カテゴリー別アーカイブ: 再チャレンジ

行政-再チャレンジ

世帯単位の行政支援の見直しを

6月28日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部3」「世帯単位の行政支援、見直しを 宮本みち子さんに聞く」から。

・・・ 内閣府によると、コロナ禍1年目の2020年度、配偶者などからの暴力(DV)の相談件数は18万2188件で、前年度の11万9276件の1.5倍になった。21年度は17万6967件となり、高い水準で推移している。
一方、22年の自殺者数は、女性は前年より67人増の7135人で3年連続の増加となった。コロナ禍でDVが深刻化したことが、自殺につながった可能性の一つとして指摘されている。
DV防止法施行から20年以上が経つ。DVは暴力による支配だと認識されつつあるが、増加傾向に歯止めがかからない。また、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識が、社会に根強く残る。不平等な状態で家族のあるべき姿を求めれば、立場の弱い人の生きづらさが増す。
こうした問題にどう向き合っていけばよいのか。放送大学名誉教授の宮本みち子さん(家族社会学)に聞いた・・・

・・・若い人たちの県外流出に悩む地方圏では、大学や女性が働ける職場を増やそうという議論は盛んだが、「なぜ女性は外へ出て行きたがるのか」ということをもっと考える必要がある。
なぜなのか。一言でいうと、都会のほうが女性にとって魅力があり、生きやすいからだ。
「暮らしやすい」ではなく、「生きやすい」がポイントだ。賃金が高いよい仕事が都会に多いという理由もあるが、単に仕事の問題だけではない。地方には自由がない、選択肢がない、女性差別が残っているということがある。
「そんなに地方は女性にとって暮らしにくいのですか?」とある地方の女性に聞かれたことがある。
「ここが暮らしやすい」と思っていたり、地方のライフスタイルを受け入れたりしている人は残り、それなりに満足している。だが、生きにくいと感じる人は外に出てしまっている。意外にもこの点に気付いていないのではないだろうか。

では、どうしたら地方で女性が生きやすくなるのか。
ありきたりかもしれないが、家庭や職場や地域社会で男女平等を進めることだと思う。女性が意見を自由に発言することができ、可能性を伸ばしていける地方圏をつくること。行政は、男女共同参画政策をより一層進めてほしい。
男性支配の構造が家庭内に根深く、暴力での支配が公然と行われている状況などは論外だ。また、女性を労働力として期待しても、経済的には支配し、身体的・精神的に拘束するというのも許されることではない。

コロナ禍での給付金をめぐって問題になったのは、家族は一体のものという暗黙の前提のもとに世帯単位で給付が行われた結果、夫が独り占めし、弱い立場の妻や子どもに届かないという例がさまざまな場所で確認されたことだ。
行政の支援においては、無条件で世帯単位にするのではなく、個人単位という観点を持たないと、犠牲者が生まれる。

支援機関の実態に関しても考えさせられることがある。実は、困った時に本当に力になってくれる相談機関は少ない。数自体は決して少なくないが、多くは、ただ相談を受けるだけの場になっている。
大事なことは直面する困難の解決に向け、伴走してくれる支援が必要だということ。困っている人に寄り添って、一緒に動いてくれる人や機関があれば、救いとなるだろう。だが、このような相談機関は限られており、しかもパンク状態。孤立する人々の救済のために、人とお金をもっと投入する必要がある・・・

助けを求める声を受け止める

6月27日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部2」「SOSの受け手側、見えた課題 杏林大・加藤教授、患者聞き取り」から。

・・・困ったら相談を――。繰り返し呼びかけられている言葉だ。しかしSOSが出されても、それを受け取る側がどうするかで状況は大きく変わる。そこにもっと目が向けられることが必要だ。
困った女性たちの多くはSOSを出し、役所にも相談している。にもかかわらず、わずかに条件と異なるだけではじき飛ばされたり、「大変ですね」と慰められながらも具体的な助けを得られなかったりしている。大学病院の救命救急センターで30年以上、精神保健福祉士として自殺を図った人々と向き合ってきた杏林大の加藤雅江教授は、どう見ているのか。

