カテゴリーアーカイブ:人生の達人

アイデンティティーの危機は何度も来る

2026年4月22日   岡本全勝

4月7日の朝日新聞オピニオン欄「人生、焦り迷いながら」、岡本祐子さん(公認心理師)の「目をそらさず、内省深めて」から。
・・・自分は何者なのかという「アイデンティティー」は、青年期に獲得され、その後の人生を方向づけると考えられてきました。しかし私は、現代社会では青年期に獲得されたアイデンティティーで、その後の長い人生を生き抜くことは難しくなっている、と考えて研究してきました。
現代は、大人になってからもアイデンティティーの危機が何度か訪れることが分かっています。中年期や現役引退期に訪れる危機がそうで、「自分の人生はこれでよかったのか」と悩む人は多くいます。30歳ごろに揺り戻しがくる人もいます。変化が速く、価値観も多様化した時代になり、大人になっても自分をつかみ取ることが難しくなっています。

ただ、アイデンティティーの危機が訪れることは、決して悪いことではありません。自分の価値観を問い直し、納得できる生き方に変えるため軌道修正するチャンスにもなるからです。
中年の危機は「自己の有限性の自覚」とも言えます。体力の衰えを感じ、仕事での限界感もある。「あと何年元気でいられるか」と時間的展望が狭まっていく。競争社会に身を置く人ほど深刻だと思います。

男性と女性を比較しながら中年の危機を研究してきましたが、男性が仕事の話を中心に語るのに対し、女性は仕事と家庭を同じくらい重要視し、家族が健康で幸せに暮らせているかどうかも、人生の評価を左右する傾向がみられました。
危機を乗り越えるのに重要なのは、普段から自分を見つめる習慣をもっておくことです。「なぜあの時に心がざわついたのか」など、自分の思いや感覚、体験を書き出すなど、内省を深めておくと、自分の助けになるはずです。
それから、月並みではありますが、自分で自分を支えきれなくなった時、支えてくれる家族や友人らとの関係性を大事にしてほしいです。公認心理師や臨床心理士ら専門家に相談するのも有益だと思います・・・

「はい」か「イエス」か「喜んで」

2026年4月19日   岡本全勝

4月12日の日経紙分別刷り「The STYLE」に、澤芳樹・大阪大学特任教授の「医学の発展 つなぐたいまつ」が載っていました。
・・・心臓病で死なない世界を。大阪大学大学院特任教授の澤芳樹さんは、iPS細胞から作った心筋シートで心臓の機能を回復させる治療法を世界で初めて成功させた。医療スタートアップのエコシステム(生態系)を構築し、先人から連なる医学の進歩を次代につなぐ。
1955年大阪府生まれ。80年大阪大学医学部卒。2020年iPS細胞から育てた心筋シートの移植手術に世界で初めて成功した。大阪警察病院総長や未来医療推進機構の理事長も務める・・・

記事に、次のような文章があります。
・・・命を扱う以上、妥協は許されない。頼まれたら「はい」か「イエス」か「喜んで」。研修医時代に、第一外科の精神をたたき込まれた・・・

私と同じようなことを言っていた人・職場があったのですね。
私が自治省交付税課課長補佐の時に、見込みのある部下職員に仕事を命じる際に、「私は民主的だ、しかし忙しいので、返事は次の二つのうちから選べ。「はい」か「わかりました」だ」と笑いながら指示していました。時に不満な部下は「はいはいはい、わかりましたよ」とふてくされていましたが(苦笑)。後に、後輩がもう一つ選択肢を増やしました。それが「喜んで」です。某居酒屋チェーン店での店員の答えだそうです。

新年度が始まりました

2026年4月1日   岡本全勝

今日は4月1日。新しい年度が始まりました。新しく社会人になった人や、職場を異動した人も多いでしょう。大きな希望と少しの不安を抱えての出発だと思います。

わからないことが、たくさんあるでしょう。一人で悩んではだめですよ。上司や先輩、同僚に、質問してください。何を聞いたら良いかも、わからない場合もあるでしょう。それを相談できる人を、見つけてください。
明るい公務員講座』が役に立ちます。この本は公務員向けですが、民間企業の社員にも。

