カテゴリーアーカイブ:社会の見方

特許制度、脱「途上国モデル」

2019年5月21日   岡本全勝

5月14日の朝日新聞オピニオン欄「知財立国の足元」荒井寿光・元特許庁長官の「脱「途上国モデル」へ一歩」から。

・・・日本の特許裁判の賠償額は、全体的に低すぎます。2007年から17年の間で、最も高くて17億円です。一方、米国は2844億円です。中国は56億円ですが、政府は引き上げる方針です。賠償額は裁判所で決まる特許の価値ですから、高いほど勝手に使うことを抑える力になります。

日本の現状は「侵害し得、侵害され損」です。欧米に追いつき追い越せの時代には、この方がよかったからです。日本は欧米から基本的な技術を導入し、改良して安くて良い製品の輸出を伸ばして経済成長しましたが、米国から何度も特許侵害で裁判を起こされました。「侵害者」の日本としては米国の主張が認められにくい方がよく、負けても少ない賠償額で済ませたい。いわば「発展途上国モデル」を続けてきたのです。

歴史的にみれば、19世紀には新興国だった米国が欧州に対して特許を侵害する立場でした。米国は20世紀に知財大国になり、今度は中国が侵害する側になりました。その中国はいま、研究開発に力を入れ、特許の裁判や賠償制度を強化し、米国を追い越そうとしています・・・

質問、再質問

2019年5月17日   岡本全勝

NHKのウエッブニュース「城の石垣 半数以上が「修復必要」」(5月14日)。内容とは異なりますが、質問のあり方について考えました。

・・・NHKは「日本城郭協会」が選んだ日本100名城と続日本100名城を対象にことし3月、アンケート調査を行いました。
石垣のない城などを除く169の城について、管理している地元自治体などに用紙を送り、このうち73%に当たる124の団体から有効な回答を得ました。

はじめに城の石垣に関して日常的な観察や管理を行っているか尋ねたところ、92%に当たる114の団体が「行っている」と答えました。
「行っている」と答えた団体に頻度や実効性について問いかけると、「おおむねできている」が77と多数を占める一方で、「十分にできている」は5か所にとどまり、「あまりできていない」は32と、3割近くに及んでいました。
また、「現在、修復を要する被害や劣化は見られるか」と尋ねたところ、57%に当たる71の団体が「見られる」と答えました・・・

日常的な観察や管理を聞くと、9割が「行っている」と答えます。しかし、頻度と実効性を聞くと、3割はできていません。
これは、参考になります。ほかの問題でも、応用できます。「やっていますか?」と聞くと、「やっています」と答える場合があります。しかし、「では、どの程度やっていますか」を具体的に聞くと、形だけとか、実効的でないことがばれます。この質問は、具体的に聞く必要があります。「よくやっている」「ある程度やっている」といった、曖昧、主観的な選択肢では、意味がありません。

記者会見を見ていても、型どおりの質問をして、型どおりの回答があり、それで終わる、他の質問に移る場合があります。見ていて、残念な気持ちになります。「もっと、突っ込んでくれよ」と。
想定問答を準備している方も、再質問、再々質問を想定しています。突っ込みが足りないと、物足りないです。
その質問で何を聞きたいのか。それを考えて、質問と再質問を組み立ててもらいたいです。
余談ながら。事件や事故が起きたときに、質問に対し「詳細を把握していないので答えられない」「訴状を受け取っていないのでコメントできない」という答えがあります。ぜひ、数日後に、「その後どうですか」と聞いてほしいです。

データの国際管理

2019年5月16日   岡本全勝

4月29日の日経新聞オピニオン欄、ジリアン・テット、ファイナンシャルタイムズ編集長の「データに国際的枠組みを」から。

・・・第2次世界大戦末期の1944年、国際通貨制度を安定させる枠組みの構築を目指し、連合国の代表が米ニューハンプシャー州ブレトンウッズに集まった。
参加者たちは平和の促進と経済の成長にはお金の流れを監視することが欠かせないと考えた。戦争が終結すれば世界経済を再生しなければならず、そのための国際組織が必要だと考えたのは当然かもしれない。国際通貨基金(IMF)の創設が決まり、以来数十年、何とか目的が果たされてきた。
75年間の国際協調はたたえられるが、IMFは今やお金以外にも目を向けるべきではないか・・・
・・・昨年のデジタル経済に関するIMFのセミナーで、バルシリー氏はIMFがデータ規制で各国の協調を促し、さらにIT(情報技術)の発展が社会や経済にもたらす影響に対しても国際戦略を策定する時が来たと主張した。同氏によると、米S&P500種株価指数の構成銘柄の企業価値のうち、1976年時点で16%が無形資産だったが、現在は90%近くに上る。
これはデータ管理が重要な政策課題になったということだ・・・