加藤さんはある時、治療にあたる医師たちから「なぜこれほど自殺未遂が多いのか。救命して体を治療して退院させるけど、意味があるのか」という疑問の声を聞いた。そこで加藤さんは入院患者に聞き取りをした。
話を聞いたのは年間100人程度、10~60代の年齢層。そのほとんどが、落ち着いた子ども時代を送れていなかった。虐待、性暴力、DV(家庭内暴力)、非行、ヤングケアラー……。これらを何度も経験し、不登校や引きこもりなどをへて、実社会とのつながりが希薄になっていた。
「支援につながらなかったとか、嫌な思いをしたから支援なんて受けても仕方ないとか、そういったことがインタビューを通じて見えた」
加藤さんは、支援が十分に行き届かない理由について、「支援する側が助けたいと考えていることと、支援を受ける側の困りごとがずれています。意識しないと、支援者は自分の尺度で測ってしまう」と指摘する。
また、支援する側が「成果」を求めがちで、食料不足や不登校、親の病気といった目に見える困りごとのほうが支援されやすいという・・・

自殺者2万人

6月26日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部1」「年2万人「消えたい」と感じさせる社会 清水康之氏に聞く」から。

・・・日本では毎年2万人超が自殺で亡くなっている。主要7カ国(G7)の中で自殺率が高く、女性の自殺者数はトップだ。その背景や自殺対策の現在地などについて、NPO法人「ライフリンク」の清水康之代表に聞いた。

――昨年の自殺者数は2万1881人でした。1日に60人弱の方が死を選んでいます。現状をどうみますか?
2003年に自殺で亡くなる人は、3万4千人と最多になり、06年に自殺対策基本法ができて、その後2万人台まで減りましたが、下げ止まっている状況です。
日本社会に、「死にたい」「消えたい」と思わせるような悪い意味での条件が整っている。この視点を強調して発信し続けなければならないと思っています。

――ライフリンクによる自殺者523人の実態調査から見えてきたこととは?
その多くが「追い込まれた死」でした。自ら死を積極的に選んでいるわけではない実態が見えてきました。その人らしく生きるための条件が失われていたのです。
自殺で亡くなった人は平均で四つの悩みや課題を抱えていた。理由が複合的であることも分かりました。と同時に、じわじわと自殺に向かって追い詰められている。自殺の行為だけでみると瞬間的ですが、そこに追い込まれていく過程をみるという捉え直しが必要なのです。
さらに重要な発見は、職業や立場によって、自殺に追い込まれる状況には一定の規則性があることです。例えば失業者であれば、失業したことで生活苦に陥り、借金を抱え、精神的に追い込まれて自殺に至る。働く人なら、配置転換などの職場環境の変化で過労に陥り、人間関係の悪化も重なりうつになり自殺に至るといったものです。
こうした自殺の典型的な危機経路が明らかになってきました。原因が社会性を帯びているのです。自殺は個人的な問題であると同時に社会的な問題として捉えるべきです。
毎年2万人台前半が自殺で亡くなっています。1年間、この社会をこのまま回していくと、2万人が「もう生きていられない」状況に追い込まれる社会構造とも言えます。

――国内の自殺対策の現在地は今どこになりますか?
10をゴールとすれば、今は5だと思います。06年に自殺対策基本法が施行され、16年の大改正で都道府県と市町村で地域自殺対策計画をつくることが義務づけられました。
市町村単位で自殺者の性別、年代、職業、原因、同居人の有無など細かいデータを把握することができ、それに基づき計画をつくり、関係機関が連携して対策にあたるようになりました。研修も行い、首長がその旗振り役を担うという自覚も生まれています。計画を策定しているのは都道府県すべてですし、市町村も95%にのぼります。
検証も進められ、自殺総合対策大綱が見直される度に地域自殺対策計画策定のガイドラインも見直されることになっており、ようやく日本の自殺対策のPDCA(計画・実行・評価・改善)が循環する状態まできました。
ただ自殺者は下がる傾向とはいえ、2万人台です。まず、課題としては、子どもの自殺の実態解明をして、それに基づき総合戦略を立て、関係機関が連携し、対策を推進する流れをつくらなければいけません。もう一つの課題は、社会全体の自殺リスクを減らすために、社会保障や介護制度など大枠の制度も変える流れに持っていく必要があると思っています。

まだ2万人を超える人が亡くなり、子どもの自殺が増えています。そこの課題が残る5の部分だと思っています。
自殺というのは孤立というより、生きる場所がないということが大きな問題だと思っています。そこにアプローチできる社会にしていかなければなりません・・・

