カテゴリーアーカイブ:社会の見方

円の実力、ピークの3分の1

2026年3月15日   岡本全勝

2月21日の日経新聞に「円の「実力」ピークの3分の1 最低を更新、購買力の低下止まらず」が載っていました。

・・・日本の対外的な購買力の低下が止まらない。円の総合的な実力を示す指数は変動相場制移行後の安値を更新し、ピークを付けた31年前の3分の1の水準に沈む。「失われた30年」と呼ばれた長期間に及ぶ経済の落ち込みや低金利が背景にある。円の価値回復には、利上げにも耐えられるような経済の成長力を取り戻すことが重要になる。

国際決済銀行(BIS)の20日までの発表によると、2026年1月時点の実質実効為替レートは67.73。1973年に変動相場制に移行して以降で最も安い水準となった・・・
・・・円の実質実効レートが最も高かったのは1995年4月(193.95)で、それと比べるとおよそ3分の1に縮んだ・・・
・・・バブル崩壊後長期にわたった日本経済の低迷が大きな要因の一つだ・・・

「高度成長」と「長期停滞」

2026年3月11日   岡本全勝

戦後日本の経済発展は「高度経済成長」「高度成長」と、その期間は「高度経済成長期」「高度成長期」と呼ばれます。この言葉は定着し、また書物もたくさんあります。例えば、吉川洋著『高度成長 日本を変えた六〇〇〇日』(1997年、中公新書に再録、2012年)が手頃に読むことができるでしょう。

私の分類では、戦後の経済を4期に分けています。「高度経済成長期」(1955~1973)、「安定成長期」(1973~1991)、「バブル崩壊後」(1991~2012)、そして「復活を遂げつつある現在」(2012~)です。「経済成長の軌跡2024
第2期は「安定成長期」と名付けましたが、この間には石油危機による成長低下とバブル期が含まれています。第3期は、失われた20年とも呼んでいます。

連載「公共を創る」を執筆する際に、バブル経済崩壊後の日本を何と名付けたら良いか悩んでいます。
経済学者に聞くと、「デフレ経済」や「長期停滞」と呼ぶのが多いそうです。「デフレ経済」は普通名詞としてのデフレを指すとも取られるので、「長期停滞」が良いのかなとも考えています。そして、この長期停滞(失われた20年、または失われた30年)を簡潔にまとめた書物が欲しいですね。経済だけでなく、日本社会について分析と評価をしたものです。

もう一つの悩みは、第4期の始まりをいつに取るかです。ひとまず2012年と置いてあります。そしてその期間を何と名付けるか。これは、しばらく見てみないとわかりません。

政府の大規模財政支出を伴う産業政策

2026年3月7日   岡本全勝

2月20日に行われた、高市首相の施政方針演説、「2 経済力(1)国内投資促進のための「責任ある積極財政」」の中に、次のような文章があります。

「世界を見渡せば、政府が一歩前に出て、官民が手を取り合って重要な社会課題の解決を目指す新たな産業政策が大きな潮流となり、各国政府は、大規模かつ長期的な財政支出を伴う産業政策を展開しています。
世界が産業政策の大競争時代にある中、我が国として、経済成長を実現するために必要な財政出動をためらうべきではありません。」

若者の報道不信に応える

2026年3月7日   岡本全勝

2月20日の朝日新聞オピニオン欄、藤村厚夫さんの「若者に信頼される報道スタイルを」から。

・・・若者にニュースがどう見えているかを、米国の10代を対象にして探った衝撃的な調査結果がある(「ニュースリテラシープロジェクト」2025年11月)。報告書によれば、10代(13~18歳・756人を対象)の8割以上がニュース(メディア)に否定的な感情をいだいている(前年の調査では7割近くが「意図的な偏向を加えている」とも見ている)。さらに、報道機関やジャーナリストらの振る舞いを「文脈を外れて写真や動画を切りとっている」(60%)、「情報提供に対価や便宜を与える」(51%)、「引用などの細部を粉飾する」(50%)などと見ていることもわかった。若者のニュースへの不信感はこのように深いのだ。

海の向こうの話だと思っていてはいけない。電通が24年に実施した調査で、高校生・大学生にとって「信頼できる情報源は、ほとんどない(信頼できる情報源だと思っている割合は、SNSを含めたほぼすべてのメディアが10%前後)」との結果が出た(電通マクロミルインサイト・若者まるわかり調査)。
内訳では、テレビ番組(ニュース)への信頼は31・1%と格別に高いものの、X、ユーチューブ、インスタグラムの情報より「新聞記事」は信頼が低く、11・1%にとどまる。国内でもニュース不信は深いと見るべきだ。

