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社会

脳が作る第3の痛み

11月8日の朝日新聞に「体・神経に傷ない「第3の痛み」、解明進む」が載っていました。
・・・体の損傷などの明らかな原因がなくても痛みが長引く場合があり、脳の神経回路の変化が影響していることが最近の研究でわかってきた。国際疼痛(とうつう)学会が「第3の痛みのしくみ」として提唱。日本疼痛学会など国内8学会の連合が今秋、「痛覚変調性疼痛」と呼ぶことを決めた。名称の決定で、従来の痛みのタイプとの区別が明確になり、治療法の開発の後押しになると期待される。

痛みの発生は従来二つのタイプで説明されてきた。一つは、けがや炎症で組織が傷つき、痛みの信号が出て起きる「侵害受容性疼痛」。もう一つは手術や事故、脳卒中などで神経が損傷して起きる「神経障害性疼痛」だ。だが、どちらにも当てはまらない痛みに苦しむ人は多く、痛む部位を調べても原因は見つからず、医療の中であいまいな位置づけになってきた。
国際疼痛学会は2017年、様々な要因で脊髄から脳にかけた痛みを生み出す神経回路が変化し、痛みが生じたり、痛みに過敏になったりするというしくみを提唱した。国内でも昨秋に発足した日本痛み関連学会連合が用語委員会を立ち上げ、今秋、「痛覚変調性」と呼ぶことを決めた。
この痛みは、痛みへの恐怖、不安、怒りやストレスといった社会心理的な要因が大きく関係する。それらの影響で、神経回路が変化し、痛みを長引かせ、悪化させるとみられている・・・
・・・用語委員会委員長を務める東京慈恵会医大痛み脳科学センターの加藤総夫センター長は「ストレスや心理的影響など様々なきっかけで脳の働きが変わり、脳が痛みをつくることがある。こうした理解が広がれば、痛みに立ち向かいやすくなる」と話す・・・

心の痛みは、これらとは別なのでしょうね。

猫の寿命を延ばす

宮崎徹著『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(2021年、時事通信社)を紹介します。

猫の平均寿命は15歳で、多くが腎臓病で死ぬのだそうです。その原因は、血液中のタンパク質「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」が正常に機能しないために腎臓病になります。それは、家猫に限らず、ネコ科(ライオン、虎、チーター)の動物すべてにある遺伝だそうです。
AIMを投与すると腎臓病が良くなり、ネコの寿命が延びるのです。宮崎先生は、ほかの研究をしていて、このAIMを見つけます。ひょんなことから、ネコの腎臓病に効くことがわかり、ネコ愛好家や動物病院の方から、薬としてほしいとの要望を受けて、現在商品化の途中です。時事通信ニュースその後

AIMの働きは、本書を読んでいただくとして。素人の私が解説すると、次の通り。
マクロファージという細胞を聞いたことがあるでしょう。体の中の異物を食べて排出してくれる細胞です。AIMは老廃物にくっついて、マクロファージに食べられる働きを持っています。体の中の老廃物を排出しないと、「ゴミ」がたまります。ネコは、この働きがうまく行かず、老廃物が腎臓にたまって腎臓病になるのです。
老化は、体に老廃物がたまることによって進む面もあります。すると、この働きを人間に応用すると、老化が抑えられることになります。人間だけでなく動物一般にです。
これがうまく行くと、ノーベル賞もの、いえ、それ以上の発明になるでしょう。

わくわくする話です。しかも、門外漢が読んでもわかる本です。説明が上手なのと、仕組みが意外と簡単なのです。お勧めです。

学校での同調圧力

11月10日の日経新聞「教育岩盤」は、太田肇・同志社大教授の「学校の同調圧力、創造性を阻害」でした。

・・・日本の学校には、子どもを枠にはめ、はみ出しを許さない風潮が根強く残る。同調圧力の研究で知られる同志社大の太田肇教授は「厳しいルールの下では子どもが自由なアイデアを考える余地がなくなる」と危ぶむ。

