8月3日の朝日新聞1面は、「保育園の企業参入、自治体が阻む 待機児童減らない一因」でした。
・・自治体が認可する保育園を企業が運営しようとしても、多くの市や町が「壁」を設けていることがわかった。政府が2000年に企業にも認可保育園を運営できるようにしたのに、社会福祉法人(社福)を優遇し、企業の運営を認めていなかったり条件を厳しくしたりしていた。保育料の安い認可保育園を希望しても入れない「待機児童」が、減らない一因になっている・・
・・認可保育園は約2万4千カ所あり、約9割を自治体や社福が運営し、企業は2%にとどまる。政府は2000年、自治体や社福に限っていた運営を企業にも開放したが、認可の条件などは市町村に任せている。
厚生労働省は5月、政令指定都市、中核市、待機児童が50人以上の市区町の計133自治体について、昨年10月時点の認可保育園の運営を認める条件をまとめた。これをもとに朝日新聞が取材したところ、半数以上の70自治体が企業参入に壁を設けていた・・
この記事を読んで、かつての規制緩和・民営化の議論を思い出しました。空港などの基本インフラについての、規制緩和・民営化の議論でした。
「空港や上水道など、国民生活に関わる重要なインフラを、外国の会社が買収したら困るではないか」という、懸念でした。しかしよくよく議論すると、空港や上水道事業の所有者が国内会社であれ外国会社であれ、きちんとした運営をしてくれないと困ることは同じです。「外国資本だから危ない」ということでは、ありません。運営会社の株式の過半数を日本人株主が持っていても、変な運用をされたら、同じです。
そのときの結論は、次の通り。
公的なサービスを提供する施設について、適正な運営を確保する必要がある。その場合、「所有者が誰か」とか、「運営主体が誰か」では、適切な運用は担保できない。そのためには、所有者や運営会社の国籍を規制するのではなく、「法律で運営規制をかけておく必要がある」ということでした。「所有規制」ではなく「運営規制」が重要なのです。入り口(提供主体)で規制するのではなく、出口(サービス)で規制するのです。
「社会福祉法人だから安心だ」とも「企業だから危ない」ともいえません。外国の宗教法人が実質的に運営する小中学校もあれば、企業が経営する病院もあります。質が高いので、それを選ぶ人も多いです。
「社会の見方」カテゴリーアーカイブ
中国での日本報道
毎日新聞「隣国のホンネ」7月29日は、李ビョウ・香港フェニックステレビ東京支局長の「関係冷え込む今こそ客観的な報道を」でした。
・・震災発生時の東京からのリポートで、津波が沿岸に押し寄せる映像を紹介していたら涙があふれ、途中で声を詰まらせてしまいました。これは中国のインターネット上で「なぜ日本人のために泣くのか」と批判されましたが「感動した」「被災者を早く救援すべきだ」といった声も少なくありませんでした。
毎年8月15日には靖国神社で取材していますが、中国語でリポートをしている最中に石を投げられたり、「出て行け」と追いかけ回されたりしました。靖国神社を取材するのは勇気がいりますが、中国での関心は高く、欠かすことができません・・
中国版ツイッターでも、発信していることに関して。
・・短い発信でも短時間で数百のコメントが寄せられるのですが、2012年9月以降、私に対する批判はどんどん増えてきました。私は報道をする時、日本政府の発表をよく引用しますが、事実関係を伝えるだけでも「売国奴」「中国に帰ってこなくていい」などと書かれます。最近は数が多すぎて、見ないようにしています。中国国内でナショナリズムがますます強まってきたことの表れでしょう・・
・・両国でより強硬な政策を求める世論の圧力が高まっており、それに政府やメディアが押されているように見えます。両国に潜む「内圧」とも言えると思いますが、これこそ最大のリスクではないでしょうか。この圧力を乗り越えていくためには、一人でも多くの人が相手の国の事情や考え方を深く理解する一方、日本での過激な排外的言動や中国での反日デモで見られた暴力などに対する危機感を持ち続けることだと思います・・
複雑なバランスの上の生態系
読売新聞7月24日夕刊科学欄に「外来種駆除、思わぬ結果」が載っていました。ある外来種を駆除すると、別の外来種が増えるなど、生態系が変わってしまうのです。
岩手県のため池で、外来種のウシガエル(北米原産)とコイ(中国産)が繁殖しています。ウシガエルが在来種のツチガエルを食べ尽くすので、ウシガエルを駆除しています。ところが、コイも外来種なので駆除すると、ウシガエルが増えるのです。コイがウシガエルのオタマジャクシを食べるのだそうです。
