カテゴリーアーカイブ:人生の達人

講師の効用

2026年5月17日   岡本全勝

講義や講演は、参加者に、講師の考えていることや経験を伝えることが目的です。それによって、参加者の知識や能力が向上します(するはずです)。ところが、講師にも大きな効果があります。

一つは、頭の中に考えていること、それを整理できることです。わかっているつもりでも、発言骨子を作成すると、いかに曖昧だったかがわかります。何を伝えたいかを考え、骨子をつくることで、頭の中が整理されます。わかっていること(わかっているつもりのこと)と、相手に伝えることとは、まったく異なります。

二つ目は、どのようにしたら、相手に伝わるかを考えることです。骨子に整理しても、それを話しても、相手に伝わるとは限りません。相手に伝えることと、相手に伝わることとは、異なります。
限られた時間内に、どれだけのことを伝えるか。工夫が必要です。人間の頭は、3つまでしか覚えることができません。
時間があればたくさん伝えることができるわけでもありません。人間の集中力は限られています。そしてしばしば、参加者は講師の話に興味を持っていません。職場研修は、このようなことが多いです。「人事課に言われて参加しました」とか。どのようにして興味を持ってもらい、伝えたいことを持って帰ってもらうか。これには、場数を踏む必要があります。

一方的に話すのではなく、参加型の講義にすると、参加者の注意も高まります。そして質問を取ると、何が理解されていて、何が理解されていないかがよくわかります。参加者が何を知りたいのか。その目線で考えると、良い内容になります。

いかに伝わっていないか、それを確認する方法があります。終了後に参加者の感想・評価を聞くことです。よくわかっている参加者もいますが、まったく伝わっていない参加者がいて、がっかります。
みなさんも、講師の機会があれば、どんどん引き受けて経験を積んでください。決して、無駄になりません。また、下手な講師を見て、どこが悪いのかを分析してください。

一仕事を終えた後に

2026年5月15日   岡本全勝

先日、ある職責を終えた人と、意見交換会をしました。その重責を負えても社員であるので、次の職に就いたのですが、前職に比べると荷が重くありません。本人曰く「3年間頑張って、燃え尽きました」と。いろいろと難しい場面もあり、それを乗り越えたようです。よかったです。
しかし、それを評価しつつも、私は次のように言いました。
「まだ気を抜いてはいけない。一つに、あなたが卒業した職を見守る義務がある。もう一つは、その経験を生かし、次の仕事の準備をしなければいけない」

日本は、経済成長で世界最高水準になったことに満足して、長期停滞に陥りました。「勝って兜の緒を締めよ」という名文句もあります。サッカーでは、持っていたボールを味方にうまく渡せると一安心ですが、そこで立ち止まると叱られます。「パスを出したら、次にボールをもらえる場所に走れ」と。

組織人間であるからには、自らが育てた組織と職員を見守らなければなりません。ただし、口を出してはいけません。嫌われるだけです。他方、あなた自身の将来を切り開かなければなりません。大きな仕事を終えても、人生は終わりではありません。

心の重い日、軽い日

2026年5月12日   岡本全勝

大型連休が終わり、仕事が再開されたでしょう。また、4月に採用された人や異動した人も、一月が経ちました。仕事の調子はどうですか。皆さんにも、経験があると思います。体調は良いのですが、心と体が重いと感じる日があります。5月病という言葉もあります。

現在の私は、重い仕事を抱えていないので、仕事で悩むことはなくなりました。ところが、連載原稿を抱えていてうまく進まないときや、引き受けた講演の構想がまとまらないときです。まだ締め切りまでに数日あっても、なんとなく気分が晴れません。
他方で、それらを形にできた日、右筆に原稿を送った日や、講演資料を主催者に送った日は、心も体も軽くなります。原稿も講演資料も眺めれば不十分な点があるのですが、「まあいいや」と踏ん切りをつけます。

講義や講演など人前で話すときも、話し始めるまでは、なんとなく体が重いです。どのように話せば聴衆に受けるかななどを考えるからです。しかし、一旦話し出すと夢中になり、また聴衆の反応を見るのに全力を使うので、その心配はどこかに行ってしまいます。そして講演が終わると、ヘトヘトになってしまいます。しかし、心は軽いのです。特に聴衆の反応がよかった日は、うれしくて心が軽くなります。

