カテゴリー別アーカイブ: 連載「公共を創る」

連載「公共を創る」第164回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第164回「政府の役割の再定義ー公務員の「目標」」が、発行されました。

官僚機構が国民の期待に応えていない現状を分析しています。そこにあるのは、新しい課題への対応ができていないこと、その裏返しとして既存政策の転換が遅れていることであり、突き詰めれば「目標設定の失敗」です。この問題を考えるために、公務員の目標と評価から始めます。

国家公務員に、目標による評価制度とそのための期首面談と期末面談が導入されたのは、この20年ほどのことです。制度が導入される前は、どのようにして目標の設定と共有が行われていたのか。
期首に目標の確認などほとんど、いえ私が知る限りでは、霞ヶ関でも自治体でも誰もしていなかったのです。私は40数年の公務員生活で、上司と期首あるいは異動直後に目標のすりあわせをした経験がありません。
各職員に職務を明示する「ジョブ型」の職場では、各人の業務内容と期待する成果を示した職務記述書が必須です。しかし、職員を一括採用し、係みんなで仕事をする日本の「メンバーシップ型」の職場では、それがなくても、引継書と前任者の作っていた資料を見ながら、周囲の同僚の支援で仕事を進めることができたのです。

しかし、毎年同じ仕事を(少々右肩上がりに)こなしていくだけで済む時代が終わり、各職員に「自分は何をすれば良いのか」を理解してもらう時代が来てみると、管理者が目標を明示し、職員と共有することが必要です。それなしに必要な都度に指示をしていくのでは、職員も不安で、工夫の余地もないでしょう。各人ごとの目標を職員と共有し、職員の達成度や工夫を見る中で、その職員を評価する意味も明らかになります。
近年、新型コロナウイルス感染防止などのために、在宅勤務が進みました。これも、「方向性はわかっているけど、細かい進め方がちょっとわからないので、隣の人に聞く」という仕事の進め方ではなく、引継ぎ書と目標管理ができていたからこそ、可能になったということができるでしょう。逆に、その「作法」を知らず、誰に相談すれば良いかがわからない新人には、つらい職場だったのです。
また、このような引継ぎ書と同僚の協力に依存し、上司との間での意思の交換に基づかない仕事の進め方は、職場の同僚との人間関係がうまくいっていない場合には、困ったことになります。

連載「公共を創る」第163回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第163回「政府の役割の再定義ー改革の仕組み方と官僚機構の転換方策」が、発行されました。
前回、官僚や公務員が新しい仕事に取り組まない理由を整理しました。今回は、どのようにしたら、行政組織において改革が進むのかを説明しました。役所の現場でも参考になると思います。

まず、業務の転換についてです。
・職員の誘導
・管理職の役割
・既存事業の廃止と再編成
・職員と幹部の共同作業
・一度作った事業はなくならない
・成熟期の困難

次に官僚機構の転換についてです。
・官僚の失敗=社会の課題が変化したこと
・行政改革の「遺産」=予算と人員の縛りがきつく、新しい課題に取り組めないこと
・行政の手法=社会と課題が変化したので手法も変える必要があること

連載「公共を創る」第162回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第162回「政府の役割の再定義ーなぜ官僚は新しい仕事に取り組まないのか」が、発行されました。

「官僚の失敗」と呼ばれる問題を議論しています。その本質は、新しい課題への対応が遅れていることと、それまでの政策の転換がうまくできていないことでした。今回は、官僚や公務員が新しい仕事に取り組まない理由を整理しました。それには次のようなものがあります。
・日本の官僚の変質=明治期の官僚や終戦直後から経済発展期の官僚は、進取の気風を持っていました。それがいつの間にか、現状維持派に変質しました。
・行政機構の持つ性質=行政機構に限らず、組織には考え方を固定化する仕組みが埋め込まれています。
・外部要因=企業と異なり、新しい事業に問題が生じると、報道機関や国民からきつい批判を受けます。
・余裕がない=予算や人員面で余裕がありません。
・組織の風土=以上のような行政機構の性質や外部要因が、役所の気風をつくります。
・職員の志向=事なかれ主義と前例踏襲主義は公務員批判の定番です。

連載「公共を創る」第161回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第161回「改革は「できるもの」─私の経験」が、発行されました。

前回まで、官僚の失敗事例を取り上げ、そこには新しい課題への対応が遅れていることと、それまでの政策の転換うまくできていないことを指摘しました。
私は若い頃から、おかしいと感じた仕事の仕方や内容を、おかしいと指摘するだけでなく、どうしたら変えることができるかを考えてきました。官僚の多くは、私と同じことを考えているでしょう。とはいえ、そう簡単に変えることはできません。

今回は、私がやってみた「改革」をいくつか紹介します。
それぞれに難しいことでしたが、関係者の理解や社会の動きが、背中を押してくれました。すべてうまくいったわけではありませんが、「やってみたら、できた」こともあるのです。

連載「公共を創る」第160回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第160回「政策の失敗、政策転換の遅れ」が、発行されました。

前回は、官僚の政策執行と事務処理における大きな失敗事例を取り上げて、説明しました。問題を起こした組織は、何らかの見直しが行われます。組織の廃止、改組などです。業界の振興と規制が分離されることもあります。
大きな失敗をした組織は取りつぶされることもあるのですが、それが責任の所在とその後の償いを曖昧にする危険もあります。私はこれを「お取りつぶしのパラドックス」と呼んでいます。「事故を起こした責任と償い」「責任を取る方法2

このほかに、長期的な評価で見えてくる「政策の失敗」もあります。農業振興に力を入れてきましたが、食糧自給率は低下し、農業従事者は激減しています。教育に力を入れてきましたが、子どもたちは学校が楽しくないと言い、大学はレジャーランドと揶揄されています。道路整備に巨額の予算を投入していますが、鉄道やバス路線が廃止され、車を持っていない人にとっては不便になっています。

これらに共通するのは、当初は高く評価されていたのに、その後に批判の対象となってしまったことです。政策の転換がうまくいっていないのです。目標設定が間違っていると、公務員がいくら一生懸命仕事をしても、国民からの評価は上がらず、職員の意欲も低下します。