カテゴリー別アーカイブ: 再チャレンジ

行政-再チャレンジ

同一賃金への道

1月25日の朝日新聞「記者解説」沢路毅彦・編集委員の「同一賃金巡る司法判断 基本給・賞与のあり方、労使に宿題」から。

・・・「格差是正一歩前進」と「不当判決」。昨年10月13日と15日に出された、労働契約法20条を巡る五つの最高裁判決は、非正規労働者に一部の手当を支給しないことを違法とする一方、ボーナスや退職金の不支給は違法とせず、明暗が分かれた。訴えられていたのは、3件の訴訟があった日本郵便と、大阪医科薬科大学、東京メトロ子会社だ。
20条は、雇用期間に定めがあるかないかで、労働条件に不合理な格差を設けることを違法とする規定だ。(1)仕事内容や責任の程度(2)人材活用の仕組み(3)その他の事情――を考慮して不合理かどうかが判断される。
2千万人を超える非正規労働者のうち7割は雇用期間に定めがある有期契約だ。一方の正社員は無期雇用。20条は正社員よりも低い非正規労働者の処遇を改善することが目的で、2013年施行の改正労契法に盛り込まれた。

本来、労働条件は企業と労働者の交渉によって決めるものだ。それなのに20条ができたのはなぜか。
1990年代後半まで非正規の割合は約2割。その多くが家計を補助する主婦パートやアルバイトで、低い処遇でも大きな社会問題にならなかった。ところがその後、非正規は増え今や4割近い。就活がうまくいかなかった若者から中高年男性まで広がった。
こうした状況を改善するため改正労契法が制定された。20条のほか、有期契約が繰り返し更新されて5年を超えた場合に無期転換できる「5年ルール」もできた。

安倍前政権の「働き方改革」は「同一労働同一賃金」を目玉の一つに据えた。「同一労働同一賃金」は本来、「同じ仕事に同じ賃金を」という意味だが、「働き方改革」では「不合理な格差を違法とする」という20条と同じ考え方をとっている。働き方改革関連法で労契法20条はパートタイム有期雇用労働法に統合された。賃金の総額ではなく、項目ごとに格差が不合理かどうかを判断することを明確にした。
昨年10月の最高裁判決は20条による判断だが、パート有期法にも言及しており、今後の解釈に大きく影響することは間違いない・・・

・・・今年4月に全面施行されるパート有期法では、基本給だけでなくボーナスも、格差が不合理かどうか判断される対象になることが明記された。パート有期法制定と同時に作られた指針では、基本給やボーナスの格差がどのような場合に違法になるかが列挙されている。だが、指針が示した基本給やボーナスの場合分けは現実とは違うという意見が実務家の間では多い。どのような制度が妥当なのか。非正規の意見を採り入れた形で制度設計をすることが労使にとって課題になる・・・

慰霊から心のケアへ

朝日新聞別冊グローブ1月号特集「心のレジリエンス」に、「慰霊から心のケアへ」が載っていました。

・・・一度に多くの人が亡くなる災害。「不条理」ともいえる悲しみに、宗教はどう向き合ってきたのか。亡くなった人たちの鎮魂・慰霊のための「祈り」から、残された人たちの「心のケア」への取り組みが始まっている。
東日本大震災で4000人近くの死者・行方不明者(関連死含む)が出た宮城県石巻市。昨年11月初旬、曹洞宗通大寺住職の金田諦應さん(64)が2011年に始めた移動傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」が開かれた。新型コロナの影響で約9カ月ぶりだった。20人余りがコーヒーを飲んだり、マニキュアを塗ってもらったりしていた・・・
・・・金田さんは宮城県を中心に各地でカフェを毎月のように開いてきた。「被災者が自然に喜怒哀楽を出せる日常に戻る手助けをしたい」。それが金田さんたちの思いだ。仲間には神主も牧師もカトリックのシスターもいる。だからカフェで布教はしない。共通するのは、死者を弔い、被災者の話に耳を傾け、土地の人々に寄り添って生と死をつないできたという自負だ・・・

・・・上智大グリーフケア研究所長の島薗進さん(72)は震災の翌月に「宗教者災害支援連絡会」を設立し、代表に就任した。仏教やキリスト教、新興宗教が参加。地元の僧侶を中心に始まった「心の相談室」にも様々な宗教が集まり対応にあたった。島薗さんは「心のケアは主に医師や臨床心理士が担っていたが、大惨事に直面して『死にどう向き合うか』というスピリチュアルなところに踏み込まざるをえなくなった」と指摘する。

