「経済」カテゴリーアーカイブ

経済

全要素生産性

日経新聞経済教室は、4月2日から5日まで、TFP(全要素生産性)を特集していました。聞き慣れない言葉ですが、生産性=経済成長(投入量に対する産出量の割合)のうち、労働要素(労働時間数)と設備要素(機械や工場などの資本)を除いたものです。
すなわち、「その他何でも」なのですが、技術革新だけでなく、労働者の質ややる気、技術や資源・人をどう有効に活用できるかといった社会制度や慣行も含まれます。ただし、TFPは引き算で出てくるので、その内容は数量的には正確には分かりません。
労働・資本・TFPの3つが上昇すれば、経済が成長するということです。労働時間が増えなくても、資本が増えなくても、TFPが上昇すれば生産性は上がるのです。JRなどは良い例ですね。従業員は減ったのに、売り上げは増えたのですから。
すると、政府・社会としては、どのようにしてTFPを引き上げるかが、重要な課題になります。工学的な技術革新だけでなく、それを生産・流通・消費に応用することが重要なのです。また、労働力の質を引き上げ、より必要なところに回すこと、資金をより成長する分野に投資することも、重要です。人や資金が従来型の生産性の低い分野にとどまることなく、成長分野に移すため、規制改革・社会の枠組み改革は、この意味からも重要なのです。
経済学での「需要と供給」では、供給の議論ですが、これが需要にも影響を及ぼすことも指摘されています。TFPは、経済財政諮問会議での、重要な議論の一つになっています。

規制改革の効果

内閣府は、1991年度から2005年度までの、規制改革による経済効果を発表しました。それによると、累計で18兆円、国民一人当たりでは14万円になります(29日付け日本経済新聞など)。経済効果は、規制改革がなかった場合と比較して、「競争による価格低下」と「需要の拡大」を試算したものです。大きかったのは電力で、小売り自由化などで価格が4割近く下がっています。知りませんでした。携帯電話も、価格(料金)が6割低下しました。トラック貨物運送も、料金規制や参入規制をゆるめたことによって、価格が3割近く下がりました。

