カテゴリー別アーカイブ: 歴史

隈研吾さん、手直ししながら町を作り替える

1月1日の朝日新聞東京版に、「建築家・隈研吾さんに聞く 首都リノベーション時代へ」が載っていました。ネットは1月5日掲載のようです。

――東京の歩みをどう見ていますか。
東京を含め20世紀の都市は、モータリゼーションによって多様性が奪われたと言っていい。特に東京は多様性の強いヒューマンな街でした。明治までは歩きを中心に街全体が編成され、道も狭かった。
戦後は自動車が主役になり、世界のスタンダードに追いつかなければと、過剰適応をした。いわばモータリゼーション・コンプレックスが都市を変えてしまった。日本橋のように高速道路を街のど真ん中に持ってくるなど、街区が道路によって完全に途切れてしまいました。もう一度、歩ける街に戻すことが必要になっています。

――手がけている品川の開発コンセプトは。
目指すのは、「ウォーカブルな街づくり」。品川駅から900メートルくらいの歩ける距離で、元車両基地の長さを生かし、1本の人間のためのストリートをデザインするという意識です。始めにプロムナード(遊歩道)を主役としてどう造るべきかの議論があり、その後に建物がデザインされた。まずタワーありきの従来の都心型開発とは逆の発想です。

――これまでとは違う視点が求められますね。
行政にもディベロッパーにも建築家にも、これからはスクラップ・アンド・ビルドではなく、少しずつ手直ししながら街を磨いていく時間的思想、文化的思想が求められます。行政の関わりは、緑化や公開空地と引き換えにした容積率緩和だけ、ディベロッパーはより高く建てる、という時代はもう終わり。建築基準法も取り壊しと新築を前提としていたのが、用途変更がしやすい基準へと変わっていくはずです。
それには文化的リーダーシップが求められます。京都市が、閉校した校舎を新たな街づくりに活用している政策などは好例です。歴史的文化財でなくても、少し古くていい建物はたくさんある。そこをカッコよくしたい人はたくさんいる。そうした改築にインセンティブを設ける。コロナ禍以降の都市計画ではより一層、文化的思想への転換が不可欠なのです。

ボーゲルさん

エズラ・ボーゲルさんがお亡くなりになりました。12月22日の朝日新聞天声人語が、次のように書いています。

・・・ハーバード大教授として79年に刊行した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』はベストセラーに。経済発展を遂げた要因を解説し、日本人の自国観にも多大な影響を与えた
組閣時に側近ばかりを厚遇せず、派閥均衡に努める首相。社員を社宅に住まわせ、社歌や運動会で忠誠心を育てる経営者。列挙された日本の「強み」は、いま読むと「そんなことまで褒められていたのか」と気恥ずかしい

「この本は日本では発売禁止にした方がいい」。元駐日大使のライシャワー氏の評だ。日本が思い上がることを懸念したという。ボーゲルさん自身は刊行の狙いをこう説明する。「停滞した米国にとって日本こそ最善の鏡。米国の人々に目を覚ましてほしかった」
その後の日本は、バブル崩壊で失速し、「失われた20年」の間に低迷した。世界1位どころか、経済力はいずれ8位に落ちると予測される。民主主義の度合いは24位、男女格差では121位との指標も。残念ながら、どれもいまの実相だろう
知日派のボーゲルさんが亡くなった。改めて著書を読むと、日本の弱みや将来への懸念も随所に論じられている。人口も経済も縮みゆくわが国に向けた警告の「鏡」でもあった・・・

私も日本の絶頂期を示すものとして、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を引き合いに出しています。当時のアメリカへの警告であり、その後の日本への警告でもあったのですね。

杉原千畝紹介動画

杉原千畝さんって、ご存じですよね。第2次世界大戦中に、多くのユダヤ人の命を救った外交官です。詳しくはウィキペディアをご覧ください。
・・・第二次世界大戦中、リトアニアのカウナス領事館に赴任していた杉原は、ドイツの迫害によりポーランドなど欧州各地から逃れてきた難民たちの窮状に同情。1940年7月から8月にかけて、外務省からの訓令に反して大量のビザ(通過査証)を発給し、避難民を救ったことで知られる。その避難民の多くがユダヤ人系であった。「東洋のシンドラー」などとも呼ばれる・・・

あいおいニッセイ同和損保が、10周年記念事業として、「外交官 杉原千畝 命のビザ」の動画を配信しています。元NHKの手嶋龍一さんが、わかりやすく解説しています。お勧めです。
日本語版は終了したのですが、英語字幕版(動画は日本語)などを見ることができます。

星野博美著『旅ごころはリュートに乗って』

星野博美著『旅ごころはリュートに乗って 歌がみちびく中世巡礼』(2020年、平凡社)を読みました。本屋で見つけて、面白そうだったので。いくつか新聞の書評でも取り上げられています。

リュートは、中世ヨーロッパの弦楽器です。日本の琵琶に似ています。ギターの祖先のようです。第1話が、グリーンスリーブズ(イングランド民謡)です。皆さんもご存じの曲でしょう。私も好きな曲です。私でも、吹けます。ヘンリー8世がつくったとの説もあるそうですが、ウィキペディアでは、否定されています。
インターネットでもリュートの演奏を聴くことができると書いてあったので、検索してみました。たくさん出ていました。なるほど、このような音が出たのですね。

ところで、この本は、リュートから始まりますが、音楽が主題ではありません。途中から教会音楽の話になり、さらに話が広がって、ユダヤ人の迫害、キリスト教の殉教の話になります。副題がそれを表しています。それはそれで、勉強になりました。

ある思想家とその時代、以前、以後

権左武志著『ヘーゲルとその時代』(2013年、岩波新書)の冒頭に、おおよそ次のような記述があります。

思想や哲学を理解するには、思想家が生きた時代に着目し、歴史的文脈から思想のなり立ちを理解すべきである。思想は、生々しい生活体験から産み出されるものだ。思想家がどんな時代に生き、どんな時代の課題取り組んだのかを理解する必要がある。
そして、その思考の創造過程は、無からの創造を意味するわけではない。むしろ、過去の思想を新たな視点から読み替えていく再創造の形を取るのが通例である。
さらに高度な思想は、後の時代に継承されて、特定の時代や国を超えた普遍的影響を及ぼすことができる。

そして、「ヘーゲル哲学を理解するためには、その時代だけでなく、過去の何を変えたか、次代にどのような影響を与えたかを見るべきだ」と主張します。
納得です。哲学や政治学、社会学の名著といわれるものを読んでも、ここで主張されているように、過去の何を変えたか、何と戦ったか、後世に何を伝えたかがわからないと、意味と意義が理解できません。いままで、何度も名著といわれるものの時代背景や前後を理解せずに読んで、苦労したことがあります。

その書を深く掘り下げても、その書や人の意義はわかりません。その書や人が世界にそして後世にどのような影響を与えたかによって、意義がわかります。この項続く。