川北稔先生「私と西洋史研究」

川北稔著『私と西洋史研究:歴史家の役割』(2010年、創元社)を読みました。かつて読もうと買ってあったのが、本の山から発掘された(正確には、崩れて出てきた)ので。
川北先生はイギリスを中心とした西洋史の大家です。私は、『路地裏の大英帝国』『民衆の大英帝国』やウォーラーステインの『近代世界システム』の翻訳で、親しみました。あとで、高校の先輩だと知りました。

この本の解説には、次のようにあります。
「西洋史研究の碩学として知られる著者の個人研究自伝。計量経済史および生活史(社会史)の開拓、世界システム論の紹介・考察など数々の画期的業績を築きあげた著者の研究スタンスや思考を詳説するとともに、学界研究動向の推移や位置づけ、歴史研究の意義とあり方、歴史家の役割など、歴史を学ぶうえで必須の観点を対談形式で平易に説き明かす」

この本にも書かれていますが、川北先生と阿部謹也先生が社会史を始められた頃は、学会からは異端として相手にされなかったそうです。私も、阿部先生の『ハーメルンの笛吹き男』や川北先生の本を手に取ったときは、「このような歴史学があるのだ」と驚きました。歴史を政治史として習った私には、社会史は「文学に近いな」と思えたのです。
興味を持って読んだそれらの平凡社のやや大きめの判型の本は、いくつも今も本棚の奥に並んでいます。
大学で政治学を学び官僚になったのですが、社会史の見方に惹かれ、そのような本を読むだけでなく、今の社会と政治の見方にもつながっています。

先生の史学は、当時の主流であった東大を中心としたマルクス主義史観、大塚久雄先生の史学を超えることでした。そして、ヨーロッパの研究者の三流にならないこと、彼らと互角の戦いをすることでした。すると、史料を読み解いて発表するだけでなく、新しい物の見方を提示する必要があります。それに成功されたのです。
先達の努力と葛藤を学ぶことは、ためになります。