カテゴリーアーカイブ:行政

御厨貴先生「少数与党時代の新秩序」

2024年11月27日   岡本全勝

11月12日の朝日新聞オピニオン欄、御厨貴先生の「少数与党時代の新秩序」から。

――下野した2009年以来となる自公過半数割れを受けて、少数与党の石破内閣がスタートします。歴史的にどのような意味を持つのでしょうか。
「15年ぶりといった時間軸では捉えられないことが起きようとしているのではないでしょうか。私には1955年の自由党と日本民主党の『保守合同』によって自民党が結党した時以来となる、日本政治の大きな変化の時を迎えていると思われてなりません。『石破政権は短命で終わる』とか『国民民主党は与野党のはざまで埋没するだろう』といった冷笑的な見方ではなく、久しぶりに日本の政治が創造的に変わるチャンスが訪れたととらえるべきです」

――自民党が力を持つ「55年体制」が揺るがされていると。
「政治家も官僚も学者もジャーナリストも、55年体制があまりに長く続いたので、それを所与の前提として考えがちですが、永遠に変わらない条件ではないのです。これから始まるのは新しい政治の手法、秩序、体制の創造過程だと思って見つめるべきです」
「実は、自民党は結党以来、このような少数与党政権を経験したことはないんです。2度下野をしましたが、それ以外の時期は衆院で多数を維持して政権を運営しました。ですから事前に与党で大事なことを決め、野党との関係は国会対策による日程調整で対処するということが70年近く続いてきました。内閣不信任案がいつ可決してもおかしくない、という緊張感のある国会の状況は誰も経験していません」

――これまでにも自民党は他党と連立を組んで難局を乗り切ったことがありました。過去とは何が違うのですか。
「全く違うと思いますよ。・・・
今回は何が違うのか。これまでは緊急時の連立相手になってきたのは、河野洋平氏や小沢氏など、かつて自民党に所属していたリーダーが率いた政党でした。ですから『表と裏』の使い分け、腹芸といった自民党経験者の仲間うちならではのコミュニケーションが可能な相手だったのです。あえて加えれば、政権を奪還するために組んだ94年から98年の社会党(のちの社民党)と新党さきがけとの連立でも、さきがけという自民党を離党した武村正義氏や田中秀征氏といった政治家が結成した政党の存在が重要でした」
「ところがいま協力を求めている国民民主党は玉木雄一郎代表をはじめ、国政で自民党に所属したことのない政治家の集団。これまでのパートナーとはまったく違う存在です。自民党と常設の協議機関すら設置しない。すべてを公開でやろうということでしょう。立憲民主党などの野党とも同じように協議をするという方針です。これまでの連立の経験や与野党の国対政治の発想は通用しません。これは自民党にとって恐怖だと思います」

――石破首相のことをかつて「伝道師だ」と評していました。
「細川護熙元首相のようなさっそうとした、スマートな人物ではありません。とても疲れて見える日本のおじさんです。でも30年以上混迷を続け、国際的にも埋没と地盤沈下が止まらないこの国そのもののような人物なのです。当面、この人物が日本の指導者として、米大統領に返り咲くトランプ氏をはじめ世界の指導者と会うのを見守ることになります」

電気・ガス料金補助、過大に計上

2024年11月26日   岡本全勝

コロナ交付金、2割不用」の続きになります。11月7日の日経新聞は「電気・ガス料金補助、過大計上 昨年度、5700億円使われず 効果の検証も不十分」を書いていました。

・・・物価対策として電気・ガス料金を抑える国の補助金事業を巡り、2023年度予算で計上された3兆2527億円のうち18%にあたる5714億円が24年度に繰り越されていたことが6日、会計検査院の調べで分かった。予算が過大だった可能性がある。政策効果の検証も不十分で、事業計画全体の甘さが浮かび上がった。

電気・ガス料金向け補助金はロシアのウクライナ侵略などによる物価上昇の対処策として23年1月に始まった。企業や家庭の負担を軽減するため、電力・都市ガスの小売会社が値引きした分を補塡する形で国が支援金を配った。
検査院が執行状況を検査したところ、22年度に計上された3兆1073億円のうち、8割にあたる2兆5346億円が23年度に繰り越された。23年度は繰り越し分を含め3兆2527億円の予算を計上したが、5714億円は年度内に執行されず24年度に繰り越された。
制度を所管する資源エネルギー庁は多額の繰り越しが発生した理由について「年度内に小売事業者が値引きを行うための必要額を見込むことが困難で、事業を完了できなかった」と説明しているという。予算の見積もりが甘かった可能性がある。
検査院は事業の効果についても確認した。資源エネルギー庁は事業の進捗を確認する23年度当初の「行政事業レビューシート」で、補助金により各家庭の電気・ガス料金を18%抑えるという目標を掲げた。しかし実際の成果を正確に調べていなかった・・・

