「行政機構」カテゴリーアーカイブ

行政-行政機構

中央省庁の定員管理

季刊『行政管理研究』2024年9月号に、長屋聡・元総務審議官が「中央省庁改革以降の行政改革施策について(その2)」を書いています。紹介が遅くなってすみません。

その「はじめに」にも書かれているように、政府の機構や定員の膨張抑制は、長年、継続的に取り組まれてきたのですが、近年その解説がなかったのです。この論考は、その点で価値の高いものです。
定員合理化計画は、1968年以降、2025年度から始まる第15次計画まで続けられています。合理化計画で政府全体で定員を削減して、それを財源として必要な部署に割り当ててきました。よって、合理化計画の削減目標(多くは5年で5%~10%削減)が実行されても、他方で増員が認められるので、純減数にはならず、増える場合もあります。

このような努力によって、食糧事務所、林野、運転手などの分野で大きく削減し、それを財源として新しい分野に振り返ることができました。しかし、私も何度か書いているように、日本の公務員数は世界各国の中でも、極めて少ないのです。そして長期にわたり定員削減を続けてきたので、もはや限界に来ています。いえ、削減しすぎたと言えるでしょう。
他方で、東日本大震災対応、こども家庭庁、デジタル庁、新型コロナ対策など新しい行政分野での増員が必要なっています。ワークライフバランスを進めると、実労働時間が減り、その隙間を埋める必要も出てきます。それで、2019年度以降、政府全体では純増になっています。

組織管理の経過と考え方も書かれていて、有用です。
また同号には、植竹史雄・内閣人事局主査に「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針の一部変更について」も載っています。

「その1」(2024年3月号)は、小泉内閣から岸田内閣を対象として、その間の行政改革の取り組みを整理しています。「第二次臨調以降の行政改革施策」(1、2)に続く、行政改革・行政管理の記録です。

モノから関係へ、行政の役割変化

拙著『新地方自治入門』(2003年、時事通信社)で、行政のこれまでとこれからを論じました。そのあとがきに、「モノとサービスの20世紀から、関係と参加の21世紀へ変わることが必要」と書きました。
発展期の行政は、モノとサービスの提供を増やすことが役割でしたが、豊かな社会を達成すると、課題は人と人との関係や役所からの提供ではなく、住民が参加することが重要になるという主張です。この時点では、孤独と孤立問題の重要性に気がついていませんでした。

その後、孤独と孤立が問題になりました。阪神・淡路大震災、東日本大震災でも、孤独と孤立は問題になり、対策を打ちました。しかし、この問題は被災地だけでなく、日常生活に広がっています。
連載「公共を創る」で説明しているように、自由な社会は、どこで暮らすか、どのような職業を選ぶか、結婚するかどうかといった自由を実現しましたが、他方で孤独も連れてきたのです。他者とのつながりは、行政や企業が一方的に提供できるものではなく、本人の参加が必要となります。

この変化の一つの例が、住宅政策です。当初の住宅政策は、不足する住宅の提供、安価で質のよい住宅の提供でした。しかし、住宅は余り、空き家が増えています。他方で、孤立や孤独死が問題になっています。モノとサービスの提供から、関係と参加の確保が課題なのです。土木部ではなく福祉部・住民部の仕事に移っています。

『フランスという国家』行政の再評価と再設計2

『フランスという国家』行政の再評価と再設計」の続きです。

このページでも時々紹介している「自治体のツボ」に、『フランスという国家―繰り返される脱構築と再創造—』の書評(読書感想文)が載りました。
丁寧に読んで、詳しく紹介しています。お読みください。

・・・はっきり言って、欧州の行政はわからない。欧州統合下の各国のあり方は複雑怪奇。それでもフランスが置かれている状況と日本が置かれている状況が変わらないことがよくわかる。つまり日本の国家のあり方を考えるよすがになる本だ。
▼コロナが復権させた国家
あまりにざっくり言うと、国家はコロナの蔓延防止のために権力を振りかざし、国民に服従を強いたことで息を吹き返した。グローバリゼーションと新自由主義で役割を失いつつあったが、国民の健康を守る福祉国家として再生した。
▼要塞国家の流れは不可逆
国民の安全を守る役割に目覚めた国家は、逆ネジが働く脱グローバリゼーションと戦争の危機の中で、引き続き経済の安定に介入するよう促されている。大衆監視の危機も孕みつつ、安全が至上命令となった政府の重要性は増した。
▼経済的愛国主義の興隆へ
グローバルな経済競争の中で国益を守るにはどうするか。保護主義的な守りの戦略とイノベーション促進などの攻めの戦略の巧拙が問われる。国際的な相互依存は変わらないとしつつも、コロナで台頭した経済介入主義は戻り得ないと説く。

シュヴァリエ氏は、コロナが国家の権力を増大させ、コロナが落ち着いたあともその流れは不可逆と見る。その時々に直面する状況で国家の役割は変わるものであり、今の世界は市民が国家の力に安全と安心を託す局面なのだ、ということだろう・・・

『フランスという国家』行政の再評価と再設計

ジャック・シュヴァリエ著、藤森俊輔訳『フランスという国家―繰り返される脱構築と再創造—』(2024年、吉田書店)を紹介します。

宣伝文には次のように書かれています。
「福祉国家の危機、欧州統合やグローバリゼーションの進展、新自由主義の台頭、急進的なイスラム主義とテロ、黄色いベスト運動……、そして、新型コロナ危機。—フランス社会を取り巻く変化に直面し国家はいかに適応してきたのか。
フランス行政学の第一人者が、フランス国家の歴史的な成り立ちと変遷を丹念に振り返り、新型コロナ危機が伝統的な国家モデルの復権をもたらしたと分析する」

