カテゴリーアーカイブ:経済

もはや豊かな先進国ではない

2021年7月18日   岡本全勝

7月11日の読売新聞「日本復活の処方箋」、加谷珪一・経済評論家の「もはや豊かな先進国ではない」から。
・・・「日本は安い国になった」
最近そんな声を耳にします。私は香港のホテルでビールを注文したところ1500円以上取られてびっくりしたことがあります。国内にいては、わからないかもしれませんが、日本の物価は今や欧米や一部のアジア諸国と比べて低水準です。コロナ禍で下火になっていますが、訪日外国人(インバウンド)がどっと増えた一因は「日本の安さ」にもあるのです。
日本人にとって「日本が世界でも指折りの経済大国」であることは当たり前の話でした。その常識が崩れ始めているのです。

なぜそうなったのでしょうか。
バブル崩壊以降、日本経済はほぼ「ゼロ成長」の状態が続いており、賃金水準は上昇していません。この間、先進諸国は国内総生産(GDP)を1・5倍から2倍に拡大させました。日本は相対的に貧しくなったわけです。「今はもう豊かな先進国ではない」というのが実情です。
日本経済が成長を止めた理由の一つには、「ビジネスのIT化」にうまく対応できなかったことがあります・・・

・・・では日本経済が復活するための処方箋は何でしょうか。
まずは、日本企業の生産性を高めることです・・・
日本企業は基本的に雇用が過剰だからです。ある調査によれば、日本企業には「仕事はないが、会社に籍がある」という従業員が400万人もいるといいます。全従業員の1割に相当します。この「社内失業者」が転職し、別の仕事に従事すれば、その分、生産性を上げることができるのです。
日本は「終身雇用」「年功序列」が根強く、多くの人は転職に抵抗感があるかもしれません。しかし、人材が流動化すればもっと多くのサービスを創出できるはずです。 そのためには、転職しやすい環境をつくる必要があります。行政による支援は必須です。スキルアップが簡単にできる「職業訓練プログラム」の充実を政府は成長戦略の柱にすべきです。
もう一つの処方箋は「薄利多売」をやめることです・・・

先に、ビックマックが、アジアより日本の方が安いことを紹介しました。「日本は貧しい国

日本企業への信頼、東芝と経産省

2021年6月30日   岡本全勝

6月23日の日経新聞オピニオン欄、小平龍四郎・論説委員の「東芝、議決権介入で損なった国益 重なる日本企業の実情」から。
・・・東芝が25日に定時株主総会を開く。外部弁護士の調査報告は同社の2020年株主総会の運営が、海外の物言う株主(アクティビスト)の議決権行使に介入するなど、不公正だったと結論づけた。今年の総会に臨む多くの株主の胸のうちは、いかに。日ごろから情報交換をしている海外の市場関係者に聞いた。
「日本の企業統治(コーポレートガバナンス)は改善にはほど遠く、日本市場への信頼を再びなくした」(米国東部の公的年金基金)
「事実だとしたら日本企業そのものへの見方にも影響するだろう」(英国の有力機関投資家)・・・

・・・もう一つ共通するのは「これは東芝だけの問題ではない」という視点だ。もはや焦点は、総会で取締役が選任されるかどうかといった問題を超えている。「日本にはすぐれた統治事例も多い」(アジアの投資家)との見方もあるが、多くの外国人投資家にとって、東芝は日本株式会社の象徴になりつつある。
日本企業は旗色が悪くなると政官の盾の後ろに逃げ込み、異論の排除に動く。少なくとも排除のリスクがある。そんな見方が醸成されつつあるということだ。
日本市場で「コーポレートガバナンス」が強く意識されるようになったのは、1990年代のバブル崩壊後だ。証券会社が大企業の財テクの損失を穴埋めする「損失補塡」が発覚し、日本に好意的だった海外の投資家がいっせいに日本不信を強めた・・・

・・・92年にはカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)が、野村証券などに社外取締役の選任を求める動きも表面化。振り返れば、日本のガバナンス改革の出発点は証券不祥事だった。
委員会制度や連結決算、国際会計基準、社外取締役、ガバナンスコード……。約30年にわたって日本は改革を進め、不透明さへの批判をはね返そうとしてきた。
アベノミクス(安倍晋三前首相の経済改革)の一環として始動したガバナンス改革は、信頼回復の取り組みの仕上げにもなるはずだった。東芝問題は海外勢の日本企業・市場への見方を、30年前に引き戻しかねない。そうだとすれば、東芝の報告書が指摘した不適切な総会運営は、市場の観点で見た国益を損なうことにもつながる・・・

労働者の再教育の重要性

2021年6月13日   岡本全勝

6月6日の日経新聞1面「チャートは語る」は、「学び直し 世界が競う、出遅れる日本 所得格差が壁」でした。
・・・新型コロナウイルスの感染収束後の経済成長に向け、欧米主要国が人材の「学び直し(リスキリング)」を競っている。デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するなか、スキルの向上は生産性のカギを握り国際競争力を左右する。出遅れる日本は公的支援の改善が課題だ。
学び直しと生産性は一定の相関関係がある。経済協力開発機構(OECD)のデータをみると、仕事に関する再教育へ参加する人の割合が高い国ほど時間あたり労働生産性が高い・・・

