「社会」カテゴリーアーカイブ

社会

日本はやさしくない国

11月27日の朝日新聞夕刊、田中世紀・オランダのフローニンゲン大助教授へのインタビュー「日本は「やさしくない国」ですか」から。
・・・日本は、他人にやさしくない国――。海外で暮らした人たちが、比較してこう語ることがある。でもそれって本当かと思っていたとき、その点を論考した本に出会った。著者でオランダ在住の研究者、田中世紀さんの話に耳を傾けた。(宮地ゆう)

「日本の多くの政治家や国民は、この社会のあり方が当たり前だと思っている。でも、一歩国の外に出れば違う価値観があるという視点で、社会を見るきっかけになれば」
10月に「やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか」を出版した田中さんは、執筆の理由をそう語る。
田中さんは英国や米国で暮らし、オランダの大学で政治学を教えている。日本を離れたとき、「人と人との距離がもっと近い社会があるんだと気付かされた」。町で見知らぬ人同士がよく会話し、気軽に助け合う。
私も海外で暮らした人から「困っていると、知らない人が声をかけて助けてくれた」という話をよく聞いた。米国、ドイツ、カナダ、ブラジル、シンガポール、ベトナム……。比較に挙がった国はさまざまだ。

実は、こうした話を裏付けるようなデータがあると、田中さんはいう。英国の慈善機関が2009年からほぼ毎年行ってきた「人助け」に関するものだ。新型コロナウイルス禍前までは各国で調査をし、これまでに約160万人から回答を得た。
その質問は、「過去1カ月に、(1)見知らぬ人を助けたか(2)慈善活動に寄付をしたか(3)ボランティア活動をしたか」。
21年6月発表の調査結果では、日本は114カ国中、(1)「人助け」が114位(最下位)(2)「寄付」が107位(3)「ボランティア」は91位。これらを総合した結果でも、114位で最下位となっていた。
09~18年の10年間でみても、日本は126カ国中107位で、先進国で最下位。この慈善機関は「日本は歴史的にも、先進国の中で市民社会が非常に脆弱(ぜいじゃく)な国だ」と指摘している。
この調査には社会制度や文化の差なども影響しているだろう。田中さんも、この結果がすべてを物語っているわけではないとしつつ、「残念ながら、日本人は他人に冷たいという傾向は、他の調査でもみられます」。
米・調査会社が07年に実施したものでは、「政府は貧しい人々の面倒を見るべきだ」という項目に「同意する」と答えた人は日本では59%。47カ国中、最下位だった。英国は91%、中国は90%、韓国が87%だった・・・
・・・田中さんが注目するのは、日本は他の国に比べ、慈善団体、宗教団体、政治団体、スポーツや余暇の団体など、社会参加をしている人の割合が低いという調査結果だ。仕事関係以外に、社会と関わりを持つ活動の場がないというのは、いまも珍しいことではない・・・

連載「公共を創る」で議論している点の一つです。ムラ社会ではムラビト同士の助け合いや信頼は高いのに、よそ者には冷たい。組織外の人との付き合い方に慣れていないことが、背景にあります。「この国のかたち」を、どのようにして変えていくか。

オンライン授業で勉強時間が増えた

11月20日の朝日新聞夕刊「課題地獄の嘆き、いまも オンライン授業拡大、背景に」から。
・・・コロナ下で大学にオンライン授業が普及して以降、急浮上した問題の一つが「課題地獄」だ。「教えた内容が身についているのか不安」などの理由で各教員が多くの課題を出し、学生たちが疲弊した。その後、大学の対応は進みつつあるものの、道半ばのようだ・・・

・・・コロナ禍を受け、各大学では昨年春以降、オンライン授業が一気に拡大。多くの教員が、教えた内容が身についているかどうかを確認する手段として、あるいは試験が実施できない時の成績評価の代替手段などとして、リポートや動画などの提出を求めた。金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)は「日本の大学では教員同士の連携が少なく、それぞれ独自に授業を進める傾向が強い。このため各教員が、オンライン授業の導入当初は互いに調整せずに多くの課題を出し、『課題地獄』という問題が起きた」と話す。
大量の課題をこなすために、学生たちの勉強時間は増えた。学生を対象とした日本学生支援機構の2020年度の調査によると、「授業の予習・復習、課題などに、1週間に6時間以上使った」と回答した割合は51%。コロナ前の18年度に比べて23ポイントも上昇した・・・