現役時代はどうだったんだろうと、思い返しました。出勤恐怖症になったとき(2度)が、最もしんどかったときでしょう。ところがそれ以外では、そんなにしんどいと思いませんでした。総理秘書官や大震災での被災者支援など、もっときつい仕事もしたのですが。一人で悩まない術を会得したことで、切り抜けることができるようになったのです。
そして毎日が忙しくて、しんどいとか言っておられなかったのでしょうね。悩む暇なく、次の仕事を処理しなければなりませんから。忙しいことは悩みをなくします。正確には、悩んでいる時間を与えてくれないのです。そして、どんな難しい仕事でも、期日が来ればそれなりに終わってしまいます。
一人で悩まずに、誰かに相談すると、多くの場合は切り抜けることができます。私たちの仕事とは、そんなものです。

静かな退職

2026年4月24日   岡本全勝

4月7日の読売新聞に「出世は望まず 最低限の仕事 「静かな退職」じわり 民間調査 働き手の6%該当」が載っていました。
・・・出世は望まず、仕事は必要最低限にとどめる。そんな働き方が「静かな退職」と呼ばれるようになってきた。4年前に米国から発信された言葉で、世界的に認知度が高まりつつある。日本では働き手の約6%が該当するとの調査もあり、企業にとっても見過ごせない潮流になりそうだ。

静かな退職(Quiet Quitting)は、米国のキャリア指導の専門家が2022年、この言葉の意味を説明する短い動画をSNSに投稿し、世界に拡散した。
在宅勤務が普及したコロナ禍から社会経済活動が正常化に向かっていく頃で、「仕事が人生の最優先事項という価値観は劇的に変化した」「出世を目指さないというような人はペースを落とすのも一案」とし、仕事を辞める代わりに必要最低限に抑える働き方は「健全で前向きなことだ」と訴える投稿内容は、広く共感を集めたという。

調査研究機関「パーソル総合研究所」(東京)の調査では、こうした「静かな退職者」は25年、日本国内の勤労者の5・8%を占めたという。
同研究所は、15~69歳の男女1万人に就労意識などを尋ねる定点調査を17年から行っており、「転職や出世意欲がない」、「1か月の残業が5時間未満」など一定項目に該当した人を「静かな退職者」にカウントした。
25年の5・8%は、17年(3・9%)と比べ、1・9ポイント上昇した。男性は20代の2・5%に対して60代が10%、女性は20代が6・3%、60代が17・1%で、年齢層が上がるにつれて高まる傾向があった。

同研究所の分類では、静かな退職者にも、効率よく定時で仕事を終えて自己研さんにあてる「戦略型」や、仕事の成果が低く自己啓発にも積極的でない「無気力型」などのタイプがある。25年は戦略型が全体の25%(21年比4ポイント減)だった一方、無気力型は47%(同13ポイント増)を占め、増加が顕著だった・・・

このような言葉を作らなくても、昔から無気力な従業員はいました。決められた仕事をこなしてくれれば、それで良いのです。困るのは、それすらできず、職場を混乱させる人です。
次のような事例も紹介されています。これは、会社の側にも問題があるようです。
・・・大阪市の運輸会社で働く男性(48)は、自身を「静かな退職者」と意識しているという。
20~30歳代の頃は職場でやりたいことがあり、資格取得の勉強にも励んだ。しかし、会社にそれほど評価されていないと感じ、仕事への熱意が次第に冷めていったという。男性は「給料の範囲の仕事はこなしているつもり。特に昇進したいと思わないし、現状維持でいい」と話す・・・

定例と企画、異なる仕事

2026年4月22日   岡本全勝

拙著『明るい公務員講座 管理職のオキテ』61ページで、課の仕事を進行管理の観点から3つに分類しました。
1 毎年処理しなければならない定例業務
2 今年中に処理しなければならない重要課題
3 臨時、突発に入ってくる案件

このうち、3の臨時案件は予測が立たず、また、いつまでに何をしなければならないかはわかりません。それを除くと、1の定例業務と2の重要課題とに分けることができます。

この二つは、課長としての管理の方法が異なるとともに、担当職員の仕事の進め方も異なります。
1の定例業務は、まずは決められたとおりに実行することが重要です。決められたとおりのものができていたら、合格です。窓口業務や統計作業はこれに当たるでしょう。知恵の出しどころは、より効率化できないかという工夫です。
2の重要課題は、多くの場合は前例通りや去年通りにはいきません。企画立案、その実行という要素があり、それは1の定例業務にはないことです。どのように進めるかとともに、どのような成果がでるかによって、評価されます。

意外と、この二つの違いが、理解されていないようです。若手公務員が、1の仕事から2の仕事に移って、戸惑うことが多いようです。公務員にも評価制度がありますが、この2つの仕事の区分を明確にせずに実施されている場合があるようです。
この二つの違いは、課長が仕事と部下を管理する場合も、異なってきます。それは、前掲書61ページ以降に書いてあります。