かつて経済力は、資源であり、生産品・生産力でした。次に、お金でした。それも、蓄えているだけではダメで、どのように流通させるかです。
ストックとともにフローが、重要になりました。そして、いまは、情報です。
記事にもあるように、モノでなく無形資産(情報)に価値が移っているのです。これも持っているだけではダメで、早く入手し、読み取り、どのように使うかです。
価値が、見えるものから見えないものへと転換しています。そして、ストックでなくフローにとです。

中間団体の重要性

2019年5月15日   岡本全勝

5月9日の日経新聞「令和新時代」、猪木武徳・大阪大学名誉教授の「新技術 道徳と調和を」から。

・・・平成が始まった年は東西冷戦が終わった年でもあった。世界の体制変化と日本の経済力の相対的な低下が同時に進んだ。なかでも、中国の台頭は大きなファクターだ・・・

・・・中間組織に弱さ
経済でも、昭和は大企業が安定的に支配していたが、平成には野望を持つ新興企業が参入し市場を揺さぶった。一方で、国と個人の間にある中間組織が弱くなった。労働組合の組織率は低下、経営者団体もかつてのような発言力がない。民主的な精神が徹底したが、補完する装置は弱まった。
民主制を安定的に機能させるには、個人と国家が直接対峙するだけでなく、非営利法人(NPO)も含めた中間的な組織が大切だ。個人は弱いので団結して共同の利益を主張することも必要だ・・・

中間団体は、公共を考える際にも、重要な要素です。

未完の成熟国家、平成日本

2019年5月12日   岡本全勝

4月30日の日経新聞社説は、「未完の成熟国家だった平成の日本 」でした。

・・・昭和は悲惨な戦争と戦後の高度成長の記憶とともに歴史に刻まれた。焼け野原から世界も驚く復興を成し遂げ、昭和の終わりには製造業の技術力と価格競争力で米国を脅かす状況すら生まれた。
1989年(平成元年)末の日経平均株価の終値は、史上最高値の3万8915円。バブル経済の熱気が社会のひずみを際立たせもしたが、近代日本の一つの到達点だったといえる。
日本は経済成長の先にどういう国家目標を定めるかが問われた。平成の出典となった「内平らかに外成る」「地平らかに天成る」の言葉には、日本と世界の平和と繁栄への思いが込められていた。
しかし90年代に日本が直面したのは、バブル崩壊の後遺症といえる金融機関の不良債権問題や長期デフレ、冷戦後の国際政治の激動という現実だった・・・

・・・グローバル化の進展に伴って日本は産業構造を変え、成熟国家として社会の形を見直す必要に迫られた。しかし政府も企業も過去の成功体験を引きずり、痛みを伴う改革を先送りした。国際的な地位低下と財政の悪化に、有効な手を打つことができなかった。
政治家も努力はした。有権者が政策本位で政権選択をしやすいよう、衆院選に小選挙区制を導入した。首相官邸の機能強化や中央省庁の再編も実現した。それでも低成長時代を見据えた有効な手立てを講じてきたとは言いがたい。
平成の時代に直面した最大の試練は、人口減社会の到来だろう。少子高齢化で人口が急減する恐れは早くから指摘されていた。しかし若年層の雇用や所得水準はむしろ悪化し、出産や育児、教育への支援策も後手に回った・・・

・・・政治や経済の行き詰まりが目立った半面、平成は日本にとって文化面では実り豊かな時代だったと振り返ることができる・・・
・・・日本は経済規模で中国に抜かれた。その差はさらに開くだろう。欧米ではポピュリズムと自国中心的な流れも目立ち始めている。日本は先進民主国家として、法の支配や自由貿易、最先端の科学と文化を通じ、世界で存在感を高めていく戦略と努力が重要だ。
平成が終わり、令和の時代が始まる。我々は多くの課題を抱えながらも、いま平和と繁栄を享受している。難しい問題を一つ一つ解決し、明るい未来を次の世代にひらいていく責任がある・・・