カテゴリーアーカイブ:社会の見方

林宏昭著『日本の税制と財政』

2019年3月26日   岡本全勝

林宏昭著『日本の税制と財政』(2019年、中央経済社)を紹介します。

大学の財政学の講義(通年)で、半期を税制に充てる際の教科書、として書かれています。
次のような章立てになっています。
1市場の失敗と税、2政府支出と税、3望ましい税とは
4所得課税論、5日本の所得税制、6日本の所得税制の論点
7消費課税論、8日本の消費税
9法人に対する課税、10日本の法人税
11所得再分配と社会保障、12フィスカルポリシーと税制、13地方財政と地方税制

確かに、租税理論や税制の全体をこのようにまとめた本って、なかなかないですね。
専門家向けの詳しい解説や、財政学の中で数章充てられている本は、たくさんあるのですが。

ボストン市民社会の文化人類学

2019年3月25日   岡本全勝

渡辺靖著『アフター・アメリカ ボストニアンの軌跡と<文化の政治学>』(2004年、慶應義塾大学出版会)を読みました。いつか読もうと思っていたのですが、思い立って。面白くて、引き込まれました。勉強になりました。

アメリカ発祥の地、ボストン。そこには、伝統的な階級社会があります。アメリカ最古で最上の名門家族である「ボストンのバラモン」。他方で遅れてやってきた、アイルランド系移民家族の「ボストン・アイリッシュ」。彼らもまた、アメリカンドリームを実現して、中流の地位を占めます。そして、その後から来た移民が、その下の階級を形成します。
アメリカは、しばしば「保守とリベラル」「白人と黒人」と色分けされますが、白人社会にも、このような階級が存在します。

著者は、アメリカ人でない(日本人留学生)という立場にもかかわらず、勇猛果敢にこの人たちにインタビューを試み、実現します。そして、時には「語りたくない話」を聞きます。
まだ、電子メールがない時代です。その苦労は、並大抵だったではないでしょう。
一読をお勧めします。この項続く

輸入思想

2019年3月24日   岡本全勝

朝日新聞1月31日の論壇時評、小熊英二さんの「富山=北欧論争 リベラルは上滑りなのか」から。
小熊さんは、井手英策さんの『富山は日本のスウェーデン』(2018年、集英社新書)を紹介したあと、次のように述べています。

・・・もっとも井手は、富山のこうしたマイナス面も著書に書いている。そのうえで彼は、スウェーデンもかつては家族総出で働く保守的で家父長制的な社会だったこと、西欧をモデルにするばかりではいけないことを指摘し、こう述べている。
「リベラルの議論がどうしてもうわうすべりな感じがして仕方ないのは、社会の根底にある土台、風土や慣習のようなものと、そのうえに据えられる政策とがうまく噛みあっていないからではないか・・・保守的な社会の土台を見つめ、その何が機能不全となり、何が生き残っているかを見きわめる。そしてその土台にしっかりと根を張れるような、まさに地に足のついた政策をリベラルは考える責任がある」・・・

私はこの指摘に納得しているのですが、小熊さんは、井手さんの主張を批判しています。原文をお読みください。

いつものことながら、古くなって恐縮です。書こうと思って、切り抜いてあったのですが、他のことにかまけていて。資料にしろ本にしろ、すぐに他の資料の中に埋もれて「行方不明」になってしまいます。それが、ひょっこり出てきて・・。

日本的経営(大企業、終身雇用)が阻むイノベーション

2019年3月23日   岡本全勝

3月18日の日経新聞経済教室、リー・ブランステッター、カーネギーメロン大学教授の「イノベーションを阻むもの 戦後システムの名残一掃を」から。
・・・「日本企業はなぜもっとイノベーションを創出できないのか」という疑問は、過去20年間に次第に深刻度を増しながら繰り返し問われてきた。
戦後間もない頃の日本のイノベーション創出システムは見事な成果を挙げた。当時の日本企業は技術導入とイノベーション創出の両方に能力を発揮し、欧米企業との生産性格差を驚異的なペースで縮めた。だが1990年代半ばごろから、日本の全要素生産性は米国と比べて大幅に後退し始める(図参照)。国内総生産(GDP)比でみた日本の研究開発投資は韓国を除く先進国を上回る。それなのになぜ生産性は落ち込んだのか。
本稿では日本の過去の輝かしい実績も現在の苦境も原因は一つであることを示す。戦後期には日本企業の経営慣行と政府の政策が一体となりイノベーションを生み出すシステムを作り上げた。ただ先進技術に追いつこうとする時期には良かったが、画期的なイノベーションのゼロからの創出には適していなかった・・・

・・・翻って日本の戦後期のイノベーション創出システムはどうだろうか。例えば終身雇用制度は、大企業の男性正社員に盤石の雇用安定性を保障する。だがそれは、最も優秀な人材が地位を確立した大企業に就職し、定年までとどまる強力な誘因を形成する。この制度の下で、日本のイノベーションには既存の大企業が有利になるバイアス(ゆがみ)がかかることになった。
バイアスを助長したのが戦後日本の金融規制だ。株式・債券市場の発展が妨げられたことが銀行に有利に働き、メインバンク制が形成された。戦後間もない時期にはVCのような資金の出し手が存在しなかったため、既成価値を破壊するようなスタートアップはほとんど育たなかった・・・

低い日本の賃金

2019年3月22日   岡本全勝

3月19日の日経新聞1面に「賃金水準、世界に劣後 脱せるか貧者のサイクル」 でした。
・・・日本の賃金が世界で大きく取り残されている。ここ数年は一律のベースアップが復活しているとはいえ、過去20年間の時給をみると日本は9%減り、主要国で唯一のマイナス。国際競争力の維持を理由に賃金を抑えてきたため、欧米に劣後した。低賃金を温存するから生産性の低い仕事の効率化が進まない。付加価値の高い仕事への転換も遅れ、賃金が上がらない。「貧者のサイクル」を抜け出せるか・・・

詳しくは原文を読んでいただくとして、驚くような表がついています。
OECDが、残業代を含めた民間部門の総収入について、働き手1人の1時間当たりの金額を調査しています。1997年と2017年を比べると、この20年間で日本は主要国で唯一マイナスの9%下落です。
イギリスは87%、アメリカは76%、フランスは66%、ドイツは55%増えています。日本の平均年収は、アメリカの7割程度です。

最低賃金と労働生産性(労働者1人の1時間当たりの成果)の国際比較もついています。労働生産性は、このホームページでも紹介しているように、OECD加盟36か国中20位、G7で最下位です。日本は47.5ドル、アメリカは72ドル、ドイツは69ドル。改めて、びっくりしますよね。

平成の経済停滞で、企業がリストラを進め、従業員の給料も上げませんでした。それが、生産性の低迷を招いたという説があります。低賃金が、生産性の低い仕事を温存したというのです。世界で戦う製造業には、そのような説明もできるのでしょう。他方で、サービス業、特に外国からの観光客を相手にするようなサービス業では、欧米水準の価格にすれば良いと思うのですが。