時間当たり労働生産性と、仕事関連の再教育への参加率の国際比較が、図になって載っています。ノルウェー、デンマーク、スウェーデンでは再教育の参加率が50%を越え、時間当たり労働生産性は80ドルを超えています。日本は、再教育の参加率は35%、時間当たり労働生産性は40ドルあまりで下位にいます。

私のような事務職の経験からも、職場で必要とされる技能が変わってきていることがわかります。パソコンも、電子メールも、ワードプロセッサも、図表作成も、就職してから身につけました。情報セキュリティも。そして、どんどん進化しています。職場で、研修を受け、見よう見まねで覚え、できないところは、職員たちに助けてもらっています。
もちろん、行政官として知らなければならない「社会の変化」も激しいです(これについては拙著「明るい公務員講座 仕事の達人編」94ページで書きました)。大学で学んだことでは、役に立たず、追いつけません。
かつての日本企業は、社員を抱え、教育訓練して、新しい生産工場へ配置転換する。それが強みだと言われました。どうなったんでしょう。

寓話。安値競争を続けると

2021年5月4日   岡本全勝

この20年間、日本では賃金が上がっていません。このホームページでも、新聞記事などを紹介しています。「低い日本の賃金」「日本は貧しい国
次のような、例え話を考えました。

ある島に、10軒の商店がありました。それぞれに10人の社員を雇っています。そこに、安さを売り物に、A社が進出してきました。
A社は機械化と作業の簡素化で、アルバイトでも仕事ができるようにしました。同じ品物が、従来の店より安く買えるようになりました。100人の住民は喜んで、A社の品物を買うようになりました。
売れなくなった10軒の店は、次々と商売を縮小し、社員を解雇しました。解雇された住民は、A社のアルバイトになりました。収入が減るので、安いA社で買い物をすることが増えました。A社は、ますます事業を拡大しました。

で、A社は栄えたか。そのようには、なりませんでした。
その後、売れなくなりました。10軒の商店がつぶれ、100人の住民がみんなアルバイトになりました。貧しくなって、物が買えなくなったのです。
この例え話は、コンビニにも、ファストフード店にも、当てはまります。

消費回復へ賃金引き上げを

2021年5月2日   岡本全勝

4月26日の日経新聞経済教室、山口広秀・日興リサーチセンター理事長と吉川洋・立正大学長による「コロナ後のあるべき政策 消費回復へ賃金デフレ脱却」から。

・・・戦後最悪の経済の落ち込みを前に、財政支出は拡大せざるを得ない。所得低下は低所得家計で大きい。就業形態別にみると、パート労働者(特に飲食店)で現金給与総額の落ち込みが大きい。不況は常に逆進的だが、コロナ禍では特に著しい。従って格差の緩和が財政政策の大きな役割となる・・・
・・・しかしコロナショック後に採られた諸政策は、個人消費の明確な増加にはつながっていない。コロナが収束しない限り、消費の盛り上がりは期待できない。しかも日本の個人消費には構造的な弱さがある。
それは近年の消費性向の一貫した低下に端的に表れている。消費性向は14年の75%から20年には61%まで低下した。消費性向の高い65歳以上の高齢者ですら、11年の94%から20年には72%まで低下している。内閣府「国民生活に関する世論調査」をみても、人々が現在より将来への備えを重視する割合は、この20年間調査のたびに上昇している。
金融広報中央委員会の世論調査では、世帯主が60歳未満の世帯に老後の生活について尋ねると06年以降、「心配である」という人が約9割に達する。この10年余りは4~5割が「非常に心配である」と答える。家計の貯蓄目的としては「老後の生活資金」の割合が年々上昇し、13年以降は貯蓄の最大の目的となっている。
図は、消費者の経済や所得への見方をアンケート調査して指数化した経済協力開発機構(OECD)の消費者信頼感指数を国際比較したものだ。日本は14年ごろまでは米欧とほぼ並ぶ水準にあったが、その後低迷が続き、コロナショック後の回復も弱い。財政・金融政策は大同小異にもかかわらず、日本の景気回復が米国に比べ著しく弱いのは、日本の消費者心理が好転しないことが大きな原因だ。

漠然とした将来不安の背景は2つある。一つは政府の財政再建の展望が開けないなか、社会保障の持続性への懸念が強いこと、もう一つは消費者の所得上昇期待が低下していることだ・・・
・・・もう一つの賃金・所得上昇が期待できないことについては、名目賃金の上昇率(年収ベース)は、20年6月以降マイナス幅が拡大しており、足元ではマイナス1.5%となっている。世界的に低インフレが指摘されるなかでも、名目賃金の上昇率(19年)は米国が3.7%、ドイツが2.7%だ。日本の賃金デフレは異常な状態だ。賃金・所得の低迷は経済成長の問題にほかならない。経済成長は財政再建にとっても、十分条件ではないが必要条件だ。
先進国の潜在成長率(直近5年の平均)をみると、米国が2.0%、ユーロ圏が1.3%に対し、日本は0.6%と低さが際立つ。労働人口の減少もあるが、より大きいのは労働生産性の伸び悩みだ。1人当たり実質GDPの年平均伸び率(購買力平価ベース)は、1990年から2019年までの間、米国が1.5%、ユーロ圏が1.2%の一方、日本は0.9%にとどまる。生産性は、サービス業はもとより、製造業を含め幅広い業種で米欧より低い・・・

参考「最低賃金の引き上げ