カテゴリー別アーカイブ: 連載「公共を創る」

連載「公共を創る」第160回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第160回「政策の失敗、政策転換の遅れ」が、発行されました。

前回は、官僚の政策執行と事務処理における大きな失敗事例を取り上げて、説明しました。問題を起こした組織は、何らかの見直しが行われます。組織の廃止、改組などです。業界の振興と規制が分離されることもあります。
大きな失敗をした組織は取りつぶされることもあるのですが、それが責任の所在とその後の償いを曖昧にする危険もあります。私はこれを「お取りつぶしのパラドックス」と呼んでいます。「事故を起こした責任と償い」「責任を取る方法2

このほかに、長期的な評価で見えてくる「政策の失敗」もあります。農業振興に力を入れてきましたが、食糧自給率は低下し、農業従事者は激減しています。教育に力を入れてきましたが、子どもたちは学校が楽しくないと言い、大学はレジャーランドと揶揄されています。道路整備に巨額の予算を投入していますが、鉄道やバス路線が廃止され、車を持っていない人にとっては不便になっています。

これらに共通するのは、当初は高く評価されていたのに、その後に批判の対象となってしまったことです。政策の転換がうまくいっていないのです。目標設定が間違っていると、公務員がいくら一生懸命仕事をしても、国民からの評価は上がらず、職員の意欲も低下します。

連載「公共を創る」第159回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第159回「官僚の失敗─官僚機構の機能不全」が、発行されました。

前回まで、官僚を巡る問題の概要や背景を説明してきました。次に、「官僚の失敗」といわれるものを分析します。官僚批判にはいろいろなものがありますが、大きく分けると3つに分類できます。
決裁文書改ざんなどは、仕事ぶりが適正かどうかという問題です。セクハラなどは、人としての立ち居振る舞いの問題です。そして3つめが、官僚機構の機能不全です。

官僚組織の失敗例として、原発事故、公害、薬害事件、不良債権処理、年金記録問題、統計偽装を取り上げました。
若い人は、話に聞いたことはあっても、詳しくは知らないでしょうね。その時々は大きな話題になっても、それらをきちんと記録し分析した本がないのです。しかし、失敗に学ぶことは重要です。関係者は話したくないでしょうから、誰がどのようにして分析し、記録として残すかです。

連載「公共を創る」第158回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第158回「官僚の役割─行政改革の影響」が、発行されました。
前回から、「官僚の役割の再定義」に入っています。社会の変化と行政の役割の変化に従って、官僚の役割も変えなければなりません。それに遅れていることが、官僚への評価の低下や若手職員の不満を生み、さらには社会の停滞を招いています。

最初に、1980年代から行われた行政改革の影響を述べます。これらの行革は、財政再建や小さな政府を目指しただけでなく、行政の役割を見直すことまで広がりました。そしていくつかの分野を除いて、官僚たちは抵抗することなく、むしろ積極的に参画しました。

しかし、いくつかの点で、問題も生じています。例えば文書の扱いです。かつては、決裁を経た文書を「公文書」と扱っていましたが、その後、職務上作成した文書は「行政文書」として扱われることになりました。今年春の国会審議で、行政文書の正確性が争われることが起きました。行政文書はかつての公文書と異なり、正確さは担保できません。それを問われても、困るのです。
また、予算と人員の削減は、官僚たちの新しい政策に取り組む意欲を削ぐことになりました。

そして一番の問題は、政治主導への適応です。政治主導は望ましいことなのですが、あまりに多くのことを首相と官邸が抱え込み、各大臣や各省官僚との役割分担ができていないように見えます。
さらに、政治主導と言われながら、法案や予算案の了解を取るために官僚が国会議員に説明に行き、国会審議の際には遅くまで待機をさせられます。野党の公開勉強会で、厳しい追及に会うこともあります。政策を考え実行するという本来の業務に、十分な労力を割けないのです。

連載「公共を創る」第157回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第157回「官僚の役割ー現状分析」が、発行されました。

政府の役割が福祉提供国家から安心保障国家へ転換することに関連して、「保障行政の法理論」を紹介しました。これは、1990年代半ば以降に、ドイツ公法学が発展させた理論です。日本では、板垣勝彦・横浜国立大学教授が研究しておられます。『保障行政の法理論』(2013年、弘文堂)。

政府機能の民営化は、行政法学に大きな問題を突きつけました。行政の活動を対象とし、その民主的統制や効率的運営を問うてきた行政法学の対象範囲が縮小するだけでなく、権力的行為も民間委託が進むことで、その存在理由を問われるようなったのです。それは、従来の公私の区分論も不安定にしました。
ところが民営化が進み、これまで行政が提供して生きたサービスを企業が提供するようになったことが、行政法学の視野を広げました。すなわち、行政機構内部にとどまっていた学問的考察が、サービスの利用者である国民をも含んだ形へと広がったのです。

今回の後半から、「官僚の役割の再定義」に入ります。行政の役割の変化に伴い、官僚の役割も見直さなければなりません。それは、この30年で進んだ官僚の地位の低下、近年の若手職員の不満と不安などにも応えることになります。

連載「公共を創る」第156回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第156回「福祉提供国家から安心保障国家へ」が、発行されました。前回「生活者省」の設置案を説明しました。今回は、生活者省の役割、自治体への影響などを説明します。

次に、もう一つの行政の役割の変化を説明します。それは、福祉提供国家から、安心保障国家への転換です。
まず、目標が福祉から安心に変わります。現在問題になっている孤立や孤独、社会生活で自立できない人のためには、福祉の提供では問題は解決しません。安心を保障しなければなりません。
そして、政府が自らサービスを提供する方式から、政府がサービスの提供と質に責任を持ちつつ、その実施については民間を利用する方式へ変わります。そして、民間の提供を含め、その量と質に責任を持つことが、政府の役割になります。
すると政府の役割が、提供者の論理から、生活者の論理に変わることが見えてきます。