カテゴリーアーカイブ:社会の見方

サービス産業時代の成長戦略

2014年9月17日   岡本全勝

9月9日朝日新聞オピニオン欄、冨山和彦さんの「成長戦略の勘違い」から
「円安で自動車や電機メーカーの業績が好転し、ようやく景気が回復してきたように見えますが」という問に対して。
・・確かに、ものづくりのグローバル企業がしっかり稼ぐことは日本経済にとってプラスです。国際収支の上でも必要です。しかし、そのことが日本経済の全体を浮揚させるわけではありません。
先進国に共通する皮肉な現象ですが、グローバル化が進むほど国内経済におけるグローバル企業の比重は下がります。かつて加工貿易で高度成長をしていた時代は、頂点に製造業の大企業があり、中堅・中小企業が連なって、ざっと日本人の半分はこのピラミッドの中で働いていました。頂点が潤えば、水がしたたるように幅広く恩恵が広がる「トリクルダウン」が起きた。ところがグローバル化で大手メーカーが生産拠点を相次いで海外に移し、この構図は縮小してしまいました。
いまや雇用者数でも付加価値額でも、日本経済の7~8割はサービス産業です。ここは基本的に地域密着型の労働集約的な産業。グローバル競争の世界とは、ルールも経済原理も違う。つまり日本経済の中にグローバル経済圏(G)とローカル経済圏(L)のふたつがあると考えたほうがいい。GとLの連関性はどんどん希薄になり、現実にトリクルダウンはほとんど起きなくなっています・・
「とすれば経済政策も……」という問に対しては。
・・GとLで別々の処方箋が必要ですね。特にLの世界で労働生産性と賃金を上げていかないと、持続的成長など無理です・・
「これまで成長戦略というと、もっぱらグローバル化への対応が柱になってきました」との問に対しては。
・・加工貿易時代の成功体験が強烈だからでしょう。Gが拡大することで高度成長を実現したので。しかも政府が政策を立案する際は、主に大手製造業の経営者が加わるため、どうしてもGばかりに目が行く・・

国家の崩壊ということ

2014年9月16日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、9月は、ジャンクロード・トリシェ前欧州中央銀行総裁です。1985年に、パリクラブ(途上国にお金を貸した債権国の代表による非公式グループ)の議長に就任します。借りた金を返せない国とどのような交渉をしたか、それは本文を読んでいただくとして。 1991年12月、ソ連崩壊直前に、ゴルバチョフ大統領と交渉します(9月12日掲載分)。
・・交渉の冒頭、パリクラブの議長の私は「ソ連はもう約束を守っていません。ソ連の債務返済への保証が必要です」と話した。
ゴルバチョフ氏は「良い交渉になるよう希望しています。どこかの共和国で問題があれば電話をください。私から首相に電話して手助けします」と支配者のようだ。だが直後に交渉官は「ソ連はもうないのだ。ロシアと交渉し、ウクライナと照合して、結果を他の共和国に示してくれ」とささやいた。存在しないと宣言したソ連に債務返済を迫るのは現実離れしていた・・
ベルリンの壁崩壊や、ソ連の崩壊は、私にとって、それこそ「想定外」でした。生きている間に、こんなことが起きるのだとは。歴史は過去のものであって、同時代のものではないと思っていました。若い人には、この衝撃は理解してもらえないでしょうね。
それ以来、「想定外はない」、「ないのは想像力だ」と気づきました(参照、ヨーロッパで考えたこと。2004年9月13日

