「仕事の仕方」カテゴリーアーカイブ

生き様-仕事の仕方

菊澤研宗著『組織の不合理ー日本軍の失敗に学ぶ』

夏に、野中郁次郎著『『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか』を読んでいたら、積ん読の山から、菊澤研宗著『組織の不合理ー日本軍の失敗に学ぶ』(2017年、中公文庫)が出てきたので、合わせて読みました。この本は、2001年に単行本として出ています。

この本も、日本軍の失敗を経営学から分析した本です。『失敗の本質』など多くの分析は、「合理的なアメリカ軍に対して、非合理的な日本軍」という構図で説明します。しかしこの本は、日本軍幹部の判断はそれぞれの立場で「合理的」であったという視点に立ちます。
分析手法として、新制度派経済学を使い、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論を使って、日本軍の不条理な判断がそれぞれの立場では合理的であったと分析します。主流の経済学は、人間が合理的に判断することを前提としますが、実際には人間は完全な合理的な動物ではありません。詳しくは本を読んでいただくとして。

文庫本のまえがきに、組織の不条理が3つ整理されて示されています。
1 個別合理性と全体合理性が一致しない場合。個々人や個別組織が全体合理性を無視して、個別合理性を追求し、全体が非効率になって失敗する。
2 効率と倫理が一致しない場合。個々人や個別組織が倫理より効率性を追求し、結果として不正となって失敗する。
3 短期的帰結と長期的帰結が一致しない場合。個々人や個別組織が長期的帰結を無視して短期的帰結を追求し、長期的には失敗する。

この指摘には、納得します。私も実例を見てきました。この失敗に陥らない方法は、「この判断は、10年後や20年後に評価されるか。問われた場合に、胸を張って説明できるか」です。「閻魔様の前で胸を張れるか

リーダーが理想を追い、全員で実現する

9月15日の日経新聞夕刊、私のリーダー論、WOTA・CEO前田瑶介さんの「人間愛の技術で水問題解く」から。前田さんは29歳、使った水の98%以上を再利用できる小型の浄水システムを手がける会社の最高経営責任者です。

――経験豊富な社員が多い中で、リーダーとして心がけていることはありますか。
「私が語るのはおこがましいですが、基本的には2つだと思います。まず、哲学や理念などに基づき理想の状態を定義したうえで、現在地を正しく認識し、理想と現実をつなぐ方法を決めます。そして、方法が決まれば、そこに最速で向かうことです」
「理想というものは合議で決めるのはなかなか難しく、リーダーが明確な意思でとことん腹落ちするまで考えて決めるものです。一方で理想と現実をつなぐ方法は、開発メンバーや関係者がいる場所で、全員が納得して決めるべきです。お客様の要望や現実の技術、チームの実力から外れてはいけないからです」

――社員数は1年前から2倍程度に増えているそうですね。組織が大きくなる際の苦労はありますか。
「社員には下水処理場を何十施設も造った方もいますし、米航空宇宙局(NASA)で水の研究をしていた方もいます。いろんなメーカーから技術者が転職してきますが、まず使う言語が違います」
「伝統のある会社なら用語が統一されて、『企画』『設計』『計画』が何を指す言葉なのか皆が理解できます。新しい人が入社しても『郷に入れば』、といった具合ですが、WOTAにはいま郷が存在しません。WOTAらしいと感じる言葉は残します。ただ、社外の人が持ち込んできた、業務を効率化するのに良いと思った言葉があれば、社内用語として受け入れる場合もあります」

エリザベス女王のハンドバッグ

朝日新聞のウエッブニュース「エリザベス女王のハンドバッグ」(9月16日)から。

・・・英国のエリザベス女王の左腕に、いつもかけられていたハンドバッグ。亡くなる2日前、静養先のバルモラル城でトラス首相を任命した際にも、黒色のバッグがかけられていた。
女王はなぜバッグを持ち歩き、中には何が入っていたのだろう。
「王室の秘密は女王陛下のハンドバッグにあり」の著者の一人で、王室に詳しいジャーナリストのフィル・ダンピア氏は「女王は、ハンドバッグなしではどこにも行かない。ハンドバッグを持たないのは、バルモラル城のような完全にリラックスした環境のときだけだ」という・・・

ハンドバッグの中に何が入っていたかは、記事を読んでいただくとして。
・・・王室評論家のクリステン・マインザー氏によると、女王がハンドバッグをもう片方の腕に持ち替えた時には、「会話を中断してほしい」という侍女たちへの合図だったという。
会食の際にハンドバッグをテーブルに置けば、「あと5分で食事を終えたい」。床に置けば、「この会話はつまらないから助けて」の合図だったという。
「毎年何千人もの人に会う女王は、頑丈な正方形のハンドバッグを使って、他者と一定の距離を保ち『パーソナルスペース』を確保していた」とダンピア氏は説明した・・・

野中郁次郎先生『『失敗の本質』を語る』

この夏に、野中郁次郎著『『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか』(2022年、日経プレミアシリーズ新書)を読みました。

『失敗の本質』(1984年、ダイヤモンド社。中公文庫に再録)は、太平洋戦争における日本軍の失敗を経営学の観点から分析した名著です。読まれた方も多いでしょう。
太平洋戦争の敗戦については、たくさんの証言や記録が書かれていたのですが、作戦の失敗を客観的に分析したのは、この本が初めてでした。私も興味深く読んで、勉強しました。「日本軍は物量の差で負けた」といわれますが、ミッドウェー海戦では日本軍の方が上回っていたことなどは、初めて知りました。

今回の本は、その『失敗の本質』を主導した野中郁次郎先生が、同書誕生の背景や、その後の戦史に関わる研究の軌跡などについて語ったものです。野中先生の「私の履歴書」です。
先生が経営学を志した頃、日本の経営学は、ほかの社会科学と同じように外国の理論の輸入でした。そこで、先生は「独自の研究」を試みられたのです。また、経営学では成功した実例が取り上げられますが、失敗した事例は少ないのです。成功した会社は取材を受けますが、失敗した会社は拒否するからです。
新しい分野を切り開く人の苦労は、勉強になります。名著『失敗の本質』も最初は、出版社にいい顔をされなかったとのことです。

ホンダ、在宅勤務では良い製品を生み出せない

9月6日の日経新聞「ホンダ挑む2」「「ワイガヤ」進化できるか」に次のようなことが載っていました。

・・・5月中旬、東京・南青山のホンダ本社は社員であふれていた。「久しぶりだね」。国内全事業所で原則出社としたためだ。社長の三部敏宏が栃木の研究所を訪れた際、駐車場の閑散ぶりに驚いたのが契機だ。コロナ禍で在宅勤務が浸透したからだが「これが続くといい製品が生み出せなくなる」(三部)。
社員が立場を超えて対面で議論するホンダ伝統の「ワイガヤ」。本田宗一郎が唱えた現場、現物、現実の「三現主義」を引き合いに独自製品や技術を生みだすイノベーション力再興のためあえて全員出社の道を進む・・・

熊本製作所での新機種開発棟では、1万平方メートル超に及ぶ間仕切りのないオフィスで研究開発や生産、調達担当などの約700人が集まるそうです。開発と生産が離れておらず、すぐに議論ができます。
このような機能も、社員が集まった勤務でないとできません。