・・・コロナ前は国の基準ほど勉強していない学生も多く、朝日新聞と河合塾の調査では「負担が増えたと言っても本来学ぶのに必要な時間でもあり、授業内容の理解は深まっている」(関西の公立大)として、課題の増加を問題視しない大学も一定数あった。
金子特命教授は長年、日本の学生の勉強時間の少なさを問題視してきた研究者の一人。「大量の課題が出されたことで、苦労もあったとは思うが、多くの学生は対応することができた。勉強時間が増えたのは歓迎すべきことだ」と話す・・・

仏教を生かした授業

朝日新聞の教育欄で、仏教系学校での医学を目指す生徒への教育について、連載が載っています。11月21日の「医の心、育む:1 医の道、心もケアしたい」から。
・・・10月下旬、午前8時半をまわると、紫色の巾着袋を手にした高校2年生たちが、黄金色の阿弥陀如来像を置く講堂に集まってきた。福岡市中央区にある筑紫女学園中学・高校の朝の勤行=おつとめだ。
「姿勢を正してください」
仏教委員長の赤司瑞祈(あかしみずき)さん(17)の凜とした声を合図に、講堂が静まりかえった。
「黙想」
香炉から広がる柔らかい香りに包まれ、およそ420人の生徒たちの表情が穏やかになっていく。
澄んだ鐘の音とともに、宗教担当の平孔龍(たいらこうりゅう)先生(44)のお経が講堂に響きわたる・・・

・・・学校は浄土真宗の教えに基づく人間教育を建学の精神とする。生徒たちは礼拝や仏教の授業を通して、他者をいたわる慈悲の心や、命の大切さを学ぶ。
その仏教の視座を身につけ、医療の道をめざす生徒が学ぶ「医進コース」が誕生したのは2020年春のことだった。松尾圭子校長(64)は、訪問した大学の医学部の先生の言葉が忘れられない。
「医者は日々、精神が不安になる患者と接する仕事。そういう気持ちをくみ取って話ができる医者じゃないと困る」
さらに、力説された。
「受験の成績がよくて合格しても、患者に向き合えるだろうかと心配になる学生もいる」、と。
学校には、医学や看護学といった学部がある大学に進学したい生徒が多く在籍する。
松尾校長は「医学部をはじめ医療系の難関学部への合格可能な学力のある生徒に、進路先を偏差値基準で薦める指導はするべきではない。医の道に進んで何をしたいのか、受験に臨む前から明確にしておくことが大事なのではないか」と思いを深めた。
人の痛みがわかる仏教の教えは、医の道に進む生徒たちの学びの素地にもつながるのではないかと考え、志を同じくする生徒が集まるコースを立ち上げた・・・

学校教育で避けてきたのが、心の問題、宗教などです。学生たちの今の不安、将来への不安にどのように対応するのか。これも、教育現場での大きな課題です。

ネットいじめを防ぐ

ネットでのいじめが、大きな問題になっています。11月16日の日経新聞夕刊に、ネットリテラシー専門家の小木曽健さんによる「ネットいじめ、我が子を守るには」が載っていました。
・・・SNS(交流サイト)などでいじめ被害に巻き込まれる子どもが後を絶たない。我が子を被害者にも加害者にもしないため、保護者が普段から心がけるべきことは何か。「ネットで失敗しない方法」をテーマに講演活動を続ける小木曽健氏に寄稿してもらった。
「親に話すつもりはありません、小木曽さんも親には言わないでくださいね」――。先日、私のSNSアカウントに寄せられた、悪質ないじめ被害に遭っている中学生の言葉だ。親に言うどころか、私はあなたがどこの誰かも分からないのに……。それでもその子は「言わないで」と何度も念押しをした。
ネットリテラシー講師という仕事柄、子どもからネットで悩み相談を受けることが多い。大半は匿名で、親にもいじめを打ち明けられていない。「心配をかけたくないから」ではない。理由はもっと切実だ。
考えてみてほしい。いじめ被害者にとって「家の外」は、加害者に囲まれ神経を擦り減らす、心が休まる暇もない戦場だ。その戦場を抜け、やっとの思いでたどり着いた我が家。そこは唯一のリラックスできるオアシスだろう。
もしいじめの事実を親に知られたら……。その瞬間、オアシスが汚染されてしまう。「いじめ以前」の時間に戻れる貴重な場所を失う。だから親には言わないという子が少なからずいるのだ。心身を削るほどの深刻な状況でも親に相談しなかった子に「なぜもっと早く言わなかったの」と問うのは時に残酷だ・・・

