「再チャレンジ」カテゴリーアーカイブ

行政-再チャレンジ

「まったき個人」人間観が生んだ問題

4月19日の朝日新聞夕刊「「見えない世話役=女性」、問い直して 東大大学院教授・林香里さんに聞く」から。私が主張している、「近代憲法は自立した市民を前提としていたが、その後は、みんながみんな自立できるわけではないことを発見する歴史だった」と通じます。

・・・私が重要だと思うのは、「社会的弱者を取り残さずに手を差し伸べる」という価値観を重視する「ケアの倫理」の考え方です。近代以降、「まったき個人」という自由主義的な人間観や、そんな価値観を持つ男性が様々な制度を作ってきた。でも、いつでも合理的な判断を下し、自分の人生を決定できる人間なんてあまりにも現実離れしていませんか。もし、「自分でキャリアを選択した」と言っても、多くの場合、その決断の裏には世話を担う家族(母や妻)がいる・・・

・・・家族や「イエ」(家制度)の概念は、血縁による「自然な」共同体だと思われています。だからこそ、こうした問題を隠しやすい。妻がケア労働をし、夫はお金を稼ぐという構図の根拠を「イエ」や血縁に求めると、男性中心社会において自由主義的な議論がしやすいのです。「イエ」は、自由主義が喧伝してきたメリトクラシー(業績主義)や競争主義を広め、発展させる基盤であり、燃料でもあったと思います。
いま、同性婚や夫婦別姓を求める声が増えています。家族の価値観はすでに変わっているのだから、制度を変えていく必要があるのではないでしょうか。
私が考える家族とは、自分の親密な部分を見せ、打ち明けられる空間です。人はありのままの自分を受け入れてくれる他者を必要とします。決して一人では生きていけない。だから、例えばLGBTQ(性的少数者)の人が、みんなと同じように結婚し、自分の家族が欲しいと思うのも自然なことです。それが新しい時代の「家族」だと思います・・・

子どもが幸せに育つ社会

4月1日から、こども家庭庁が発足しました。4月6日の朝日新聞に「幸せに育っていける社会へ」という特集が載っていました。関係する指標が、10年前、5年前、直近と比較して載っています。

・・・日本の子どもの心の幸福度は、先進国で何位か。
答えは、下から2番目だ。
ユニセフ(国連児童基金)の研究所が2020年にまとめた報告書で、日本の子どもの「精神的幸福度」は、先進38カ国で37位とされた。各国の子どもの生活の満足度や自殺率を比較した結果だった。

大人にとっては目を背けたくなるデータかも知れない。子どもと若者が年々、厳しい状況に追いやられていることは、国内データも物語る。
「3・5倍」
10年前と比べて、児童相談所が対応した虐待の相談件数は、これだけ増えた。5・9万件(11年度)から20・7万件(21年度)に達している。過去最多だ。
「1・5倍」
これも10年前と比べたもので、自殺で命を落とした小学生、中学生、高校生の人数の増加率だ。12年に336人だったが、22年は514人に増えた。少子化と言っているそばで、過去最多になった。
「3・9倍」
これは、いじめのうち生命、心身、財産に重大な被害が生じた疑いのある重大事態の件数がどれだけ増えたかを示す数字だ。データを取り始めた13年度の179件と、21年度の705件を比べた。
個々の体験に耳を傾けると、困難に直面した子どもたちの中には「たすけて」が大人に届かず、こぼれ落ちる現実も見える・・・

救ってくれたのは市役所でなく支援団体

4月8日の朝日新聞「追い詰められる女性たち5」「「何に困ってる?」最後につながった電話」から。

・・・1年以上前のこと。夫が2人の子どもを置いて家を出て行った。コロナ禍の影響で女性の勤め先は倒産。新しい職も探せない……。
「あ、これで最後」。40代の女性は、1歳の次男の粉ミルクを開けたとき、不安で手が震えた。所持金は残り数千円。お米はほぼない。電気もガスも、水道も止まりそう・・・

・・・ 「子どもたちに食べさせられるもの、ありませんか」
所持金が底をつきそうになり、次男と市役所の窓口に行った。「どうしたらいいですか?」と初めて、自分からつらさを他人に打ち明けた。
だが、色々な窓口をたらい回しにされた。「生活保護の先渡し」として2万円を支給された。ある窓口では職員がこう言った。「ここは、どうしたら良いかを教える場所じゃない」。返ってきたのは、共感や心配ではなかった。
お米も、ミルクも、おむつももうない。「そう必死に説明しても、なにも変わらないことが、とてもつらかった」
帰りがけ、職員は「これ、食べられると思うから、良かったら」と、食べ物を手渡してくれた。備蓄期限が過ぎた硬いビスケット、のどあめ……。子どもが食べられそうなものは入っていなかった。
「私たち家族は、生きているべきじゃないの?」
次男が大きな声で泣いていて、我に返った。無力感にさいなまれた。幸せにしてあげたいのに、できない。感情があふれて、こう言っていた。
「もう、いいです」
市役所を後にしながら、こんなことを考えた。
「生きるの、やめたいな」
人生で初めてそう思った。最寄り駅に向かい、電車に飛び込むつもりだった。