経済財政6

八代尚宏先生が、「健全な市場社会への戦略」(東洋経済新報社)を出版されました。「小泉時代から始まった構造改革は、まだ始まったばかりであり、市場経済と社会保障を組み合わせた『健全な市場社会』を実現するには何が残された課題かを示す必要がある」と書いておられます。取り上げられている項目は、労働契約法制、社会保障改革、年金制度、医療制度、働き方、保育所と育児保険、外国人労働者、義務教育、大学、農地と農協、構造改革特区、市場化テストなどです。
日本の経済社会の課題と、どのように改革すべきかが、わかりやすく取り上げられています。日本経済と構造改革の教科書でもあります。ご関心ある方は、お読みください。(1月30日)
2日の日経新聞経済教室は、樋口美雄教授の「仕事と生活調和、基本法で」でした。これまでの企業と正社員との間には、誇張して言えば「保障と拘束」の関係があった。企業は正社員に家族手当などを支払い、生活を保障する代わり、その代償として長時間残業や頻繁な転勤といった拘束をかけてきた。その反面、この拘束に耐えられない労働者は生活保障の対象から外され、非正規労働者として天井の低い補助的な仕事しか与えられてこなかった・・・。(2月3日)
16日の経済財政諮問会議は、成長力底上げ戦略、 規制改革・構造改革特区、 市場化テストについてでした。
規制改革では、民間議員から「規制大国からの脱却と消費者主権の確立を」という提言がなされています。ここに、考え方とこれから取り組まなければならない分野が書かれています。
「・・岩盤の如き規制が残っている。それは、健康・医療・保育・教育など生活に密着した分野であり、消費者の潜在的ニーズが高い分野の規制である。この分野の規制改革によって、消費者の立場に立った良いサービスが豊富に供給されない限り、豊かな高齢化社会は実現しない。
これらの分野は、何らかの政府関与が不可欠な場合が多く、それゆえに規制が強固に残されてきたとも言える。しかし、だからと言って、消費者の選択肢が狭められたり、供給不足による行列が余儀なくされたり、価格が高止まりしたりする状態が是認されることにはならない。消費者ニーズの高い分野こそ、供給者の創意工夫を高めるために規制を緩和し、それとセットで事後的監視を強化することが必要である・・」
そして、「事後的な監視機能を高める」方法として、 消費者保護ルール(情報開示ルール等)の確立、 各省庁における消費者保護部門と産業振興部門の切り離し(消費者保護を徹底させるために、各省における消費者保護行政と事業者監督部門とを明示的に分断)、消費者の視点からサービスの質を評価する第三者機関の整備・強化が挙げられています。
市場化テストについては、「公共サービスの全面的な改革のために」で、これまで対象事業が少ないことへの対策として、これまでは民間提案だけだったが、下記のように、監理委員会が官が自ら直接行う必要があるとは言えない」分野を選定し、市場化テストを導入する手法を加えるべきではないか、と提案しています。(2月17日)
9日の日経新聞経済教室は、林良造教授の「イノベーション、医療軸に」でした。技術の発達と良い医療を求める国民とで、医療分野は発展が期待される分野です。しかし、最新の機器や医薬が使えないのです。現在の医療制度や規制が、それを阻んでいます。もちろん、安全に関することですから、十分な配慮は必要ですが。次のように述べておられます。
この分野では、生命を扱うという特殊性や情報の非対称性の大きさ、公費投入などから、どの国においても参入・価格設定などで政府の影響力が強かった。現在、グローバル化と技術革新に対応し、医師、患者、企業とも最新の技術にアクセスできる環境を求めて、国境を越えることが現実になりつつあり、政府の関与のあり方も大きな変革期を迎えている。
すなわち、医療制度改革は、単に医療費総額や医師数、病床数を算術的に抑制するのではなく、各種資源の適材適所への配置がなされ、質の高い医療サービスの効率的な提供を実現するインセンティブを内蔵した制度へと変換していくことが求められている・・。
そうですね、行政構造改革は、単に公費支出を少なくするために行うもの、小さい政府を目指すだけではありません。規制改革も、より視点を広げています。近年は、「官製市場」改革という言葉を使っています。例えば、規制改革・民間開放推進会議の「官製市場の民間開放による民主導の経済社会の実現」(平成16年8月3日)では、官製市場を、
「・政府自らがサービス等の提供を行っている
・民間に開放されてはいるものの、サービス等を提供する主体が制限されている
など公的関与の強い市場」と定義しています。
先日、このHPでは、行政改革を行政構造改革まで視野を広げて、目的別に近年の実績を整理しました(行政改革の分類)。(3月11日)
日経新聞14日の経済教室は、清成忠男先生の「底上げ戦略、革新企業軸に。中小=弱者は誤り」でした。
一般の中小企業像には、しばしば誤解がある。中小企業の象徴的な存在として、よく製造業の下請け企業がイメージされる。だが、総務省の事業所・企業統計調査によると、2004年には中小企業の76.9%は第三次産業に属し、その割合は拡大傾向にある。製造業は11.3%、下請け企業の比率は中小企業全体のわずか数%にすぎない。下請け取引関係も、かつての縦割りの支配・従属の状況にはない。製造業を軽視するつもりはないが、中小企業の主要分野は第三次産業であることを確認しておく必要がある・・・(3月14日)
(政策立案の手法)
16日の日経新聞経済教室は、清水谷諭助教授の「社会保障制度の再設計へ、世界標準のデータ整備を。中高年を追跡調査」でした。
これまでの社会保障議論には、2つの大きな視点が欠けている。まず、密接に関連する年金、医療・介護といった社会保障政策や高齢者雇用などが、それぞれ縦割りで議論されていて、分野を超えた横のつながりが弱い。政策のあり方を考える際に、担当する役所でなく、政策の恩恵を受ける受益者の立場に立つことが重要だ。
次に、財源論だけに議論が集中している。政策変更に対して個人がどのように反応するかや、個人の多様性を見落としている。
従来の縦割りで財源論に特化したアプローチから、受益者の立場に立って分野横断的で個人の違いにも目配りの利いた新しいアプローチへ、発想を転換する必要がある。
それを実現するには、ケーススタディの積み重ねでは難しく、豊富な情報を含む数万人単位のデータベースを構築し解析することが必要だ。欧米やアジア諸国でも行われており、唯一の空白地帯が日本である。(3月17日)
(イノベーションが広がる仕組み)
17日の朝日新聞は、「無償で開花、QRコード」を解説していました。最近、バーコードに変わって見かける、あの変な幾何学模様の四角形です。携帯電話のカメラで取り込むと、ホームページに簡単に接続できたりします(私はやったことがありませんが)。元々は、トヨタ自動車の工場で使われる生産管理のためのものだそうです。バーコードでは情報量が不足するので、開発されました。バーコードの数十倍もの情報量を書き込み、読み取ることができます。あの小さな四角形で、400字詰め原稿用紙を4枚半も書き込めるのです。
特許を公開したことで利用が広がり、いまや車検証、空港のチェックインにも使われ、健康保険証にも利用される予定だそうです。物流での履歴管理を想定していたのに、携帯電話で使われるとは、想定外だったとのこと。
でも、イノベーションって、そうなんですよね。思わぬ方向で広がることがあります。もっとも、このような2次元コードには、欧米にライバルがいて、まだこれが世界標準ではないそうです。(3月17日)

