カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

公務員の旅費削減を嘆く

国家公務員の出張旅費を定額支給から上限付きの実費支給に切り替える改正旅費法が来年4月から施行されます。このことは歓迎すべきことです。
かつて旅費法とその規則は実態に合わず、面倒でした。よく引き合いに出されたのが、大津市問題です。東京から大津市、例えば滋賀県庁などに出張する場合は、新幹線で米原まで行って、そこで在来線に乗り換えるのが、旅費の支給規則でした。実際は、新幹線で京都まで行って、在来線で戻る方がはるかに早く着きます。本数も多いのです。時間費用の考えがなかったのです。
また、やたらと手続きが厳格でした。規定どおりに旅行せず、ズルをした職員がいたのでしょうね。その度に規則が積み重ねられたのでしょう。

11月11日の時事通信社「i JAMP 中央官庁だより」に次のような話が載っていました。
・・・これまで、時に持ち出しが発生していた職員にとっては朗報と言える。ただ、国家公務員の旅費支給の総額が直ちに増えるとは限らないようだ。主計局幹部は、現行の旅費法に記載があり、改正法にも引き継がれたある条文を指し示す。そこでは出張が認められるケースについて「電信、電話、郵便等の通信による連絡手段」では対応できず、かつ「予算上旅費の支出が可能である場合」に限ると規定。同幹部は「今は簡単にウェブミーティングができる時代。最近の出張は、本当に必要なものばかりだろうか」と首をかしげる。近年は、育児や介護を抱え、気軽には出張できない職員も増えており、この幹部は「働き方改革の観点からも、出張の必要性は見直されるべきだ」と指摘していた・・・

予算担当者としては正しい発言なのでしょうが。これでは、現場を知らない職員が増えます。霞が関勤務の国家公務員は、仕事の形態から、国民や企業、国土の現場を相手にすることが少ないです。市町村職員に比べて、圧倒的に不利です。
東日本大震災の際、財務省が旅費をかなりつけてくれました。現場を見ずに、復興の議論はできないからです。何人かの職員が「これまでに経験した出張の数より、復興庁での2年間の出張回数の方が多かったです」と笑っていました。それくらい、旅費予算が削減されているのです。
仕事ぶりにも、その影響は出ていました。現場に行くことをためらわない職員と、ちゅうちょする職員がいました。役所によって異なるのです。ふだんから市町村役場や現場に出ている役所の職員は、どんどん行ってくれました。そのような経験のない役所の職員は、現場に行くことが不安だったようです。
これからの課題解決や政策立案には、欧米に留学することより、課題が起きている現場を見ることが必要です。

職員を育てる観点からは、旅費や研修費を増やしてほしいです。永年にわたって削減された旅費と研修費を、増やしてもらえませんかね。

北村亘教授の官僚意識調査

北村亘・大阪大学教授が、10月5日に名古屋大学で開催された日本政治学会で、「何が官僚の業務負担感を左右するのか− 2019・2023年官僚意識調査から見る官僚の認識–」という報告をされました。先生たちが行っている官僚意識調査に基づく分析です(2023年調査)。
報告の内容は学会員でないと読むことができませんが、先生からいただいた論文を元に少し紹介します。なお、この内容は、いずれ書物として出版されるとのことです。

・・・調査直後のコロナ禍以降、官僚たちが何に対して業務負担を感じており、どのような官僚がより業務負担感や離職意思を有しているのかという点を改めて分析する必要性が生じている。
そこで、本報告では、2019年調査、2023年調査の結果を用いて、まずは官僚の属性ごとに業務負担感がどの程度、離職意思に関係しており、とりわけ離職を考えている官僚にはどのような特徴があるのかを分析する。その後、2023年調査で新たに追加した質問に着目し、国会対応と訴訟リスクという観点から官僚の業務負担感について説明する。従来から指摘されてきた国会対応のみならず訴訟リスクにも目を向けることで、政治と司法のはざまでもがく官僚像を浮き彫りにできるだろう・・・

結論
・業務負担量の認識が離職行動にやはり大きな影響を及ぼしている。
・ただし、単純にすぐに離職というわけでなく、職場環境の改善などで離職意思を緩和することが可能である。
・業務負担量を左右しているのは国会対応であることが確認されたけれども、それだけでなく、行政訴訟の要件緩和が行政への大きな圧力としてかかっている。

最後に、次のような記述もあります。
・・・ただ、2 回の調査から、議院内閣制における二大統治エリートの一角を占める行政官僚が大きく傷ついていることが明らかになった。かつてのような活動型官僚が主軸であった行政を復権させることは現実的ではないが、ただ、このままでいいとは思えない。政治主導の土台はすぐれた行政の企画立案能力と実施能力にある。いたずらに選挙目当てで、もともと少ない公務員数をさらに削って功績顕示をするようなことは政治家自らの政策能力を低下させ、拍手喝采を送った国民も苦しむことになっていくだろう。民主主義における健全な行政には官僚の健全な職務環境が必要である。
政治家の行動原理に影響を与える制度的要因が選挙制度であるならば、官僚の行動原理に影響を与える制度的要因は在職保障と業務量に連動しない給与体系を中心とした公務員人事制度である。さらに業務の執行の仕方として特徴的なことは官僚の打ち出すことには強制力が伴うということである。事務次官経験者も民間大企業の幹部職員との違いとして所管範囲とそれに見合った法令を常に意識しつつ、法的強制力を伴うことから社会への権力行使には慎重さが必要だと指摘している(岡本 2024)。こうした制度の下で、公務員数が近年まで削減されてきたのに業務だけが高度専門化し増えていると一気に彼らのモチヴェーションは低下し、最終的には離職行動につながりかねないということが本稿で明らかになったことである。民間企業と異なり、行政における組織目標を外在的に定義するのは政治家の役割である。論壇でも行政の役割をそもそもから再定義することを求める意見が強い(たとえば待鳥2024)。公務員にはできるところから少しでも職場環境を改善していくことが求められているが、なによりも根本的な点は政治家でないと解決できない。政治家には、十分に専門家の意見に耳を傾けつつ、公務員数削減競争に陥らないことが「日本の行政」にいま求められていることだろう・・・