宗教者による心のケアは、欧米ではキリスト教会が育成する「チャプレン」が、病院などで行うことが多い。イスラム教の国では患者と医師ら「ケアされる側とする側」が同じ教えを共有している。島薗さんは「特定の宗教色が強く出ないようにするのは日本特有のかたちで、米国などでも広がりつつある」という。
日本でそうした宗教の枠を超えた心のケアが広がった背景には、「政教分離」の側面もある。「戦前・戦中の国家神道への反動もあり日本は『信教の自由』に非常にセンシティブだ」。日本宗教連盟と全日本仏教会の理事長を兼務する戸松義晴さん(67)はそう説明する。

東日本大震災でも、憲法の規定を理由にさまざまな問題が起きた。市町村が主催する慰霊式では、参加者全員が寺の檀家(だんか)でもお経は唱えられず献花のみ。火葬場に入ることも許されず、建物の外でお経をあげたこともあった。事前に行政と協定を結んでいない寺が避難所になると、行政からの支援物資を配れないこともあったという。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で不安が増すなか、宗教の役割が注目されつつある。全日本仏教会が「寺院・僧侶に求める役割」について聞くと、これまでは「特になし」という回答が多かったが、昨年8月のアンケートでは「不安な人たちに寄り添う」が3割を超えた。戸松さんは「葬式仏教にとどまらず、日々の生活で必要とされるよう、ふだんから人に寄り添い、信頼関係をつくっておかなければならない」と話す・・・

この主題は、拙著「復興が日本を変える」や、連載「公共を創る」第69回でも取り上げました。

増える家庭内暴力

1月13日の読売新聞が「増え続ける家庭内DV、19年度が過去最多で20年度は1・5倍で推移」を伝えていました。

・・・内閣府は12日、2019年度に全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた家庭内暴力(DV)の相談件数が前年度比4795件増で、過去最多の11万9276件だったと発表した。20年度の件数が19年度同期と比べて約1・5倍で推移しているとの途中集計も明らかにした・・・
・・・内閣府は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の影響で増加したとみている・・・

内閣府の公表資料「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等

発達障害を受け入れる社会、二つの方法?

1月8日の朝日新聞オピニオン欄「ほどよい距離感って?」、熊代亨さん(精神科医)の発言から。

・・・街の精神科医として感じるのは、いまなら発達障害などと診断されるような人が、昭和の時代にはあちこちで当たり前に暮らしていた、ということです。
そうした人たちが早い段階からサポートを受けられるようになったのは良いことです。一方で、いまの社会はますます清潔で行儀良く、効率的で、コミュニケーション能力が求められる。それについて行けない人に対処する需要が高まったから、発達障害が「病気」として受け入れられたようにも感じます・・・

・・・現代社会は確かに自由です。家や身分や地域によって仕事や人間関係を強制されないし、交通機関やインターネットの発達で、距離による制約も大幅に解消しました。
そうした社会では、私たちは友人や恋人や知人として「選ばれなければ」ならない。同時に、友人や恋人や知人を「選ばなくては」ならなくなりました。SNSに好ましい投稿を続けるのも、自分の「市場価値」を高めるためだと思います・・・

政治課題、孤独

1月5日の朝日新聞「この声、届いてますか コロナ禍の日本と政治」は、秋山訓子・編集委員の「孤独 チャット越し、あなたの叫び受け止めて」でした。
・・・生きづらさを抱えている。日々苦しい。でも、相談できる人がいない。そんな孤独を、24時間365日のチャット相談が受け止め続けている。
「生きる意味がみつからない。死にたい」「今から路上ライブ活動です。応援してほしくて」
昨年12月の週末、午前0時過ぎ。パソコンの画面に次々と文字が現れてくる。
大空幸星(こうき)さん(22)が返事を打ち込んでいく。「相談は特に深夜が多いです」

慶応大学3年生の大空さんは昨年3月、24時間365日、ネット上のチャットで悩み相談に応じる「あなたのいばしょ」を友人と2人で始めた。初日に40件の相談が。これは大変、とボランティアの募集サイトでカウンセラーを募り始めた。時差を使って24時間対応ができるよう、海外在住の日本人にも呼びかけた。
新型コロナウイルス感染症が日本でも広がり始め、安倍晋三首相(当時)が「一斉休校」を要請した直後。相談は急増した。
「家で虐待を受けているから外に出たいが、学校も図書館も閉まっていて行き場がない」「コロナで仕事がなくなった」
昨年末までに相談を寄せた人は、2万5千人を超えた。対応するカウンセラーも研修中を含めると、米英仏、カンボジアなど世界19カ国に住む800人に膨らんだ。メンバーには、臨床心理士や大学教員ら「プロ」も多数含まれている・・・

全文をお読みください。大空幸星さんは、5日の読売新聞にも取り上げられています。「「共感」孤独な若者救う」。
孤独が、社会そして政治の大きな課題になっています。昨日は、読売新聞の記事を紹介しました。