「政治の役割」カテゴリーアーカイブ

行政-政治の役割

『民主主義の人類史』

デイヴィッド・スタサヴェージ著『民主主義の人類史 何が独裁と民主を分けるのか?』(2023年、みすず書房)を紹介します。新聞の書評で取り上げられていたので、読みました。
なかなか興味深い議論がされています。政治学の教科書では、あまり触れられていないでしょう。ここではごく簡単に書きますが、興味ある方は本をお読みください。お勧めです。

なぜ民主主義が根付いた国と、独裁が続く国があるのか。著者は、古代や未開と言われる社会でも、民主主義が行われていたことに着目します。統治者からすれば、独裁の方が都合が良く効率的ですが、被治者の意見を聞かなければならないことから、初期民主主義が生まれます。それは、統治者が強くない場合に、徴税や徴兵をするのに同意が必要になるからです。
また、農業生産の違いにも着目します。牧畜のように人口密度が低く、被治者が逃げることが可能な環境では、強制は効果を持ちません。集約的な農業では、官僚制が発達し、徴税や徴兵が容易になります。強い国家(軍隊と行政機構)は、民主主義を必要としないのです。

イギリスで議会制民主主義が発達したのは、国王が弱いからだというのはよく知られています。他方で中国は、昔から強い国家でした。日本は、強い国家から民主主義への転換途中にあるとも言えます。
制度を輸入しただけでは、定着しません。受け入れる社会の「この国のかたち」が制度を支えます。独裁より効率が悪いことも多い民主主義、それが国民に支持されるには、この国のかたちという社会の伝統とともに、民主主義がいかに効率よく政治を運営するかによっています。近年の世界的な民主主義への信頼低下は、それを示しています。

自民党内の意見の集約

12月8日の日経新聞に「自民党の財政本部「健全」「積極」再編へ 政調内で一本化案」が載っていました。

・・・自民党は財政を巡り「健全派」と「積極派」の2つの本部が存在する党内組織の再編に動く。2025年初めにも政策の立案を担う政務調査会のもとに一本化した組織を置く案が浮上する。経済政策に関する党内の路線対立を象徴してきた2つの本部の統合を見越し、せめぎ合いが始まった。

いまは政調に健全派の「財政健全化推進本部」(古川禎久本部長)と積極派の「財政政策検討本部」(西田昌司本部長)がある。党内には「同じテーマを議論するのに主張の違いによって場が分かれてきたことが異常だった」との声が出ている。
2組織が存在するため経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を巡る提言も別々に出すような状況が生じていた。

政府が6月の閣議で決定した24年の骨太の方針は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)について「25年度の黒字化をめざす」と明記した。これを前に西田、古川両本部長が両本部の提言の内容を擦り合わせた。
西田氏は政府が骨太の方針の原案を示した6月の政調全体会議で「財政部分の文言修正は要求しない」と言明した。検討本部の提言の「25年度のPB黒字化には断固反対」という当初の表現は「固執することに断固反対」と抑制的になった・・・

党内にいろんな意見があることは当然のことです。しかし、それを集約するのが政党の役割でしょう。板挟みになって苦労するのが、官僚です。それぞれの本部に呼び出されて、指導を受け、時にはお叱りを受けるのです。

民主党政権の失敗

日経新聞「私の履歴書」ジェラルド・カーティスさん、26日の「民主党の興亡」から。

・・・政権交代が視野に入った09年の衆院選前、私は鳩山氏に3点アドバイスをした。第1に普天間基地に関し拙速な判断は避けること。第2に米国を含まず反米に映りうる「東アジア共同体」に肩入れしすぎないこと。第3に官僚機構をうまく活用する戦略を描き、決して彼らを敵として扱わないこと、の3つだ。
だが首相に就いた彼は逆のことをした。普天間基地の県外移設を唱え、東アジア共同体を支持し、官僚機構を排除した。今年6月に会った彼は「先生の言うことをもっと聴けばよかったな」と話した・・・