ひらひらひら。
駅のロータリーにたどり着いたとき、ふとした拍子にポケットからピンク色の折り紙が落ちた。市役所で「どうしても困ったら、ここに電話してみて」と渡された携帯番号が書かれた紙だった。「最後だし、かけてみようかな」
電話がつながり、聞こえてきた声は、今も忘れない。
「私もシングルマザーやで。大丈夫」「いま、どこにいるの? 何に困ってる?」
これまでのことを必死に伝えた。「わかった。今から行くわ」。経済的に苦しい女性や若者への支援活動をしているという彼女はそう言って、車で迎えに来てくれた。
その後、スーパーに行って、「必要なもの、全部かごにいれて!」と言ってくれた。戸惑いながらも、ミルクとおむつ、久々の肉などを買ってもらった。長男の迎えにも付き添ってくれ、ハンバーガーを食べさせてくれた。
生活を立て直すため、生活保護の申請など細やかにサポートをしてくれた。
「なんで、優しくしてくれるんですか?」と思わず聞いたことがある。「もう無理だと思ったことがあるから、つらくなるのがよく分かるの」。初めて駆け込める場所を知り、心から安心できた・・・

孤独、引きこもりの調査結果

孤立などに関する調査結果が、報道されていました。

一つは、孤独・孤立の実態調査結果で、孤独感がある人は約40%に上るというものです。4月1日の日経新聞「孤独感「ある」40%に増加 政府22年実態調査」。
・・・孤独感の有無を尋ねた回答の内訳は、「常にある」が4.9%、「時々」が15.8%、「たまに」が19.6%。「決してない」は18.4%だった。年代別にみると、30代と20代では「常にある」が7%超で、他の年代より多かった・・・
これは、内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和4年実施)」です。

もう一つは、引きこもりの推計が146万人に上るというものです。日経新聞4月1日夕刊「ひきこもり推計146万人」。
・・・15〜39歳でひきこもり状態だったのは144人。男性が女性より多く、8割が未婚だった。40〜64歳では86人だった。内閣府はこれらのデータを基に15〜64歳のひきこもり状態の人を146万人と推計した・・・
これは「こども・若者の意識と生活に関する調査 (令和4年度)令和5年3月 内閣府」です。

男女の賃金差公表

3月27日の朝日新聞生活欄「男女の賃金差公表、見えた会社の姿」から。

・・・男女の賃金格差の解消に向け、政府が企業に義務づけた格差の公表が徐々に始まっている。正社員の賃金格差は、男女の管理職の比率や勤続年数の違いの影響が大きいとされる。一方、賃金水準が低い非正規雇用の女性が多い企業は、全従業員でみた賃金格差が大きくなる傾向がある。

昨年7月以降に決算期を迎えた企業(従業員301人以上)から順次、男性の平均年収に対する女性の平均年収の割合を「全従業員」「正社員」「非正社員」それぞれについて公表することが義務づけられた。
イベントの企画などを手がけるグッドウェーブ(東京都渋谷区)では、正社員(183人中61人が女性)の年収は女性が男性の97%とほぼ同じだった。
その一因が、女性の管理職比率が28%(40人中11人)と比較的高いことだ。厚生労働省が2021年度に調査した企業の平均(12%)の2倍以上になる。
背景には、管理職を選挙制にしていることがある。管理職が昇進して空きができたときなどに、希望者が後任に立候補。管理職になったらどんなことをしたいかなどの「公約」を掲げ、部門の全社員が投票して決める。女性社員の一人は「自分たちで選んだ結果なので納得性が高い」と話す。
一方、非正社員(25人中12人が女性)の年収は、女性が男性の167%にのぼる。仕事内容は正社員と大きくは変わらず、「例えば子育てを優先して時給制の非正規を選ぶことができる。たまたま女性の非正規の方が長く働いていた」(同社)。
その結果、全従業員の年収でみると、女性が107%と男性を上回った・・・

・・・一方、低賃金の非正規で働く女性が多い企業は、「全従業員」で見たときの賃金格差が大きくなる。
のりやふりかけなどを作る大森屋(大阪市)の女性の賃金比率は、正社員では68%、非正社員では105%。だが、全従業員でみると26%と低くなる。
正社員は男性が多いが、工場や物流センターでパートとして働く非正規はほとんどが女性だからだ。「非正規の女性と、正社員の男性の賃金を比べるような構図になっている」(総務部)。
おもちゃ卸のハピネット(東京台東区)も、全従業員における女性の賃金比率が40%と低い。正社員では約7割を男性が占める一方、物流倉庫などで働く非正規では女性が7割以上を占めることが要因だ・・・

次のような解説もあります。
「厚労省の22年の調査で、フルタイム労働者の所定内給与(月額)をみると、女性は男性の75.7%だった。格差は20年前に比べると9.2ポイント縮小した。正社員や管理職に占める女性の割合が少しずつ増えてきたことなどが影響している。
それでも海外に比べると格差は大きい。経済協力開発機構(OECD)の調査では、働き手を男女それぞれ賃金順に並べたときの真ん中の人(中央値)で比べると、日本の女性の賃金水準は男性の77.9%。主要先進国(G7)ではイタリアが91.3%と最も高く、ほか5カ国も80%台で、日本が最も低い」