カテゴリーアーカイブ:社会の見方

瀧澤弘和著『現代経済学』

2018年10月31日   岡本全勝

瀧澤弘和著『現代経済学』(2018年、中公新書)が勉強になりました。帯に「20世紀半ば以降に多様化した潮流の現在とこれから」とあります。

私が大学で学んだ経済学は、近代経済学と呼ばれた、サミュエルソンであり新古典派経済学でした。ミクロとマクロです。最初は、グラフと算式が取っつきにくく、なじめませんでしたが。わかると、これはこれで面白かったです。財政学は、貝塚啓明先生の授業が、わかりやすかったです。
マルクス経済学も少しかじりましたが、早々と放棄しました。これは現実世界を分析する経済学でなく、政治だと思ったので。

ところが、本書にあるように、20世紀後半から、様々な経済学が出てきました。ゲーム理論、行動経済学、制度学派・・・。「そんなのも、経済学なんだ」と思いましたが。近年のノーベル経済学賞は、様々な理論や分析が受賞しています。
しかし、これら新しい経済学派は、新古典派に取って代わるのではなく、それを基礎としつつ範囲を広げたように見えます。それら発展した経済学派が、どのような関係にあるのか。それを知りたかったのです。p27に大まかな見取り図が書かれています。門外漢には、このような地図が欲しかったのです。

近代経済学は、理論としてはかなり完成度が高いものですが、余りに抽象化されていて、現実からは遠くなっていました。その道を進めば、算式ばかりが高度になります。しかし、それは現実経済を説明するものではなくなります。
「合理的経済人が、コストや時間がかからないという条件の下で、判断と交換を行う」という前提は抽象的すぎます。20世紀後半から始まった経済学の多様化は、その前提を取り外し、現実世界に引き戻したと考えたらよいのでしょう。

筆者が述べておられるように、本書は現在の経済学をすべて網羅してはいません。金融論、国際経済、国際金融、財政学、労働経済など、取り上げられていない経済学もあります。また、実学に近い応用経済学も、対象外です。しかし、それは欲張りというべきでしょう。

追記
ジャン・ティロール『良き社会のための経済学』(2018年、日本経済新聞出版社)も良い内容ですが、この本は分厚いですね。(2018年11月11日)

円高になっても、企業の業績は落ちない

2018年10月28日   岡本全勝

10月3日の日経新聞に、「通説を疑え」「「円高だと減益」本当? 11年で減益3回のみ」が載っていました。

・・・輸出で稼ぐ企業が多い日本。「為替が円高だと業績は減益になる」とのイメージは根強い。確かに個々の企業や事業は影響を受けるが、日本企業全体でも本当にそうなのか。
1998~2017年度の過去20年のうち、為替の年度平均が前年度に比べて円高・ドル安に振れたのは11年あった。この期間の上場企業の業績を調べてみると、意外にも「最終減益」となったのは1999、2008、11年度の3年のみにとどまった。様々な企業努力で円高のマイナス要因を吸収している姿が浮かび上がる・・・

・・・背景にあるのは、第1に海外への生産移転や原材料の現地調達だ。日本の自動車メーカーの米国での生産台数は17年で約380万台と30年前の10倍に増え、海外移転が進んでいる。
第2に、決済の工夫など為替対策の進展だ。ソニーは輸出で得た外貨収入と、輸入で生じる外貨の支払いを同じ通貨で相殺する「マリー(marry)」と呼ぶ手法を2000年以降、本格化。グループ内の為替・資金管理を一元化する会社をロンドンに設立した。
第3に、通信や建設など、為替の変動に左右されにくい非製造業が成長していることも影響していそうだ。非製造業の経常利益(金融含む)は19年3月期は26兆円の見通しで、製造業(24兆円)より多い。09年3月期以降は製造業を上回る状態が続く・・・

なるほど。「日本の経済は輸出依存」は、誤解ですね。個別企業に聞くと、業績の悪い企業は円高を理由に「困った」と主張するでしょうが、業績の良い企業は「黙っている」でしょう。原文をお読みください。

小中学校でのスマホ禁止

2018年10月25日   岡本全勝

10月23日の東京新聞が「学校でスマホOK?」を伝えていました。フランスの小中学校では、スマホを禁止したのだそうです。

・・・フランスは今年9月、すべての幼稚園と小中学校内でスマートフォンなどの使用を原則禁じる法律を施行した。勉強に集中させるとともに、校内での盗難やネット上のいじめを防ぐなどの狙いだ。世界では授業で積極的な利用を呼びかける国もあり、スマホと教育との関係は模索が続いている。
禁止されたのはスマホを含む携帯電話やタブレット端末、通信機能などがあるスマートウオッチ。仏生活環境調査観察研究所の調査によると、12~17歳の86%が携帯電話を持っており、中学生は大部分が影響を受ける。高校は学校の判断で独自に禁止できるが、すでに導入しているところは多い・・・

