目が集まる。一緒に調理したり、誰かに作ってもらって食べたりと形態は様々だ。一方で男性の参加が少ない食堂があり、男性が地域でネットワークを築く難しさの一端も透けて見える。

「きょうはホタテやカキがあるんですよ」「ご飯のお代わりはいい?」
東京都文京区の住宅街の一角。NPO法人居場所コム(東京・文京)が運営する一軒家「こまじいのうち」で食事会が開かれていた。
月1回、地域のシニアが集まって昼食をとる。食卓にはスタッフが作ったサラダや鶏もも肉の梅酒煮などがずらりと並ぶ。参加費は無料で、この日は10人集まった。「出会いの場になるね」。一人暮らしの80代の男性はここでの会話に刺激を受けているという。
都は地域で高齢者らの交流を増やそうと2023年度、文京区など5自治体13食堂で高齢者食堂の補助を始めた。24年度は5自治体18食堂で支援する。認知度は少しずつ高まっているが、課題のひとつは男性参加者が少ない食堂が目立つことだ・・・

・・・日本のシニア男性は友人の少なさで際立つ。内閣府が米国など4カ国で60歳以上の男女に聞いた調査では、「同性、異性の友人がいずれもいない」という回答が日本の男性は約4割と突出して高い。
孤独・孤立の事情に詳しい早稲田大学の石田光規教授は「今のシニア男性は猛烈に働き、地域との関わりを持たなかった人が多い。頼る人が配偶者のみとなりがちだ」と話す。
性別に対する規範的な考え方も影を落とす。小池准教授は「男性は周囲に助けてもらいながら生きるより、1人で自立して強く生きていくのが『男らしい』とされてきたことが大きい」とする・・・

中年期の心の危機

9月2日の朝日新聞には「中年期の心の危機、僕は48歳で 医師・鎌田實さんに聞く」も載っていました。

「微うつ」歴50年という人気絵本作家・ヨシタケシンスケさんのインタビューを先月、2回にわたって掲載しました。中年期に陥る心理的危機「ミッドライフ・クライシス」。自ら経験し、著書もある医師の鎌田實さん(76)にその症状や対処法について聞きました。

――ミッドライフ・クライシスとは?
発達心理学者エリク・エリクソンの提唱した「ライフサイクル・モデル」では、乳児期から65歳以上の老年期までを8段階に分けて40歳から65歳を成年後期としました。
人生の上り坂から下り坂に入るこの時期に、心や体の変化が表れ、葛藤や不安、焦り、うつなどの心の不調を抱えやすくなります。40代~60代で8割が経験するとも言われて、「第二の思春期」と言われることも。
僕自身は48歳で症状が出て、完全に抜け出すのに4年かかりました。

――何か特別な原因があるのですか?
苦境にある人ばかりではなく、大きな問題がない人にも起こりえます。僕に症状が出たときは、勤務していた公立病院づくりに成功し、人生絶頂の時期でした。
背景にあるのは、キャリア。高い山へと進んでいたのですが、どうもこのくらいの高さかと、見えてきて揺らいでくる。
健康も影響します。体力の衰え、食欲の低下、睡眠の質……。男女ともに更年期を迎えることも要因になる。テストステロンという男性ホルモンは女性も男性の10分の1程度分泌されており、壁があっても壁を壊すチャレンジングホルモンなのです。これが男女ともに低下しやすくなり、元気を失ってしまう。
家庭環境もあります。子どもの受験や巣立ち、介護、夫婦関係の悪化なども要因になります。

振り返ると、ミッドライフ・クライシスは「人生の成長痛」だと思います。
――成長痛ですか。対処法は?
脱皮の苦しみ。言い換えるなら、人生の二毛作ですよ。ひとつは、筋トレ、運動が有効です。男女ともに、重度のうつ以外は運動が処方箋(せん)になります。自分でやれるスクワットやランジ(下半身の筋トレ)をいくつか覚えて実践する。
次世代に目を向けることも重要です。ミッドライフ・クライシスに苦しんだ結果、被災地の子どもたちを救うとか、難民キャンプに病院をつくることなどに目を向けるようになった。
転職しなくたって、生き方を変えるチャンスはある。先が見えた時に、「自分は課長どまりかな」と思ったら、自分のために部長だけを目指していたことから脱皮する。近視眼的な「自分、自分」から脱皮する。すると、自分のやるべきことが見えてくる。
「仕事人間」を見直すことも大切です。仕事への向き合い方を変えてみる。家や職場だけでなく、第三の場所をつくる。

男性の更年期障害

9月2日の朝日新聞に「ひそむ男性の更年期障害 無気力・沈む気分、男性ホルモン原因」が載っていました。

・・・男性の更年期障害を理解し、支援する動きが、企業や自治体でじわりと広がっている。女性に比べて発症年齢にばらつきがあり、加齢やうつ病とも見分けがつきにくい。仕事への影響も無視できないため、正しく知って対処することが、職場にとっても働き手にとってもプラスになりそうだ・・・

・・・「意欲がわかない。なんでこんなに気持ちが落ちこむんだろう」
ホンダでITエンジニアとして働く安藤健一さん(48)が違和感に気づいたのは、コロナ禍が続く2022年のなかごろだった。
もともとエネルギッシュに働くのが好きで、業務効率化のアイデアなどを積極的に提案していた。しかし、新しいことを考えるのがおっくうになり、提案の数は目に見えて減っていった。「アイデアを考える意欲そのものがなくなっていた。過去に経験したことがないような違和感でした」
上司にも「なぜか気分が晴れない」と告げ、業務面で配慮をしてもらった。しかし不調の原因はわからず、症状も改善しないまま数カ月が経過。解決の糸口になったのは、会社から届いた一通のメールだった。

