「社会の見方」カテゴリーアーカイブ

クールビズ10年

6月30日の日経新聞サーベイ欄が、「クールビズ10年」を取り上げていました。クールビズが、2005年に小泉首相の提唱で始まってから、もう10年が経ちます。すっかり定着しました。さらに近年は、スーパークールビズになって、かなりラフな格好の職員も見受けます。私は、紺のスーツに白いワイシャツでノーネクタイは、嫌いです。どうも、さまになりません。
導入当初、このホームページでも、何度か取り上げました。「夏服・クールビズ騒動」(2005年6月5日)、「続・夏服騒動」(2005年6月10日12日)。読んでみてください。今読み返すと、えらく力を入れて書いています(苦笑)。私は50歳、総務省の総務課長でした。
さて記事では、全国の20~50代の働く男女1,000人に、インターネットで調査した結果が載っています。「クールビズは定着したと思うか」という問に、75%の人が「定着した」と答えています。「意識した服装をしているか」との問には、「実践している」が48%です。う~ん、単にネクタイを外しただけですか。
クールビズの問題点を聞いたところ、「だらしない格好の人が増える」が25%、「服装のせいでマナーが緩くなる」もあります。「洋服の買い足しで出費が増える」も2割くらいいます。この人達は、ファッションを気にしている人たちですね。

税財政政策の理論と運用

石弘光著『国家と財政―ある経済学者の回想』(2014年、東洋経済新報社)が、勉強になります。石先生は、元・一橋大学の財政学の教授です。政府の税制調査会長などを務められました。学者として政策の現場でも活躍されました。
この本は、先生の学者としての半生を振り返りつつ、税財政の理論と実際がどのように変化してきたかを、テーマを建てて解説しておられます。日本の戦後から現在までの、税財政史でもあります。租税政策や財政政策は、早い時期から、学者が実務(政策の現場)に貢献した分野です。私たちは、教科書や専門書で税財政を勉強しますが、なぜこのような理論ができて、現実に運用されているか、その背景を学ぶと、より理解できます。
税財政など政策は、現実の運用だけでなく、理論も、経験と反省の中で生み出されたものです。学者が、書斎で見つけたものではありません。無味乾燥な理論や制度が、この本を読むことで、より身近に感じることができます。税財政職員はもちろん、広く官僚に、お薦めの本です。

日本の発明

6月18日に、発明協会が、「戦後日本のイノベーション100選」を発表しました。各紙が報道していたので、ご覧になった方も多いでしょう(このホームページでの紹介が遅くなって、申し訳ありません。他にも、たくさん載せる素材がたまっているのです)。
技術的な発明だけでなく、ビジネスモデルなど社会に影響を与えたソフト的なものも並んでいます。例えばトヨタ生産方式や公文式教育法、ヤマハ音楽教室などです。回転寿司も、あります。なるほどね。
私は、世界の生活文化に影響を与えた点で、インスタントラーメン、カラオケ、テレビゲーム(または漫画・アニメ)が3大発明だと思っていました(2005年4月4日の記事)。ここに並んだものを見ると、再考しなければなりません。インスタントラーメン、ウオッシュレット、カラオケを、世界の生活文化に貢献した新御三家として提案しましょう。庶民の生活を変えたという観点からです。

