カテゴリー別アーカイブ: 歴史

お寺の塔

日本のお寺にある古い三重塔や五重塔。全国に、いくつあると思いますか。
11月3日の日経新聞文化欄に、「古塔を巡って南へ北へ 上層から眺める絶景も魅力」という、浜野孝雄さんの記事が載っていました。
それによると、明治以前に建立された塔は、全国に153もあるそうです。これは、びっくりしました。

奈良法隆寺の五重塔薬師寺の東塔興福寺の五重塔。京都東寺の五重塔などが有名です。創建当時の東西両塔残っているのは、奈良の当麻寺だけです。
奈良や京都だけでなく、各地に残っているのですね。

どの塔も美しく、よくぞ材木を組み合わせてこのような建築物を造ったものだと、驚きます。世界に誇れる日本の美です。

日本の近代産業を率いた人たち

栂井義雄著『日本資本主義の群像 ―人物財界史』 (2021年、ちくま学芸文庫)を読みました。日本の近代産業を率いた人としては、渋沢栄一が有名です。今年のNHK大河ドラマに取り上げられ、本屋にはたくさんの関連書籍が並んでいます。

この本は、渋沢栄一を筆頭に、明治から戦前までの財界人10人を取り上げて、その仕事ぶりを紹介したものです。簡潔にまとめられていて、読みやすいです。冒頭に、財界・経済界がどのようにしてできたのかが解説されていて、勉強になります。
歴史というと、政治家や武士が中心に描かれますが、経済を動かした人たちの役割も重要です。それら以上に、一般の人がどのように暮らしていたか、それがどのように変化したことの方がより重要ですが。こちらの方は、小説やドラマにはしにくいですね。

財界人10人で明治から戦前までの経済を描くのは無理がありますが、大まかな姿や時代の雰囲気が分かります。数字だけでは分からないことです。特に、近代産業が興り、成長する時代です。この人たちが中心になって財閥がつくられ、日本の産業界を引っ張ります。富国強兵・殖産興業を大方針とした政府と軍部の関係も、描かれます。
その後、才能と意欲のある個人が事業を起こす時代から、会社組織になって経営者が育成される時代になります。すると、特色ある個人事業家は少なくなります。

ところで、歴史小説にしろこの本にしろ、多くは成功者の話です。それは面白いのですが、他方で敗者もたくさんいます。それらも書かれていると、時代の動きがより分かり、また勉強になるのですが。それは、難しいですかね。

中東の安定と繁栄

9月18日の読売新聞解説欄、フランスの歴史家ジャンピエール・フィリユさんの「米軍アフガン撤退 「米国の中東」30年で幕」から。詳しくは原文を読んでいただくとして。
・・・米国のバイデン政権は米同時テロ20年を迎え、テロ直後に開戦し、米史上最長の戦争となったアフガニスタン戦争に幕引きをした。米国が20年前に政権から放逐した、イスラム主義勢力タリバンは米軍撤退の混乱のさなか首都カブールを制圧し、政権を奪還した。この 顛末てんまつ の歴史上の意味は何か。フランスの中東史の大家ジャンピエール・フィリユさんに読み解いてもらった・・・

――8月末の米軍のアフガン撤退完了で「米国の中東」は完全に終わった。
「復活はありません」
――米国の残した空白を埋める国はあるのですか。
「米国は圧倒的な大国でした。軍事・経済・金融・科学技術など全てに突出していた。代わり得る国はありません」
「ロシアはシリアのアサド政権の延命に深く関与した。だが真の戦争、つまり『イスラム国』との戦いは米英仏3か国が担った。ロシアは反政府勢力を空爆しただけです。和平を導く意欲はない。シリアは戦争でも平和でもない状況が続いています」
「中国は中東で派手に外交宣伝をしています。対米批判を重ねるばかりで、中東和平の代案を示すことはない。実際は商売最優先です。中国には中東政策がない。展望がない。例えばイスラエルやアラブ首長国連邦で港湾に投資していますが、それで両国が行動を変えることもない」
「世界の大国は中東を足場に立ち現れる。これは私の持論です。つまり中国は世界的大国ではない」
――中東の先行きは。
「第1次大戦後のオスマン帝国の消滅以来、中東は危機の連続です。しかも危機はその都度深刻化している。私の考える根本の原因は、中東の諸政権の『秩序』は民意を反映していない、つまり正当性がないことです。支配層は民衆を飢えさせ、異議を申し立てる民衆を弾圧してきた。アラブ人に限らず、トルコ人もペルシャ人も同様です。民意が尊重されない限り、中東に安定も繁栄も訪れません。暗たんたる思いです」

9.11後の20年

9月7日の日経新聞文化欄「9.11後の20年」トーマス・フリードマン氏の「民族とグローバル、均衡を」から。
・・・東西冷戦の終結を受け、その後の国際秩序を予想する議論が出た。フランシス・フクヤマは自由経済圏が勝利し平和が来る「歴史の終わり」を予言したが、世界から紛争は消えなかった。サミュエル・ハンチントンは異なる文明同士が対立する「文明の衝突」を論じたが、実際にはイスラム教シーア派とスンニ派の対立のように、同じ文明内での衝突が頻発した。
私は「民族としてのアイデンティティー」と「グローバル化」という新旧2つのシステムがからみあい、共存する世界を予想した。トライバル(民族的)な欲求とグローバル秩序が時には綱引きを、時にはレスリングをしつつ均衡を保っていく構図だ。この予想はかなり的を射ていたと思う。
(14年に)ロシアのプーチン大統領はクリミア半島の併合に踏み切ったが、ウクライナの首都キエフには侵攻しなかった。中国は香港で引き締めを強めているが、台湾には侵攻していない。トライバルな欲求をグローバル秩序が抑え込むことに成功したからだ・・・

イギリス産業革命以前の起業家

ジョオン・サースク 著『消費社会の誕生─近世イギリスの新規プロジェクト』(2021年、ちくま学芸文庫)が、勉強になりました。

イギリスの産業の歴史と聞くと、産業革命を思い浮かべます。突然、革命が起きたのか。そうではありません。それ以前に、地方の町や農村に家内制手工業が発展します。亜麻布、靴下、台所用品などなど。政府や知識人たちは、穀物生産が第一、国内消費向けの産業育成より海外貿易重視です、しかし、農地を追われた人、働くところのない人たちが、これらの手工業に従事し、貧民対策としても広がります。副収入を得ることができるのです。
それらの多くは、品質がよくなく、また規格もバラバラです。知識人はそれを嘆きますが、これらの製品は輸出ではなく、国内で消費されます。貧しい人にとっては、立派で高価な品物より、少々粗雑でも安い物が受け入れられます。ここに、生産と消費の好循環が生まれます。16世紀、17世紀の発展です。

庶民の行動(収入を得たいという願望、身の回りのものを買いたいという欲望)が、社会を動かします。そして、一部の人の「新奇な行動」が各地の人たちに広がります。庶民の行動と通念の変化が、社会を変えていきます。

著者は、地方経済史の専門家です。かつての権力を中心とした政治史ではなく、地域社会から歴史を分析します。正確な生産や売買の記録はないのですが、残された記録を元に、議論を組み立てます。面白いです。
1984年に東大出版会から出版されたものが、今回文庫本になりました。このような学術書が簡単に読めるようになるのは、ありがたいですね。