新しい職員を迎えた先輩たちにも、お願いです。あなたが新人だった時を思い出してください。不安な気持ちにいる新入生を、温かく指導してやってください。彼ら彼女らを早く戦力にすると、あなたの仕事も楽になります。

他方で、3月で卒業する人や、終わるものもあります。ご苦労さまでした。

日本型ジョブ型雇用

2026年3月26日   岡本全勝

3月6日の日経新聞経済教室は、濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の「導入広がるジョブ型雇用、制度の土台は日本型のまま」でした。

・・・「ジョブ型」というのは奇妙な言葉である。jobという英語が元になっているけれども、ジョブ型に当たる英語(job-type)は存在しない・・・なぜか。雇用にせよ人事・賃金にせよ、世界では職務に基づくのが大前提で、職務に基づかないとは想定しがたいからだ。それゆえジョブ型という用語は、労働に関わるどの言葉に冠しても冗長で無意味となる。
では、なぜ日本ではこの言葉が頻繁に用いられるのか。雇用も人事も賃金も、職務に基づいていないからだ。あるいは少なくとも、職務以外のものに基づいていることが多いからだ。
つまりジョブ型は、日本でそう思われているように特殊なものとして名指しされるべき概念ではない。むしろ逆で、ジョブ型ではない日本のあり方こそ、世界では特殊なものと名指しされるべき概念なのである。
そこで、こうした日本の特殊なあり方を筆者は著書「新しい労働社会」(岩波新書、2009年)で「メンバーシップ型」と名付けた。そして対義語として、世界ではとくに名前もない普通のあり方に対してわざわざ「ジョブ型」という言葉を案出したのである。
ところが、これが日本の文脈に投げ込まれてしまうと、筆者の意図とは全く逆に受け取られることになる・・・

・・・筆者はやむなく21年に「ジョブ型雇用社会とは何か」(岩波新書)を刊行し、正しい理解の普及に努めたが、今日でもなおジョブ型をタイトルに冠する書物の大部分は、新商品としてのジョブ型を売り込むためのコンサルタント本である。
そこで「ジョブ型」とされているものは、パソコンに例えれば基本ソフト(OS)としては従来の日本的なメンバーシップ型の雇用を前提としつつ、OS上で動くアプリケーションソフトたる人事異動や賃金制度において、ジョブ型風味の改革を唱道するものが大部分であるように見える・・・
・・・24年8月には「ジョブ型人事指針」と称する、内閣官房・経済産業省・厚生労働省連名の文書を策定した。ところが、この文書は政府が策定した指針でありながら、政府が企業にこのようにすべきだと指し示す部分はほとんど存在しない。富士通、日立製作所をはじめ20社の人事制度改革の概要をただ束ねただけであり、まえがき的な小文に「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」と書かれている。
その20社の実例を見る限り、その主眼は人事異動における社内公募制(ポスティング)と、賃金制度における職務給(職務等級制度)であるらしい。逆に言えば、雇用契約自体は新卒一括採用による職務無限定の正社員モデルでありつつも(つまり雇用のOSはメンバーシップ型のまま)、その上で走らせるアプリはジョブ型風に運用する、ということであろう・・・

会社の中の私、私の中の会社

2026年3月22日   岡本全勝

個人の再登場」の続きになります。
「会社人間」は、個人の生活が会社に取り込まれてしまいます。図にすると、会社という大きな円の中に、小さな円である私が入ります。下の図の左。個人が主役になると、私という大きな円の中に、小さな円である会社が入り、ほかに家族や趣味という小さな円も含まれています。下の図の右。
左の図では私が会社を飛び出すのは困難ですが、右の図なら会社を取り替えることも容易です。

また、組織の中の歯車という表現もされます。それを表したのが、下の図です。