・・・だが実際に親がネットいじめに気付けるかといえば、正直かなり難しい。むしろ気付けないかも、という前提での備えが必要だ。例えば、ネットいじめのニュースを見る度に「私はネットいじめとの戦い方を知っている」と口癖のように言い続ける。これはかなり効果がある。
実はネットいじめとの戦い方は決して難しくない。SNSでの匿名の誹謗中傷には、「URL」を含む画面のスクリーンショットが客観的な証拠になる。その画像を添えて「法的措置を検討している」と投稿するだけで、すぐに削除されるだろう。「なりすまし」(自分の偽物)アカウントが作られた場合も同様だ。警告すればたいていは消えていく。
これらの知識を事あるごとに子どもの前で口にすることで、いざという時に相談しやすい空気をつくっておきたい。大人が本気で戦おうとする姿勢を見せることは、被害者にも加害者にも響く・・・

11月23日の日経新聞教育欄には、原清治・仏教大教授による「ネットいじめ対策急げ 高校生8%経験、ゲームが主舞台」も載っていました。

休日夜間の電話受付、訪問診療

日経新聞夕刊「人間発見」11月15日の週は、ファストドクター代表 菊池亮さんの「夜間・休日の患者に安心を」でした。
・・・医師の菊池亮さんが2016年に創業したファストドクターは地域医療機関と連携し、夜間・休日といった時間外診療の総合窓口サービスを手掛ける異形のスタートアップ企業だ。新型コロナウイルス感染症が拡大してからは自宅療養の患者を24時間体制で往診し、地域医療を守る最後の砦として奮闘した・・・

16日の「軽傷者搬送に疑問 往診で問題解決図る」から。
・・・帝京大病院は外傷センター、高度救命救急センター、総合診療ERセンターが連携して救急医療を行っていました。夜間当直のある日は36時間労働です。非常に忙しかったですが、運ばれてくるのは軽症の患者も多かった。お年寄りが深夜に出たゴキブリに驚いてひざかどこかを打ってしまったとか。

全国で救急搬送される患者の5割は軽症者。この数の多さが気になった。
救急車で搬送される人の約6割は高齢者です。このうち95%は在宅医療を受けておらず、ふだんは外来で医療機関を受診している人が、休日や夜間だと本来必要がないのに救急車を活用している。
高齢者は人数が増えるだけではなく、世帯構成も変わってきています。昔は2世帯3世帯の同居が多かったですが今は独居や高齢者2人の「老々世帯」が当たり前です。頼れる人が身近にいなくて、夜間や休日は日ごろ受診しているかかりつけ医も機能していない。だから救急車を呼ぶしかない。こうした人たちへのケアが必要なんじゃないかと思うようになりました。
軽症者の救急車利用を減らすため、自治体は「#7119」という番号で医療の緊急度を判定する電話相談を実施しています。でもそこで多くの人に外来受診を薦めているのに、救急車の搬送件数は増える一方です。
不要不急の救急搬送をぐっと減らすには、夜間や休日に医師が患者のところに行く往診で問題を解決してしまえばいい。そう思い、14年ごろから診療所の設立方法や在宅医療について考え始めました。そして東京・世田谷を拠点に、医師の名倉義人さん(現・新宿ホームクリニック院長)と2人で在宅診療所を始めました・・・