カテゴリーアーカイブ:行政

地方創生10年の評価

2024年11月15日   岡本全勝

地方創生が始まって10年になります。6月に、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局と内閣府地方創生推進事務局が、「地方創生10年の取組と今後の推進方向」をまとめています。
そこでは、「地域によっては人口増加等をしているところもあり、この中には地方創生の取組の成果と言えるものが一定数あると評価できる。
しかしながら、国全体で見たときに人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要」と要約しています。

一方、11月12日付けの日経新聞が「地方創生空転10年、深まる国依存 分配ありき、成長と逆行 かすむ分権」が、数値を示して簡潔に評価をしています。
・・・安倍政権が地方創生を掲げて10年。人口減や少子化はむしろ加速し、成長は鈍った。この間、政府が配るお金に自治体が群がる構図が定着した。コロナ危機も経て進んだのは地方の自立ではなく国への依存だった。中央省庁の権限や財源を移譲する分権の理念はかすみ、伸び悩む税収を自治体間で奪い合う不毛な光景ばかりが広がる・・・
そこに、目指した将来像と現実との比較が図で載っています。
合計特殊出生率は、10年前(2014年)では1.42で、めざしたのは1.8でした。2023年では1.2です。
東京圏の転出入は、2014年では10.9万人の転入超過で、均衡を目指しましたが、2023年では11.5万人の転入超過です。
実質成長率は、2013年までの10年間平均は0.7%で、1.5~2%を目指しましたが、2023年までの10年間平均は0.5%でした。

行政の手法、切り出しから連携へ

2024年11月11日   岡本全勝

1980年代からの行政改革の哲学の一つは、小さな政府(スリム化)でした。そのために、役所の業務を民営化したり、独立行政法人化したり、外部委託に切り出したりしました。
近年、官民協働という概念で、役所が民間団体と一緒になって仕事をすることが増えました。東日本大震災でも、企業や非営利団体、ボランティアに助けてもらいました。そこには、役所の業務を民間に委託したものもありますが、そもそも民間がやっていることと役所が連携を取ったもの、民間の活動を役所が支援したものがあります。

地方自治法の改正(令和6年)で、「指定地域共同活動団体制度」が創設されました。地域社会を支えている地域の共同活動(町内会やさまざまな地域活動団体)と市町村が連携して、必要なら随意契約で仕事をしてもらうことができます。

連載「公共を創る」では、行政と市場が区別される「公私二元論」から、行政・非営利活動・営利活動の3つがそれぞれの役割を果たす「官共業三元論」への意識の転換を主張しています。さらに、サービスの提供という見方でなく「社会課題の認知と取り組み」という見方も提唱しています。
このような考え方からは、従来の行政の手法は「切り出し」であったものから「連携へ」と転換しつつあると見ることができます。

牧原出先生の『内閣政治と「大蔵省支配」』

2024年11月8日   岡本全勝

10月20日の読売新聞「始まりの1冊」は、牧原出・東大教授の『内閣政治と「大蔵省支配」』でした。

・・・とはいえ、1990年代の統治構造改革が始まったのと並行して研究生活を始めたものの、「明治維新、占領改革に次ぐ第3の改革」と言われた鳴り物入りの改革には、内心疑問を持っていた。この後により大きな問題が到来するのではないか。そんな気分の中、同時代に深入りせず、遠い先の大きな変化への予感とともに、仙台という落ち着いた都市で研究に打ち込んだ・・・

・・・視野を広げた転機は、2000年から2年間のイギリス留学であった。そこで出会ったのが、大臣と官僚が主役の名作コメディ「イエス、ミニスター」。種本の1つが、労働党政治家の克明な記録であるリチャード・クロスマン日記であり、ブレア労働党政権の雰囲気の中で熟読する。政党政治華やかと思われたイギリスでは、政権入りした閣僚と官僚の関係は、一次資料でも日々のメディアでも話題となっていた。コメディの作者は、その観察をこう語っている。「心の奥底で政治家は官僚を途方もなく尊敬し、官僚の方は心の奥底で政治家たちを途方もなく軽蔑している」と。

政治主導が行き渡っているはずのイギリスの官僚と日本の「国士型」と当時呼ばれていた官僚は、心の奥底で響きあっている。だが、政治家をうまくさばく官邸官僚たちは、一見控えめな立ち居振る舞いの奥に本音を隠す。そうした官僚たちの密やかな行動こそ、政権交代の時代を形作るのではないか・・・

産業政策の復活

2024年11月6日   岡本全勝

10月22日の朝日新聞「資本主義NEXT 復権する国家1」は「経済を武器に、迫られる経産省」でした。

・・・通産省は戦後、補助金を投じて新産業を育成する産業政策に取り組んできた。「超LSI研究」プロジェクトを通じて半導体産業を育て、「サンシャイン計画」では先駆的な太陽光発電の実用化に道を開いた。
日本の半導体の世界シェアは5割を超えた。「メイド・イン・ジャパン」の輸出攻勢に音を上げた米国は、通産省の産業政策を「官民癒着」と非難。通産省は「ノートリアスMITI」(悪名高き通産省)の異名をとる・・・
・・・特定産業を重視する「ターゲティング派」(介入派)と、規制緩和で自由な市場をつくる「フレームワーク派」(市場派)。通産省には、二つの政策思想の潮流がある。高度成長期の通産官僚を取り上げた城山三郎の小説「官僚たちの夏」でも、両派のせめぎ合いが描かれた。主人公の風越信吾が理想としたのは、官が重要産業に介入して指導し、国の繁栄につなげることだった。