――子どもに同じ服装や行動を求める学校が多いのはなぜでしょう。
「服装や持ち物などを画一化した方が子どもを管理しやすい。授業も1クラス数十人の児童生徒に手際よく教えるには例外を認めずに同じ解法を教えた方が効率的と考えているのではないか」
「『他の子と一緒でなければいけない』という同調圧力は理不尽な指導につながる。日本の学校は親の転勤以外で子どもの転校は珍しく、教師も学校関係者以外との交流が少ない。人の流動性が低いため多様な意見に触れる機会が乏しく、理不尽さに気づきにくいのも特徴だ」

――規則重視の指導の弊害は何でしょう。
「厳しいルールの下では子どもが自由なアイデアを考える余地がない。技術革新で世界が急速に変化する中で、日本の教育を受けた人材が世界の潮流についていけなくなると懸念している」
「高度経済成長期のように大量生産型の産業が中心だった時は、規則を守り正確な手順で作業できる人材が必要だった。現代はコンピューターや機械がその役割を担う。いま求められているのは高度な思考や自由な発想ができる人だ。厳しい規則で子どもを管理しても、創造性は生まれない」・・・

インターネットを使った授業での悪用

11月7日の読売新聞「学習端末トラブル ネットモラル 悩む学校」から。

・・・閲覧制限の突破、アダルトサイトを視聴、不正にログイン——。政府の「GIGAスクール構想」により公立小中学校で1人1台の学習用端末の配備・活用が進む中、学校現場では、教員たちが想像しなかったようなトラブルが起きていた。

「インターネットを調べれば解除方法も出ているし、これ以上の規制は難しい……」。大津市の小学校で起きた事例について、同市教育委員会の担当者は困惑した様子で打ち明けた。
学習用端末には通常、不適切なサイトを閲覧できないようフィルタリングがかけられている。しかし、同市が9月に各学校に行った調査の中で、フィルタリングを突破して、児童がわいせつ動画を閲覧していたことが明らかになった。市教委担当者は「子供たちにはネットのモラル教育を進めたい」と話す。
九州のある自治体の小学校では今夏、友人のIDとパスワード(PW)を何らかの形で知り、無断でこの友人の学習ドリルにアクセスする事例があった。接続履歴をたどって、不正アクセスした児童を割り出した。教委担当者は「こうした行為は犯罪であることをしっかりと周知したい」と語気を強めた・・・

・・・文科省の2020年度「問題行動・不登校調査」によると、いじめの認知件数は小中高と特別支援学校で51万7163件と前年度比15・6%減だったが、ネットいじめは同5・3%増で過去最多の1万8870件。特に小学校は同32・1%増の7407件だった。
学習用端末の配備がほぼ完了し、文科省が先月、全国の教委に出した通知では、GIGAスクール構想が進む中、「1人1台端末等を使ったいじめが発生する可能性がある」との懸念も示された。
教育現場も対応に追われている。
教員や子供たちに端末の使い方を教えるICT支援員を派遣する企業の男性社員は「小学校低学年だと、アルファベットの入ったPWの入力は難しい。覚えられない子供のために、PWを書いた紙を子供の端末に貼り付けている教員もいるが、それは危険だ」と指摘する・・・

山田昌弘・中央大学教授

日経新聞夕刊「人間発見」、11月1日からは、山田昌弘・中央大学教授の「家族で社会読み解く」です。
・・・家族社会学者(中央大学教授)の山田昌弘さんは、愛情やお金を切り口に、親子、夫婦など家族の人間関係を社会学の手法で読み解いてきた。人が気が付いていない現象を見つけ、社会に問題提起をする。その中から「パラサイト・シングル」「婚活」「希望格差社会」などの流行語が生まれた・・・

平成の日本社会の変化や問題を、切れ味良い分析と、流行語になるような命名で、説明してこられました。私もそれに触発され、勉強して、連載「公共を創る」などに活用させてもらっています。

欧米の社会学の輸入でなく、日本社会を独自に分析する研究です。これは、すばらしいことだと思います。すると、諸外国にはこのような現象はないのか、先生の提唱するような分析は適用できないのでしょうか。