戸堂康之著『日本経済の底力』(2011年、中公新書)を、読みました。長期停滞を続ける日本経済、大震災後の日本の経済を立て直すには、どうすればよいのか。わかりやすかったです。
鍵は、グローバル化と産業集積であると、主張します。そして、もう一つ、これらの基礎にあるつながりの重要さを、指摘します(細かいことですが、目次の第4章「産業集績」は「産業集積」の間違いでしょうね)。
海外に輸出する、工場を造る、国際的共同研究をする、海外でサービス業を展開する、投資を呼び込む。これらが、日本企業を刺激し、成長をもたらすというのです。
地域の産業集積も、企業や研究者が近くにいることで、情報を得、刺激を受け、アイデアやヒントを得ることができます。それが、大きな効果を生みます。企業や研究者が「つながり」によって、新しい刺激を受けること。これが経済発展、研究開発をもたらします。
つながりといっても、仲間同士で内にこもっていては、よい効果は出ません。アイデアやヒントを求めている人にだけ、「違う世界」「違う考え」が、よい刺激になるのです。リンゴが落ちるのを見ていても、引力を見つけたのは、ニュートンだけでした。他方、あまり関係ない者がつながっても、これまた成果は少ないでしょう。
かつて経済学では、合理的行動をする経済人や企業を想定して、議論がなされましたが、近年では、制度や慣習の重要性が、指摘されています。経済主体だけでなく、その行動を制約する環境と条件です。そして制度や習慣が、簡単には変えることができないこと、そしていくつもの制度や慣習がお互いに依存しあっていることが、指摘されています。社会学では、当たり前のことだったのですがね。
その目に見えない制度と習慣をどう変えていくか。この「つながり」は、一つの視点だと思います。
もちろん、経済だけでなく、社会や政治の分野でも重要です。人はひとりでは生きていけない。安心できる社会は、できないのです。孤独死が明らかにしたことであり、マイケル・サンデル教授の政治哲学の視点です。