「再チャレンジ」カテゴリーアーカイブ

行政-再チャレンジ

中年の孤独

10月23日の朝日新聞くらし欄「『孤独』を飼いならす:下)、宮本みち子・放送大学名誉教授の「ミドル期世代、「親密圏」づくりを」から。

・・・高齢者だけでなく、都心でひとり暮らしする35~64歳のミドル期世代も、「孤独」がもたらすリスクにさらされている――。社会学者で放送大学名誉教授の宮本みち子さんは、こう指摘する。リスクを減らすには、何が必要なのか。「東京ミドル期シングルの衝撃」を出版した宮本さんに、孤独とのつきあい方を聞いた。

宮本さんによると、東京区部ではミドル期人口の3割弱がシングルで、この数は今後も増えることが予想されている。一方で行政は、現役世代をリスクを抱える政策対象と見ていないため、この層への支援が抜け落ちていると指摘。地域から孤立し、将来に不安を抱える人が増えている現実に目を向けるべきだと話す。

体調不良をきっかけにひとり暮らしのリスクに気づく人もいた。ある女性はがんの治療後、体調が優れず、ときどき友人が食事を持って訪ねてきてくれるが「孤独と不安を感じる」と回答した。
厚生労働省が補助する24時間電話相談事業「よりそいホットライン」で相談が一番多い年齢層は、40代だという。「お金、健康、仕事、家族関係が絡み合った相談内容が多く、つらい悩みを抱え孤立している人たちがこんなに多いのかと驚きます」

また、ひとり暮らしは孤立・孤独の問題を抱えやすいが、その傾向は男性でより顕著だったという。女性は実家の親と連絡をとりあい、男性より友人や知人との関係を築いている人が多くいる。ところが男性は、職場関係に限られる傾向が強く、困った時に頼れる人を挙げることができない人が多いと指摘する。
「仕事があり、友人がいて、親も元気なうちは、社会からの孤立や孤独をあまり感じないかもしれません。でも、それを維持できなくなったときにどうするかを前もって考えておく必要があります」

解決策の一つとして、結婚という形を選ばなくても、それに代わる「親密圏」をつくることを提案する。親密圏の範囲は工業化が進むにつれて狭くなり、夫婦と子どもによる核家族へと収斂していったが、近年、さらに狭まっているという・・・

この本では、35歳から64歳を指してミドル期世代と呼んでいます。ここでは「中年」と表現しておきます。
私が孤立・孤独の問題に関心を持ったのは、内閣官房で再チャレンジ政策を担当したときです。その際に、宮本先生にお教えを請いに行きました。それまでは、このような分野は門外漢だったので、新鮮でした。そこから、成熟社会の問題を考えました。
「再チャレンジ支援施策に見る行政の変化」図表・再チャレンジに見る行政の変化

一人暮らしに住まいと人的つながりへ支援を

10月22日の朝日新聞オピニオン欄「おひとりさま化する日本」、山崎史郎・内閣官房参与の発言「住まいと人的つながりへ支援を」から。

――単独世帯が抱える問題は何だと考えますか。
「やはり安心して暮らせる住居を確保できるかどうか、が大きな問題です。高齢期のセーフティーネットでは年金が最初に浮かびますが、年金制度だけでは住まいの保障は難しい。家賃や地価は大きな地域差があるのに、基礎年金は月約6万円と全国一律です」

――住まいのない単独世帯をどう支えればいいでしょうか。
「今の仕組みでは生活保護しかありません。これは最後のセーフティーネットであり、その前の段階から住まいを保障していかなければならない。そのため、一般の民間賃貸住宅も高齢者に貸しやすいように、亡くなった後の問題なども含めて支援する社会システムが必要ということで、住宅セーフティーネット法が今年、改正されました」

――住居だけで問題が解決しますか?
「次の課題として、私はエンパワーメント・ネットワークと呼んでいるのですが、生きる力をつける地域づくりが重要だと考えています。誰でも病気やトラブルで元気を失うことがありますが、励まして力を与えてくれるパートナーや家族がいないと立ち直りにくい。病院は身体的な治療をしてくれますが、寄り添って力を与える人が必要なんです。自分自身、年を重ねて分かってきたことでもあります」

――お金や住まいだけの問題ではない、と。
「お金を給付するだけでは、実際の自立に結びつかないことが多いのです。地域コミュニティーなどとの人的なつながりを同時に考える発想が必要です。そういう考えは、これまではあまりなかった。これからは、地域住民も巻き込んだ持続可能なコミュニティーづくりが大切で、それに成功している地域は安心して暮らせるし、人が集まって新しいサービスや仕事も生まれます」

社会保障制度の申請主義

9月28日の朝日新聞夕刊、社会福祉士・横山北斗さんの「社会保障制度、迷わず使うために」「知らないのは罪ですか?―申請主義の壁―」から。

・・・コロナ禍による経済的困窮者が増えていた2020年12月。厚生労働省がツイッター(現X)に投稿した内容が話題になりました。
《生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。》
SNS上で肯定的な受け止めが多かったのですが、裏を返せば、それほどまでに私たちの権利意識が希薄であるということかもしれません。それはつまり、社会保障制度に対し「お上からの施し」的な受け止めや、利用を我慢することにつながります。社会保障制度を名実ともにセーフティーネットにするためには、私たちがそれを行使することが当たり前だと認識している状況に社会を変えていくことが必要です・・・
・・・私たちの生存権(憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」)を実現するために社会保障制度は整備されてきました。ですが、その利用は自力で制度の情報を収集・選択し、物理的・能力的に申請手続きが可能であることを前提としているため、それを自力で行うことが難しい人たちが排除され、より困った状況に陥ったり、生活・生命の危機に瀕したりする可能性があります・・・