経済財政5

今日18日に経済財政諮問会議が開かれ、「日本経済の進路と戦略」が議論決定されました。これは、今後5年間の経済と財政の中期展望です。5年前に小泉内閣がつくったのは、「改革と展望」という名前でした。さかのぼれば、池田内閣の「所得倍増計画」もこの系譜です。資料として、「参考試算」がついています。経済成長、物価、財政収支の見込みなどが示されています。これについて、簡単に解説します。
(4通りの想定)
日本は計画経済ではないので、これらの数字はあくまで見込みです。今回は、「進路と戦略」が効果を発揮する場合と、効果を発揮せずまた世界経済が減速するなど厳しい場合の2つを想定しています。前者の場合は、規制改革が進み、生産性も上がり、働く人が増える(人口は減りますが労働に参加する人が増えるのです)ことを想定します。そして、財政は、「骨太の方針2006」で想定した、今後5年間で国と地方で14.3兆円削減する場合と、11.4兆円削減する場合を想定しています。この組み合わせで、4通りになります。
(試算の方法)
試算結果p2から、順に説明します。まず、最初に「潜在成長率」の図が出ています。これは聞き慣れない言葉ですが、供給側の成長能力と考えてください。設備、労働力、生産性の3つが、どれくらい伸びるかです。しかし、能力があっても使い切らない場合、すなわち需要がない場合は、この通りに成長しません。それが、次の「実質成長率」の図です。近年は能力が使われなかった=需要不足だった状態から、成長を続けたので、潜在成長率より実質成長率が高かったのです。
もう一つの要素が、物価です。「消費者物価」(p3中段)はその一つですが、経済全体ではp3の下「GDPデフレーター」となります。これまではデフレで、マイナスでした。2007年からプラスになると予想しています。実質成長率にGDPデフレーターを足すと、p3上の「名目成長率」になります。推計するときはこの順に行いますが、実績値は名目成長率が観測され、そこからデフレーターを引いて実質成長率を割り出します。だから「デフレター」であって、インフレーターではないのです。
(結果)
さて一番いい想定(移行シナリオ、14.3兆円削減)だと、名目成長率は順調に上昇し、2011年には4%近くにまでなります。この場合は、国と地方合計の基礎的財政収支は、プラスになります(p4上の図)。11.4兆円削減では、プラスになりません(p8上の図)。これは、簡単には次のように説明できます。「骨太2006」では、3%の経済成長を続けた場合、2011年に基礎的財政収支をプラスにするには、今後16.5兆円の削減が必要とされていました。その後、国では3.5兆円もの税収増があったので、単純には削減必要額は16.5-3.5=13兆円になっています。すると、14.3兆円削減するとプラスを達成できるのです(19年度予算では、すでに3.5兆円削減しています)。
(喜んで良いか)
ただし、これで喜んではいけません。まず、14.3兆円の削減は、大変なのです。また、今後3%の経済成長を前提としてます。しかし、2006年度の名目成長率は1.5%、2007年度は2.2%の見込みです。
なお、この3年間、特に国税収入が大きく伸びています。これは一種のボーナスです。すなわち、繰り延べ欠損という制度で、会社はある年の赤字を後の年まで繰り越せるのです。すると、業績が赤字から黒字になっても、しばらく税金は払わなくても済みます。2000年代前半に経済の落ち込み以上に税収が大きく減り、この3年間は経済成長を大きく上回る税収の伸びがあるのはこのためです。通常、租税弾性値(経済成長率に対する税収の伸び)は1.1を使います。中期的にはこれが実績なのですが、近年は大きくずれています。
また、そもそも基礎的財政収支では、財政が健全化したとは言えないのです。この場合は、なお国債残高は増加します。また、赤字国債も発行しています。利払いを含めた財政収支は、赤字なのです。基礎的財政収支の黒字化は、一里塚でしかありません。
しかし、ようやく基礎的財政収支の黒字化が見えてきました。ここ数年は、デフレでしたので、そのような見通しも立たなかったのです。
(国と地方)
国に比べ、地方の財政収支は、よくなっています(p5の2つの図)。ただし地方の中には、非常に好調な東京都と、まだまだ大変な田舎の町村が含まれています。また、地方が赤字になったのは、それぞれの団体が自由に財政運営したからではありません。国が地方の税制を決め、支出の多くを義務付け、あるいは誘導したのです。小渕内閣で大きな減税をしましたが、これは国が決めたことです。そこで、国がその大半を補填することにしたのです。「地方より国が大変だ」という主張をする人がありますが、それは、このような背景を忘れたものです。
