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社会

わかりづらいカタカナ語をなぜ使うのか

2月2日の朝日新聞オピニオン欄「わかりづらいカタカナ語、なぜ使うの 社会言語学者・井上逸兵さんに聞く」から。

・・・たしかにカタカナ語がよく使われていますね。言葉には、情報伝達のほかに、その言葉を使うことで「自分は何者なのか」を示す機能があります。ビジネスの世界で使われるカタカナ語は、後者の機能を果たしているのではないでしょうか。つまり、顧客や同僚・上司に「私は『イマ風』の仕事の仕方をわかっていますよ」と、自分自身がその分野に詳しい人物であることを示しているのです・・・

・・・カタカナ語を使うのは悪いことではありません。一方で、行政が安易に使うのは問題があります。行政の役割は、必要な情報をわかりやすく万人に伝えることです。意味がわからない言葉を使えば、当然、情報伝達ができない。さらに自分は排除されているという感覚まで生み出してしまう恐れがあります。
特にコロナ禍では、行政のカタカナ語の使用が目立ちました。わかりやすい例で言えば「ステイホーム」といった言葉。日本語だと目新しさを感じないので、注目を集めるという意味では成功したと思います。一方で、老若男女すべての人が意味を理解できたかというと、少し疑問があります・・・

意図の伝達、対話の手段でなく、顕示欲の手段なのですね。高級銘柄品(カタカナ語で言うと「ブランドもの」)を持ち歩く意識と同じです。威信財の一種でしょうか。
とすると、高級銘柄品を持つことが一部の人たちの間では恥ずかしいことと認識されるので、そのような意識が広がると、カタカナ語を使う人も恥ずかしい人と思われるときが来るのでしょうか。いえ、それら高級銘柄品の価値が下がると新しい銘柄を探すように、新しいカタカナ語を使うのでしょうね。

取締役会の前に方針が決まっている

1月24日の日経新聞オピニオン欄、藤田 和明・上級論説委員の「「稼ぐ日立」の原風景、社外取締役との対話が示した成長」から。詳しくは本文をお読みください。

・・・稼ぐ日立へ。世界標準の経営を突き詰めた原風景ともいえる記録がある。約10年前の13年6月。当時の川村隆会長が社外取締役に招いた米スリーエムの元最高経営責任者(CEO)、ジョージ・バックリー氏と対談、日立総合計画研究所の文書に残している。
スリーエムは世界屈指のイノベーション力が評価されていた。バックリー氏は前年から日立の社外取締役を務め、感じた課題をグローバル経営の視点から指摘している。

一つは取締役会のあり方。「取締役会に諮られたとき、その方針が経営によってすでに決まっていたように感じた」。米国なら意思決定前に会社側と取締役会で長く討議する。「戦略的オプションについて詳細な議論を行っただろう」。人ではなく、アイデアで競争すべきだとした。

研究者の収益意識も指摘した。米国では「多くの研究開発資金を集めるには、より多くの利益を上げることが重要と(研究者は)知っている」。研究者も事業の検討会議に出席し、収益性と優れたキャッシュマネジメントを理解すべきだ。利益創出やスピード感が日立には欠けてみえた。
「生み出すべきは新たなアイデアと成長性を兼ね備えた会社」。より速く成長し、より多くの利益を上げる。アイデアの回転数を高め新製品の導入速度を高める。「革新的でなければ、ゆっくりとしかし確実に競争力が低下する」
当時の川村氏が率直に問題意識をぶつけ、バックリー氏が経験で築いた知見で答えるやりとり。日立がその後とった10年改革に重なっている・・

「経済大国=豊か」という幻想の先へ

1月20日 の朝日新聞オピニオン欄、原真人・編集委員の「日独逆転、GDP4位に転落 「経済大国=豊か」という幻想の先へ」を紹介します。日本の国内総生産が人口がはるかに少ないドイツに抜かれることも大きな問題ですが、ここでは最後のくだりを引用します。

・・・「GDPを単純に増やせばいいという発想は意味がない」と話すのは長期不況理論の第一人者、小野善康大阪大特任教授である。「日本には巨大な生産力があり、1人当たり家計金融資産は世界トップ級の金持ちで購買力もある。問題は大金持ちなのにお金を使わず、潜在能力を生かし切れていないことだ」
では何が必要なのか。「生活をいかに楽しむか、そのために何にお金を使うべきかという発想に転換し、そこに知恵をしぼるべきです」と小野氏は言う。

