「官僚論」カテゴリーアーカイブ

行政-官僚論

国家公務員行動規範の策定

5月15日に、人事院が「国家公務員行動規範」を策定しました。「人事行政諮問会議」の最終提言を受け止め、人事院が策定したとのことです。3つの柱からなっています。
1 「国民を第一」に考えた行動
2 「中立・公正」な立場での職務遂行
3 「専門性と根拠」に基づいた客観的判断

人事行政諮問会議の答申には、次のようにあります(6ページ)
1 国家公務員の行動規範の策定
【全職員を対象/本提言後直ちに】
今後、これまでにも増して多様な人材が公務で活躍することが見込まれる中、組織パフォーマンスの向上につながるよう人的資本の価値を最大化するためには、組織と職員の業務遂行双方における目的や方向性が一致することが不可欠である。したがって、職員が仕事をするに当たって判断のよりどころとなり、自身の仕事を意義付け、国民からの信頼の下に円滑な公務運営を行えるよう、国家公務員に共通して求められる行動を明確にすることが必要となる。しかし、これまではこうした行動が分かりやすい内容で言語化されていたとは言えない。
こうした状況を踏まえ、当会議では、全ての国家公務員が職務を行うに当たって常に念頭に置くべき基本認識を言語化し、共通して求められる行動の指針となる「行動規範」を策定することが適当と考え、定めるべき内容を第9回及び第11回会議で議論した。この結果、「全体の奉仕者」(憲法第15条第2項)として国家公務員に求められる行動規範を分かりやすく言語化することが適当であるとの結論に至った。具体的には、①国民を第一に考えること、②中立で公正な公務運営を意識すること、③根拠に基づいた客観的判断を行うことの3つの要素を中核的なものとして検討した。
このような議論の結果、「国家公務員行動規範」として望ましい内容を次のとおり提言する。

内容は至極まっとうなことで、良いことだと思います。ただし、このような規範を定めなければならいとするなら、なぜなのか、このような規範を逸脱するどのような行為がなされているのかを、明確にするべきでしょう。
かつて過度な接待を受けていた問題では、該当者が処分され、国家公務員倫理法が定められました。事件の反省に立って、何をしてはいけないかが具体的に示されています。「よくある質問」を読むと、よくわかります。
では、今回の「行動規範」では、何をしてはいけないのでしょうか。職員研修などでは、どのように教えるのでしょうか。具体事例(してはいけない事例)を示さないと、職員の頭には入らないのですよね。

私が聞いた、若手官僚の悩みは「どのようにしたら良い仕事ができるか」「どのようにしたら官僚としての能力が身に付くか」といったことよりも、次の三つでした(連載「公共をつくる」第157回)。
・ 生活と両立しない長時間労働がいつまで続くのか
・ 従事している仕事が国家・国民の役に立っているのか
・ この仕事で世間に通用する技能が身に付くのか

これらの悩みと疑問に応えないと、良い目標を掲げても、官僚たちはついてこないと思います。

民間から国への職員の受入状況2

民間から国への職員の受入状況」に関してです。4月25日の日経新聞「金融庁四半世紀 民間人材登用道半ば」には、次のようなことが紹介されています。
・・・金融機関を処分する権限を持ち、こわもてのイメージも漂う金融庁。実はそのなかで働く人の出身は多様で、新卒一括採用がなお中心の霞が関の中央省庁のなかでは異色の存在だ・・・

金融庁は、大蔵省から分離したのですが、専門人材不足から民間からの登用を積極的に進めました。法律事務所(弁護士)、会計事務所(公認会計士)、証券・銀行からの出向者や中途採用です。
発足時700人ほどだった職員数は、1600人に膨れました。これだけ職員が増えた省庁は、ここだけです(新設では、復興庁やデジタル庁があります)。それだけ、仕事があるということです。そして、専門知識が必要とされるのです。
2024年10月時点で、民間出身者や企業からの出向者は、全体の4分の1になっています。