社会の変化に対し、国家はどのように対応してきたか。そして、政治理論はそれをどのように支えてきたかが、簡潔に書かれています。内容はフランスについてですが、近代国家を生んだ国であり、他方で現代国家はどの国でも同じような課題を抱えています。フランスの経験は、日本でも参考になります。

フランスは日本と同様、いえ日本以上に、国家・行政が強い国でした。しかし、国際化と自由主義的改革で、弱くなりました。機能的に縮小するだけでなく、国家に対する「神聖性」ともいえた信頼が溶けたのです。しかし、新型コロナ危機、産業支援などで、国家の出番が増えて、その役割も再認識されています。
連載「公共を創る」と、問題意識は共通しています。私の連載も、社会の変化に応じて行政の役割が変化することを議論しています。その際に、明治以来の「追いつけ型」行政が成功し、豊かになったことで役割を終えたとしています。他方で、この本がフランスについて論じているように、先進国においても行政と国家の役割が大きく変わっています。あわせて、国民の行政・国家への信頼も低下しています。日本は、政治主導への転換に苦慮しています。フランスと共通の点と異なる点があります。それも、今後の執筆に活かしましょう。

本文は100ページあまり。簡潔な著作ですが、内容は深く、考えさせられます。行政を考える人にとっては、重要な文献でしょう。翻訳もこなれていて、読みやすいです。訳者の藤森俊輔さんは、内閣府政策統括官(共生・共助担当)付参事官です。

解(ほど)けていく国家―現代フランスにおける自由化の歴史』は、フランスにおける、この40年間の経済の自由化・市場化・国際化を解説したものでした。その延長にあるとも言えます。吉田書店は、良い本を出してくれますね(だいぶ前に読み終えていたのですが、このホームページでの紹介が遅くなりました。すみません)。

電気・ガス料金補助、過大に計上

コロナ交付金、2割不用」の続きになります。11月7日の日経新聞は「電気・ガス料金補助、過大計上 昨年度、5700億円使われず 効果の検証も不十分」を書いていました。

・・・物価対策として電気・ガス料金を抑える国の補助金事業を巡り、2023年度予算で計上された3兆2527億円のうち18%にあたる5714億円が24年度に繰り越されていたことが6日、会計検査院の調べで分かった。予算が過大だった可能性がある。政策効果の検証も不十分で、事業計画全体の甘さが浮かび上がった。

電気・ガス料金向け補助金はロシアのウクライナ侵略などによる物価上昇の対処策として23年1月に始まった。企業や家庭の負担を軽減するため、電力・都市ガスの小売会社が値引きした分を補塡する形で国が支援金を配った。
検査院が執行状況を検査したところ、22年度に計上された3兆1073億円のうち、8割にあたる2兆5346億円が23年度に繰り越された。23年度は繰り越し分を含め3兆2527億円の予算を計上したが、5714億円は年度内に執行されず24年度に繰り越された。
制度を所管する資源エネルギー庁は多額の繰り越しが発生した理由について「年度内に小売事業者が値引きを行うための必要額を見込むことが困難で、事業を完了できなかった」と説明しているという。予算の見積もりが甘かった可能性がある。
検査院は事業の効果についても確認した。資源エネルギー庁は事業の進捗を確認する23年度当初の「行政事業レビューシート」で、補助金により各家庭の電気・ガス料金を18%抑えるという目標を掲げた。しかし実際の成果を正確に調べていなかった・・・

・・・電気・ガス料金の補助事業は再委託が繰り返される多重下請けの構造だったことも判明した。会計検査院によると、事務局に選ばれた博報堂から下請け企業への金額ベースの委託費率は7割を超え、さらに8割超が別企業へ再委託されていた。
検査院によると、博報堂は2022年11月から24年8月までの1年10カ月間、事務局の運営を担った。事務費319億円のうち、71%(227億円)が下請け8社への委託費用だった。
そのうち申請書類の審査業務やコールセンター対応など210億円分の委託先は同社子会社の「博報堂プロダクツ」だった。博報堂プロダクツは別の下請け5社に186億円分を再委託していた・・・

(追記)11月21日の読売新聞解説欄に、駒崎雄大記者の「「多重下請け」黙認 ずさん運営 電気・ガス補助金事業」が載っていました。
・・・コロナ禍や物価高といった生活を脅かす事態に対応する補助金事業でなぜ綻びが目立つのか。白鴎大の藤井亮二教授(財政政策)は「いずれも政治主導で慌ただしく実施が決まり、制度設計に緻密さを欠いたからではないか」とみる。
特に、経済産業省の外局である中企庁とエネ庁で多重下請け構造の確認不足が立て続けに問題視されたことからは、検査院の指摘を「軽視」する姿勢もうかがえる。与党などは20日、電気・ガス料金の負担軽減策を来年に再実施することで合意したが、巨額の公金支出を念頭に置き、後の検証に堪えうる精密な事業運営が求められる・・・

役所の事業執行の甘さには、原因があるでしょう。これらの予算は、事務的に十分な検討がないままに、いわゆる「政治主導」で決められたようです。時間的余裕がない上に、臨時に発生したこれら業務に十分な人員がそろえられていないのでしょう。担当職員たちの苦労が見えるようです。