「政治の役割」カテゴリーアーカイブ

行政-政治の役割

世論駆動の「ファスト政治」

雑誌「ウェッジ」11月号は「特集 民主主義は 人々を幸せにするのか?」でした。
記事の一つ、佐藤卓己・上智大学教授の「ネガティブ・リテラシーを持ち 情報過剰時代を生き抜く」に、次のような文章があります。

・・・そもそも自民党総裁選がこの構図で行われたのは、岸田文雄内閣の退陣表明のためだ。外交でも経済でも大きな失策はなかった岸田内閣だが、自民党派閥の裏金事件を背景に内閣支持率は低迷した。「支持率が20%を切れば退陣」が21世紀日本政治の常識である。与党である自民党と公明党の支持者が3~4割だとすれば、支持率20%派与党支持者の過半数も不支持ということになる。

これを世論駆動の「ファスト政治」と私は呼ぶ。特に小泉純一郎内閣以後の短命内閣はいずれもメディアの世論(人気)調査報道で首相が選出され、内閣支持率が20%を割る「賞味期限切れ」で退陣した。

逆にいえば、安倍晋三長期政権はこの内閣支持率を何よりも重視し、人気取りイベントや即時報酬的なバラマキ予算を次々に繰り出した結果であり、これを政策本位の政治と評価することは難しい。そうした「ファスト政治」によって長期的な展望が日本政治に見えないことへの不安を感じる人は少なくないはずだ・・・

安倍総理「気力がわかなくなった」

11月24日の朝日新聞「「安倍政治」の内幕に迫った 「宿命の子」著者、船橋洋一・元朝日新聞主筆に聞く」から。

――著書では、森友学園側に16年に国有地が8億円余り値引きして売られた問題も取り上げています。財務省での公文書改ざんや職員の自殺へと広がりました。

妻の昭恵氏が森友学園の名誉校長だったことをめぐり、安倍氏は昭恵氏から「どこが悪いの?」と言われ、口論となります。一方で、腹心の今井尚哉政務秘書官から昭恵氏の「道義的責任」を認めるよう求められ、反発します。政権の危機の瞬間でした。

――安倍氏の後援会が「桜を見る会」に参加する地元支援者らを対象に開いた前日の夕食会の費用を、安倍氏側が補填(ほてん)した問題もありました。首相辞任後に東京地検特捜部が政治資金規正法違反(不記載)の罪で秘書を略式起訴、安倍氏を不起訴とします。

安倍氏は弁護士や学者から告発された後、秘書を問い詰めて補填があったらしいと知ります。「もうファイトがわかない。答弁を修正する気力がわかない」と今井氏にもらします。「田中角栄もああなったし……」とロッキード事件で逮捕された田中元首相に自身を重ねていました。
安倍氏は事実と異なる国会答弁を繰り返していた。退陣後に衆院で謝罪しましたが、政治と政治家に対する国民の信頼を傷つけた責任からは免れられません。身内を信じて甘くなり、死角が生まれた。足元のガバナンス(統制)が弱かったと言えます。

藤田直央・編集委員の解説
・・・安倍政権を綿密に検証した船橋氏の著書には、政治記者の私が詰め切れないでいた多くの疑問への答えがあった。中でも驚いたのは、20年8月の唐突な首相辞意表明の裏に「政治とカネ」の問題があったことだ。
安倍氏は、桜を見る会の前日の夕食会について問題なしとの国会答弁を繰り返してきたが、違うとわかった。答弁訂正から逃れたい、東京地検に立件されるのでは――。歴代最長の計8年8カ月にわたり政権を担った政治家が、自らの脇の甘さからそこまで追い込まれていた。
事実を明らかにしないまま首相を辞め、秘書が立件されると初めて国会で謝罪した。自民党としての処分もなかった。後に裏金問題で露呈する自民党の政治資金管理のいい加減さや不透明さと通ずる・・・

税制は与党で決まる

12月20日に自民党と公明党の税制大綱が決まり、各紙が「来年の税制が決まった」と報道しています。
例えばNHK「平成7年度税制改正 暮らしどう変わる 103万円の壁は?」。
・・・令和7年度(2025年度)の税制改正について、「103万円の壁」をはじめ、わたしたちの暮らしに身近な税制を中心に詳しくお伝えします・・・

これはこれで正しいのですが、税制改正法案を提出する内閣と、それを審議する国会の役割は何なのでしょう。
与党が衆参両院で過半数を持っていると(現在は違いますが)、与党が決めた内容は、与党から選ばれた首相が反対しない限り、法律となります。
憲法は国会を国権の最高機関と規定し、学校でも国会の役割を習います。ところが、憲法には政党は出てこず、学校でも「与党が決めます」とは習わないでしょう。

どのような理由で、税制改正の結論が出たのか。国民は、報道を通じてしか知ることができません。与党の決定過程は、どの程度が公開されていて、議事録は公開されているのでしょうか。また、保存されているのでしょうか。
議会制民主主義、議院内閣制において、これだけ重要な役割を果たす政党について、憲法や法律でも一定の位置づけをするべきだと思います。選挙法制だけでなく、政策過程においてです。

政党助成法 第一条 この法律は、議会制民主政治における政党の機能の重要性にかんがみ、国が政党に対し政党交付金による助成を行うこととし・・・

国民が期待していない経済対策

12月9日に、NHKが世論調査結果を公表しました。興味深いのは、経済対策への期待です。
・・・政府が11月にまとめた新たな経済対策には、電気・ガス料金の補助の再開や住民税の非課税世帯への給付金支給などが盛り込まれています。
対策の効果への期待を尋ねたところ、「大いに期待している」が9%、「ある程度期待している」が35%、「あまり期待していない」が37%、「まったく期待していない」が16%でした・・・

期待しているが44%、期待していないが53%です。
国民は、景気が上昇しつつあるときに経済対策は不要だと考えているのでしょうか。これでは不足だと思っているのでしょうか、何をやっても無駄だと思っているのでしょうか。財源がないのに経済対策を打つことへの反対でしょうか。
もう一つ知りたいのは、政府も野党も国民も、その財源をどのように考えているかです。

最低賃金、政治の役割2

最低賃金、政治の役割」の続きです。
これらの解説記事では、審議会への知事の関与への疑問や、各界代表型の審議会が不要になるのではないかとの心配が書かれています。しかし、最低賃金の決定を審議会に委ねていることに問題があるのです。

石破茂首相は今年10月の臨時国会で「2020年代に全国平均1500円という目標に向かって努力を続ける」という考えを打ち出しました。衆議院選挙では、与野党ともに賃上げを公約に掲げました。自民党の公約では、金額や達成時期は明記されませんでしたが、「最低賃金の引き上げの加速を図る」としています。
公明党は5年以内に全国平均1500円の達成を目指す、立憲民主党や共産党などが最低賃金1500円以上を掲げたほか、国民民主党は「全国どこでも時給1150円以上」を早期に実現するとしました(10月13日付け読売新聞「9党公約比較 最低賃金上げ 与野党一致」)。

各党がこのような主張をして、政策の競争が行われるのは望ましいことです。もう一歩進んで、現在のように決定を審議会に委ね、政治の意思を間接的に伝える方法がいいのかも、議論して欲しいと思います。
そのことで、賃金の引き上げを困難と感じている中小企業への対策も、政治が責任を持って行うことになります。今のままでは、中小企業には経営努力を押し付けているだけであり、場合によっては時給が上がるだけで、雇用時間や人数が減り、働く人たちの手取りは増えない可能性さえあります。そうなったとしても、それは最低賃金審議会の問題ではないからです。