もっとも、企業と比べて給与の低さと昇進の遅さが、問題になっています。これを改善しないと、役所に転職する人は少なく、役所から転職する人は増えるでしょう。
公務員の給与は民間企業の平均としているのですが、官僚の大学時代(簡単に言うと東大や有名大学)の同級生(大企業、医者、弁護士など)と比べて低いのです。私も現役時代に、高校や大学の友人と給与の話になると、その低さに驚かれ、同情してくれました。私は、こんなに格差があるとは知らずに、公務員を選びました。そして、「これは国のためだ」と自分に言い聞かせて耐えました。それを後輩たちに要求するのは、酷ですね。人事院の決める公務員給与基準は、再考を求められています。

民間から国への職員の受入状況

4月1日に内閣人事局が「民間から国への職員の受入状況」を公表しました。この中には、一定期間受け入れている者(戻ることを前提、いわゆる派遣)と、期間を限っていない者(公務員に転職と考えられます)の双方が載っています。
令和6年10月1日時点で、派遣は5,498人、転職は4,030人です。転職者も4千人を超えているのですね。派遣者が5千人を超えていることも驚きです。

民間企業等からの派遣3,784人の内訳は、民間企業2,942人、弁護士や公認会計士658人、大学教授等184人です。
資料には、省庁別の人数も載っています(別表1)。国土交通省1,440人、財務省978人、経済産業省964人、厚生労働省836人、外務省643人、デジタル庁548人、金融庁460人などとなっています。内閣官房も、266人受け入れています。
省庁別の派遣者受け入れの、局別の派遣元企業名が載っています(別表2)。いろんな企業から、さまざまな局に派遣されていることがわかります。

国防人材どう育てる

4月7日の日経新聞オピニオン欄は、「国防人材どう育てる」でした。黒江哲郎・元防衛次官の発言「民間上回る処遇改善を」から。

・・・自衛隊が動かなくてはいけない緊急事態は多岐にわたる。他国から武力侵攻された際に日本を守ることや、大地震などへの災害派遣だ。自衛隊が募集対象とする18〜32歳の人口は30年後におよそ4割減る。今の応募水準が続くと現在と同じような手厚い対応は確実にできなくなる。

・・・自衛官は極めて特殊な職務内容を含む。自衛隊法では「事に臨んでは危険を顧みず」と記されている。上官の命令に背いて危険を回避してはいけないことや、状況によっては退職する自由も制限される。仕事に命をかける義務が法律で定められている。
厳しい義務を課しているのに、自衛官の自己犠牲で済ませてしまうのは国のあり方として間違っている。だからこそ処遇改善が必要だ。国民一人ひとりが、命をかけて困難な職務を行うよう自衛官に求めていることを自覚するべきだ。

石破茂政権は2024年末に自衛官の処遇改善策をまとめた。手当の拡充や隊舎の改善、再就職支援などを打ち出したことは評価できる。ただ他業種との人材獲得競争に勝つためには、民間の処遇改善のスピードや内容を上回らなければならない。
そのために国が自衛官に報いる新たな制度を設けてもいいだろう。たとえば一般的な厚生年金や国民年金に加え、年金を上乗せするのはどうか。財源は税金とすることで、国民が責任を持つべきだ。
社会からの敬意を自衛官が感じられる教育も必要だ。外国から攻められたら我々の生活すべてが脅かされる。その事態に陥ることを防ぐために自衛官が国を守っていると学校で教えてほしい。

・・・人的資源の減少を止められないのであれば、少人数でなるべく戦闘に集中できる仕組みもつくらなくてはならない。装備の無人化や、後方支援職種の民間委託を加速すべきだ。官民の役割分担のうち、民の役割を大きくしていかないと自衛隊は戦えない・・・

霞が関には期待できない

時々紹介している「自治体のツボ」。2月9日は「地方行政にしか期待できない」でした。詳しくは原文をお読みください。

・・・行政に関心があるのなら、中央省庁を分析すべきではないかと思わないこともない。だが、霞が関は期待できないと感覚的につかんでいる。優秀でユニークな官僚はたくさんいるが、ひとつの省庁の枠を超えられる人はほとんどいない。

省益を軽々と飛び越え、政治としっかり議論し、国民のニーズに即した政策を打ち出す。霞が関の住人はそれができない。省益に縛られ、政治には面従腹背、最大多数の国民とズレた政策を打つ。借金も減らせず、閉塞感を打破できない・・・