・・・スウェーデンでは、長時間のスマホの使用が脳や神経の発達に悪影響を及ぼすなどとして、フランス同様に禁止は定着している。2016年の調査では、10~15歳の57%が禁止に理解を示した。
ドイツでは9月、教職員組合がいじめへの懸念から、14歳以下の子どもの学校持ち込み禁止を呼びかけた。英国では学校ごとに対応が委ねられている・・・

・・・イタリアでは2007年から携帯の教室持ち込みを禁じていたが、2016年に解禁。政府は校内のWi-Fi化やブロードバンド化で、授業でも積極的に使用できる環境整備を進める。ファラオネ教育次官は「学習障害のある子どもにとっても助けになる」と述べ、全体的な学力向上が期待できるとの認識を示した。スペインでも解禁する自治体が相次いでいる・・・
・・・米国では校内への携帯電話の持ち込みを認める動きが広がっている。連邦政府機関のまとめでは、校内での携帯使用を禁じる公立学校は2009年度の91%から、2015年度には66%まで大幅に減った。
ニューヨーク市は2015年春、「子どもの安全が高まる」として携帯の持ち込みを解禁。これを主導したデブラシオ市長は父親としての経験から「保護者は子どもに電話したりメールを送ったりできるべきだ」と主張し、解禁の意義を「家族の尊重」とも述べた。・・・

原文をお読みください。

ピンピンコロリとはいかない

2018年10月24日   岡本全勝

10月18日の朝日新聞オピニオン欄「最期は好きにさせてよ」。

上野千鶴子さん(社会学者)の発言から。
・・・現場を歩いてきた経験から断言しますが、施設や病院に進んで入りたいお年寄りはいません。お年寄りは住み慣れた「おうち」が好き。でもそれは「家族と一緒にいたい」という意味と同じではありません。自分以外に誰もいない「おうち」でもおうちが好き。目をつぶっていても、電灯スイッチの位置がわかるとか、住まいとは身体の延長のようなものです。
施設を選ぶお年寄りは、子どもに迷惑をかけたくないという理由から。親を施設に入れる子どもは自分の「安心のため」。親の幸せのためではありません・・・
・・・いま、独居高齢者の数が増えています。2017年の厚生労働省の調査では65歳以上の高齢者世帯のうち、独居世帯は26・4%、独居予備軍の夫婦世帯は32・5%です。以前は死別してひとりになった親を子ども世帯が呼び寄せて同居するケースが多かったですが、独居になっても世帯分離が定着してきました。それ以前から世帯内での家計分離が起きていました。この変化のスピードは私の予想を超えています。
理由は単純です。「独居」はやってみると親にとっても子にとってもラクなことがわかってきたから・・・

遠矢純一郎さん(内科医)の発言から。
・・・ピンピンコロリが実現できるのは、せいぜい1割ほどの方たち。ほとんどの方は様々な病気とつき合いながら、老いていくのが現実です。だれもが「我がこと」として考えないと間に合いません。急に脳卒中になる可能性だって、あります。
私も鹿児島にいる母を自宅で看取りましたが、いざ当事者になると知らないことだらけでした。必要な窓口がどこにあるかを含め、戸惑いました。慌てず、望ましい最期を迎えるために、家族と意思を早めに話し合うことが大切です・・・

会社を退職しにくい日本の風土

2018年10月20日   岡本全勝

NHKインターネットニュースのウエッブ特集「会社からの非常口用意します」(9月26日配信)が、考えさせられます。 私は、最初に表題を見た際に、意味がわかりませんでした。

・・・退職の意向を本人に代わって会社に伝える「退職代行サービス」が少し前からネット上で話題になっています。「気持ちはわかるけど、そこまで必要?」と思いながら取材をすると、会社を辞めるに辞められず、心身ともにすり減らす人たちがいました。会社からの「非常口」を用意する、時代が生んだビジネスです・・・
・・・そもそも、退職に会社側の承認は不要です。民法では、期間の定めのない雇用契約については、解約の申し入れ後、2週間で終了することとなっています。辞めるのは働く者にある権利なのです。それでもなぜ退職代行サービスの需要があるのか、まず利用者に話を聞きました・・・

詳しくは、原文を読んでいただくとして。次のような指摘も書かれています。
・・・「日本で会社を辞めることは、『周囲に迷惑をかける自分勝手なこと』『仕事を続けることができないことは恥である』という考えがまだまだ根強い。コミュニケーションがとれない上司の下や、いわゆるブラック企業で働いていた場合、辞めたいと思い悩んでも相談する相手すらいないんです」・・・
・・・取材したアメリカ人のアレックス・マーティン記者は、次のように分析しています。
「転職によるスキルアップが定着している欧米人から見ると会社を辞めたくても辞められない日本の労働環境は奇異に映る。退職代行サービスが生まれた背景には、『karōshi』という言葉を生み出した国ならではの行き過ぎた仕事文化があるように感じます」・・・

先日「契約社会と帰属社会2」を書きました。会社との関係を契約と考える欧米社会に対し、会社への帰属と考える日本社会。その社会風土が、背景にあります。