カテゴリーアーカイブ:行政

景気対策でなく経済成長を促進する対策を

2024年10月25日   岡本全勝

10月4日の日経新聞経済教室、植田健一・東京大学教授の「日本経済再生の針路、価格・企業活動に介入するな」から。

・・・世間では日本経済再生のために、あれもこれもとかまびすしい。だが多くは必要ない。むしろ障害となる。
とりわけ景気浮揚のための財政・金融政策は、世間で考えられているような効果はない。経済学の研究をまとめれば、景気が悪化した時に下支えするという実績は多少ある。だがあくまでその効果は、経済学的に定義される景気の悪化に関してだ。そうした景気の悪化は、世間で考えられているほど起きていない・・・
・・・安倍政権時には、戦後2番目に長い好景気、すなわちトレンドの周りでの上昇局面があった。それでも世間では景気の良さを実感しないという声が多く、それに応えて政府・日銀は長きにわたり財政赤字を続け、金融政策を緩和したままにしてきた。これは間違いと言わざるを得ない。本来、好景気時の財政・金融政策による景気対策は、不景気時とは逆に、財政黒字を出し、金利を上げるものだ。
ただし金融政策については本務は景気対策よりも物価安定だ。景気にかかわらず、2%程度のインフレ目標の達成まで緩和することは理にかなう。だが好景気時の財政赤字はおかしい。

もっとも、世間の人々の景気に対する不満は、経済学の定義する景気ではなく平均の経済成長を実感してのことだろう。実際、日本の高度成長期やバブル期、中国の2000年代以降の経済成長と比べて、安倍政権時の長い好景気でも平均の経済成長は低かった。
だが発展途上国が先進国にキャッチアップする過程では通常、先進国よりも経済成長が高くなることが経済成長の研究で判明している。その意味で、高度成長期の日本や近年の中国と、先進国になった後の過去30年ほどの日本の比較は本来すべきことではない。

そして経済政策は経済学的な知見、つまり理論と実証研究に裏付けられたものでないと、効果が不明で副作用の危険すら伴う。好景気時には景気浮揚策よりも景気抑制策が必要なのだ。
ただし、本当に必要なのは景気循環における景気対策でなく、中長期的な構造的な経済成長を促進する対策だ。財政・金融による景気対策はそれには役立たないことが判明している。効果があるのはより民間活力を引き出す構造改革だ。構造的問題の所在を確認し、市場経済がうまくいくように改善していくほかない・・・

岸田政権の先送り負担増、年3兆円規模

2024年10月24日   岡本全勝

9月28日の朝日新聞に「先送り負担増、年3兆円規模 岸田政権の置き土産、次期政権は」が載っていました。
・・・自民党の新しい総裁に選ばれた石破茂氏は、岸田文雄政権が決めた年3兆円規模の負担増にも向き合うことになる。防衛、少子化対策、脱炭素化の三つの予算を大幅に拡充して事業が始まっているのに、国民に不人気の負担増は始まっていないからだ。
岸田首相は防衛費を5年間で段階的に増やし、2027年度は22年度比で3・7兆円多い8・9兆円にすると決めた。少子化対策でも、28年度までに国と地方の予算を3・6兆円増額する。さらに、脱炭素社会を実現するためとして、32年度までの10年間で20兆円を投じることも決めた。

これらの予算増は22年度以降、順次始まっている。計画通り進めば、三つの政策の予算は、合計で年9兆円程度増える。ただ、岸田政権は、既存の財源をやりくりするだけではまかなえないため、一部を新たな負担として国民に求めることにしていた。
防衛費増に対応するため、法人税、所得税、たばこ税で計年1兆円強の増税を打ち出した。遅くとも26年度までに始める方針だが、与党の反発で実施時期が決まらず、必要な税法の提出の先送りを重ねてきた。少子化対策では、社会保険料の引き上げで年1兆円をまかなう法律を成立させ、26~28年度に段階的に実施する。
脱炭素投資の財源は、28年度から化石燃料賦課金、33年度から有償の排出量取引制度を通じて集める方針だが、具体的な仕組みは未定だ。50年までに投資20兆円の全額を回収する予定で、単純計算で年1兆円弱の負担増になる・・・

10月3日には「増やした、使った、後は任せた 岸田政権、財源確保は3割」載せていました。
・・・岸田文雄政権が3年の幕を閉じた。この間、物価高対策と称して巨額の補正予算の編成を繰り返したうえ、当初予算も大幅に増やし、将来にわたる歳出増を決定的にした。歴代政権は深刻な財政状況に配慮し、一度増やすと翌年度以降に減らすのが困難な当初予算は、高齢化に伴う年金や医療費などの伸びに抑えてきた。その不文律をも破ったことになる。

