砂原庸介大阪大学准教授が、サントリー学芸賞を受賞しました。おめでとうございます。この秋から、大阪大学に移っておられます。
受賞作は、『大阪―大都市は国家を超えるか』(2012年、中公新書)です。出版時の私の紹介は、こちら(2012年11月25日)。
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地方行財政
持田先生の新著『地方財政論』
持田信樹・東大教授が『地方財政論』(2013年、東京大学出版会)を上梓されました。先生は既に『財政学』(2009年、東大出版会)を出しておられるので、これで両輪がそろいました。
先生は、この本の特色を、「第1に、世界の理論的潮流に照準を定め、わが国の制度を新たな視点から照らし、あるべき政策を考察していることである」と書いておられます。」と述べておられます。
「〈理論〉を志向すると、地方財政の〈制度〉に関する理解は浅くなる。〈制度〉の解説を志向すれば、それと表裏一体の関係性にある〈政策〉に関心が傾き、根本にある〈理論〉が手薄になる。本書は、その難題に挑戦し〈制度〉・〈理論〉・〈政策〉を1冊の教科書で有機的に結合して、釣り合いのとれた議論を展開しようとした」と書いておられます。確かにそうですね。そのバランスが難しいのです。
続いて、「大手製菓会社の宣伝文句に『1粒で2度おいしい』というのがある。そのひそみにならうならば、本書は『3度』楽しめるはずである」とも書いておられます。
第2の特徴として、「最近の地方財政論の成果を吸収して、所得再分配における地方財政の意義と問題点をやや詳しく概観している。このため、本書では経費論を予算論の一部として展開するのではなく、予算論から独立した章を立てて(教育、医療・介護、福祉)、やや詳しく概観した。それによって、地方財政論における歳入論偏重ともいうべき傾向を緩め、経費論の位置づけを高めようとした。地方財政の役割を資源配分機能の世界に閉じ込めるのはやや時代遅れである、という真意をくんでいただければ幸いである」。この後段は的確な指摘で、かつて地方財政を論じていた者の一人として、耳が痛いです。
拙著『地方財政改革論議』も、参考文献として紹介してもらっています。「やや古いが岡本(2002年)は、地方交付税改革の背景や内容に関するわかりやすい解説」(p306ほか)。ありがとうございます。しかし、もう11年も前のこと、古くなりました。その後は、内閣や官房系の仕事で忙しく、地方財政とはすっかりご無沙汰になっています。
なお、先生の『財政学』は、以前このページで、詳しく紹介しました(2009年12月6日以下)。
北村亘先生の新著
北村亘・大阪大学教授が、『政令指定都市―百万都市から都構想へ』(中公新書)を出版されました。かつて大都市とは、東京と5大市(横浜、名古屋、京都、大阪、神戸)のことでした。今や20市、人口では日本の総人口の5分の1を占めています。東京23区を合わせると、4分の1です。政令市と聞くと、都市機能集積の大きな大都市を思い浮かべますが、合併によって人口が増えた市も多く、農村部だけでなく山間僻地を抱えた政令市も多いです。主に人口要件で指定したので、ブロックの中心都市だけでなく、お隣にも指定市がある状態になりました。夜間人口が昼間人口より多い市、すなわち周辺の地域から人が集まるのではなく、昼間に外に出かける人が多い市もあります。
また、政令市に権限を増やすと、政令市を抱える府県は、中心部が中抜けになります。大都市を、州や府県並みに位置づけている国もあります。
大都市制度をどうするかは、戦後日本の地方行政の課題の一つでした。しかし、戦後改革の際に、府県並みの特別市制度を導入しようとして失敗し、その後は、大きな改革もなく大都市の数が増えることになりました。
本書は、これまでありそうでなかった研究です。しかも、制度論と歴史だけでなく、機能や市役所内部の分析も書かれています。大学の研究者が、単なる理論書や欧米の輸入学問でなく、日本の現実を分析する書物を書いてくださるのは、ありがたいことです。
新書という形で出版されると、読みやすいですね。もちろん、執筆者にとっては、制約も多くなりますが。
あとがきに、小生の名前も並べてもらいました。十分なお手伝いもしていませんが、学界と実務とをつなぐことに少しでも貢献できたら、うれしいです。
