5月6日の読売新聞「竹森俊平の世界潮流 インド 貧困・格差生む「結託」 持続的成長へ 悪弊断つ必要」から。
・・・インドの総選挙が始まった。14億人の巨大市場や2025年に経済規模で日本を抜く見通しになるといった話題で脚光を浴びる反面、貧困や格差など深刻な問題も山積する。持続的な経済成長に必要なのは何か・・・
<戦後の国民会議派政府の政策は社会主義を標榜し、非効率な産業を保護するため経済全体に規制の網を張り巡らした。これで輸出競争力が弱まり91年に経常収支危機が招かれると、政府はようやく規制撤廃に乗り出し、近年の成長率向上を生んだ>
この2008年当時は国民会議派のシン首相の政権下だが、規制撤廃を進めた政権下の04~13年を通じてインドは6・8%の平均成長率を達成する。
<しかし今や政府の介入を減らすだけで成長率が上がる時代は終わり、今後は〈1〉貧困層の失業〈2〉貧困層にとっての公共財の不足〈3〉富裕層による国有資産の収奪――というインド経済の三つの根本問題に政府が真正面から取り組まなければ、さらなる成長は望めない>
戦後、韓国、台湾、中国などアジア新興国・地域は初等教育という「公共財」を政府が充実させて労働力の質を高め、低技術で労働集約的な「繊維」などから高技術で資本集約的な「電機」「自動車」などに徐々に輸出の主軸を移す日本型経済モデルを採用し成功した。これに対しインドは、初等教育を疎かにして高等専門教育に力を入れ、重工業に投資を集中して一気に経済発展を目指す戦略を取り失敗する。
人口の多いインドでの雇用吸収力が弱い重工業への傾斜は、今日まで続く慢性的失業と貧困を生み、中国とインドとの経済格差をもたらした。購買力平価で換算した1990年の中国とインドの1人当たり国内総生産(GDP)はほぼ同じだったが、2023年の中国の1人当たりGDPはインドの2・6倍になった。初等教育という公共財を向上させ、国民の多くを労働集約型産業に吸収して失業と貧困を減らすことこそがインドの重要課題なのだ。