(1月18日)
23日の日経新聞経済教室は、小塩隆士教授の「高齢者内の再分配拡充を。所得税見直しに柱、世代間扶助のみ不十分」でした。長期的な拡大傾向にある日本の所得格差のかなりの部分は、高齢化で説明できる。高齢層は現役層より所得格差が大きく、高齢層の割合が高まれば、社会全体の所得格差も拡大する。しかし、高齢層の格差が現役層より大きいのは、他の先進国にはあまり見られない、日本特有の現象だ。さらに、高齢層の中で一定の所得水準に満たない貧困世帯の比率も、日本は先進国の平均を上回っている。
最近の所得格差は、再チャレンジ支援策で対処すべきだとの声が強い。もちろんこれは重要だが、高齢層は再チャレンジがそれほど容易でないだけに、より直接的な所得支援があった方が良い。
日本の再分配政策は、今まで重視してこなかった、また重視する必要のなかった救貧政策の側面を、強める段階にある。現行の制度は公的年金など現役層からの所得移転で、高齢層内部での再分配の度合いは極めて限定的である。(1月23日)
24日は、森信茂樹教授の「是正は個人の能力向上で。ブレア政策にならえ、給付付き税額控除を軸に」でした。
税と社会保障を一体化し、弱者の生活を保障するのでなく、弱者を再び市場に送り出すというものです。生活保護の人が働き始めると、保護費が減額されますが、全額を差し引くのでなく、手取額は所得に応じて増えるようにするのです。あわせて、子どもの数に応じて給付・税額控除があり、高所得になると打ち切られます。すなわち、低所得の人には社会給付がありますが、状況がよくなると給付が減り、さらによくなると税額控除が減り、そしてさらによくなると税額控除もなくなるのです。
ただし、社会給付と税額控除を連動させるためには、指摘しておられるように、いくつかの問題もあります。もっとも、イギリスでできているのですから、難しい問題ではありません。(1月24日)
25日の読売新聞論点は、加藤智栄さんの「医療材料費削減、内外価格差の是正必要」でした。「日本の医療費は約32兆円で、パチンコ産業とほぼ同額であり、国民の命を守るのに決して高いと思わない。医療費を抑制するのであれば、内外格差が甚だしい医療材料費の削減を大胆に行うべきである。日本の医療は、技術料が低く抑えられているが、材料費が諸外国に比べて異常に高い。虫垂炎手術を日本で行えば7日間の入院で約38万円で済むが、ニューヨークでは1日の入院で244万円、北京では4日入院で48万円である。一方、心臓ペースメーカーの内外価格差は3~4倍である。日本では116~148万円、中国では外国製品で80~100万円、国産品で40~80万円・・・」(1月26日)
(記者さんとの会話)
記:再チャレンジ支援で、フリーターの人に技術を身につけてもらい、常用雇用になってもらう、というのがありますよね。
全:そう。それも、単純に技術を身につけるのではなく、企業の求めに応じたものとか、工夫しているよ。
記:でも、現在の労働市場が均衡状態にあるとすると、200万人のフリーターは減りませんよね。労働者が労働の供給側、雇う企業が需要側で、現在の状態で、それなりに双方が合致しているのですから。200万人のフリーターが全員技術を身につけても、200万人の優秀なフリーターができるのではないですか。
全:他の条件が変わらないとすれば、それは当たっているね。企業が常用採用を増やさない限り、200万人のフリーターや失業者の数は変わらない。
しかし、マクロではそうだけど、個人に着目すると、技能をつけた人は採用されやすいから、人の入れ替わりは生じるよね。さらに企業は、そのような人だったら、正社員にしようと考えるかもしれない。また、ミスマッチによる失業も、解消される可能性がある。次に、日本経済は、閉じた世界ではない。日本の労働力の質が上がれば、海外に移転している企業が、日本に戻ってくることもある。
もちろん、景気がよくなって、企業が採用を増やしてくれるのが、一番の解決策だけど。
記:なるほど。日本の労働者は、外国の労働者と競争しているということですよね。単純労働だと、安い海外労働力に勝てないですね。企業は世界で競争しているから、同じ労働力なら安いところで生産しますよね。あるいは、安い労働力を使う海外企業に負けますね。
全:日本は外国人労働者の受け入れを規制しているけど、労働力にも、国境はなくなっているということでしょう。(1月30日)

