カテゴリー別アーカイブ: 社会

社会

社会エレベーター

1月5日の日経新聞1面「動くか社会エレベーター」に、興味深い数値が載っています。
「社会エレベーター」という指標で、各国の所得格差の大きさや教育・雇用を通じ階層が変わる確率です。最貧層に生まれた場合、1世代を30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示します。経済協力開発機構(OECD)が2018年に分析したもので、格差を克服する難易度を探るうえで目安になります。

記事に着いている図表では、各国の数値は次の通り。
中国、インド、7世代。フランス、ドイツ、6世代。アメリカ、イギリス、5世代。日本、4世代。ノルウェー、スウェーデン、3世代。デンマーク、2世代。OECD平均、4.5世代です。
日本は比較的に社会上昇が容易だと思われています。この指標でも早いほうですが、それでも4世代かかるのですね。

真鍋淑郎さん、他人を気にしすぎる日本

2021年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんの記者会見(10月5日)から(朝日新聞ウエッブサイト

記者 日本からアメリカに国籍を変えた主な理由は?

真鍋 面白い質問です。日本では人々はいつも他人を邪魔しないようお互いに気遣っています。
彼らはとても調和的な関係を作っています。日本人が仲がいいのはそれが主な理由です。ほかの人のことを考え、邪魔になることをしないようにします。日本で「はい」「いいえ」と答える形の質問があるとき、「はい」は必ずしも「はい」を意味しません。「いいえ」の可能性もあります。(会場から笑い)
なぜそう言うかというと、彼らは他人の気持ちを傷つけたくないからです。だから他人を邪魔するようなことをしたくないのです。

アメリカでは自分のしたいようにできます。他人がどう感じるかも気にする必要がありません。実を言うと、他人を傷つけたくありませんが、同時に他人を観察したくもありません。何を考えているか解明したいとも思いません。私のような研究者にとっては、アメリカでの生活は素晴らしいです。
アメリカでは自分の研究のために好きなことをすることができます。私の上司は、私がやりたいことを何でもさせてくれる大らかな人で、実際のところ、彼はすべてのコンピュータの予算を確保してくれました。
私は人生で一度も研究計画書を書いたことがありませんでした。自分の使いたいコンピュータをすべて手に入れ、やりたいことを何でもできました。それが日本に帰りたくない一つの理由です。なぜなら、私は他の人と調和的に生活することができないからです。(会場から笑い)

組織がつく嘘、上司の責任

国土交通省の建設工事受注動態統計調査書き換え事件、三菱電機での品質不正、日立製作所子会社での検査不正・・・。役所や企業での嘘をつく行為が続いています。

日本人は正直だ、日本の組織は倫理観が高いといった、これまでの通説を覆す事案です。これまで行われていた不正が表に出たということで、現在が悪いのではなく、過去から悪いことをしていたのです。ということは、日本人の職業倫理観が高いという通説は間違いだったのか、どこかの時点で悪化したのでしょうか。

三菱電機の調査委員会報告書では、「ビジネスの根幹に関わる倫理観や規範意識が低下していた」と批判しています。読売新聞記事「三菱電機、不正5製作所29件…検証報告書「倫理観や規範意識低下」」(12月24日)には、次のようにも書かれています。
・・・調査委が全従業員向けに実施したアンケートの回答内容を、会社に提出するよう上司から求められたとの相談も複数寄せられた。「従業員が率直に声を上げることを良しとしない考えが表れている」として、厳重な注意を行ったという。
「不正をやめたい」と管理職に進言したところ、逆に 叱責 を受けた担当者もいた。管理職に相談しても問題解決が期待できず、「言ったもん負け」の文化があるとの指摘は、前回報告に続き、今回の調査対象の製造拠点でも確認された・・・

12月30日の朝日新聞は、1面でその原因を解説していました「繰り返される不祥事、声上げられぬ社員「上層部は自己保身に走る」」。
・・・大企業で不祥事が繰り返されるのは、社員が声を上げられず、経営陣の問題意識も低いためだ。各社の調査報告書は「上にものが言えない」問題を指摘する。
三菱電機の調査委員会の報告書は、不正を知っても通報できなかった社員の声を紹介している。「上層部が自己保身に走る」として信頼されず、組織にとって都合の悪い情報を吸い上げられなかった。
みずほ銀行では、2月に4千台以上のATMが停止した際などで顧客への周知が遅れた。藤原弘治頭取が障害を知ったのはネットニュースだった。調査報告のアンケートなどでは、経営陣に忖度する「内向きの姿勢」があったという。

東京電力ホールディングスでは再稼働をめざす柏崎刈羽原発(新潟県)で、社員が他人のIDカードを使って中央制御室に入っていた。侵入者を検知する装置の不備が放置されるなど、「核セキュリティー」の基本が守られていなかった。
東電の「核物質防護に関する独立検証委員会」が9月に出した報告書からは、社員の苦悩が伝わってくる。アンケートで「正直にものを言えない風土があったと感じるか」についてたずねたところ、柏崎刈羽の役職員の27%が感じている(「どちらかというと」を含む)と答えた。組織が責任を回避し個人に「丸投げ」していると感じている人もいた・・・
この項続く