朝日新聞は、当初予算のうち恒常的に使われる政策の予算(国債費を除いた政策経費)が、前年度に比べてどれだけ増えたかを検証した。元参院予算委員会調査室長の藤井亮二・白鴎大教授(予算制度)の助言を受け、消費増税対策やコロナ対策の予備費など一時的な要因を除いた。
分析結果によると、岸田政権は2023~24年度に計6・2兆円、当初予算の政策経費を増やしていた。防衛と少子化対策の予算を大幅に拡充したためだ。01年度以降でみると、09~10年度(7・0兆円)に続く規模だ。当時、自民党から民主党への政権交代があり、「バラマキ合戦」になった時期だ。
岸田政権は、別枠の特別会計を用い、年平均2兆円のペースで脱炭素化の支援策を増額した。これを含めれば、政策経費の伸びは09~10年度をも上回ると見られる・・・
・・・積極財政を掲げた安倍晋三政権でも、政策経費の伸びは、最大で19~20年度の3・2兆円にとどまる。高等教育無償化などを進めたためだが、消費増税により、支出増を上回る税収増を確保していた。
一方、岸田政権が打ち出した防衛と少子化対策の強化の財源では、将来の増税や社会保険料の引き上げで確保したのは、増やした予算の3割だけ。残りは、特別会計の剰余金など恒久財源とは言えないものばかりだ・・・

岸田首相と経済財政諮問会議民間議員の座談会

2024年10月21日   岡本全勝

9月20日に、日経新聞主催で、岸田首相と経済財政諮問会議民間議員との座談会が開かれました。23日付けの日経新聞に、要旨が載っています。マクロ経済、財政、成長力強化と人口、金融政策、エネルギー、労働市場改革にわけて、議論が交わされています。なかなか、内容のある座談会です。菅野・論説委員の司会で、突っ込みも鋭いです。例えば、ガソリンや電気などへの補助金が続くこと、消費税増税についてです。

この記事を読んだときに、良い企画だと思いつつ、次のようなことを考えました。経済財政諮問会議の議員との意見交換なのですが、経済財政諮問会議では、このような議論がなされていないのです。
まず、所要時間です。首相動静を見ると、8時34分に会場のホテルに到着し、9時48分にホテルを出発しておられます。1時間強です。他方で、最近の経済財政諮問会議は、30分から1時間未満です。6月21日の経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議の合同会議は、首相を合わせて出席者は21人、所要時間は37分でした。

そして、諮問会議ではこのような「自由な」議論、突っ込んだ意見交換がされていません。内閣府は、省庁改革の際に首相を支える「知恵の場」としてつくられ、諮問会議はその最たるものです。
役所の会議の傾向として、次第に儀式になってしまいます。決められた時間の中で、あらかじめ予定された結論を出す(その総理発言を報道機関に公開する)ために、事務局の官僚は全精力を注ぎます。さらに、権限が強い会議では、自由な議論をすると市場や行政に思わぬ影響を与えてしまう可能性があります。

このような場をどのように活用するか、議長である首相の考え方によります。首相にとって、民間議員との自由な意見交換は意義あるものだと思います。諮問会議ではふさわしくないとすると、首相と民間議員との意見交換を「懇談会」として設営することも可能でしょう。

市債権の徴収一元化

2024年10月21日   岡本全勝

時事通信社の行政情報サイト「iJAMP」10月10日に、橋本一磨・愛知県豊田市東京事務所長の「市債権の徴収一元化を実現」が載っていました。

・・・2013年当時、税を専門的に扱う納税課主査として、ある高齢男性の窓口対応に当たったときの出来事がきっかけだった。男性は、税や後期高齢者医療保険料、市営住宅使用料といった納付書を持って窓口に訪れ、「全部は払えないから相談したい」と話した。しかし、税の部署なので税以外のものは相談を受けることができないと伝えると、怒って帰ってしまった。
男性にとって市役所は一つなのに、税以外の相談は受けられない。役所自ら市民の信頼を失う組織体制をつくり出していることに気付いた。異なる部署でばらばらに行われている債権回収業務を、一つの窓口で行えるよう組織体制の見直しが必要だと感じたが、主査という一担当職員の力ではどうにもならないことも分かっていた。

そこで、14年に各部対抗のプレゼン大会の場を使って太田稔彦市長に直接提案したところ、市長から具体的に検討するよう指示を受けた。15年度に一元化に向けたプロジェクトチームを発足。翌年度から組織体制の見直しやシステム整備を進め、19年度までに26部署がそれぞれで取り扱っていた60種類もの未収債権を一つの窓口に集約した。併せて、17年度に納税課から債権管理課へ名称変更。19年度には、弁護士チームと連携し、官民連携による債権回収を始めた。