経済財政4

20日の東京新聞「新生経済財政諮問会議民間議員に聞く」、伊藤隆敏議員の発言。
「小泉・竹中チームと、安倍・大田チームがよく比較されるが、日本経済が置かれている状況は全然違う。小泉・竹中チームの2002年、03年は不良債権が大問題で、旧体制をまず壊すという改革が重要だった。いまは、経済成長率も高くなり、期待されているのは成長をいかに持続していくかということだろう。壊れた後に新しい建物を建てる、創造する、というのがわれわれの置かれている状況だ」。(10月21日)
今日、経済財政諮問会議が開かれ、重点改革分野と第1回の集中審議・地方の改革が行われました。地方の改革がなぜ1番目に選ばれたかは、定かではありませんが、重要な改革課題と認識されていることは間違いないようです。それは、喜ばしいことです。有識者提出資料(民間委員ペーパー)は、詳しくは本文を見ていただくとして、私なりに考えたことを述べます。
今回のペーパーの特徴です。まず、分権改革(権限と責任を地方に移す一括法)と、その先の道州制を明確に位置づけました。これは、前書き(本文)と、項目1です。次に、その分権改革の具体項目を書いてあります。項目2~4です。数値目標と期間が明示されています。そして、3つめが歳出削減です。これが項目5、6です。このように、3つの部分からなっているようです。
これまでの諮問会議、骨太の方針との違いは、抜本的分権のための、次なる道筋を明らかにしたことでしょう。これまでの到達点(第1次分権改革、三位一体改革)を踏まえ、次なる道筋を示しました。項目1~4までは、これまでの諮問会議、骨太の方針にないことです。もっとも、これは有識者資料であって、まだ骨太の方針や閣議決定になっていません。反対勢力もあるようですから、これからも紆余曲折があるようです。
今朝の新聞に未公表資料が出ていたようで、記者さんから質問(詰問)がありました。
記「なぜ出るのでしょうかね、しかも、いつも同じ新聞社です(私にも教えてくださいよ。そうしないと私の立場がありません)」
全「そう言われてもねえ。有識者が書いておられるし。もし、僕が持っていても、出すわけにはいかないよ」
記「じゃあ誰が出すのですか」
全「第一次当事者でなく、それをもらった人。その人は資料の機密度は知らないから、お気楽に出すね。もう一つは、漏らすことで、つぶしたい人だね」
記「なるほど」
(10月24日)
今朝の各紙は、昨日の経済財政諮問会議を報道していました。日経新聞は「新分権一括法案3年以内に、国・地方の税配分明記」でした。読売新聞は「5兆円移譲議論スタート、自治体格差是正カギ」でした。
民間委員ペーパーで論点が設定され、関係者も同意して方向は定まりました。これからは、その目標に向けて、問題点を解決していく過程に入ります。その問題点は、簡単なものではありません。簡単なら、とっくに解決していました。何かを犠牲にしなければ、みんなが喜ぶ解決はありません。地方団体や分権改革を進めようとする人たちは、その解決策を提案する責任があるのです。それを提案しない限り、守旧派は「問題がある」といって、改革を先送りします。(10月25日)
29日の日経新聞読書欄「経済論壇から」で、大竹文雄教授は次のように書いておられました。
安倍内閣の経済政策を担当する経済学者を紹介して、「今後、政策運営にどの程度経済学的な知識が反映されていくのかについては、まだ不明な点も多い。しかし、経済政策の決定に、専門的な知識が不可欠であるという認識が高まってきたことは間違いないだろう・・・政治的な意思決定が教科書的な経済学ですべて決めることができるほど単純でないのは当然である。しかし、経済学者が政策に参加することのメリットは、経済学的な思考実験を行って、政策のメリットとデメリットを整理することができる点にある」
「経済政策や規制の設計は、日本では利害関係者が調整をするという形で決められることが多かったのではないか。例えば、八代氏は・・・労働市場の改革を、労使間の利害調整に終始する労働審議会だけで審議する時代はもはや終わったのではないか、と述べている。こうした中、政府税調が利害調整の場から専門家集団に衣替えされることは注目すべき変化だ」。(10月30日)
今日は、経済財政諮問会議が開かれ、社会保障改革と公共投資改革が議論されました。有識者ペーパーには、総量削減の他、地方との役割分担についての記述もあります。(11月10日)