支え合う社会

12月23日の朝日新聞、論壇時評、林香里・東京大学大学院教授の「ケアの倫理 誰もが支えあう社会の基盤に」から。
・・・「ケア」という言葉には、家族内で閉ざされ、ともすると隠すべきもの、といったイメージさえある。しかし、政治思想研究者の岡野八代は、〈1〉の論考で、このイメージをひっくり返す。以下、岡野の論考を、私自身の解釈も交えて説明することをお許しいただきたい。人間は、この世に生を受けた時点で皆、世話をされる依存状態にある。その後も怪我や病気、孤独や悲しみを経験し、ケアを必要とする存在である。ケアを必要とする人々がいるのだから、社会はケアを与える人たちも必要とする。そしてさらに、社会には、ケアを与える人たちを支えるシステムも必要だ。つまり、ケアは誰もが必要とするがゆえに、必然的に社会に連鎖し、開放されていく営みであり、社会全体で実践を支えるオープンなしくみを作っていかなくてはならない。岡野は、ケアを社会に行き渡らせることは、民主主義の「中枢」的課題であると主張する・・・
〈1〉岡野八代「ケア/ジェンダー/民主主義」(世界1月号)

進まない男女共同、男もつらいよ

12月12日の読売新聞、田中俊之・大正大学准教授のインタビュー「男性視点で見直す男女格差」から。
・・・政治、経済分野での女性の進出が、先進国で最低レベルの日本。政府が「女性活躍」の旗を振るのに、なぜ進まないのか。田中俊之・大正大准教授は、男性が抱えがちな悩みや葛藤を研究する「男性学」の視点から、その背景を読み解く。男性の長時間労働を見直し、育児参加を促すことが、女性の社会進出の推進につながるからだ。自らも2児の子育てに奮闘しながら考える「男女がともに働きやすい社会」への道筋とは・・・

・・・男女雇用機会均等法の施行から35年。女性の採用は増えましたが、指導的立場に就く割合は、欧米諸国に遠く及ばない状況です。賃金格差はフルタイム勤務でも女性が男性の約7割で、非正規で働く割合は男性の2倍以上。出産後も働き続けることのハードルも解消されていません。
共働きの家庭でも、男性は社会から「一家の大黒柱」とみられる傾向は変わっていないのです。女性に比べて地位向上の機会に恵まれる一方で、弱音を吐くのは男らしくないという呪縛もあり、孤独に陥りがちです。男性の自殺率が女性を上回るのは、社会的な重圧が関連しているのでしょう。
近年は低成長時代に入って非正規で働く男性が増え、男性間の格差も拡大しています。50歳時点での男性の未婚率は2割を超え、収入の低い人ほど未婚の割合が高い傾向もあります。結婚は本人の自由ですが、希望しても選択できない状況は深刻です。
「女性は収入の高い男性を好む」と言われる背景には、女性の賃金が低く、性別の役割分担を前提にした社会の設計があります。男女の生きづらさは、お互いに「人ごと」ではなく、コインの裏表のような関係なのです・・・

・・・高度経済成長期以前は、家族で農業などに携わる働き方が主流でした。男性が雇用されて定年まで働き続け、妻は専業主婦という家庭が一般化したのは、それほど昔のことではないのです。近年はフルタイムで働く女性が急増し、独身の人も多い。それなのに、依然として男性の方が社会での競争を意識せざるを得ないのは、学校教育の影響もあるようです。
大学生に聞くと、いまだに高校では部活動の片付けを女子だけが担い、男子が教室の掃除をさぼっても許される、といった風潮が一部に残っているようです。女子は他の人の世話をする「女子力」を求められ、大学進学率が上昇しても理系に進む生徒は限定的です。学校や家庭でも、男女の役割の固定観念に縛られず、将来を自由に描けるような教育が必要です・・・

12月11日の日経新聞読書欄、山田昌弘・中央大学教授の「男らしさの呪縛を解こう 生きづらい男性のための4冊」も参考になります。
・・・近年、「男性弱者」に関する議論が盛んになっている。男性弱者とはおおざっぱに言えば、「稼げない男性」のことである。グローバル化、格差社会の進展によって、「稼ぐ」という従来の男らしさを実現できない「男性弱者」が増加していると言われている。
女性抑圧からの解放を目指すフェミニズム運動に触発されて出てきたメンズリブ運動や、「男らしさ」について研究する「男性学」の論客も、男性弱者を積極的に取り上げるようになってきた。そこでは、稼げない男性が結婚できなかったり、稼ぐ役割を強要され過労や自殺に追い込まれるなど、男性であることの「生きづらさ」が強調されるものが多かった。これらの論考を、社会学者の江原由美子氏は「男はつらいよ型男性学」と呼び、男女平等がけしからんといった反動的な思想や運動につながる危険性について指摘している。
しかし、従来型の男性学を日は敵に乗り越え、新しい男性のあり方を模索する論考が最近相次いで出版されている・・・