債権回収は、多くの課で本来業務ではないとの意識が高く、後回しにされがちだった。税と税以外を重複して滞納する「滞納のプロ」のような人もいて、対応する職員側も専門性の高さが求められる。このため、税務職員の滞納整理に関する知識と経験を、市の全体的な歳入確保のために最大限活用して効率的・効果的な債権回収に取り組んだ。併せて、システム整備に着手。関連情報を紙やエクセルで管理している課が多く、これらを整理して情報を一元的に管理するシステムを構築し、効率的な業務につなげている。
一元化した初年度から成果が数字として表れ、介護保険料や後期高齢者医療保険料の収納率は中核市の中で1位に。一元化後の6年間で、約28億円の未収債権を回収した。

一方で、滞納者の中に一定数、「無い袖は振れない」生活困窮者がおり、支援の必要性を感じていた。債権回収業務は、「取る」「押さえる」「落とす」のいずれかを判断して進めると学んできたが、「立て直す」の視点を追加。これは、債権回収の現場で発見した生活困窮者を福祉部門へつなぎ、自立に向けた支援を行うことだ。弁護士、社会福祉協議会などと合同で納付相談会を開き、弁護士相談で発見した生活困窮者をシームレスに社会福祉協議会へつないでいる。
地方自治体の基本は「住民の福祉の増進を図ること」で、歳入確保による財政健全化の視点と福祉的な側面への配慮の間に、常にジレンマを抱えている。故に、単に債権回収すればいいというものでなく、福祉的側面への配慮など債務者の個別事情を踏まえた対応が必要となる・・・

社会保障制度の申請主義

2024年10月16日   岡本全勝

9月28日の朝日新聞夕刊、社会福祉士・横山北斗さんの「社会保障制度、迷わず使うために」「知らないのは罪ですか?―申請主義の壁―」から。

・・・コロナ禍による経済的困窮者が増えていた2020年12月。厚生労働省がツイッター(現X)に投稿した内容が話題になりました。
《生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。》
SNS上で肯定的な受け止めが多かったのですが、裏を返せば、それほどまでに私たちの権利意識が希薄であるということかもしれません。それはつまり、社会保障制度に対し「お上からの施し」的な受け止めや、利用を我慢することにつながります。社会保障制度を名実ともにセーフティーネットにするためには、私たちがそれを行使することが当たり前だと認識している状況に社会を変えていくことが必要です・・・
・・・私たちの生存権(憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」)を実現するために社会保障制度は整備されてきました。ですが、その利用は自力で制度の情報を収集・選択し、物理的・能力的に申請手続きが可能であることを前提としているため、それを自力で行うことが難しい人たちが排除され、より困った状況に陥ったり、生活・生命の危機に瀕したりする可能性があります・・・

・・・申請プロセスでの障壁や、制度の利用が権利であるという意識の希薄さ、国や自治体が行う施策の乏しさが、生存権の実現という社会保障制度の目的を果たすことを難しくさせています。
こうした矛盾はどのように生じたのか。歴史をひもといてみます。

1946年制定の旧生活保護法では生活保護を申請する権利は認められておらず、市町村長が必要だと認めた場合にのみ利用できました。それでは憲法25条の精神に反するとして、50年制定の新たな生活保護法に保護請求権が盛り込まれました。生活保護は原則、本人の申請で開始され、家族や同居の親族にも申請が認められるようになったのです。
生活保護以外の社会保障制度(障害者福祉、児童福祉、高齢者福祉など)は戦後長く、行政が職権で必要性を判断し、サービスの種類・提供機関を決定する仕組み(措置制度)で提供され、自由にサービスを選ぶことができませんでした。
90年代の構造改革を経て、措置制度から契約制度へと移行が進みました。利用者は制度やサービスを選択し、それを提供する事業者との間で契約を交わす形で、申請を前提に提供されるようになりました。2000年の介護保険制度開始に伴う介護サービスの提供、さらに障害福祉サービスと続きました。
申請する権利を得た社会は、制度やサービスを自ら調べ、理解し、選択し、申請をするというプロセスを一般化させました。結果、社会保障制度はそのアクセスに障壁を生じさせ、国民の生存権保障という目的を果たすことが困難になるという自己矛盾を抱えることになりました。

解消するには、申請する権利の行使をサポートする施策を、社会に網の目のように張り巡らせること、私たちが権利意識を高めることが必要です。後者については例えば、義務教育など人生における早い時期に、社会保障制度の利用が権利であることを学び、私たちをサポートする制度についても知る機会が不可欠だと考えます。
学校に当たり前のように通ってきた人は、自分が教育を受ける権利を行使してきたことを強く認識することはないでしょう。それが日常的で、当たり前のものだと感じているからです。社会保障制度の利用も、そのような未来をたぐり寄せることができるでしょうか・・・