「社会の見方」カテゴリーアーカイブ

現代財政史

シリーズ「日本財政の現代史」(2014年、有斐閣)を紹介します。第Ⅰ巻『土建国家の時代1960~85年』(井手英策編)、第Ⅱ巻『バブルとその崩壊1986~2000年』(諸富徹編)、第Ⅲ巻『構造改革とその行き詰まり2001年~』(小西砂千夫編)の3冊です。
高度経済成長期と石油危機以降の赤字財政の時代は、教科書に載っています。しかし、バブル崩壊後は、まだ今続いている時代です。バブル崩壊を1991年とすると、20年以上が経っています。歴史になっています。大きな事件や変化があったので、いろんな書物や研究が出ていますが、簡単なよい解説書は、なかなか見当たりません。
歴史は、一定の時期が過ぎ、そこからある視点で、過去の出来事を位置づける・意義づけることが必要です。事態は、どんどん進んでいきます。今日のことが、すぐに古くなります。現代史を書くことは、とても難しいことです。そして、「失われた20年」と呼ばれるように、日本の政治、経済、財政は、新しい方向を模索しています。教科書を書きにくいのです。しかし、模索中であるからこそ、この間の動きを整理して欲しいです。
近過去の事件は、私たち熟年には経験した「昨日のこと」ですが、学生や若手職員には学校で習わなかった「歴史」です。私たちにとっても、どのような視点でこの時代の出来事を位置づけるか。参考になります。
このように、整理してもらうと、ありがたいです。各巻、四六判、300ページあまりと、コンパクトにまとめられています。財政、税制、構造改革、政治変化など、目配りの効いた構成になっています。 日米構造協議や地方分権も入っています。詳しい執筆者と内容は、それぞれのリンク先を見てください。中堅若手の研究者がたくさん、執筆しておられます。
欲を言えば、関連項目として、経済、金融、国際経済、国際金融も、簡単に書いてもらうと、背景がわかって理解の一助になると思います。もっとも、それは別のシリーズでしょう。

歩道のカフェ

6月21日の朝日新聞夕刊に、「東京特区、来たれ海外マネー」という記事が載っていました。そこに、港区虎ノ門の歩道でのオープンカフェが紹介されています。
・・虎ノ門では、「虎ノ門ヒルズ」が開業した11日にあわせ、近くの歩道にオープンカフェがお目見えした。パリの雰囲気で国内外の人を「おもてなし」するため、道路の占用許可を緩めて認めた「東京シャンゼリゼプロジェクト」の第1号。今後、歩道沿い約150メートルにわたって、オープンカフェが並ぶ計画だ・・
これ自体は、良いことですよね。パリの真似、名前もパリの通りの名が使われてることは残念としても。
しかし、写真を見て、う~んと考えてしまいます。背景に、何本もの電柱と電線が写っているのが、見えますか。見苦しいですね。いずれ、地中化されるのでしょう。

変化する英語

5月22日の読売新聞に、「ニッポン人気、英語に反映」が載っていました。世界の英語の動向を調べているアメリカの調査会社によると、今年の流行語の暫定一位は、emojiです。そう、携帯メールでおなじみの「絵文字」です。日本語がそのまま、英語として通用しているのです。昨年12月には、オックスフォード英語辞典(OED)にも収録されています。「携帯」(keitai)は、4年前から載っているのだそうです。
近年は、漫画、アニメ、ラーメン、枝豆まで載っています。富士山、芸者、腹切りといった古典的日本文化でなく、新しいしかも生活文化が世界に広がっています。
記事に紹介されていた、寺澤盾著『英語の歴史』(2008年、中公新書)を読みました。どのようにして現在の英語ができあがったか、わかりやすく解説されています。なぜ、あんなに綴りと発音が違うのかも。
言葉は不思議なものですね、誰かに命令されるわけでもなく、みんなが使っているうちに、それが標準になる。母音も、誰も指示しないのに、大きな法則の下に時間をかけて変化します。それで、こんなに綴りとずれてしまいました。
さて、今後、世界の人の多くは、英語を話さなければ仕事にならないでしょう。国際語となってさらに普及するためには、綴りをなるべく発音に近づけてもらいたいです。nameを、ナメーと覚えた一人。

危険な任務の命じ方。命令、要請、自発。2

これに関連して、かつて「公務員のスト権」について議論したことを、思い出しました。国家公務員と地方公務員は、ストライキが禁止されています。しかし、業務の内容を見たら、民間企業の中に、もっと国民生活に不可欠な部門=ストをされたら困る部門があります。
サービスの提供が停まると、個人の生活や社会の活動に大きな被害を及ぼすものです。たとえば、電気やガスの供給、銀行や通信、運輸のシステム、医療などです。そこで、公益事業については、ストをする場合に、事前の届け出が必要です(労働関係調整法)。医者の場合は、病人が来たら診察義務があります(医師法)。事前にストがあるとわかっておれば、国民も予定を立てて備えることができます。計画停電は、東日本大震災の直後に東京電力が実施しました。もっとも今の社会では、通信会社がストをして電話や電子メールが使えないとなると、大変なことになるでしょう。
しかし、もう一つ、より深刻な部門があります。危機管理や危機対応の部門です。例えば、ガス漏れを修理に行くガス会社の部門、電力会社の原発運転部門、民間病院でも救急部門などです。ガス漏れを修理に行く部門がストをしたら、ガス漏れがあったときに大災害を招きかねません。原発運転部門が予告どおりストをして、そのときに事故が起こったら、大変なことになります。このような場合の備え(法的規制)は、どうなっているのでしょうか。また、インターネット上でサイバー攻撃などを監視して、ソフトに穴があったらそれを防ぐ仕事をしているIT会社も、今や重要な危機対応部門です。
なお、冒頭に「公務員と比べたら」と書いたのは、これらの業務に比べて、××省の職員給与を計算する部門や統計部門などは、重要ではありますが、少々ストをしても国民生活には直ちには影響はないだろうということです。

危険な任務の命じ方。命令、要請、自発

朝日新聞6月10日、「思想の地層」小熊英二さんの「法の支配と原発。残留の義務、誰にもなかった」から。福島第一原発が水素爆発を起こしたあと、3月15日の朝のことです。
・・報道では、(原発)所員の無断撤退が問題とされた。しかし本来、民間企業の従業員に、こうした状況で残れと命令する権利は誰にもない。拒否する権利、少なくとも辞職する権利は、保障されなくてはならない。
このとき所員の9割は無断撤退したが、約70人が残留した。欧米では彼らを「フクシマ50」と呼んだ。それは勇敢さを称えたからだけではない。そんな状況で所員を働かせる人権無視に驚いたのである。
あるドイツ在住者は、当時の新聞投稿で、この問題への欧州人の反応をこう記している(本紙2011年4月11日「声」欄=東京)。「民主主義の先進国で、これが可能なんて信じられない。ドイツ人ならみんな、残って作業するのを断るだろう」「欧州なら軍隊は出動するかもしれないけど、企業の社員が命をかけて残るなんてありえない。まず社員が拒否するだろうし、それを命じる会社は反人道的とみなされる」
軍人は死ぬ可能性のある命令でも従う旨を契約しているから、政府が軍の核対応部隊などに残留を命令できる。だがそんな契約をしていない民間人に、残留を命じる権利は誰にもないし、またそれに従う義務もないのだ・・