家近亮子著『蒋介石―「中華の復興」を実現した男』 (2025年、ちくま新書)が、勉強になりました。
「はじめ」にも紹介されていますが、大学生が「ショウカイ石って、どんな石ですか」と質問する時代です。
私の世代にとっては、中国共産党との戦いに敗れ、台湾に拠点を移した中国近代史の政治家です。父の世代にとっては、敗戦で中国大陸に残された日本軍と日本人を平和裏に帰還させた恩ある政治家、賠償金も取らなかった温情ある政治家です。ソ連占領地域の満州に残された日本人の悲惨な扱いと比べると、その差の大きさがわかります。
とはいえ、父の世代も私の世代も、実は蒋介石についてよくは知らないでしょう。戦時中は日中戦争の敵であり、おとしめた記事が広められました。戦後は共産党中国が、国民党と蒋介石の実績を隠しました。私が大学に入った頃は、新聞なども中国共産党と毛沢東を高く評価していました。その後、共産党支配の実態がわかるにつれて、その評価は低下しましたが。他方で、台湾と蒋介石については、十分に知られていたとは言えません。
宣伝文には、次のようにあります。
「蒋介石は、中国の悲願である「中華の復興」を実現しながらも、毛沢東に敗れたために「人民の公敵」として記憶されている。決定版評伝で中国近代化の真相に迫る」
確かに、清朝末期以来、西欧諸国(日本も含む)の侵略を受け、世界の大国の地位どころか国家としての体を失いつつあった国を、国際連合の5大国の一つに引き上げたのは、蒋介石の実績です。彼の願いの第一には、中華の復興があったのです。他方で、国内統一、国民党の支配確立は簡単ではなく、苦悩します。第一の敵は、日本軍でした。党内把握は何度も挫折しつつも維持しますが、共産党との争いには負けてしまいます。苦悩の連続です。政略の離婚と再婚、私生活での悩みも続きます。躁鬱症にも悩んだようです。
日本と日本軍が違った行動を取っていたら、彼と中国の運命は大きく変わっていたでしょう。大きな視野からの戦略を持たず、その場限りの対応や青年将校たちの将来を考えない膨張主義が、とんでもない結果を生んでしまいました。
本書は、彼の内面、行動、そして結果を丁寧に追いかけています。新書ですが、本文だけでも460ページあります。読み応えありますが、読みやすい文章です。
他方で、毛沢東のわかりやすい評伝はあるのでしょうか。報道の自由がない共産党中国では、本書のような客観的な記述はできないのでしょうね。