子供の付き添い入院、過酷な環境

6月6日の日経新聞医療・健康欄が「子供の付き添い入院、過酷な環境 保護者の実態調査」を報じていました。

・・・子どもが入院する際、保護者が病室に泊まり込んで世話をする「付き添い入院」をめぐり、支援団体が調査したところ、食事や睡眠が十分に取れないなど、負担が重い環境に置かれている実態が浮き彫りになった。体調を崩したり、離職を余儀なくされたりする懸念があるが、対策は進んでいない。子どもの治療や療養に影響が出かねないとして、家族を心身両面で支える仕組みづくりを求める声が上がっている。

「ただ耐えるしかなかった」。6歳の息子が白血病を患った東京都の40代女性は2020年4月以降、計約2年にわたった付き添い入院をこう振り返る。
新型コロナウイルスの感染対策が強化された時期と重なり、病院側のルールで外出だけでなく、家族と交代することが禁止に。食事は院内でおにぎりなどを購入することがほとんどで、「満足に取れず、気がめいった」という・・・

・・・「孤独だ」「疲れている」。入院した子どもを抱える家族を支援する東京都のNPO法人キープ・ママ・スマイリングには切実な声が相次ぐ。
自身の経験から支援している理事長の光原ゆきさんは「子どものつらい状況を目の当たりにして苦しいなか、過酷な環境に置かれている」と強調。実態を明らかにするため、22年11〜12月にアンケート調査を実施し、経験者約3600人から回答を得た。
1日公表した調査結果は、寝食がままならないなど疲弊している実情が浮かび上がった。
世話やケアに費やした1日あたりの時間は「21〜24時間」が25.5%で最多。「15〜18時間」(12.7%)と続いた。
睡眠は不足しがちで、寝床は「子どもと同じベッド」が51.8%、「レンタルの簡易ベッド」が32.9%。約8割の人が熟睡できなかったとした。
病院では付き添う家族には食事が提供されないことが一般的だ。調達方法は限られ、「院内のコンビニや売店」が65.1%で最も多かった・・・

孤独がもたらす健康被害

5月22日の日経新聞、アンジャナ・アフジャ、ファイナンシャルタイムズ・サイエンス・コメンテーターの「孤独がもたらす健康被害」から。

・・・英シェフィールド・ハラム大学の孤独研究センターの責任者アンドレア・ウィグフィールド教授は孤独と社会的な孤立は違うと指摘する。後者は一人暮らしかどうか、友人や家族はいるかといった客観的指標で判断する。一方、孤独は社会的な結びつきが不足していると各人が主観的に認識する感情だ。
マーシー氏は孤独が1日あたり15本の喫煙に相当すると断言する。この驚きの数字は148件の研究結果を対象にした2010年のメタ分析で証明された。これにより年齢、性別、基礎疾患などにかかわらず、社会的な結びつきが強い人は弱い人に比べ生存率が50%高いことが結論づけられた。同時に、孤独は死亡に関し運動不足や肥満より上位のリスクファクターに位置づけられ、喫煙や過度な飲酒と並んだ。
英イングランド高齢化縦断調査(ELSA)でも、同様の残念な結果が明らかになっている。02年に始まったELSAは50代以上の住民数千人を対象とし、健康状態、体重、収入、社会的活動について2年間隔で追跡調査をしている。その結果、孤独や社会的な孤立とうつ病、認知症、心臓発作、心身の衰弱などの間に関連性が見られた。

相関関係を因果関係と解釈できるだろうか。人類が社会的動物として進化する過程で、仲間と一緒にいたいという根源的な欲求が備わったという説がある。欲求が満たされないと精神的なストレスとなり、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が増えるなど生理現象が誘発される。ウィグフィールド氏は孤独感が「闘争・逃走反応」を引き起こし、炎症や白血球の増加を促しているようだと説明する。
ELSAを統括する英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・ステップトー教授は「社会的に孤立し孤独を感じる人は喫煙、運動、食事などの面で生活習慣が不健康になりがちだ」と強調した。
国民全体の健康増進に向けて孤独の対策を打つ必要性は明確で、孤独感が慢性化する前の取り組みが理想的だ。
英国で孤独問題に取り組む団体は手始めに近所の人に挨拶することを勧める。共通の趣味や関心を持つグループも仲間との交流の機会を提供してくれる。他人の手は借りたがらないが、他人に手を貸すことはいとわない男性にはボランティア活動がいいという・・・