カテゴリーアーカイブ:社会の見方

情念が時代を動かす

2019年6月5日   岡本全勝

鹿島茂著『ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789-1815』(2009年、講談社文庫)が面白かったです。
物欲や性欲、名誉欲、これらの情念によって人は動き、歴史が作られます。ところが、この上にさらに人を動かす情念があるというのです。陰謀、移り気、熱狂です。しかも、この3つを体現した人物が歴史を大きく動かした。それが、この本の内容です。
陰謀情念はジョセフ・フーシェ。移り気情念はタレーラン。熱狂情念はもちろんナポレオン・ボナパルトです。
ナポレオンはよく知られていますが、あとの2人はそれほど知られていないでしょう。先に、シュテファン・ツワイク著『ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像』を岩波文庫で読みました。これも面白かったです。

英雄を中心とした歴史は、かつてほど評価を受けなくなりました。もちろん、一人や二人の英雄によって、歴史が大きく変わったり、社会が大きく変わることはないでしょう。その時代が置かれた背景、社会や産業の構造に規定され、英雄も一人ではすべてを決定できません。
しかし、フランス革命やヒットラーを見ると、「この人がいなかったら、違ったことになっていただろう」と思います。

ナポレオンが軍事の天才としても、それを熱狂的に支えた国民、志願して従軍した若者がいたから、いくつもの戦争が成り立ちました。
しかし、ナポレオンが、ある時点で満足していたら、あるいは周囲の反対意見を聞いていたら、ロシアやワーテルローで負けることはなく、ナポレオン帝国は続いていたでしょう。ライプツィヒで負けたときにも、ナポレオン1世が退位して、息子に継がせるという停戦案もあったのです。しかし、熱狂に動かされるナポレオンは、その情念に従って自滅します。

より興味をそそるのは、そのナポレオンにからむ、フーシェとタレーランです。かれらも、自己の情念に動かされ、様々な策謀をします。ここは、本を読んでいただくとして。
歴史は、このようにも読むことができるのだという傑作です。もちろん、学問的研究でなく、小説ですよ。

キャッシュレスの便利さと心配

2019年6月4日   岡本全勝

6月1日の読売新聞解説欄で、スウェーデンのキャッシュレス事情を伝えていました。「キャッシュレス 民間が主導
現金お断りの店や博物館、券売機などが紹介されています。
同じく3日には、各国のキャッシュレス決済比率がグラフになっていました。ドイツが16%、日本が20%、アメリカは46%、スウェーデン52%、中国60%、イギリス69%、韓国は97%です。

確かに、カード払いは便利です。私も、飲食店や本屋ではクレジットカードで、コンビニでの買い物は電子マネー(スイカ)済ませます。電車に乗るのは、スイカで便利になりましたよね。いちいち切符を買わなくてすむし、ほとんどの私鉄でもバスでも使えます。小銭を持ち歩かなくてよい、おつりをもらわなくてもよいので、便利です。現金で払うのは、お医者さんくらいですかね。
海外旅行でも、便利です。ユーロはまだしも、ハンガリーのフォリントや、チェコのコルナに両替して、出国する前に小銭を使い切るのは面倒です。そして、種類が増えると面倒な上に、あちらの貨幣は部厚くて重いです。もっとも、あちらでは無料の公衆トイレは少なく、おばさんが座っているので小銭が必要です。

ということで、私は現金払よりカード払いに賛成なのですが。一つ気になることがあります。子供です。彼らがカードを持って、紙幣や貨幣での買い物をしなくなると、計算が上手にならないのではないかと心配しているのです。
もう一つは、お小遣いや貯金です。もちろん、これらもカードでできないことはありませんが。紙幣や貨幣を見ずに、スマホの上での数字だけで、お金のありがたみが実感できるでしょうか。
電子機器の発達で便利になるのはよいのですが、子供の発達や学習に悪い影響はないでしょうか。いかに機器が発達しても、簡単なお金の計算は、頭でしなければなりません。
もちろん、多額、多数の数字の計算は、電卓やコンピュータに任せると便利です。しかし、日常生活に必要な暗算は、電卓に置き換えるわけにはいかないのです。

クールビス15年

2019年6月3日   岡本全勝

5月31日の朝日新聞オピニオン欄「官製クールビス15年」から。
倉田真由美さん(漫画家)
・・・クールビズは政府が上着なしでいい、ノーネクタイでいいと、かつての常識を破ることを保証しているわけで、強制ではありません。服装は自己表現でもあり、その人がどんな価値観を持っているのかが詰まっていると思います・・・

MBさん(ファッションアドバイザー)
・・・僕は、洋服は他人のために着るものだと思っています。TPO、時と所、場合にふさわしい格好をすること、相手や周りの人たちに対する敬意や気遣いの表明だと考えています。会う相手がしわのないシャツにジャケット姿で来られたら、気を使ってくれているんだなと感じるじゃないですか。
それが、ジャケットやネクタイなしでもいいんですが、ぶかぶかの柄入り半袖シャツやだぼだぼのチノパンだったら、どうでしょう。クールビズ自体が悪いとは思っていませんが、「涼しければいい」ではないだろうと・・・