・・・電気・ガス料金の補助事業は再委託が繰り返される多重下請けの構造だったことも判明した。会計検査院によると、事務局に選ばれた博報堂から下請け企業への金額ベースの委託費率は7割を超え、さらに8割超が別企業へ再委託されていた。
検査院によると、博報堂は2022年11月から24年8月までの1年10カ月間、事務局の運営を担った。事務費319億円のうち、71%(227億円)が下請け8社への委託費用だった。
そのうち申請書類の審査業務やコールセンター対応など210億円分の委託先は同社子会社の「博報堂プロダクツ」だった。博報堂プロダクツは別の下請け5社に186億円分を再委託していた・・・

(追記)11月21日の読売新聞解説欄に、駒崎雄大記者の「「多重下請け」黙認 ずさん運営 電気・ガス補助金事業」が載っていました。
・・・コロナ禍や物価高といった生活を脅かす事態に対応する補助金事業でなぜ綻びが目立つのか。白鴎大の藤井亮二教授(財政政策)は「いずれも政治主導で慌ただしく実施が決まり、制度設計に緻密さを欠いたからではないか」とみる。
特に、経済産業省の外局である中企庁とエネ庁で多重下請け構造の確認不足が立て続けに問題視されたことからは、検査院の指摘を「軽視」する姿勢もうかがえる。与党などは20日、電気・ガス料金の負担軽減策を来年に再実施することで合意したが、巨額の公金支出を念頭に置き、後の検証に堪えうる精密な事業運営が求められる・・・

役所の事業執行の甘さには、原因があるでしょう。これらの予算は、事務的に十分な検討がないままに、いわゆる「政治主導」で決められたようです。時間的余裕がない上に、臨時に発生したこれら業務に十分な人員がそろえられていないのでしょう。担当職員たちの苦労が見えるようです。

コロナ交付金、2割不用

2024年11月25日   岡本全勝

11月7日の朝日新聞が「コロナ交付金、2割の3.2兆円不用 会計検査院、昨年度の決算検査報告」を伝えていました。

・・・会計検査院は6日、国の2023年度決算検査報告を公表した。国費の無駄遣いや不適切な経理などは345件(前年度344件)で計648億円(同580億円)。新型コロナウイルス対策として20~22年度に国が地方に配った地方創生臨時交付金(コロナ交付金)では、総額18兆3千億円のうち約2割の約3兆2千億円が不用になっていた。

コロナ交付金は、コロナ禍の地方経済や地域の暮らしを支えるためとして創出され、医療機関への支援や飲食店などの休業要請への協力金などの事業が実施された。
検査院が内閣府や総務省と、能登半島地震の影響を受けた新潟、富山、石川各県をのぞく44都道府県の事業実施状況を調べたところ、約3兆2千億円の不用が出ていた。交付金は内閣府から総務省を通じて地方に配られる仕組みだが、約3兆円は内閣府にとどまったままで、地方分の不用は2396億円あった。検査院によると、国は地方で行われた事業を網羅的には把握しておらず、コロナ交付金の不用総額が判明するのは初めて。
コロナ交付金は原則として使途に制限はないとされ、自由度が高く活用が可能な制度とされた。だが、「イカのモニュメント(イカキング)」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」などといった事業について、「コロナとの関連が見えない」などといった批判が出た。検査院の調査で多くの自治体が事業の効果検証を行っていないことが判明し、内閣府は22年11月、自治体に効果検証を要請した。不用額の背景にはこうした状況があるとみられる・・・

・・・コロナ交付金を使った無料のPCR検査事業などでは全国各地で不正が相次ぎ、会計検査院が2023年度末時点で集計したところ、338億円の不正受給が発生していた。うち国費は205億円で、そのうち170億円が返還されていない。
無料のPCR検査は全国で3340万件実施され、コロナ交付金は1853億円使われた。検査交付金事業では、25都道府県で事業者が検査数を水増しするなどして計約200億円の不正受給があった。
未返還分について、大阪府は10事業者に約50億円の返還を求めて訴訟やその準備を進めている。破産する事業者も出ており、回収困難になっているケースもある。
飲食店などが休業や時短営業をした場合に出す協力要請金は524万件支給され、約5兆8千億円が使われた。24都道府県で店舗の実態がなかったり、時短を行っていなかったりし、計109億円の不正受給が発生していた。事業者の倒産などがあり、うち27億円は返還されていなかった。
事業者がテレワークなどを導入する際に使える事業者支援交付金などでも、約7億円の不正受給が発生していた・・・

