カテゴリー別アーカイブ: 連載「公共を創る」

連載「公共を創る」第157回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第157回「官僚の役割ー現状分析」が、発行されました。

政府の役割が福祉提供国家から安心保障国家へ転換することに関連して、「保障行政の法理論」を紹介しました。これは、1990年代半ば以降に、ドイツ公法学が発展させた理論です。日本では、板垣勝彦・横浜国立大学教授が研究しておられます。『保障行政の法理論』(2013年、弘文堂)。

政府機能の民営化は、行政法学に大きな問題を突きつけました。行政の活動を対象とし、その民主的統制や効率的運営を問うてきた行政法学の対象範囲が縮小するだけでなく、権力的行為も民間委託が進むことで、その存在理由を問われるようなったのです。それは、従来の公私の区分論も不安定にしました。
ところが民営化が進み、これまで行政が提供して生きたサービスを企業が提供するようになったことが、行政法学の視野を広げました。すなわち、行政機構内部にとどまっていた学問的考察が、サービスの利用者である国民をも含んだ形へと広がったのです。

今回の後半から、「官僚の役割の再定義」に入ります。行政の役割の変化に伴い、官僚の役割も見直さなければなりません。それは、この30年で進んだ官僚の地位の低下、近年の若手職員の不満と不安などにも応えることになります。

連載「公共を創る」第156回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第156回「福祉提供国家から安心保障国家へ」が、発行されました。前回「生活者省」の設置案を説明しました。今回は、生活者省の役割、自治体への影響などを説明します。

次に、もう一つの行政の役割の変化を説明します。それは、福祉提供国家から、安心保障国家への転換です。
まず、目標が福祉から安心に変わります。現在問題になっている孤立や孤独、社会生活で自立できない人のためには、福祉の提供では問題は解決しません。安心を保障しなければなりません。
そして、政府が自らサービスを提供する方式から、政府がサービスの提供と質に責任を持ちつつ、その実施については民間を利用する方式へ変わります。そして、民間の提供を含め、その量と質に責任を持つことが、政府の役割になります。
すると政府の役割が、提供者の論理から、生活者の論理に変わることが見えてきます。

連載「公共を創る」第155回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第155回「「生活者省」設置の提言─「安全網」への転換を明確化」が、発行されました。

前回に引き続き、行政の手法の転換を説明します。企画にあっては、先進国に学ぶ「追いつき型」から、国内の課題を拾い上げ対策を考える「試行錯誤型」に変わります。そして、手法は「モノとサービスの提供」から「人への支援」「人の意識への働きかけ」に変わります。また「社会の通念を変える」ということも必要です。

これらを踏まえると、行政の役割は、これまで「社会の先導者」であったものから、「困った人を支える社会の安全網」に変わります。
明治以来の省庁を見ると、富国強兵、生産と公共サービス提供に重点を置いてきたことが分かります。「安全網」への転換を明確にするため、私は「生活者省」の設置を提唱しています。

連載「公共を創る」第154回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第154回「社会像と行政手法の転換」が、発行されました。国家の役割と機能の見直しを迫る要因を説明しています。今回は、前提とする社会像や市民像が転換していることを説明しました。

西欧近代国家そして日本が前提とした「自由で自立した市民」は、理想であっても、現実ではありませんでした。自立できない市民を発見し、それへの支援を整備してきたのが、この200年の歴史です。そして、さらに「社会生活での自立が難しい人」が生まれてきたのです。人は自立しているのではなく、互いに依存して生きているのです。
それは、公私二元論にも修正を迫ります。

政府が取り組むべき課題が変わることで、手法も転換する必要があります。その一つは、実施の手法です。支援対象となる個人は、引きこもりのように役所の窓口には来ません。これまでのように、請求があって支給する方法は機能しません。
また、社会の意識を変える必要がある場合も多いです。それについても、経験は少ないです。

連載「公共を創る」第153回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第153回「課題の転換を迫る背景」が、発行されました。
前回まで、政府の役割を再定義する前段として、その分類を行いました。ところが社会の新しい課題の多くは、これまでの分類にうまく当てはまりません。

これら新しい課題の多くは個別ばらばらに生じているのではなく、共通した背景と原因を持っているというのが私の分析です。この大きな動きを押さえた上で、場当たり的でない国家の役割と機能の見直しが必要なのです。それは、行政分野の拡大や手法の改善などという微修正では済まず、市民像や公私二元論といったパラダイム(ものの見方、考え方の枠組み)の転換が必要となります。
これまで述べてきた国家の役割の見直しを迫る背景や見直しの方向などを順次、要約します。

まずは、課題の転換を迫る背景です。大きな課題であった貧困からの脱出に成功したのに、なぜ社会に不安が生じているのか。それは、経済発展によって私たちの暮らしが変化したことで、新しい不安が生じたためです。
そして、日本においてこのような不安が顕著なのは、成熟社会に見合った意識への転換が遅れているからです。それは、いくつかの場面で現れています。