・・・結局、鳩山政権は9カ月足らずで終わり、菅直人氏が後を継いだ。
菅氏のことは1970年代、彼が婦人運動家の市川房枝氏の参院選挙を手伝っている時から知っていた。
やはり民主党政権の発足直前に会い、米国よりも同じ議院内閣制の英国のほうが政策決定の参考になるので、見てはどうかと勧めた。
これに彼は興味をもち、ロンドンを訪れてブラウン首相らに会った。だが結局、民主党が官僚制度をうまく動かして政策を実現する方法を学ぶことはなかった。むしろ官僚の排除によって政策は混乱した。これが同党をつまずかせる大きな要因になった・・・

社会党の終焉

日経新聞「私の履歴書」、12月はジェラルド・カーティスさんです。25日の「社会党の人々」に、次のような話が書かれています。

江田三郎・社会党書記長が、1962年に「江田ビション」を発表しました。米国並みの生活水準、ソビエト並みの福祉、英国の議会制民主主義と日本の平和憲法を組み合わせた、国の将来像を唱えました。しかし、社会党左派は江田氏を攻撃し、書記長から引きずり下ろします。

・・・65年前、ドイツ社民党がマルクス主義と決別した時、逆に左に振れたのが致命的だった。長い歴史をもつ日本の社会主義運動には、そうして終止符が打たれた・・・

同時の関係者は、どのように自らの行動を説明するのでしょうか。

国連の女性差別撤廃委員会勧告

12月2日の日経新聞ダイバーシティ欄「女性差別撤廃委の勧告生かせ 夫婦別姓議論、当事者の声を」から。

ジェンダー平等に向けた日本の政策は十分か。国連の女性差別撤廃委員会が10月、日本政府を8年ぶりに対面審査し、改善勧告を出した。選択的夫婦別姓や同性婚の導入など、勧告の内容は多岐にわたる。日本はどう受け止めればいいのか。委員会のメンバーである亜細亜大学の秋月弘子教授に審査の意義や今後の課題を聞いた。

――審査はどう進められるのか。
「女性差別撤廃委員会には、各国から選ばれた女性分野の専門家23人が所属しており、1回の会期で8カ国の審査を分担する。委員は1人あたり最低でも4カ国ほどの審査を担当するのが通例だ。国別の作業部会に十数人の委員が組織され、その国から提出された報告書を読み、情報を得る」
「審査の対象となる国からは、前回の審査からの進捗状況を説明する報告書が提出される。市民団体などからの報告書も受け取り、課題を多角的に把握する。報告書は平均して1国あたり20〜30ほど。事前に課題と現状を精査し、対面での審査に臨む」

――日本は勧告に対する対応が不十分だという指摘もある。
「選択的夫婦別姓の導入についての勧告は4度目で、それでも変わっていないというケースは珍しい。勧告に法的拘束力がないと指摘する声もあるが、委員は人権分野の世界的な専門家であり、その指摘は重い。国際的には、勧告が出た以上は履行する努力が当然のことだと認識されている」
「日本でジェンダー不平等の状況が放置されていることは、海外からはしっかりと認識されている。日本が冷笑されてしまう立場であることも、政府は認識しなくてはならないだろう。改善の取り組みをスピードアップしない限り、世界の標準が見えなくなり、孤立してしまうリスクをはらんでいる」
「人権を侵害された個人が、人権条約機関に訴えられる『個人通報制度』を定める選択議定書を批准していないことも課題だ。人権に関する問題が起きたとき、当事者の声を受け止め、救済する国内人権機関を設置することも欠かせない」

――今後、日本にどのような変化が必要か。
「ジェンダー不平等が深く根付いている現状を変えるには、強い法や政治の力が必要。ただ、女性議員が少ない日本では、なかなか法制化も進まない。10月の衆院選の当選者のうち、女性の割合が15.7%と過去最多になったが、世界平均の27%に比べればまだ少ない。国会での女性の少なさは、委員会のメンバーからもよく驚かれる」
「選択的夫婦別姓について指摘を受けた際、『国民の議論が必要』との政府代表団の回答があった。日本の国会議員の大多数は男性のため、国会の議論だけではバランスを欠く。パブリックコメントや当事者団体からの声も入れるなどして、『国民の意見を反映した』議論を期待したい」