だが、野原たちの世代が入省後に携わってきたのは、それとは逆の、市場機能を重視した政策だった。「日米関係からそうせざるを得ない面もあったが、私自身も規制改革や構造改革が日本に必要と思っていた」
英サッチャー政権は80年代、官営事業の民営化に乗りだし、同様の政策が米国や豪州にも広がった。日本でも、開明的な官僚ほど、そうした思想に共感した。
「民間経済の領域を広げれば、経済はより成長する」と野原も考えた。旧国鉄や郵政など官営事業が民間経済の活力を奪っていると映った。2000年代、小泉純一郎政権が経済学者の竹中平蔵を要職に起用して進めた構造改革路線には、そうした経産官僚の一群が裏方としてかかわった・・・

・・・竹中路線とは距離を置いた与謝野馨が08年に経済財政担当相に就くと、野原はその補佐室に勤務した。まもなくリーマン・ショックが直撃。すると、政府の民間介入を批判してきたはずの米政府がゼネラル・モーターズ(GM)の救済に乗り出した。「市場が暴走して失敗した。すべて市場任せというのはナイーブな考えだったのだろう」
経産相などを歴任した自民党の甘利明は10年、中国のレアアースの対日禁輸に身構えた。「一つの国に過度に依存すると危うい。従来の安全保障議論とは異なり、経済物品が『武器化』する時代になった」。以来、党内で経済安保を主導する論客となる。半導体戦略推進議連の会長も務め、同省に強い影響力を有する。

野原は15年、後に事務次官となる嶋田隆から「これ読んだかい、キミはどう思う?」とある文書を示された。中国の国家戦略「中国製造2025」だった。半導体自給率を70%に高めるなど、重点産業の強化策を網羅的に盛り込んだ。習近平指導部はやがて、巨大市場を武器に投資や技術を呼び込む「重力場を形成する」と宣言する。
その挑発的な内容は、経産官僚の警戒心を呼び覚ました。自由に競争できる環境を整えても「想定ほど民間経済は成長しなかった」(元商情局長)。グーグルのような企業は生まれず、米国との彼我の差は歴然。市場重視だった官僚ほど、当てが外れた思いでいた。
日本の半導体生産シェアは10%にまで後退した。その一方、TSMCは先端ロジック系半導体の90%を生産する。「台湾有事」が現実になれば、半導体の調達が滞って日本は大打撃を受けかねない。日本の産業界に必要な半導体を手に入れるには、自国内で製造することが欠かせない。そんな経済安保の論理が省内で幅をきかせていく。
米トランプ政権の発足で米中対立は激化し、後継のバイデン政権も半導体産業の対中輸出規制を強めた。いまや万事、安全保障が勝る。「自由貿易は死んだ」。TSMC創業者のモリス・チャンはそう口にした。「フラットだった世界が米中対立を受けて変わってしまった」と野原は言う。
「重要産業を支援するとともに技術流出を予防する」と担当課長。年内にも炭素繊維など10品目の技術管理を強める新制度を始める。秋が深まっても、経産省では「官僚たちの夏」が続いている・・・

一人暮らしに住まいと人的つながりへ支援を

2024年11月5日   岡本全勝

10月22日の朝日新聞オピニオン欄「おひとりさま化する日本」、山崎史郎・内閣官房参与の発言「住まいと人的つながりへ支援を」から。

――単独世帯が抱える問題は何だと考えますか。
「やはり安心して暮らせる住居を確保できるかどうか、が大きな問題です。高齢期のセーフティーネットでは年金が最初に浮かびますが、年金制度だけでは住まいの保障は難しい。家賃や地価は大きな地域差があるのに、基礎年金は月約6万円と全国一律です」

――住まいのない単独世帯をどう支えればいいでしょうか。
「今の仕組みでは生活保護しかありません。これは最後のセーフティーネットであり、その前の段階から住まいを保障していかなければならない。そのため、一般の民間賃貸住宅も高齢者に貸しやすいように、亡くなった後の問題なども含めて支援する社会システムが必要ということで、住宅セーフティーネット法が今年、改正されました」

――住居だけで問題が解決しますか?
「次の課題として、私はエンパワーメント・ネットワークと呼んでいるのですが、生きる力をつける地域づくりが重要だと考えています。誰でも病気やトラブルで元気を失うことがありますが、励まして力を与えてくれるパートナーや家族がいないと立ち直りにくい。病院は身体的な治療をしてくれますが、寄り添って力を与える人が必要なんです。自分自身、年を重ねて分かってきたことでもあります」

――お金や住まいだけの問題ではない、と。
「お金を給付するだけでは、実際の自立に結びつかないことが多いのです。地域コミュニティーなどとの人的なつながりを同時に考える発想が必要です。そういう考えは、これまではあまりなかった。これからは、地域住民も巻き込んだ持続可能なコミュニティーづくりが大切で、それに成功している地域は安心して暮らせるし、人が集まって新しいサービスや仕事も生まれます」