カテゴリー別アーカイブ: 仕事の仕方

生き様-仕事の仕方

男の育休を妨げる日本型労働慣行

2月14日の朝日新聞オピニオン欄「男の育休 逆風のわけ」。中原淳・立教大学教授の「昭和な同調圧力への悲鳴」から。

・・・小泉進次郎さんの育休は、男性の育休について議論を呼び起こした一方で、この話題が人々の間に、感情的ねじれや反発を呼びやすいことも明らかにしました。反発の中には、「職場では育休をとりたいなんて口にすらできない」というものもありました。育休をとりたくても職場の同調圧力でとれない様子が、叫びのようにこだましています。
背景には、日本企業独特の職場風土や働き方の問題、さらには「メンバーシップ型雇用」という慣行があります。決まった職務に人をつけるのではなく、人に仕事をつけていくという雇い方をします。職場の中で、どこまでが自分の仕事かが明確でないので、仕事が終わっても帰ることができません。同調圧力が強くなり、長時間労働が横行します。しかしそれに耐えられれば終身雇用が保障されます。

高度経済成長期に広がった働き方ですが、時代は変わりました。産業の中心が製造業から、知識の陳腐化が早いIT・サービス業に移り、企業が同じ従業員を長期雇用することは難しくなっています。

ところが昭和モデルが染みついた上の世代は「暗黙の前提」として、育児は女性がするものという性別役割分担意識を持っています。そういう意識は会社の中でも再生産され、職場の中に広がります。 人手不足ですから、育休をとられると回らない、という経営者もいるでしょう。しかし本当に回らないのか、暗黙の前提を排して考える時です。このままでは、共働きしたい若い男性は会社から逃げだし、さらに人手が足りなくなります。それでも変われないという経営者は、市場から退場するしかないでしょう・・・

日本型雇用に変革を迫る専門人材の評価

2月11日の日経新聞「私見卓見」、小熊英二・慶応義塾大学教授の「専門人材の評価、世界基準で」から。

・・・IT(情報技術)や金融など知的産業が台頭するなか、世界では専門的な技能や知識をもとにした人材の評価基準の共通化が進み、国をまたいだ高度人材の流動化が加速している。だが日本は独自の進化を遂げた雇用慣行のため、世界から隔絶されている。それぞれの企業の枠組みを超えた客観的な評価基準なしに、高度人材の獲得は難しい・・・

・・・日本企業の人材評価は基本的に、企業横断的な客観基準でなく、個別企業内で従業員を長期観察することでなされてきた。そこではどの職務に配置されても適応する熱意や協調性を「職務遂行能力」と評価してきた。この慣行は、製造業の現場従業員のモラルを高めると評価されたこともある。
だがこの日本型は、従業員数が少なく、社長が従業員を観察できる中小企業向きの評価システムだ。それを大企業にまで適用してきたのが日本の特色といえる。

欧米などでは、会計やマネジメントなどの職務がまずあり、職務の専門能力を持つ人材を登用するのが基本だ。素人がIT開発をできないように、マネジメントの専門能力がない人は、管理や経営はできないと考える。評価基準も職務ごとに企業を超えて共通化が進み、個人は同じ職務で企業を移りながら専門性を高めキャリアを築く。1つの企業内で様々な職務を異動する日本の慣行とは異なる・・・

・・・専門職を評価する基準は、もはや国境を越えて共通化が進んでいる。専門性の評価基準がない雇用慣行を続ければ、わざわざ日本で働こうとする高度人材はいなくなる。それは労働市場に限らず、企業活動が次第に国内に閉ざされていくことも意味する。まずは採用や昇進、異動などの際に結果だけでなく、過程や基準を透明化し公開してみてはどうか。米国なども過程や基準の透明化・公開により、基準の客観・横断化が広がった歴史があるようだ・・・