中野香織さん(服飾史家)
・・・スーツという武器を手放した男性は、おしゃれな人と、ただだらしなくなった人に、残酷に二分されてしまったと思います。一方で、威厳がなくてはいけないという「男らしさ」から解放され、自分なりの美意識を磨く方向に歩き出した男性もいました・・・

過去の記事「クールビズ10年

「標準型家族観」からの転換

2019年5月31日   岡本全勝

5月28日の日経新聞経済教室、白波瀬佐和子・東京大学教授の「人口減少社会の未来図 「包摂型」へ格差に積極介入を」から。
・・・人口減少の重要な要因の一つに少子化がある。少子化とは、人口置換水準(人口の国際移動がないと仮定し、一定の死亡率の下で現在の人口規模を維持するための合計特殊出生率の水準)に満たない状況が継続することをいう。その背景には60年代の成功体験を支える家族・ジェンダー(性差)を巡る考え方がある。
79年に自民党政務調査会が提案した「家庭基盤の充実」は、男性1人稼ぎ手モデルに代表される固定的な性別役割分業体制を前提としていた。しかし今では、非正規雇用率が高まり、若年市場の悪化が進んで、家族を形成する時期が遅れているうえ、自らの家族を形成しない者も増えた。
初婚の平均年齢は60年には男性27.2歳、女性24.4歳だったが、17年にはそれぞれ31.1歳、29.4歳となった。50歳時の未婚率は、60年には男性1.3%、女性1.9%だったが、15年にはそれぞれ23.4%、14.1%と大幅に上昇した・・・

・・・日本は今なお、伝統的ジェンダー体制を基に標準型家族を前提とする社会保障制度の下で、医療、所得、雇用、福祉など社会的リスクへの制度設計は縦割りで、人々の様々な生活リスクの第一義的対応機能を家族が担う場合が多い。しかしながら現実には、病気の子や要介護の親を抱えながら、あるいは自身が何らかの障がいをもって働くことも、決して例外的なことではない。
医療や所得保障、雇用や教育の制度設計にあたり、リスクが重なり合う場面を想定せねばならない。そこでわれわれが目指すべき社会モデルの一つが包摂型の未来だ。その理由は、これまで単線的、かつ縦割り的な制度設計の中で、十分に才能を開花させる場面に恵まれなかった人々の状況を修正することにある。負の遺産を解消すべく斬新な発想を社会実現につなげ、承認・支援の環境を積極的に構築する必要がある。そこにこそ日本の未来がある・・・

・・・ここでのポイントは、評価軸が一つでないので善しあしの基準が一元的でないこと、複数の軸が単純な上下関係にないことにある。
日本がかつて同質社会と特徴づけられた背景には、この評価軸が一定で、物事の善しあしの判断が単一基準によりなされてきたことがある。しかしながら超高齢社会の日本が手本にすべき既存モデルがない中で、直面するリスクをチャンスに変えるにはまず価値のパラダイムシフト(枠組み転換)が必要となる。既存の評価軸だけでは不十分だ。
もう一つは、世の中を変えるため、既に存在する格差に能動的に介入することだ。そこでの介入を一時的に終わらせないためには一定のスケールが必要で、世の中を動かす起動力となるまで高めねばならない・・・

長寿によってそぐわなくなる既存制度と意識

2019年5月30日   岡本全勝

5月23日の朝日新聞1面に「人生100年、蓄えは万全? 「資産寿命」、国が世代別に指針 細る年金、自助促す」という記事が載っていました。

・・・人生100年時代に向け、長い老後を暮らせる蓄えにあたる「資産寿命」をどう延ばすか。この問題について、金融庁が22日、初の指針案をまとめた。働き盛りの現役期、定年退職前後、高齢期の三つの時期ごとに、資産寿命の延ばし方の心構えを指摘。政府が年金など公助の限界を認め、国民の「自助」を呼びかける内容になっている・・・
金融庁の指針案は、金融審議会の資料「高齢社会における資産形成・管理」という報告書案のようです。

・・・平均寿命が延びる一方、少子化や非正規雇用の増加で、政府は年金支給額の維持が難しくなり、会社は退職金額を維持することが難しい。老後の生活費について、「かつてのモデルは成り立たなくなってきている」と報告書案は指摘。国民には自助を呼びかけ、金融機関に対しても、国民のニーズに合うような金融サービス提供を求めている。
報告書案によると、年金だけが収入の無職高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)だと、家計収支は平均で月約5万円の赤字。蓄えを取り崩しながら20~30年生きるとすれば、現状でも1300万~2千万円が必要になる。長寿化で、こうした蓄えはもっと多く必要になる・・・

長寿は良いことなのですが、これまで私たちが想定していた「人生モデル」が成り立たなくなっています。