カテゴリー別アーカイブ: 社会と政治

社会と政治

アメリカ民主主義の危機

2月2日の朝日新聞、スザンヌ・メトラー、コーネル大学教授の「米国の民主主義は危機にあるか 分極化や格差、重なる四つの脅威」から。

――著書で米国の民主主義の「四つの脅威」を挙げています。
「一つは政治的な分極化です。本来、立場の異なる政党があることは民主主義にとって良いこととされてきました。問題は、一つの政党が相手を、自らの生存に関わるような脅威と見なして対決するようになることです。相手をそのように見れば、民主主義を無視してでも相手に勝ち、権力を得ることを最優先しようとします。こうなると分極化は脅威となります」

――ほかの脅威は何ですか。
「二つ目の脅威は、帰属をめぐる対立です。特に社会や政治において力を持っていた集団が、自分たちの地位が危うくなり、力を失うと感じるとき、民主主義など気にかけず、あらゆる代償を払ってでも支配的な地位を守ろうとします。たとえば白人、男性、クリスチャンの中には、高まる多様性が自分たちへの脅威だと感じている人たちがいます」
「かつての共和党の大統領や大統領候補は、こうした帰属意識を利用することはありませんでした。たとえばブッシュ大統領は米同時多発テロの後に、反イスラム感情を鎮めようとしました。しかし、トランプ大統領はこれを利用したのです」
「三つ目は経済的な格差の拡大です。多くの富を持つ人が自分たちの優位を保とうとするようになります。この国では超富裕層は政治的にさらに活動的になり、減税や規制緩和を支持しています」
「四つ目は指導者の権力拡大です。米国では歴史的には議会の権限が大きかったのですが、徐々に大統領の権限が拡大してきました。もし民主主義を守るよりも自らの権力拡大に関心がある指導者が出てきたら、こうした大きな権限を、非常に支配的なやり方で使うことになります」

「米国の歴史を振り返ると、過去にも民主主義の後退が懸念された時代がありました。1850年代には最初の三つの脅威が重なり、南北戦争につながりました。しかし今の米国では四つの脅威が重なっており、民主主義にとって非常に危険な時期です」

業界が阻む中古住宅取引の電子化

11月29日の日経新聞に「中古住宅、データは伏魔殿 不動産IDに既得権の壁」という記事が載っていました。詳しくは記事を読んでもらうとして。「電子化が進まないのは政府が悪い」というのが批判の定番ですが。ここでは業界が既得権を守るために、手続きの電子化と透明化が進んでいないようです。

・・・中古住宅の売買取引を透明化する官民プロジェクトが10年以上も迷走している。不動産業界がオープンな情報システムによって既得権を脅かされると警戒しているからだ。建物や土地を登記簿の番号で管理する「不動産ID」の構想も骨抜きの様相。閉鎖的な「伏魔殿」は改革されず、DX(デジタルトランスフォーメーション)の機会損失はふくらむ・・・

・・・実は不動産IDの構想は、08年の国交省研究会の提言にさかのぼる。このときは個人のプライバシー保護などを理由に不動産業界が賛同しなかった。都市計画や防災といった行政情報と、不動産業界の業者間データベース「レインズ」を連携させる「不動産総合データベース」も初歩的な試験運用をしただけで立ち消えになった。
中古住宅の取引データベースとして国交省が手本にしてきたのが米国の「MLS」だ。全米の約600の民間データベースで構成され、売り出された物件は不動産業者との契約から原則24~48時間以内に掲載されるルールになっている。過去の成約価格やリフォーム履歴、税金関係の公的情報も網羅され、掲載ルール違反には除名など厳しい罰則がある。
一方、日本のレインズはどうか。建設省OBで不動産流通に詳しい中川雅之・日大教授は「データの量や質が不十分だ」と指摘する。売主と一対一の専任契約をした不動産会社は5~7日以内にレインズに物件情報を登録する義務があるが、違反が少なくない。自社で買主も見つけ、売主と買主それぞれから仲介手数料が取れる「両手取引」につなげたいからだ・・・

・・・不動産サービス大手ジョーンズラングラサール(JLL)の20年の調査によると、日本の不動産市場の取引プロセスの透明度は世界38位と先進国では最低レベルに沈む。業界の利害調整にとどまらず、不動産40兆円市場の構造改革を議論すべき時期にきている・・・

進んでいる移民の受け入れ

11月26日の朝日新聞オピニオン欄、社会人口学者・是川夕さんへのインタビュー「「移民国家」になる日本」から。

――日本に働きに来ている外国人は「移民」なのでしょうか。
「国連は移民を『1年以上外国に居住する人』と定義しており、経済協力開発機構(OECD)は『上限の定めなく更新可能な在留資格を持つ人』としていますが、どちらにしても、事実として日本は移民を受け入れています。コロナ禍の直前で毎年約17万人の技能実習生、約6万人のハイスキル層、約12万人の留学生など、年間約54万人の外国人が新たに来日している。今後は、日本への永住も可能な特定技能2号の対象業種拡大も見込まれています」

――技能実習生の失踪が問題になり、出入国在留管理局では収容中にスリランカ国籍の女性が死亡しました。日本は「移民受け入れ後進国」なのではないですか。
「再発防止を徹底するべきですし、人権擁護の重要性は言うまでもありません。しかし、理想的な移民政策を採ったとしても不幸な事件は起きうるでしょう。外国人だという立場の弱さ、力の不均衡が事件の前提にあるからです」
「多くの外国人労働者が、働くための在留資格という正面玄関ではなく、研修目的の技能実習制度や留学生のアルバイトなどのバックドアから入っているという見方が主流です。ゆがんだ制度によって外国人労働者が来日し、それが故に人権侵害が一部で起きていることも否定できません。しかし、それだけでは大切なことを見落とすことに気付きました」
――何が見えなくなる、と?
「それでも、彼ら彼女らは日本を目的地として選んだという事実です。外国人労働者たちを『だまされて日本で働いている可哀想な人たち』と見ていると、なぜ日本に永住する人が増えているのか、説明がつかない。未知のリスクがあるにもかかわらず国境を越えることを選んだ人たちの視点に立つと、別の風景が見えてきます。『差別され、貧困に苦しむ人たち』としてしか見ない視線では、国境を越える熱量とダイナミズムは理解できません」

