6月20日の朝日新聞オピニオン欄、大久保真紀・編集委員の「女性支援法、生かすには 暴力・貧困…困難に応じ丁寧な対応を」から
・・・この法律(「困難な問題を抱える女性支援法」女性支援新法)は、暴力や貧困など様々な困難を抱える女性に対する公的支援のあり方を定めるもので、本人の意思を尊重しながら最適な支援を目指す福祉の視点を打ち出した。女性支援の理念の大転換と言える。
これまでの公的支援である「婦人保護事業」の根拠法は、女性を取り締まりや管理・指導の対象とする売春防止法(売防法)だった。1956年に制定された売防法は「売春を行うおそれのある女子(要保護女子)」の補導処分と保護更生によって売春を防止することがそもそもの目的だ。勧誘罪で執行猶予となった女性を婦人補導院に収容することのほか、各都道府県に設置された婦人相談所の判断で、女性を一時保護所や婦人保護施設に入れて生活や自立を支えることを規定していた。
時代とともにニーズが多様化し、婦人保護事業の対象者が家庭関係の破綻や生活困窮などの問題を抱える女性に拡大した。2001年にはDV防止法が制定されてDV被害者が、また04年からは人身取引被害者、13年からはストーカー被害者も対象になった。
だが、DV被害者が増加すると、加害者からの追跡を阻止するために一時保護所や婦人保護施設の場所を秘匿する必要が生じ、ただ居場所が必要な一般の利用者の需要には必ずしも応えられない状況が生まれていた。
虐待や貧困で居場所がなく、街をさまよう若い女性たちが、やっとの思いで自治体の窓口や婦人相談所に支援団体とともに相談に行っても、公的支援にはなかなかつながらないのが実情だ。婦人保護施設の利用には、まず一時保護所に入ることが前提になっている上、一時保護所は携帯電話の持ち込みができず、外出もできない。ルールが多く監視されるような施設に入るなら、虐待があっても家や路上の方がましだとして、施設を敬遠する女性たちは少なくない。
その結果、婦人保護施設は利用されない施設となりつつあった。入所者数は年々減少し、19年度の充足率は21・7%だった・・・