15日の朝日新聞時々刻々は、「さえない最長景気」を解説していました。1965~70年のいざなぎ景気、86~91年のバブル景気、2002年~現在の最長景気の比較が、わかりやすい表になっています。平均実質経済成長率は、順に、11.5%増、5.4%増、2.4%増です。物価は、27.4%増、8.5%増、今回は0.4%減です。月給も、79.2%増、12.1%増、1.2%減です。景気拡大、好景気が続いているといっても、内容が全く違います。(11月15日)
29日の朝日新聞「どうする財政」は、「借金大国。果実、返済か分配か」でした。「不況時の財政悪化は仕方ないが、警戒回復期の税収増でその穴を埋める、というのが財政学の基本だ。ところが日本では国債発行を始めた1965年度以来、普通国債残高(国の借金)が減ったことが一度もない。不況時だけでなく、好況時にも税収増の果実をばらまき続けたからだ。典型がバブル期の・・」
その通りです。これについて、2点指摘しておきます。
この記事にあるように「不況時には国債を発行し、好況時にはそれを返す」と、経済学の教科書は書いてあります。これがケインズ政策の有効需要創出策です。しかし、日本はケインズ政策をつまみ食いしてきました。不況期には国債を増発して需要を作りますが、景気回復時に国債を繰り上げ償還しないのです。すべて60年償還なのです。ところが、このことを指摘した本が見あたりません。私の勉強不足で、書いてある本があったらお詫びします。私は、新地方自治門」p121~でその点を解説しました。ようやく、気がついてくれたかと、喜んでいます。
もう一点は、国はしませんでしたが、地方はバブル期に借金を繰り上げ返済しました。これも同じくp122に書いてあります。詳しくは「地方交付税-仕組と機能」p85をご覧ください。国がバブル期にそれまでの国債を繰り上げ償還しておけば、こんなに借金は貯まっていなかったはずです。(11月29日)
今日の諮問会議では、予算編成の基本方針も決定されました。今週はそれに先立ち、与党審査が続きました。基本方針は閣議決定されるので、与党の事前審査が必要なのです。説明側の一員として出席しましたが、再チャレンジや地方財政で質問が飛んできて、私の出番もありました。(2006年11月30日)
国民一人あたりのGDPの最新数字が、公表されました(13日付け日経新聞など)。それによると、日本は35,650ドルで、世界では14位に後退しています。1993年には35,000ドルで世界一位、その後4万ドルを超しましたが、現在では90年代前半の金額まで減少しました。
「新地方自治入門」p6では、2001年までのグラフを示しています。日本の金額はさらに減っています。問題なのは、「西欧各国は日本の3分の2」と示してあるのが、現在では、日本と同程度または追い抜いているということです。すなわち、「日本は欧米先進諸国を目標に、追いつき追い越した」と説明していましたが、「その後日本は後退・低迷した」のです。この部分は、記述を変えなければなりません。
(日本社会の構造改革)
無理をしてまで、世界一になる必要はありません。また、経済成長だけが日本社会の目標でない、というのが拙著の主張です。しかし、絶対額として低下することは、日本の活力を損ないます。一時的なものは許容できますが、長期的構造的なのは問題です。もちろん、日本が構造改革をするために必要な過渡期「ため・たわみ」ならば、それはよいことも言えます。
そうしてみると、この長期不況は、バブルの崩壊という高い授業料をはらう時期だった他に、遅れた金融改革とその後の改革によるもの、グローバル化による日本経済の護送船団方式から競争への転換、アジアの追い上げによる産業の転換などの時期だったのです。
それらの波は、銀行の破綻から、今議論されているように、労働市場改革に及んできています。働き方、子育て、年金まで広がるのでしょう。これらの変革をうまくできるか、遅れたり先延ばしにして、さらに世界から取り残されるかです。すでにバブル崩壊から、15年が経ちました。第二次世界大戦後は、11年で「もはや戦後ではない」と政府が宣言しました。明治維新(廃藩置県、地租改正、徴兵令、学制、経済制度改革)や戦後改革では、制度改革はもっと短期間にやっていますから、そのスピードはすごかったのですね。今回は、勉強期間としては、長すぎるとも思えます。(2007年1月13、14日)