カテゴリーアーカイブ:報道機関

新聞の未来

2022年1月24日   岡本全勝

1月21日の朝日新聞オピニオン欄、前ワシントン・ポスト編集主幹、マーティン・バロンさんのインタビュー「ジャーナリズムの未来」から。
・・・米国で最もよく知られるジャーナリストの一人がワシントン・ポストの前編集主幹マーティン・バロン氏だ。昨年2月までの約8年間、一時は経営不振に直面した同紙の編集部門の改革の先頭に立ち、電子版購読者数を大きく増やした。ネット時代をいかにチャンスに変えたのか・・・

――13年10月、ワシントン・ポスト社はアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏に売却されました。変化は起きましたか。
「彼は最初から最重要かつ根源的なことを実行しました。この新聞の戦略を変えたのです。首都ワシントン地域に焦点を絞るというそれまでの戦略は正しくないと考えていたのです。我々は経済基盤の全てをインターネットに破壊され、広告収入も失い、苦境のさなかにいました。しかし、彼の言葉を借りれば、インターネットは我々に一つの贈り物を与えてくれました。ほとんどコストをかけずに国内、海外のどこにでもニュースを届けられ、プリント版を刷らずに全国紙あるいは国際紙になれるという贈り物です」

――具体的にはどんな改革をしたのでしょうか。
「ベゾス氏は、『戦略に沿った正しい取り組みには投資する』と語りました。彼は二つの要素を満たすアイデアを求めました。一つは単に地域的な読者ではなく、全国の人々に訴求するもの。もう一つは、若い世代を引きつけるもの。我々は若い読者を必要としていました。若い世代を開拓しなければ、20年後には読者はいなくなってしまいます。そこで我々はそれらの要素を満たす一連のアイデアを提案しました」

「一つはインターネットにおけるコミュニケーションとは何かを理解しているジャーナリストたちの採用です。彼らの多くはデジタルメディア出身で、紙中心の媒体で働いたことがない人々です。彼らは、新聞で典型的に使われる堅苦しい文体や構成ではなく、インフォーマルで親しみやすい話し言葉で文章を書きます。ソーシャルメディア上で認知され、読者を開拓する必要があることを理解していました。また、自分が書いた記事がどう読まれているかを知るために指標に注意を払います。記事を読んだ読者の数や最も関心を集めたテーマ、どのような表現方法が良い結果を出しているかなどを知る指標を把握していました。彼らは我々に一つのモデルを示してくれました」

「我々の仕事は24時間態勢になりました。インターネットの世界では人々は瞬時にニュースが読めることを期待しています。我々は夜間のニュース部隊をつくりました。日中に編集部門が取り上げなかったニュースの中から最も話題になっている面白いものを選んだり、違った視点から続報を出したり、ニュース速報を配信したりする仕事を一晩中担当します。これは大変成功しました」

――インターネット上には、無料で読める記事が氾濫しています。ジャーナリズムはどう差別化を図るべきでしょうか。
「ジャーナリズムの将来は、我々の仕事にお金を払う気持ちを読者に持ってもらえるかどうかにかかっています。真の価値を提供すれば、読者はそれにお金を払います。徹底した深い取材、より多くの調査報道、優れた分析、物語性のある読み物、深く掘り下げた人物記事など、こうしたジャーナリズムの仕事はメディアの将来にとって極めて重要です」

命・暮らしの支え手

2022年1月17日   岡本全勝

1月15日の朝日新聞1面に「濃厚接触待機、10日間に 命・暮らしの支え手、最短6日も 新型コロナ」という記事が載っていました。
・・・新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者の待機期間について、厚生労働省は14日、オミクロン株の感染拡大地域では、現在の14日間から10日間に短縮すると発表した。介護や育児サービス、生活必需品の小売りなど、命や暮らしを支える「エッセンシャルワーカー」は、検査で陰性を確認し、最短で6日に短縮できるようにする・・・

「エッセンシャルワーカー」を「命や暮らしの支え手」と、言い換えています。良いことですね。
「エッセンシャルワーカー」と言われても、何を指すのか、どのような職業が含まれるか、はっきりと言える人は多くはないでしょう。私もそうです。命や暮らしの支え手と言われれば、たいがいの人は想像ができるでしょう。
このように、カタカナ語は、なるべく日本語に言い換えてほしいです。これも、マスコミの役割だと思います。

と書いたら、16日の朝日新聞「水道管に規格外塗料 東京や横浜で一部工事中断」に、次のような表現がありました。
・・・一部の水道管に認証規格をクリアしていない塗料が使われており、東京都や大阪市などが更新などの工事を中断していることがわかった・・・
「クリア」なんて言葉を使わず、「認証規格を満たしていない塗料が」で良いと思います。

新聞を毎日読む人は20代3%

2022年1月9日   岡本全勝

12月28日の朝日新聞経済欄コラム経済気象台、「新聞読者の少子化」から。

・・・「20代以下4%」。ある電機メーカーの社内報が「新聞を毎日読んでいるか」を社員に尋ねた結果だ。30代12%、40代23%、50代30%、60代42%とつづく。
新聞通信調査会が先月発表した「メディアに関する全国世論調査」の結果では、「新聞を毎日読む」人は20代3%、30代9%、40代21%、50代42%、60代58%だった。
両者を比較すると前者は50、60代の値が後者より十数ポイントも低いが、いずれにせよ日本の若者が新聞を読まないのは事実のようだ。
全国調査は2008年が初回で、新聞を読む人の割合は全世代とも年々減少傾向にある。読まない人が歳を取ると読み始めるわけではない。10年後に30代の値が3%以下になることも予見される。新聞読者の「少子化」は深刻だ。
朗報は20代の49%、30代の68%がインターネットのニュースは毎日読むと回答したことか。興味関心に合う記事を「スマートニュース」などキュレーションアプリで取捨選択し、スマホで読む様子が調査結果からうかがえる・・・