――雇用という面で見れば、外国人労働者、つまり移民は日本社会に溶け込みつつある、と?
「ええ、ゆるやかに社会統合されていると分析しています。私の研究では、在留外国人のうち、最大のカテゴリーである永住者の賃金水準は、日本人と大きく変わりません。専門職に就く割合も、日本人と変わらない。周囲を見回せば、私たちと同じような暮らしをしている外国人が近くにいる、という状況になっています」
「小学校入学前の子どもたちでは、外国籍、日本国籍取得者、親のいずれかが外国籍という『移民的背景を持つ人』は2015年で5・8%に上り、30年には10人に1人となるという推計があります。子ども世代にとっては、クラスに2、3人は外国ルーツの友だちがいることがリアルです」

――文化の違う出身国ごとのコミュニティーができているという話も聞きます。それでも日本社会に統合されていると言えますか。
「日本人同士でも、隣に住んでいる家族がどんな人たちなのか、分からないことがある。それが移民となると、地域に溶け込むべきだ、となるのはおかしいと思います。階層、雇用、教育、婚姻など公的な領域では、差別や分断はあってはなりません。一方で、文化的なものは私的な領域に属する部分も大きく、日本人も外国人もそれぞれが大切にすればいい」
「米国でも、移民たちは出身国の文化を守り、コミュニティーを形成しています。それでも学校や職場では価値観を共有し、同じ社会のメンバーという意識を持っている。文化的な統合まで求めるよりも、最低限押さえるべき共通部分について決め、それを守る方がいいのではないでしょうか」

政府の統計、民間の統計

11月22日の日経新聞に「統計の主役交代、コロナで加速 急激な景気変動、政府追いつけず民頼み」という記事が載っていました。

・・・新型コロナウイルス禍をきっかけに民間データが政策現場に急速に普及している。代表格は携帯電話の位置情報やクレジットカードの決済情報など。いずれも経済の動きをリアルタイムでつかめるのが特長だ。国内総生産(GDP)をはじめ旧来の公的統計は集計・公表に時間がかかり、景気のめまぐるしい変化に追いつけなくなっている・・・

記事では、人流、カード決済、ネット消費額などの統計が、政府は取っていなかったり遅れるのに対し、民間がいち早く把握していることが取り上げられています。背景には、社会特に経済がデジタル化していることがあります。カード決済、スマートフォンの位置情報、レストランの予約やネット消費の動向です。
調査員が面接して調査票に記入し集計する調査統計と、このような情報通信技術を使った調査統計と。それぞれの長所があります。

インターネットの悪用を防ぐ

11月18日の日経新聞オピニオン欄、イアン・ブレマー氏「テック企業から民主主義守れ」から。

・・・米フェイスブック(現メタ)は30億人に社会的交流や情報、ニュースを提供するプラットフォームを運営している。このため、評論家や政治家、規制当局者らが、同社は収益向上のため極端で悪意に満ち、うその多いコンテンツ拡散を助長していると非難してきたことは非常に重要だ。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)はこうした非難をはねつけているが、どの国の政府も同社が及ぼす脅威に気付き始めている。
公正を期すために言うと、フェイスブックは規制を求める声に抵抗していない。民主主義を守る直接的な責任を負うことなく、利益を上げて競争力を維持したいと考えているだけで、世論を分断するつもりはない。経営陣はインターネット全般やSNS(交流サイト)を対象にした新たな規制を定めるよう政府に求めている。SNSのあり方や情報掲載可否の判断基準が、全ての企業に公正に適用されることを望んでいるのだ・・・

・・・フェイスブックを解体したり、別の方法で弱体化したりすることなく、社会の分断を阻止する解決策はある。1つは政治広告の禁止だ。そうすれば政治の偽情報拡散は抑えられ、議論のレベルが上がる。2つ目はサイト全体で国内政治の重要度を抑えることだ。3つ目は全てのユーザーが実在の人物であることを確認することだ。匿名アカウントやボットは認めない。全ての利用者がヘイトスピーチや偽情報を禁止するルールに従うことに合意・署名したうえで、ルールを破って追放された人が、新たな名前を使ってサインインできないようにする。
これらの方策は、デジタルテクノロジーがもたらす様々な問題に対処する一歩となるだろう。規制当局や市民は、テック企業が力を増しつつある社会にどう適応するのが最善か、世界全体で議論すべきだ。各国の首脳は1990年代半ば以降、気候変動への対策を毎年協議している。海面上昇や不安定さを増す気候パターンと同様に、テック企業が民主主義や社会に及ぼす害を抑えるため、即座に対策を講じなくてはならない・・・

小柳建彦・編集委員は、次のように補足しています。
・・・フェイスブックは近年コンスタントに毎四半期10億件超の偽アカウントを削除している。直近7~9月は18億件削除した。それでも1億近い偽アカウントが監視をすり抜けて活動中という。
大多数は、見知らぬ人からの「友達」申請に応じてしまう個人を狙って金銭などをだまし取ろうとする犯罪目的とみられる。一方、世論操作のため国家や政治家、思想集団がSNS上に設けた大量の偽アカウントは、陰謀論などの有害情報を拡散している・・・
詳しくは原文をお読みください。