立花隆さんの知的遍歴

立花隆著『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』(2020年、文春新書)を読みました。
立花さんの、私の履歴書です。私生活については余り言及がなく、読んだ本と書かれた本についての履歴です。本の帯に、「知の巨人」とあります。
これまでにも、立花さんの読書についての本を読んだことがあり、その時も膨大な読書量に感服しました。しかも、一つの専門分野に止まらず、哲学、脳、がん、臨死体験、宇宙などなど、その広い分野にも脱帽です。

私たちの世代にとっては、総理大臣を退陣に追いやることになった「田中角栄研究」(1974年)が印象的です。私が大学生の時です。
立花さんも、80歳になられたのですね。

新卒一括採用の限界

管理職、中間管理職、職員の区分、2」の続きにもなります。

2月4日の日経新聞が「足りぬサイバー防衛官僚 人材獲得 高報酬の民間に遅れ」を書いていました。
・・・国や自治体がサイバーセキュリティー人材の確保に苦しんでいる。サイバー攻撃に対抗するシステムの設計・構築や運用に関わる人材は引く手あまたの売り手市場。高額報酬などの好待遇を示す民間に官の領域が競り負けている・・・

詳しくは原文を読んでもらうとして。
ここでは、日本型の新卒一括採用の限界を取り上げます。日本の役所では、職種別採用は一部の技術職だけで、その他は一括採用します。そして、その後に配属を決めます。また、専門家としてでなく、どんなところも経験させることが多いです。その方式の限界が書かれています。

・・・獲得競争で後れを取る日本の政府・自治体は危機感を募らす。防衛省はサイバー攻撃に備えた「サイバー防衛隊」を持つ。20年度に70人増やして290人にする予定だが、すでに米国は6000人、中国は10万人、北朝鮮は7000人のサイバー部隊があるとされる。他国と圧倒的な差があり、人材を内部で育成する時間も予算も乏しい。外部からの人材獲得が課題だ。
防衛省でサイバー人材の採用に関わる官僚は「民間の専門家を年収2000万円超の事務次官級の待遇で任期付きで採用することも考えている」と漏らす。民間との競争を意識して従来の人事体系とは違う高額報酬を準備する。

とはいえ公務員は報酬以外でも忌避される要素がある。
埼玉県警は17年度からサイバー犯罪などに対応する人材採用を始めた。18年度は3人を募集したが採用はゼロだった。募集時に「警察官としての素養を養うために最初は現場にも出てもらいます」と説明している。採用担当者は「すぐにサイバーのノウハウを生かしたい、という希望とギャップがある」と話す。
防衛省や警察などではサイバー人材が定期異動で他の任務を経験することもある。実務や政策、世界情勢を理解した方がより戦略的に動けるのは確かだが、こうしたキャリアプランは回り道にも映る。

米国では1月、国土安全保障省でサイバーセキュリティーを担当していた女性幹部がグーグルに移籍した。オバマ政権ではグーグルやツイッターの幹部が政府の技術戦略の責任者になっている。官民の交流は頻繁で政府のキャリアも評価される。日本も柔軟な処遇を考えなければ、官の人材確保は難しいかもしれない・・・

きれいなビルの汚い窓

霞が関の官庁街。合同庁舎の建て替えが進み、きれいな高層ビルが増えました。ところが、気になることがあります。
外から眺めると、窓際に書類が積み上げられている窓があるのです。執務室が狭く、置き場所のない書類や印刷物を、窓際に置いているのでしょうね。
執務している方からは、きちんと並べてあるのかもしれませんが。外から見ると、醜いです。

なぜ、今日こんな話題を書いているか。
東京国立博物館に行った際に、平成館の窓が、その状態にあるのです。
平成館は、展示室は2階までですが、どうやらその上に執務室(研究室?)があるようです。1階と2階は窓がないのに、その上はガラス張りなのです。そこから、書物と覚しきものの山が見えます。
建物の前で写真を撮っている人がいたので、改めて建物を見て、気づきました。職員の方に説明して、「やめた方が良いよ」と話しましたが、どこまで通じたか??

美を扱う仕事をしている人たちには、もう少し注意して欲しいですね。もちろん、霞が関が汚くても良い、ということではありません。
かつて、「大部屋と雑然とした職場」を紹介したことを、思い出しました。