・・・申請プロセスでの障壁や、制度の利用が権利であるという意識の希薄さ、国や自治体が行う施策の乏しさが、生存権の実現という社会保障制度の目的を果たすことを難しくさせています。
こうした矛盾はどのように生じたのか。歴史をひもといてみます。

1946年制定の旧生活保護法では生活保護を申請する権利は認められておらず、市町村長が必要だと認めた場合にのみ利用できました。それでは憲法25条の精神に反するとして、50年制定の新たな生活保護法に保護請求権が盛り込まれました。生活保護は原則、本人の申請で開始され、家族や同居の親族にも申請が認められるようになったのです。
生活保護以外の社会保障制度(障害者福祉、児童福祉、高齢者福祉など)は戦後長く、行政が職権で必要性を判断し、サービスの種類・提供機関を決定する仕組み(措置制度)で提供され、自由にサービスを選ぶことができませんでした。
90年代の構造改革を経て、措置制度から契約制度へと移行が進みました。利用者は制度やサービスを選択し、それを提供する事業者との間で契約を交わす形で、申請を前提に提供されるようになりました。2000年の介護保険制度開始に伴う介護サービスの提供、さらに障害福祉サービスと続きました。
申請する権利を得た社会は、制度やサービスを自ら調べ、理解し、選択し、申請をするというプロセスを一般化させました。結果、社会保障制度はそのアクセスに障壁を生じさせ、国民の生存権保障という目的を果たすことが困難になるという自己矛盾を抱えることになりました。

解消するには、申請する権利の行使をサポートする施策を、社会に網の目のように張り巡らせること、私たちが権利意識を高めることが必要です。後者については例えば、義務教育など人生における早い時期に、社会保障制度の利用が権利であることを学び、私たちをサポートする制度についても知る機会が不可欠だと考えます。
学校に当たり前のように通ってきた人は、自分が教育を受ける権利を行使してきたことを強く認識することはないでしょう。それが日常的で、当たり前のものだと感じているからです。社会保障制度の利用も、そのような未来をたぐり寄せることができるでしょうか・・・

小学生自殺の原因、家庭が4割

9月11日の朝日新聞夕刊に「自殺の原因、小学生は「家庭」4割 「対策白書」24年版概要案」が載っていました。

・・・2024年版の「自殺対策白書」の概要案が判明した。22年に514人と過去最多を更新し、23年は513人で高止まりしている子どもの自殺について分析。09~21年のデータで原因や動機をみると、小学生は男女ともに、家族からの叱責や親子関係の不和といった家庭の問題が約4割を占めた。

昨年の自殺者数は2万1837人で、男性は2年連続増加し、女性は4年ぶりに減少した。年代別の10万人あたりの自殺者数は、20年以降多くの年代で上がっており、特に10代は上昇傾向にあるという。23年に自殺した子ども513人の内訳は、高校生347人、中学生153人、小学生13人だった。
白書案によると、子どもの自殺の原因や動機について09~21年のデータを分析したところ、中学生の男女ともに、学業不振や進路の悩み、人間関係など学校の問題が3~4割となった。男子高校生は学校の問題が約4割で、女子高校生はうつ病や精神疾患などの健康の問題の割合が高くなった。
自殺した子どもの自殺未遂の有無をみると、22年以降、男女ともに自殺の1年以内に自殺未遂となっていたケースが過半数を占めた・・・

トー横相談所 利用1500人超

8月30日の読売新聞東京版に「トー横相談所 利用1500人超 開設2か月で 想定上回りトラブルも」が載っていました。

・・・新宿・歌舞伎町の「トー横」と呼ばれるエリアで若者が犯罪に巻き込まれるのを防ぐため、都が5月に開設した相談施設の利用者が、開設2か月で1500人以上に達した。想定を上回る好調な滑り出しだが、トラブルも起きており、都は相談員を増やすなどの対策を講じる。

相談施設「きみまも@歌舞伎町」は5月31日、トー横からすぐの都健康プラザ「ハイジア」内にオープンした。開所日時は火~土曜の午後3~9時。ソファを置くなどしてリラックスできるようにし、社会福祉士などに相談もできる。
都の29日の発表によると、施設の利用者は6月末までの約1か月が延べ446人で、7月は延べ1138人。約7割がリピーターだった。性別は男女ほぼ同数で、年代別では10歳代が40・4%、20歳代が26・6%など。最年少は12歳、最年長は38歳だった。親子関係に悩んで家出した女子中学生(14)の相談に乗り、最終的に親元へ帰させたり、生活苦を訴えた20歳代のホストの男性に就労支援団体を紹介したりした・・・

・・・一方、利用者が、他の利用者に売春の客を紹介しようとしたり、オーバードーズ(市販薬の過剰摂取)を自慢げに話したりするケースも確認された。相談員は通常、利用者同士がこうしたやり取りをしないよう注意しているが、利用者が多すぎて目が行き届かなかったという。
そのため、都は一度に利用できる人数を最大20人程度に絞った。9月3日からは利用者にカードを発行し、入場時に提示してもらう。現在5、6人の相談員の増員や、警察OBによる見回りも行うという・・・