メールは、男性更年期障害への理解を社内で広めようとする、健康推進室などの取り組みの一環だった。そこに書かれた心の症状に、自分も当てはまっていた。
「更年期障害は女性がなるものと思っていたけど、自分の不調の原因はこれかもしれない」。ウェブや雑誌で調べ、泌尿器科を受診した。男性ホルモンであるテストステロンの値を血液検査で測ると、「数値が低い状態」と告げられた。気分の落ち込みは、テストステロンの低下による男性更年期障害と診断された。
男性更年期障害は、職場の環境変化が発症の要因になりうる。安藤さんの場合、コロナ禍のリモートワークで運動や外出が減ってしまったことが原因とみられた。
医師の診断で、ウォーキングと漢方の服用で療養をすることに。朝方30分のウォーキングを週2、3回。半月ほどで手応えがあり、心のモヤモヤが晴れていった。2カ月ほどで元気になり、仕事でも新規の提案を出せるようになった。
「僕らの世代は『男は弱音を吐いちゃいけない』という価値観がまだ残っている。症状があっても言い出せない人はけっこういるんじゃないかと思います」と安藤さん・・・

・・・自治体も動き出している。鳥取県は23年10月から、更年期障害とみられる症状で業務が困難な職員は、年間5日までの特別休暇を取得できるようにした。休み中も給与は支給され、男女を問わない。開始から半年で、女性で16人、男性で9人の取得があったという。
23年春に行った職員向けのアンケートで更年期症状の経験の有無を訪ねたところ、1177人の回答者数のうち「有り」の割合は女性が41%、男性でも31%にのぼった。
男性更年期障害を理由とする特別休暇制度は、大阪府四條畷市、香川県東かがわ市の役所でも実施している。
厚生労働省が22年3月に実施した「更年期症状・障害に関する意識調査」によると、男性にも更年期にまつわる不調があることを「よく知っている」と答えた人の割合は、50~59歳の男性でも15・7%にとどまった。更年期症状を自覚した人のうち、医療機関を「受診していない」と回答した人の割合は86・5%と、受診に後ろ向きな傾向もうかがえた・・・

エスカレーターで歩かない。名古屋で定着

8月31日の日経新聞夕刊に「エスカレーター「歩かない」定着 名古屋市、条例浸透で9割超に」が載っていました。

・・・エスカレーターで歩かず、立ち止まって利用することを義務付けた名古屋市の条例が市民の間で定着してきた。市は人工知能(AI)を活用し、人の動きに合わせて音声で注意を呼びかける装置や、立ち止まって2列で乗るように促す啓発スタッフを駅に配置するなど独自の施策を展開。市の分析では、立ち止まって利用する人が9割超に上った・・・

・・・昨年10月の条例施行後、市内15の駅で「なごやか立ち止まり隊」が定期的に活動している。「STOPしてね」と書かれた手のひら形の看板を背負い、空ける人が多い右側に立ち止まり「2列乗り」の流れをつくる市の啓発スタッフだ・・・

メンタル不調と経済的困難の悪循環

8月30日の日経新聞オピニオン欄に、渡辺安虎・東京大学教授の「メンタル不調と経済的困難の悪循環」が載っていました。

・・・厚生労働省によると、精神疾患を有する総患者数は2020年で600万人を超える。単純計算では国民の20人に1人が、何らかのメンタルの不調を抱えて受診していることになる。診断を受けていない人も多いと考えられるため、実際に症状のある人はさらに多いだろう。
メンタルヘルスの悪化は大きな社会的な問題だと長らくいわれてきた。経済的な影響についても様々な試算がされている。日本でも、患者数に就業率の低下などの仮定をあてはめた簡便な計算結果に、医療費などの直接的な費用を加えた試算が複数存在する。

しかし、メンタルヘルスの悪化が経済主体としての個人の認知や行動、そして経済状況に与える影響はどのようなものだろうか。そもそも、メンタルヘルスの不調が個人に与える経済的な影響や治療の経済的効果は、どの程度わかっているのだろう。
米エール大学とニューヨーク大学の研究者らは、デンマーク政府の250万人分の行政データを用いて、精神疾患が長期のキャリアに及ぼす影響を分析している。労働と医療という異なる分野の行政データを、個人レベルで接続することができるからこそ可能となる研究だ。
この研究では、うつ病や、そう状態とうつ状態を繰り返す双極性障害の受診者は、10年後の所得を約10〜20%低下させていた。そして、この所得低下は20代の早期治療によって大幅に抑えられていた。一方、その改善の程度は個人の社会経済状態から大きな影響を受けていた。親の資産が上位25%の患者と、下位25%の患者を比較すると、後者の改善の程度は、前者の約3倍にもなった。経済的に困難な状況に置かれた人への治療が、経済的に大きな効果を持つことを示す結果だ・・・

・・・早期発見・治療の医学的な重要性は従来からいわれてきた。経済的な要因は発症に関わることに加えて、早期発見・治療は経済的にも大きな効果を生む。経済的な困難と早期の発見・治療をより結び付けた対策で状況が改善することを願いたい・・・