「社会」カテゴリーアーカイブ

社会

暴論のはびこり

6月2日の朝日新聞オピニオン欄「「暴論」の存在感」、真梨幸子さん(作家)の「昔より減った分、悪目立ち」から。

・・・昔に比べ、暴言暴論の類いは減っているのではないか、と思います。昔は暴言だらけだったけど、問題になっていない。今は少ないが問題になる。少ない理由は「言ってはいけない、言うべきではないことは何か」について、多くの人が共通認識を持っているから。だからその反動で、匿名の誹謗(ひぼう)中傷がネットにあふれるのだとも言えます・・・

・・・政治家、官僚、企業幹部など、公的な立場の人も社会的な発言には細心の注意を払っている時代です。だから、ごくたまに表に出てくる暴言が悪目立ちするのでしょう。多くの場合、面白く語ろうとしてブラックジョークを使い誤る失言が多いと思います。
社会的問題への暴言暴論の場合は、世論に対する「興奮剤」になってしまいます。何か極端な発言があると、ネットを中心に賛成派、反対派がわーっと出てきて、激しくやりあう。発言が闘争ホルモンを全開にさせる合図、「レディーゴー」(用意ドン)になって、人々が戦闘状態に切り替わってしまうのです・・・

・・・ただ思うのは、誹謗中傷や暴言を封じても人間から無くなるわけではないし、人間を進化させてきた言葉から、その美しい、良い部分だけを後世に残し、醜い、悪い部分だけを撲滅することはできない、ということです。人間の世界は、白も黒も引き受けながら進んでいかないと、息苦しくなってしまいます・・・

公立校 年400廃校

6月1日の読売新聞解説欄に「公立校 年400廃校」が載っていました。

・・・文部科学省の調査によると、2002〜20年度で廃校は8580校。毎年400校前後が廃校になっている。現存する7398校のうち、活用されているのは74%で、活用されず用途も決まっていないものも19%ある・・・

和をもって極端となす

朝日新聞デジタル、磯野真穂さん(人類学者)の「私たちがコロナ禍に出会い直さねばならない理由」(4月19日掲載)から。

・・・私は人類学の観点から、かつて狂牛病と言われたBSE問題、年単位で接種率が低迷した日本脳炎ワクチンやHPVワクチン問題、そしてコロナ禍など、国内で起こった健康をめぐるいくつかのパニックを分析してきた。すると、これらの現象には一つの共通点があることがわかる。
それは、パニックを沈静化させるためにとられた極端な対策が、長期にわたりダラダラと続くことだ。私はこの傾向を「和をもって極端となす」と呼んでいる。

極端な対策により社会の調和がそれなりに取り戻されると、その和を保つことが最優先事項となる。おかしいと感じる人は内部に複数いるものの、波風を立てることを恐れ、あからさまな反対運動には至らない。結果、対策の副作用として深刻な問題が生じても、それは見過ごされたままとなり、対策は漫然と続いていく・・・

・・・さらにバーマンは、中根に加え、政治学者の丸山眞男、心理学者の土居健郎も参照しながらこうも語る。
「日本社会はその仕組みからして、真剣に現状の問い直しを行う機構が備わっておらず、物事が一旦(いったん)ある方向に動き始めると、基本的に行き着く先まで行ってしまうより他ないとする丸山(そして土居と中根)の主張を肯定しておきたい」・・・

定年後、夫の居場所

朝日新聞くらし欄は、5月21日から「定年クライシス、居場所はどこに」を連載しました。

21日の「「週3日は外に出て」妻は言った」から
・・・「昼ご飯、作りたくない」
滋賀県に住む70代の男性は、妻の言葉に驚いた。60歳で定年を迎えた後、雇用延長で66歳まで働き、退職してから間もないころだった。
専業主婦の妻は、自身の昼ご飯を前夜の残り物やパンで済ませることが多かった。3食分を作るのは、めんどくさいのだろう。「しょうがない」。そう思った。
妻は、続けて言った。「週に3日は外に出てほしい」
こちらは「きつい話だ」と思った。でも、けんかをしても仕方がない。できるだけ外に出るようにした。コンビニで昼食用のおにぎりを2個買い、電車で京都へ。京都御苑や植物園、寺や公園のベンチで昼食をとった。電車賃がかかるから、昼食代は節約せざるを得なかった。
「週3日のノルマ」はきつかった。地域活動や仕事を探しても、趣味に合わなかったり、場所が遠かったり。活動回数が少ないものもあった。最低週1回は活動しないと予定は埋まらない。次第に探す気持ちさえ起きなくなった・・・

24日、加藤伊都子・フェミニストカウンセラーの発言から。
・・・夫の定年後、心身が不調になった女性をカウンセリングしてきました。血圧などの数値の悪化や、自己免疫疾患、うつ症状に陥る人もいます。
世代的に妻は主婦という世帯が多く、お金を自由にできず、自己肯定感が低いなど、妻は弱い立場に置かれがちです。夫婦の上下関係を背景に、夫の在宅がストレスになってしまう。定年は関係性のひずみを顕在化させます・・・
・・・男性の中には「ふんぞり返ってきたつもりはない」という人もいるでしょう。でも外出の際、妻は見送ってくれても、自分が見送ったことはありましたか。無自覚に妻からのケアやサービスを享受してきた面はないでしょうか・・・

原沢修一・キャリアコンサルタントの発言から。
・・・ 定年を機に右往左往する男性と、ぎくしゃくしがちな夫婦関係を見つめてきました。
夫の定年を機にうつ状態になった2人の女性を知っています。1人は、外出しようとするたび、夫が「どこへいくんだ」「おれの夕飯は」と質問攻めにする。もう1人の夫は「時計が遅れている」「トイレの紙がない」と延々ダメ出しして、自分は何もしない。
外で働いてきた男性たちは、家事や育児の大変さを理解せず、妻を長く下に見てきたのではないでしょうか。
象徴的なのは「ありがとう」「ごめんなさい」を素直に言えないこと。上司には抵抗なく謝罪できるのに、妻にはできない・・・

古語解説「灰皿」

かつて、どの職場にもあった道具。たばこを吸う際に灰を捨てたり、吸いかけのたばこを置くための道具。灰を溜めるために、縁が盛り上がり皿状になっていた。またその縁に、火のついたたばこを置く溝があった。

幹部の部屋や個人宅の応接室の卓には、大きなガラス製のものが置いてあり、未使用のたばこ入れや、立派なライターがそろいで置いてあった。
会議室などでは、簡易なアルミ製の円盤状のものが置いてあった。これは時には、議論が激高すると投げつけれれ、宙を舞うことがあった。軽くて円盤状なので、よく飛んだ。この行為を「灰皿を投げる」と呼ぶ。
灰や吸い殻がたまった灰皿を洗うのは、若手職員か女性職員が朝に出勤して行う仕事とされた。

近年は、公共の場では喫煙が禁止され、灰皿も置かれなくなった。若手職員に聞いたら、「私が採用されたときには、灰皿はありませんでした。流し場の棚の上に置いてあるアレですか?」と答えが返ってきた。
古語解説「気配り