埼玉県のため池では、ブラックバスを駆除すると、アメリカザリガニが増え、ヒシなどの在来種の水草が激減しました。
生態系は、複雑なバランスの上に、成り立っているのですね。これらとは違う事例ですが、奄美大島で、ハブを駆除するためにマングースを放ったら、アマミノクロウサギが減ってしまったという例もあります。人間が考えたように、単純にはいきません。
移民政策、ドイツの経験
先日、ドイツの総人口に占める移民系住民の割合が20%あることを、紹介しました(2014年7月16日)。7月17日の朝日新聞オピニオン欄に、元ドイツ連邦議会議長で移民受入れに関する委員会の委員長だった、リタ・ジュスムートさんのインタビュー「移民政策、ドイツの経験」が載っていました。
「ドイツは1950年代以降、戦後の復興を担う外国人労働者を南東欧やトルコなどから受け入れたが、本国に帰ることが想定されていた。だが、ジュスムートさんを委員長とする独立委員会が2001年、定住を前提にした受け入れや社会に溶け込んでもらう施策を提言。2005年に提言を盛り込んだ移民法が施行され、ドイツは「移民国家」に転換した」という書き出しです。
・・ドイツが受け入れてきたのはガストアルバイター(一時滞在の労働者)で、「3年間」などの期限が来たら帰ってもらうというものです。主要政党は右も左も「だから移民政策は取らない」が建前でした。
だが現実はそうならなかった。半数は本国に帰っても、半数はとどまった。ドイツの方が労働環境が安全で、収入も多かったからです。石油ショックや経済低迷で、1970年代には外国人労働者の受け入れが中止されました。しかし、いったん帰国したらドイツに戻れないことから定住が加速し、むしろ本国から家族を呼び寄せる人が増えました。
1980年代後半、私は保守系コール政権の閣僚として女性や若者を担当しました。そこでわかったのは貧困や差別などの問題を抱える女性や若者の多くが、ドイツに長く暮らす外国人だったことです。ドイツ語が十分に話せない。教育水準も低い。ほかの人と同じ権利や機会を持つ人間とはみなされていない。(移民はいないという)建前と(彼らを取り巻く)現実との深刻な矛盾に気づいたのです。
1990年代には、情報通信やバイオなどの分野で高い技術をもっている人材が足りないとの悲鳴が経済界から上がりました。さらに冷戦後に頻発した(旧ユーゴスラビアなどでの)地域紛争で難民申請者が増え、彼らを受け入れる責務も生じました。どんなに高い壁を築いても、戦乱から逃れてくる人々は必ず入ってきます。こうしてドイツは「いかに国を開くか」という切実な問いを突きつけられました・・
・・移民の受け入れは、単に労働力を受け入れることではありません。彼らも家族を持てば、子供を学校に通わせる。病気になれば医療機関で治療を受けるし、年をとれば年金をもらう。ただ、たとえ出身地が外国であっても、ドイツ社会の構成メンバーになるからにはドイツの原則や理念を受け入れてもらわねばなりません。かといって、価値観を一方的に押しつければいいわけでもない。彼らの固有の文化も尊重されてしかるべきでしょう。少数者の権利や文化を認めるということも、ドイツの基本的な価値観だからです・・
ぜひ、原文をお読みください。
空き家が820万戸も
7月30日の各紙が、空き家が過去最高の820万戸、13.5%になったことを伝えていました。総務省が発表した「住宅・土地統計調査」です。5年前に比べて、63万戸も増えたそうです。すごい数ですし、増え方もすごいです。今や、10戸に1戸どころか、7戸に1戸が空き家です。1戸あたり住人が2人とすると、120万人分です。政令都市1つ分です。
これは、日本社会の変化を、表しています。1つには高齢化や人口減少です(社会全体)。もう1つには過疎化と集中です(地域間アンバランス)。もっとも、都会でも空き家は増えています。
国や自治体の政策も、変化せざるを得ません。かつては住宅が不足していて、「増やすこと」が主眼でした。数が揃うと、次は「質の向上」です。劣悪な家を壊して、部屋数が多くて広い家、快適な家を供給することでした。
そして今は、空き家をどうするか。特に問題は、放置された空き家です。318万戸もあります。そのままにしておくと、地域の環境が悪くなります。このページでも、「地域の空き家対策」(2014年2月10日)を紹介しました。そして、より根っこにあるのは、過疎化(地域政策の問題)と、高齢者が亡くなった後に管理する人がいないこと(家族のあり方の問題)です。