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行政-官僚論

予算査定の成果

国では、8月31日に来年度予算の各省からの要求が出ました。新聞各紙は、「予算編成作業が始まった」と書いています。今日は、国の予算査定について解説します。
「31日に開かれた主計官会議の席上、主計局長が強い口調で、各省庁の予算要求に切り込むよう発破をかけた」(9月1日日本経済新聞など)とあります。
確かに、このような姿勢は重要です。しかし私は、このような訓辞に疑問を持っています。これから12月まで財務省主計局による予算査定が行われますが、そんなに大きく削減できるとは思われません。
主要な経費は、社会保障・教育・公共事業・国債償還・人件費です。社会保障費はその主要な部分について、仕組みが法律で決まっています。仕組みを変えない限り、高齢者や医療費が増えると自動的に増えます。年金・医療・介護・生活保護について、この秋に主計官が査定で変えることができるのは、そんなに大きくありません。
教育も、40人学級の制度を変えない限り、生徒数に応じて教員給与は決まります。これらについては、何年も前から制度改正を仕組まない限り、秋の査定で削減はできないのです。人件費も同じです。国債償還費は既に決まっています。あとは金利が上がれば、利払い費が増えます。公共事業は、査定の余地があります。
また国庫補助金については、先に紹介したように財務省は「なぜ不要か説明してもらう」と自ら言っていますから、これが削減されることは「期待薄」でしょう。
となると、査定できる範囲は非常に限られてきます。事務費といくつかの政策経費(それも小物)しかないのです。
また、予算の基本方針は、経済財政諮問会議で決められます。そして、予算要求は「要求基準」いわゆるシーリングに基づいて行われます。となると、大幅な歳出削減をするためには、次のような手順が必要です。
まず、社会保障などについて、制度改革の方針を決める必要があります。これは数年かかります。次に、公共事業について、諮問会議で削減スケジュールを決める必要があります。それを、要求基準に盛り込む。こういう手順を取らないと、秋の査定ではほとんど削れないのです。
「精神論」だけでは、結果は出ません。上司たるもの、部下に対し、目標値と手法を示す必要があるのです。主計局長は、どの程度の目標を示されたのでしょうか?
毎年、主計局ではこのような号令がかかっていると思います。でも、その結果どの程度削減できたのか、評価をすべきでしょう。財務省詰めの記者さんたちが、ここ数年の実績を調べてくれることを期待します。赤字国債は30兆円にもなっています。12月に、今回の予算査定で何兆円削減できたかを見ることにしましょう(拙稿「予算査定の変容」月刊『地方財務』2003年12月号を参照ください)。

時代遅れ

今日(20日)の朝日新聞夕刊東京版は、財務省の仮眠室「ホテルオークラ」が書かれていました。家に帰る時間を惜しんで、職員が仮眠するための部屋です。かつては、「エリート公務員記事」の定番でした。
よかったですね、残業がそれだけで価値だった時代は。「昔、貧乏な日本では、官僚も徹夜して・・」と、プロジェクトXの世界でしょうか。
しかし、残業時間を誇る時代は過ぎたと思います。それによって「どれだけ良い成果」が出たかを評価すべきでしょう。成果(アウトカム)を測定せず、残業時間(インプット)を自慢する。官僚のもっとも悪いことの一つです。
久しぶりにこんな記事がでて、びっくりしました。新聞はこんな記事を、いつまで書くんですかね。
私も、家に帰らず職場で仕事した、あるいは泊まり込んだことについては、人後に落ちないと思っています。1週間自治省ビルを出ず、2週間家に帰らず・・の記録を持っています。でも、今にして思えば・・・。

解釈学から想像力へ

官僚の役割、それは、この社会をよりよいものとすることです。「この国のかたち」をつくること。それは、変わりありません。しかし、社会の変化に応じて、目標と手法は変化します。20世紀に期待された官僚像を、私たちの先輩たちは立派に果たしました。そして、21世紀に期待される官僚像は、大きく変化しています。そこに必要なのは、翻訳や解釈学ではなく、想像力と創造力です。日本社会の求めに応えるためには、私が、そしてあなた達が、「この国のかたち」を社会に問い続ける必要があるのです。

「この国のかたち」を創る

昨年まで私は、自治財政局交付税課長をしていました。今話題の「三位一体改革」「地方交付税改革」の担当です。これまで50年間、地方交付税制度はよく機能し、日本の地域社会の発展に貢献してきました。北海道から沖縄まで、大都会から山村離島まで、教育・福祉・衛生といった行政サービスや、道路・上下水道といった社会資本を整備できたのは、地方交付税があったからです。しかし、成功し定着したが故に、交付税制度を改革することは大変です。
関係者に説明するだけでなく、活字として私見を世に問い、マスコミの取材に応え…と。理解を得る努力をしました。講演会は年間40回。平成14年からは、東京大学大学院の客員教授も務めています。日本地方財政学会総会で、神野直彦東大教授、齊藤愼阪大教授、金子勝慶大教授といった学者の前で基調報告もしました。全国紙の1面に実名が載るという「おまけ」もありました。

官僚の仕事の変化

日本は、明治維新以来、近代国家をめざして、いろんな制度や社会資本を整備してきました。また、第2次大戦後は、経済発展をナショナルゴールとしてがんばってきました。その際に官僚に求められたことは、欧米先進諸国から制度を輸入し、日本中に行き渡らせることでした。そして、日本の官僚はそれに成功し、日本社会も豊かになりました。
すると、官僚の仕事も変わったのです。これまでの仕事のやり方は、簡単に言うと、外国から「輸入」すること、先輩が作ってくれた制度を「拡張」することでした。しかし、それらを達成しあるいはメドをつけると、官僚に期待されることは、社会に生まれてくる新しい問題を拾い上げること、また社会を変えていくために制度を創造することに変わったのです。
先に述べた総務省の法案は、いずれも先進諸国から「輸入」できるものではありません。また、これまでのようなハードウエアでなく、新しいソフトウエアです。21世紀の日本の官僚には、20世紀の官僚とは違ったことが求められるのです。詳しくは、拙著「新地方自治入門―行政の現在と未来」(時事通信社)をご覧ください。