時代遅れのGDPに代わって真に国民に望ましい国民経済指標を見つけることに最初に挑んだのはフランス政府だ。16年前、ノーベル経済学賞学者のスティグリッツ氏、セン氏らを招いた専門委員会で検討し、社会福祉に貢献する指標を一覧で示すことが望ましいと結論づけた。
それを実践したのが経済協力開発機構(OECD)のベターライフ指標だ。雇用や住宅、環境など11分野で毎年、対象40カ国に評価点をつけて発表している。
日本は教育や安全性で平均を上回る一方で、コミュニティー、市民参加、ワークライフ・バランスなどで平均を下回っている。分野ごとに評価すれば、他国に比べて劣っている領域も浮かび上がる。GDP幻想から目を覚まし、国民生活本位の新発想に切り替える時期だろう・・・

日本語教育、品詞を色分け

1月22日の朝日新聞夕刊「凄腕しごとにん」は、江副隆秀さんの「「見える日本語」学んだ外国人2万人超」でした。

・・・多くの外国人にとって日本語のハードルは高い。米国務省は「英語話者には最も習得が難しい外国語」に分類している。ラテン系やゲルマン系の言語とは構造が全く違う。ひらがな、カタカナ、漢字の3種類の文字を併用。そのうえ「助詞」の使い分けが日本人でも迷うほど複雑だからだ。
そこで取り組んできたのが「日本語の見える化」。日本語の文章を「情報」と「述部」、その二つをつなぐ「助詞」の三つに分解。同時に、名詞や動詞、助詞など各品詞を色分けしてカードにした。
例えば「学校へ行く」だと、情報の部分は「学校」で、黄色の名詞カード。述部は「行く」で、緑色の動詞カード。その間に白色の助詞カードの「へ」を挟む。

日本語教育では戦前から「助詞は的確な定義ができない」として、大量の例を反復練習する「文型教育」が主流だった。
江副さんは、助詞ごとの意味を突き詰めてさまざまな図形にした。例えば「へ」は、目的地に向かう意味を込めて矢印の形。「に」は「学校に行く」という方向だけでなく、「学校にいる」「9時に出る」など場所や時間のポイントを表す際にも使われるので三角形にした。
工夫を凝らしたのがドーナツ状の「で」のカード。穴に電車の模型を通らせながら「電車で行く」と教える。手段の意味だ。穴から城の模型を見せて「お城で寝る」。こちらは場所の意味になる・・・

なるほど。

思い込みを変える

日本社会にしみこんだ通念。ふだんは気がつきませんが、何かの事件や出来事で、そのおかしさに気づくことがあります。

1月22日の日経新聞夕刊、歌人・枡野浩一「父と子の記憶」に、次のような話が載っています。
・・・米国のボルチモア国際黒人映画祭で、日本人監督として初の最優秀長編国際映画賞とオスカー・ミショー賞のW受賞をした武内剛監督は、古い知り合いである・・・
「ぶらっくさむらい」という名で芸人をしていたとき、一番印象に残るネタは「武内剛という本名でアルバイトに応募したが、いざ職場に行くと、アフリカ系黒人の見た目を持つ青年を見た年配の店長夫婦が慌てふためいてしまう」という内容だった。
枡野さんは、「笑いながら、笑って大丈夫なんだろうかと心配になった」そうです。

もう一つは、日本航空の次期社長です。客室乗務員出身の鳥取三津子専務が内定しました。報道でも紹介されていますが、これまでにない人事です。
「鳥取氏は福岡県出身で、長崎県の活水女子短大英文科を経て、1985年に東亜国内航空(後の日本エアシステム〈JAS〉、04年にJALと経営統合)へ入社。CAを長く務め、客室本部長などを経て、現在はグループCCO(最高顧客責任者)を務めている。」ダイヤモンドオンライン「JALに初のCA出身・女性社長が誕生!

「これまでの思い込みを打破する人事だ」と、私と同年代の人が次のように解説してくれました。
・日本を代表する企業、かつては国策会社であった日本航空の社長に、女性が就任すること
・客室乗務員出身であること
・短大卒であること
・日本航空生え抜きでなく、合併された東亜国内航空出身であること