柴田先生他『地方自治論入門』
柴田直子・松井望編著『地方自治論入門』(2012年、ミネルヴァ書房)を紹介します。著者から贈って頂いておりながら、紹介するのを怠っていました。すみません、砂原君。
本書の特徴は、「住民の視点」から、地方自治体の仕組みを解説したことでしょう。目次を見ていただくと、それがわかります。
第Ⅰ部、住民(住民と住民組織、選挙と代表、参加と統制)
第Ⅱ部、制度(議会と執行機関、市区町村と都道府県、自治体と国)
第Ⅲ部、経営(地方財政と予算管理、地方公務員制度と人事管理、組織・権限と機構管理)
第Ⅳ部、政策(政策体系と政策過程、政策設計と政策実施・評価、政策法務と条例)
これまでの入門書は、制度の解説が多かった、特に国と地方の関係から始めるものが多かったのに対して、この本は住民から始めています。住民、制度、経営、政策という4つの章立てが、地方自治をバランス良く解説していると思います。良い入門書です。
地方自治や地方行政の解説書も、たくさんの本が出版されています。読者を誰に想定するか、切り口をどのような角度に設定するかによって、違ってきます。
かつて私が書いた『新地方自治入門-行政の現在と未来』も、制度の解説書ではありませんが、日本の地方自治が果たした機能と成果や、果たしていない問題点と課題を論じたものです。地域と自治体の課題が何であり、誰がどのように解決するかといった、問題指向のものでした。
制度設計や政策立案、そして現場での実践に参画している官僚として、単なる解説でなく、成果と課題、そしてその対策を書きました。読者も、主に地方公務員や地方議会の議員を想定していました。先に紹介した本は教科書ですが、私の本は論争のための本という性格も持っていました。
出版してもう10年、古くなりました。時間が経つのは、早いです。この間に、何が変わって、何が変わらなかったか。それを振り返る必要があるのですが。時間がないのと、私の仕事と関心が他に移っていて・・。反省。
地方分権改革の政治学、アイデアの実現過程
木寺元・北海学園大学准教授が、『地方分権改革の政治学―制度・アイデア・官僚制』(2012年、有斐閣)を出版されました。
本書は、2つの視点から、読むことができます。
1つは、地方分権改革です。戦後長らく安定的に(大きな改革なしに)推移してきた日本の自治制度が、1990年代以降、分権改革として変貌しました。その一連の分権改革(機関委任事務制度廃止、三位一体改革、出先機関改革、義務付け枠付けの見直しなど)が、どのような過程で実現したか、またしなかったかが、まとめられています。それぞれの改革については解説書がありますが、これらを一連のものとして、また実現しなかったものも含めて解説したものは少ないと思います。これは地方行財政学の範囲です。
もう1つは、いくつもの改革の中で、なぜあるものは実現し、あるものは不十分なものに終わったのか。これを「アイディア」という概念で説明します。行政学者や財政学者たちが提唱する改革の「青写真」は、それ単独では実際の改革に結びつきません。いくつもの改革案のうち、政府内部の意思決定過程を熟知する「主導アクター」(本書では官僚制)に受け容れられた「アイディア」だけが、実際の制度改革に結びついていくプロセスを、説明します。これは政治学・行政学の範囲です。
改革が実現した場合、あるいはしなかった場合を分析する際には、主体(担いだ人・グループ)、抵抗勢力、世論の支持、検討の場といった「権力(利益を含む)の過程」と、アイデアの善し悪し、時代の要請など「政策からの分析」があるでしょう。本書は、近年注目されている「アイデアの政治」を枠組みに、それを精緻にして、改革実現・失敗過程を分析します。(砂原庸介准教授による紹介)
地方自治、行政改革にご関心のある方に、一読をお勧めします。今後、改革を進める際にも参考になります。
ところで、分権改革がこのような検証の対象となるのは、学者、官僚、自治体、マスコミなどの「政策共同体」があって、そこで改革のアイデアが出て、さらに審議会など場を経て、実現・実現しない過程が見えるからです。これらの「場」がない行政分野では、過程が見えにくく、検証しにくいです。
木寺准教授は、私が東大大学院に出講していたときの、塾頭3羽ガラスの一人です。本書あとがきで、過分なお褒めを書いていただき、こちらが恐縮しています。