増税を競う与野党、スウェーデン総選挙

2014年9月15日   岡本全勝

9月14日の朝日新聞が、「増税支持する有権者。スウェーデン総選挙、与野党が主張」を伝えていました。
・・スウェーデン総選挙が14日、投開票される。最大野党の社会民主労働党(社民党)が、増税を訴えて支持を拡大。減税を続けていた与党の中道右派連合も増税を主張するという珍しい選挙戦だ・・
・・ストックホルムで3日に開かれた各政党の討論会。社民党のステファン・ロベーン党首が、相対するフレドリック・ラインフェルト首相ら連立与党の党首を指さし、まくし立てた。「減税しても福祉に多くのお金をつぎ込めると考えているのは、大人になってもサンタクロースを信じているようなものだ」
ラインフェルト首相率いる穏健党を中心とする中道右派政権は2006年に発足し、10年の総選挙でも政権を維持した。社民党は、この8年間で与党が進めた減税を批判し、さまざまな増税計画を打ち出した・・
・・今のところ支持を集めているのは社民党の方だ。今年初めの世論調査での野党連合の支持率は5割台、連立与党は3割台だった。このため、与党も金融機関への増税や、たばこや酒税の増税を打ち出し、133億クローナ(約2千億円)の財政支出増を訴えた。最新の世論調査で差は縮まったものの、野党優勢の状況に変わりはない・・
・・ストックホルム大学のヨン・ハスラー教授は「政府が福祉や教育にお金を使い続けるには、高い税金が伴うことをスウェーデンの有権者は理解し、大幅な減税を求めない。政党も財政健全化の重要性を認識している」と説明する・・
詳しくは、原文をお読みください。15日のNHKニュースでは、野党が勝利したそうです。2005年のドイツの総選挙で、与野党が増税を争ったことがあります(2007年3月23日)。

明治維新と戦後改革の違い

2014年9月14日   岡本全勝

粕谷一希著『粕谷一希随想集2 歴史散策』(2014年、藤原書店)、「思いつくこと 着想の面白さ」(p107~)から。
・・明治の歴史記述はずば抜けて面白い。それは維新という近代革命があって、日本の社会がガラリと変わったこと、幕末のころに日本の儒学、蘭学、英語が絶頂に達していたことによるのだろう。
米欧を政府使節について廻った久米邦武の『米欧回覧実記』は生々しく面白い・・
・・総じて敗戦後の日本よりも、維新直後の文章の方がはるかに面白い・・
・・要するに明治国家の当事者たちも、近代国民国家として欧米”列強”に対抗して独立を維持できるかどうか不安だったのだろう・・
私は、明治維新と戦後改革はともに大きな変革ですが、二つの間には緊張感の違いがあると思います。それは、政治指導者たちの危機感の違い(植民地になるかもしれないという不安vsアメリカの指導の下に独立を回復すれば良い)、構想力の違い(これまでのお手本である中華体制を離れ、何をお手本にするかを自ら選ぶ必要があったvsアメリカの指導に従っておれば良かった)だと思います。

朝日新聞の記事取り消しとお詫び

2014年9月13日   岡本全勝

9月11日夜に、朝日新聞社社長が、「吉田調書」記事を取り消し、謝罪しました。あわせて、慰安婦をめぐる記事撤回の遅れを謝罪しました。
部下が失敗した場合の上司のお詫び、組織が失敗をした場合の責任者の任務について、私もたくさん経験しています。このページお読みの方は、ご承知のとおりです(仕事の仕方3)。今回の朝日新聞の対応についても、考えることがありますが、それはまたの機会にして。少し違った観点から、述べておきましょう。
12日の朝日朝刊を見て、「天声人語」に違和感を感じました。天声人語は、1面下に載っている、朝日新聞の看板コラムです。その日の1面は、全面が記事の取り消しとお詫びの記事でした。ところが、天声人語は、沖縄の知事選挙についてでした。この取り合わせに、疑問を持ったのです。私が紙面編集責任者なら、このテーマでは載せなかったでしょう。
9月12日の紙面は、朝日新聞が続く限り、あるいは日本の新聞報道の歴史において、長く引用されるでしょう。いささか場違いなコラムとして残ることになります。翌13日の天声人語は、「痛恨事からの出直し」でしたが。
次に、12日の午後に、朝日新聞の紙面の議論に及んだ際に、ある人が「今朝の朝日新聞って、社説はどう書いていたっけ?」と質問しました。別の人が「そういえば、気がつかなかった。でも、1面の左半分が社長のお詫びだったから、あれこそが社説でしょう」と答えました。
気になって後で確認したら、実は社説は載っているのです。16ページに、シリア空爆と法科大学院についてです。これも、どうかと思いました。13日の社説は、「論じることの原点を心に刻んで」でした。
今回の検証とお詫びは、朝日新聞社にとっては大事件です。当日夜の紙面作りでは、大変なエネルギーと作業が必要だったと思います。しかし、この2つの文章を見ると、社としての方針徹底、あるいは社員全員に問題意識が行き渡っているのか。いささか疑問になります。