文中「岡本 2024」は、「公共を創る196 政府の役割の再定義46 転換を迫られる公務員の人事政策」『地方行政』11317 号(8月29日)です。

幹部官僚の安い給与

官僚の給与の低さ」の続きになります。日経新聞は、8月14、15、17日と「脱「ブラック霞が関」へ 人事院勧告2024」を連載していました。14日は「キャリア給与、民に見劣り」でした。

・・・総合職大卒の初任給について過去最大の増加幅となる2万9300円の増額を促した。大企業の背中が見える23万円に上がる。基本給にあたる「俸給」も30代後半までの若手に重点を置いた引き上げを勧告した。平均の年間給与は691万6000円となる・・・

・・・人事院が総合職の新規採用者を対象に23年に実施したアンケートは給与水準を見直す重要性を如実に示す。仕事の魅力を高め、優秀な人材を獲得するのに必要な取り組みとして8割が「給与水準の引き上げ」を挙げ、最も多かった。
民間との格差は残る。労務行政研究所の調査ではキャリア官僚が併願する会社が多い東証プライム上場企業の24年度の平均初任給は23万9078円。平均年収も東証プライム上場企業は735万7000円(帝国データバンク23年度まとめ)で見劣りする。

格差はキャリアのゴールとも言える幹部年収に顕著に表れる。24年度のモデル給与では、省庁の事務方トップである事務次官の年収はおよそ2385万円となった。労務行政研究所の23年の調査では、大・中小企業の社長の平均年収は5586万円だ・・・

15日は「公務員ジョブ型、年功序列が壁」、17日は「平均終業0時48分  元凶は国会対応」でした。

官僚の給与の低さ

8月9日の日経新聞「公務員給与、若手に重点 深刻な官僚離れ対応 賃上げ率なお民間と差」から。

・・・「キャリア官僚」と呼ばれる総合職を志望する学生は大手企業と併願するケースが多い。例えばトヨタ自動車の初任給は24年4月入社の新入社員(学部卒)から25万4000円、日立製作所は25万円とそれぞれ大幅に引き上げた。
国家公務員も総合職の23万円という初任給だけみれば大企業並みの水準だ。それでも全体の賃金水準はなお隔たりがある。

就活生に人気の高い総合商社5社の平均年収はいずれも1500万円を超え、三菱商事は23年度に初めて2000万円台(平均42.7歳)になった。日立も国内従業員の平均年収が935万円(平均42.9歳)に達する。
人事院によると、勧告を適用したモデル給与では35歳の本省課長補佐の年間給与(ボーナス含む)は756万8000円だった。官舎などの福利厚生があり、単純には比べられないものの、著名企業との比較では心もとない面がある。
人事院は新卒採用と並んで経験者の中途採用を重視する。中途採用でも民間との競争が激化しており、不利になる可能性がある。
勧告は民間給与との均衡を重視する。具体的には従業員50人以上の企業の給与水準をみて決める。キャリア官僚を志す学生らが比較対象とするような大企業との給与差を十分に反映できない制度上の限界がある・・・

公務員の給与は、民間の平均を見て決めます。その際の対象が、従業員50人以上の企業です。しかし総合職(かつての上級職)は、東大をはじめとする「有名校」出身です。大銀行や大会社などに就職した大学時代の友人と比較すると、情けなくなります。公務員の方は、難しい筆記試験もあります。
もちろん、若手が職業を選ぶ際には、給与などの待遇だけでなく、仕事のやりがいがあります。しかしその点でも、近年は低下しているようです。このままでは、優秀な若手は官僚を選ばないでしょう。

最低賃金を下回る国家公務員給与

7月29日の朝日新聞に「国家公務員の給与、207機関で最賃下回る 高卒一般職の初任給、8都府県で」が載っていました。

・・・国家公務員の給与が、最低賃金を下回っている地域があることがわかった。高卒一般職の初任給を時給に換算すると、地域の最賃を下回るのは少なくとも8都府県で200機関を超える。公務員は最賃制度の適用は除外されているが、人事院は最賃を下回らないように対応を検討している。

現在、国家公務員の高卒一般職の初任給は16万6600円。国家公務員の給与を定める「給与法」では、超過勤務手当を算出するための「勤務1時間あたりの給与額」の計算方法が示されている。これに基づいて計算すると高卒初任給の時給は約992~約1191円になる。時給に幅があるのは、勤務先がある市町村ごとに0~20%が加算される「地域手当」があるためだ。
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)が、厚生労働省、国土交通省、法務省、国税庁の出先機関と裁判所について調べたところ、8都府県の計60市町村にある207機関で高卒初任給が最賃を下回ったという。
最も多いのは最賃が1001円の兵庫県で、ハローワークが10カ所、税務署が8カ所など43機関だった。神奈川県の34機関、京都府が29機関と続く。東京都は12機関だった。
公務員は毎年1月で昇給する。現在の水準でみると、地域手当ゼロの地域では高卒で就職して最初の1月で時給が約992円から約1012円へと上がる。それでも千葉県など6都府県は最賃の方が上回っている。東京都と神奈川県の地域手当がゼロの場所で勤めると、高卒5年目まで最賃より低い水準が続く計算だ・・・