地方自治法改正、国の指示権

2024年11月21日   岡本全勝

月刊『地方自治』2024年11月号に、牧原出・東大教授が「改正地方自治法における国の一般的な指示権はどう作動するか?」を書いておられます。
この春に成立した地方自治法改正に関するものです。「地方自治法の一部を改正する法律の概要
個別法の規定では想定されていない事態のため個別法の指示が行使できず、国民の生命等の保護のために特に必要な場合(事態が全国規模、局所的でも被害が甚大である場合等、事態の規模・態様等を勘案して判断)、国は地方公共団体に対し、指示ができることになりました。新型コロナウイルス感染拡大での混乱などを踏まえた改正です。

地方制度調査会での議論を経て法律となったものですが、地方分権に反するのではないかとの疑問も出されていました。どのような場合なら認められるか。それが難しいのです。事前に予測できることなら、個別の法律に規定しておくことができます。まさに想定外の事態の際に発動されるので、事前想定が難しいのです。この論考は、それを説明しています。

他方で、批判的な議論もあります。
坪井ゆづる編『「転回」する地方自治-2024年地方自治法改正(下)【警鐘の記録】』(2024年、公人の友社。自治総研ブックレット)

中年の孤独

2024年11月19日   岡本全勝

10月23日の朝日新聞くらし欄「『孤独』を飼いならす:下)、宮本みち子・放送大学名誉教授の「ミドル期世代、「親密圏」づくりを」から。

・・・高齢者だけでなく、都心でひとり暮らしする35~64歳のミドル期世代も、「孤独」がもたらすリスクにさらされている――。社会学者で放送大学名誉教授の宮本みち子さんは、こう指摘する。リスクを減らすには、何が必要なのか。「東京ミドル期シングルの衝撃」を出版した宮本さんに、孤独とのつきあい方を聞いた。

宮本さんによると、東京区部ではミドル期人口の3割弱がシングルで、この数は今後も増えることが予想されている。一方で行政は、現役世代をリスクを抱える政策対象と見ていないため、この層への支援が抜け落ちていると指摘。地域から孤立し、将来に不安を抱える人が増えている現実に目を向けるべきだと話す。

体調不良をきっかけにひとり暮らしのリスクに気づく人もいた。ある女性はがんの治療後、体調が優れず、ときどき友人が食事を持って訪ねてきてくれるが「孤独と不安を感じる」と回答した。
厚生労働省が補助する24時間電話相談事業「よりそいホットライン」で相談が一番多い年齢層は、40代だという。「お金、健康、仕事、家族関係が絡み合った相談内容が多く、つらい悩みを抱え孤立している人たちがこんなに多いのかと驚きます」

また、ひとり暮らしは孤立・孤独の問題を抱えやすいが、その傾向は男性でより顕著だったという。女性は実家の親と連絡をとりあい、男性より友人や知人との関係を築いている人が多くいる。ところが男性は、職場関係に限られる傾向が強く、困った時に頼れる人を挙げることができない人が多いと指摘する。
「仕事があり、友人がいて、親も元気なうちは、社会からの孤立や孤独をあまり感じないかもしれません。でも、それを維持できなくなったときにどうするかを前もって考えておく必要があります」

解決策の一つとして、結婚という形を選ばなくても、それに代わる「親密圏」をつくることを提案する。親密圏の範囲は工業化が進むにつれて狭くなり、夫婦と子どもによる核家族へと収斂していったが、近年、さらに狭まっているという・・・

この本では、35歳から64歳を指してミドル期世代と呼んでいます。ここでは「中年」と表現しておきます。
私が孤立・孤独の問題に関心を持ったのは、内閣官房で再チャレンジ政策を担当したときです。その際に、宮本先生にお教えを請いに行きました。それまでは、このような分野は門外漢だったので、新鮮でした。そこから、成熟社会の問題を考えました。
「再チャレンジ支援施策に見る行政の変化」図表・再チャレンジに見る行政の変化