新聞社が読者開拓に失敗していることが分かります。ニュースを見るだけなら、インターネットやテレビの方が早いです。新聞の長所、すなわち、世界中のニュースを編集してくれること、それによって何が起こっているのか何が重要なニュースかが分かること、関心事以外のニュースも目に入ること、専門家による解説が載っていることなどを、若い人に説明しなければなりません。
かつてのように、競争相手のメディアがない時代ではありません。インターネットに流れる若者を新聞購読に誘導するように、各社が販売促進に努力しているようには見えないのです。

ネット炎上、既存メディアの加担

2021年12月17日   岡本全勝

12月10日の朝日新聞オピニオン欄、山口真一さんの「誹謗中傷問題 ネット炎上、既存メディアの加担自覚を」から。

・・・インターネット上の誹謗中傷問題が連日報道される。しかし、インターネットが注目されるあまり、既存メディアがこのような問題で果たしている負の役割に目が向けられていないことに、筆者は強い危機感を抱いている・・・

・・・ここで起こったのが、既存メディアとインターネットの共振現象だ。インターネット上の批判的な声を踏まえて既存メディアがネガティブな報道をし、既存メディアを見てそれを知った人がまたインターネット上に投稿し――と繰り返すことで相乗効果が起きて、かつてない規模の誹謗中傷や悪意ある噂が広がっていったのである。
帝京大の吉野ヒロ子准教授が、ネット炎上(インターネット上に批判や誹謗中傷が殺到する現象)の認知経路について、興味深い研究を発表している。1118人を対象としたアンケートの結果、ネット炎上を見聞きした媒体として、ツイッターと答えた人が23・2%であったのに対し、テレビのバラエティー番組が58・8%だったのである。ネット炎上とはいうが、それを広げているのは既存メディアなのだ・・・

・・・いずれの例にも共通しているのが、既存メディアが人々の批判的感情を煽(あお)った点である。その背景には、商業主義の広がりがある。中国の北京航空航天大学の研究チームが、中国のツイッターとも言われるウェイボーを分析したところによると、「怒り」の感情を伴う投稿がSNS上で最も拡散しやすいことが分かった。つまり、批判的感情を煽れば、それだけ話題になり、視聴率や発行部数の増加につなげられるのである。
インターネットが登場する前から、既存メディアは批判を煽れば視聴率や購買部数に繋がることを知っていて、商業的な手法として多用してきた・・・

・・・また、インターネットと既存メディアの負の相乗効果を放置することは、商業主義という動機に照らしても得かどうか疑問である。眞子さんと小室さんの件については、テレビや雑誌などの報じ方に失望する声も多く聞こえた。米国のメディアも「メディアの狂乱」「傷つけるような激しいメディアの報道と世間の残酷な意見」などと同情的に報じていた。人々の批判的感情を煽ることで短期的には収益を上げられても、中長期的には信頼を損なって、商業面にも悪影響が出る可能性がある・・・
・・・そしていま一度、メディアには商業主義の追求だけでなく公共性という重要な役割があることを認識し、事実に基づいた正確な報道と個人の人権を守ることを心がけてほしい。それは悲劇を減らすだけでなく、メディアの信頼を取り戻すことにもつながるだろう・・・

輿論と世論

2021年8月20日   岡本全勝

8月17日の朝日新聞オピニオン欄、佐藤卓己・京都大学大学院教授の「五輪に見た、内向き日本」から。

――コロナ禍での五輪開催には反対の声も少なくありませんでした。朝日新聞は5月、「中止の決断を首相に求める」という社説を掲載しました。
「ただ、社説が出る前から、五輪への支持率が低いことは世論調査で明らかになっていました。調査結果の報道前に書けば勇気あるオピニオン(輿論〈よろん〉)だったと思いますが、国民感情を盾に社説を出したように見えました。世間の空気(世論〈せろん〉)を反映しているだけだから大丈夫、という心理も働いていたように感じます」

――新聞は情緒的な世論を後追いしたように見える、と。
「いまはひとくくりにされていますが、大正期までの日本社会では公的意見である輿論と、大衆の心情である世論は区別されていました。世論は世間の評判、付和雷同というニュアンスを持つ一方、輿論は異なる少数意見を想定し、説得すべき他者を見すえた多数意見という意味がありました。民主主義では輿論によって世論を制御することが肝要なのです」
「かつては新聞が、世論を反映する機能を担うことに一定の意味がありました。しかし、いまはSNSで個人が自由に発言できる時代です。新聞は世論反映のメディアにとどまっていてよいのでしょうか。これからの新聞は、討議に導き輿論を示す公器をめざすべきです。時には、世論に反してでも主張する。そうしなければ、いつか世論に縛られて、自分の意見が言えなくなってしまうでしょう」