ニュースを報ずる側にできることはなにか。先にあげた米国の調査で、10代の若者が「改善すべき点」を回答している。「正直であること/事実を正しく伝えること」(283人)、「偏向の最小化/バランスの改善」(138人)が1位と2位にあがっている。続く「ポジティブ(前向き)な報道」と「重要な出来事の発信」がいずれも19人と大差があることから、ファクト(事実)への希求と偏向への危惧という対をなす命題が飛び抜けて大きい。
この現状を知れば、「報道をこれまで以上に正確に行っていく」では済まされない。若者の求めに応えるニュースの「創り方」と「語り方」が必要だし、そんな報道スタイルの実践を若者が見えるようにしなければならない。

「事実を伝える」「偏向の排除」を明示する報道スタイルの開発では、米国での試みが参考になる。まず、新興メディア・セマフォーの事例を紹介しよう。セマフォーでは、客観情報に絞って伝える「ニュース」、記者の視点や意見を伝える「ビュー」、注目すべきポイントなど、小見出しを付したセクションを設けて見せる。ニュースの読解を手助けするという意義もあるだろうが、「事実」と「意見」の違いを読者が理解して読み取れる効果が期待できる。執筆する側にも、「ニュース=事実」セクションでは事実に徹した記述を促されるはずだ。「だれが(述べたのか)」も明示せずに「との指摘もある」などとしたり、匿名コメントを乱発したりするような主観の押しつけにつながるスタイルは消滅を迫られる・・・

挑戦しない日本の企業経営者

2026年3月5日   岡本全勝

2月18日の日経新聞経済教室、神田秀樹・東京大学名誉教授の「企業統治指針、改訂で産業構造の転換を後押し」から。

・・・日本ではバブル崩壊後に企業が設備投資の抑制や負債圧縮の姿勢を強めた。日銀の資金循環統計によれば民間企業部門は1998年から資金余剰に転じて今日に至っている。金融セクターが成長資金を出そうとしても、貸出先のビジネスがないという状況である。
日本で主にお金を使っているのは低金利下で積極的な財政出動を続ける政府部門であり、家計の預貯金が政府の赤字を埋めてきた。本来であれば企業の投資が景気をけん引し、賃上げによる家計の消費拡大が企業のさらなる投資を支えるという好循環が望ましいが、そうはなっていない。
日本の経済と金融は「悪い均衡状態」に陥っている。経済がジリ貧なのに危機感に乏しいのが最大の問題である。バブル期の不良債権処理ばかりにまい進し、新産業の創出を怠ってきたことのツケが、いま生じているのである。こうした悪い均衡から脱出するには、まずは新たな産業を生み出す必要がある。

米国ではIT大手の「GAFAM」が経済成長をけん引した。日本の強みがものづくりだとすれば、そうした分野でもっとイノベーションを起こす必要がある。日本は今こそ生産性を高める技術開発などにより、新しい産業構造へと転換しなければならない。
そのためには、強いリーダーシップを発揮する経営者が日本にもっと生まれてほしい。2025年4月末に経済産業省が公表した「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」は、こうした産業構造の転換を目指して各企業の取締役会の機能強化を提言するものである。筆者は研究会の座長として策定に関わった。
この原則では、企業の「稼ぐ力」強化に向けて経営陣が自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築し、実現のために事業ポートフォリオの組み替えや成長投資に取り組むなど、適切なリスクテイクを行うよう取締役会が後押しすることを提言している。
また、経営陣が短期的な成果にとらわれて中長期的な成長を犠牲にしていないか確認することや、取締役会がマイクロマネジメントに陥らないよう留意することなども求めている。

米国では経営者がリスクテイクに走り、取締役会はそれをけん制するという役割を果たす。日本では経営者が適切なリスクを取らないので、取締役会が経営者のリスクテイクを後押ししようというのが提言の狙いである。
日本では長年「貯蓄から投資」への転換の必要性が叫ばれ続けてきた。近年の少額投資非課税制度(NISA)導入や株式市場の活況により変化の兆しがみられるものの、依然として個人金融資産2200兆円の約半分が預貯金である。
少子高齢化に伴う急速な人口減少や巨額の政府債務といった構造的な問題にも、本格的な対応ができていない。むしろ状況は悪化し、危機的な状況にある。
日本が30年間続いたデフレ経済から脱しようとしている今こそ、産業構造の転換を実現するため、企業は大きく変化しなければならない。今回の企業統治指針の改訂も、それを後押しするような内容になることを期待している・・・