名編集長、粕谷一希さんの仕事

粕谷一希さんが、5月に亡くなられました。『中央公論』の名編集長と呼ばれた方です。退社後も、『東京人』、『外交フォーラム』、『アステイオン』などの創刊に、かかわられました。永井陽之助、高坂正堯、山崎正和、白川静、塩野七生さんらを、世に出されました。
学界の研究や官界の政策を一般の方に広く理解してもらうために、雑誌や書籍は重要な手法であり、場です。その際に、編集者の役割と能力は決定的です。粕谷さんが作られた雑誌や、世に出された作家や研究者をみると、その能力の高さがわかります。随筆集が刊行され始めました。『忘れえぬ人々―粕谷一希随想集』(全3巻、2014年、藤原書店)。
歴史をどう見るかー名編集長が語る日本近現代史』(2012年、藤原書店)は、明治以降の日本の歴史をどう見るかを平易に語った本です。次のような構成になっています。
1武士の「自死」としての革命―明治維新
2近代日本の分水嶺―日露戦争
3帝国主義と「個人」の登場―大正時代
4「戦争責任」再考―第二次大戦と東京裁判
粕谷さんは、歴史を語る方法として、学者が扱う実証史学、小説家が書く歴史小説、小説家が書くノンフィクションを上げておられます。そして、この本のように、日本論、日本国民の政治史・精神史として語る方法があるのでしょう。それは、過去の事実を取り上げるという形を取って、現在と未来の日本人に取るべき道を指し示すという、警世の書です。日本人それも指導者だけでなく、国民が選択してきた成功と失敗の歴史として書かれています。すると事件の記述でなく、それを判断した当時の指導者と国民を俎上に載せることになります。快刀乱麻で、氏の博学が披瀝されます。
学者や小説家が書く歴史は、「他人事」として客観的に読むことができます。しかし、この本は、なぜ昭和の失敗が起きたのか、すなわち今後どうしたら起こさないか。また、戦争責任と昭和憲法を、今後どのように扱っていくか。今を生きる私たちに、考えさせます。他人事ではなく、自ら責任を引き受け、自ら考えなければならないのです。成功の努力と失敗の判断をしたのは、私やあなたの父や祖父なのです。簡単に読める書でありながら、重い本です。
学問や研究としての歴史は、テーマごとに狭く深く分析されますが、このように100年の歴史を簡潔に書くことは、難しいことです。
「大日本帝国の興亡という大きなテーマを考えた場合、日本が太平洋戦争に負けたのは必ずしも昭和の軍人だけが悪かったのではなく、明治、大正期に形成されていった大日本帝国というもの自体に問題があったというのが、私の大きな感想です。
考えれば考えるほど、昭和史は昭和史で終わるわけがない。やはり、幕末、明治維新、明治国家、明治時代、大正時代―のことをあわせて考えていかないと、昭和の歴史の結論は出ない」(p8)。
「日本人は自らの姿を三思する必要がある。日本は戦争に勝って、“列強に伍する”ことしか頭になかった。日本人は孔明や三蔵法師のことは知っていても、交渉相手の「李鴻章」(岡本隆司氏)のことは知らない。好き嫌いを超えて相手を知らなければ、国際社会を生きていくことはできない」(p166)。
お薦めします。

現代財政史

シリーズ「日本財政の現代史」(2014年、有斐閣)を紹介します。第Ⅰ巻『土建国家の時代1960~85年』(井手英策編)、第Ⅱ巻『バブルとその崩壊1986~2000年』(諸富徹編)、第Ⅲ巻『構造改革とその行き詰まり2001年~』(小西砂千夫編)の3冊です。
高度経済成長期と石油危機以降の赤字財政の時代は、教科書に載っています。しかし、バブル崩壊後は、まだ今続いている時代です。バブル崩壊を1991年とすると、20年以上が経っています。歴史になっています。大きな事件や変化があったので、いろんな書物や研究が出ていますが、簡単なよい解説書は、なかなか見当たりません。
歴史は、一定の時期が過ぎ、そこからある視点で、過去の出来事を位置づける・意義づけることが必要です。事態は、どんどん進んでいきます。今日のことが、すぐに古くなります。現代史を書くことは、とても難しいことです。そして、「失われた20年」と呼ばれるように、日本の政治、経済、財政は、新しい方向を模索しています。教科書を書きにくいのです。しかし、模索中であるからこそ、この間の動きを整理して欲しいです。
近過去の事件は、私たち熟年には経験した「昨日のこと」ですが、学生や若手職員には学校で習わなかった「歴史」です。私たちにとっても、どのような視点でこの時代の出来事を位置づけるか。参考になります。
このように、整理してもらうと、ありがたいです。各巻、四六判、300ページあまりと、コンパクトにまとめられています。財政、税制、構造改革、政治変化など、目配りの効いた構成になっています。 日米構造協議や地方分権も入っています。詳しい執筆者と内容は、それぞれのリンク先を見てください。中堅若手の研究者がたくさん、執筆しておられます。
欲を言えば、関連項目として、経済、金融、国際経済、国際金融も、簡単に書いてもらうと、背景がわかって理解の一助になると思います。もっとも、それは別のシリーズでしょう。