カテゴリーアーカイブ:社会と政治

住まいのない人を引き受ける施設

2018年2月20日   岡本全勝

2月17日の朝日新聞オピニオン欄「最低限の住まいとは」、奥田知志さん(NPO法人「抱樸」理事長)の発言から。
・・・1月に火災が起きた札幌市のそしあるハイムは、「無届け施設だ」という指摘があります。「届けを出さねばならなかったのに、出していない」という批判がこめられていますが、的外れです。「届け出なかった」のではなく、「届け出ることができなかった」あるいは「あえて届け出なかった」のだと思います。

法律に基づき届け出が必要な施設は利用者資格が明確に決まっていて、障がい認定や介護認定がなければ利用できません。つまり、制度ごとの縦割りになっています。そしあるハイムのような、40代から高齢者までいて、住まいの確保から就労支援、食事の世話、介護まで担う施設の枠組みはいまの日本になく、届け出のしようがないのです。

制度の狭間に置かれた、行き場のない人々が増えています。貧困だけでなく、社会参加できない、認知機能に問題がありそうだが介護保険の対象になっていない、家族と縁が切れているなどの複合的な要因を抱え困窮する人たちです。私も北九州市で無料低額宿泊所を運営していますが、公的支援はありません。縦割りで「入居者を限定する施設」ではなく「だれでも入れる施設」が必要だからです・・・

・・・もう一つ、民間施設には残念ながら「貧困ビジネス」もあり、玉石混交です。
そしあるハイムは生活保護受給者でも月に3万円程度手元に残る良心的な価格の施設でした。一方で、食事付きと称してカップめんだけとか、生活保護費を全額徴収し、入居者が自由になるお金がない施設が問題になっています。貧困ビジネスは規制し、必要な施設を応援するルールづくりが求められています・・・

フランス、徴兵制復活論議

2018年2月15日   岡本全勝

2月11日の朝日新聞「日曜に想う」は、大野博人・編集委員の「分断フランス「徴兵制」に何望む」でした。
先日、マクロン大統領が、徴兵制を復活させると発表しました。それを聞いて、私は「この時代に・・・?」と疑問を持ちました。戦艦にしろ戦闘機にしろ、素人が少々の訓練を受けて使えるものにはなりません。
この記事を読んで、分かりました。まず、提案されている兵役期間は、たった1か月です。
大統領は、国防や治安への貢献を考えているのではないようです。生まれ育った環境が異なる若者に同じ仕事をさせ、国民という共通した帰属意識を育む機会にしようというのが狙いのようです。フランス社会が分断に苦しんでいます。イスラム系市民への偏見、経済的不平等、エリート対非エリート・・。
なるほど。

2月14日の日経新聞も、「徴兵制、欧州で復活の波」を伝えていました。東西冷戦が終わり、ヨーロッパ各国が徴兵制を廃止しました。それまで、続いていたのです。

政治家の顔写真ポスター

2018年1月17日   岡本全勝

1月14日の日経新聞「風見鶏」は中山真・政治部次長の「インスタ政治どこへ行く」でした。原文を読んでいただくとして、興味深かった点を上げておきます。

1 アメリカでは、庭先などに設置される「ヤードサイン」と呼ばれる選挙候補者のポスターは、文字だけで写真はついていないのだそうです。写真よりメッセージやスローガンを重視するとのこと。履歴書にも、写真を貼らないようです。

2 日本の政治家の写真を撮ることが多い写真家のところに、候補者から撮影の依頼が来ます。「どんな政治家になるんですか」 と聞いても答えられない人が多いとのこと。「それではどんな写真にしたいかも決められない」

明治政府の地方発展戦略

2018年1月15日   岡本全勝

1月11日の日経新聞経済教室は、寺西重郎先生の「銀行業の未来 地方や新興企業に重心を」でした。そこに紹介されている、明治政府がとった地方政策が興味深いです。

・・・明治20~30年代に伊藤博文のとった経済発展戦略を手掛かりに考えてみよう。
幕末維新の動乱の後、近代日本の支配者となった藩閥政治家たちが当初とった政策は、殖産興業政策など中央主導の近代化政策の強行であった。しかし明治20年代になって伊藤たちが実権を握ると、政策の大転換が行われた。それまでの中央集権政治では排除していた地方の地主や商工業者を取り込み、農業と在来産業の発展を踏まえた工業化・近代化という新しい政策へ移行したことである。
伊藤とその下の松方正義、井上馨、山県有朋らは議会開設や憲法発布とともに、地方に高等教育機関をふんだんに配備し、地方の在来産業を重視する経済発展に転じた。それは国内では自由民権運動の高揚に押され、国際的には関税自主権のないままに自由貿易体制に組み込まれたという厳しい状況下で、やむを得ずとった政策でもあった。

しかし現在の視点からは、この政策は2つの重要な意味を持つ極めて巧みな戦略であった。第1は、政策課題が山積している状況下で、伊藤たちが中央と地方の発展戦略における役割分担に解決方法を求めたことである。国の近代化のためのリスクを伴い時間を要する近代工業の建設は、中央の政府と財閥が引き受ける。その代わり地方の豪商農には自らの力で在来産業を発展させて、雇用機会を提供し、外貨を獲得するという役割を担わせる戦略である。
第2に、伊藤たちが近代工業の建設にかかる時間を冷静に計算し、長期の時間軸政策を行ったことである。軽工業である繊維工業などは短時間で何とかなるであろう。しかし本当に必要な重化学工業を作り上げるにはかなりの時間がかかる。それまでは在来産業の働きに頼るしかないという読みである・・・

原文をお読みください。
明治政府は、内閣制度、憲法発布、国会開設といった中央政府の構築だけでなく、地方をどのように統治するかも重視していました。憲法より先に地方制度を作ったのです。地方を安定させること、地方政治の闘争を中央政治に持ち込まないことが、必要だったのです。

佐藤隆文さん「建設的あいまいさ」

2018年1月13日   岡本全勝

1月9日の日経新聞「私見卓見」に、佐藤隆文・日本取引所自主規制法人理事長・元金融庁長官が「東芝問題と建設的曖昧さ」を書いておられます。

・・・東芝の審査にあたった自主規制法人にとって最も重要な座標軸は、資本市場の秩序維持と投資家の保護だった。審査では内部管理体制が上場企業として求められる水準に達しているか否かを吟味する。審査ガイドラインで主な着眼点は公表しているが、多くは定性評価であり、単純に白か黒かと結論づけられるような項目はない。企業の実態を総合的に評価する必要があり、単純化できないためだ。
特注銘柄に指定された企業は上場維持・廃止の両方の可能性があり、不確実性の世界に置かれるのは避けられない。この曖昧さは、決して意図的に創出するものではないが、結果的にポジティブな効果も併せ持っている。これが「建設的曖昧さ」と呼ばれるもので、金融庁在職中に担当した銀行監督の世界では標準的な考え方だ。

この概念を特注制度に当てはめてみよう。もし上場維持の予想が市場で支配的になると、対象企業の改善努力は緩み、投資家による監視や規律づけも甘くなる。仮に上場廃止の予想が支配的になると、株価急落やビジネスの縮小、銀行融資の引き揚げなどが起きて、必然性のない経営破綻を招いてしまうかもしれない。むしろ不確実性が企業の努力を促し、投資家にモニタリングを動機づける。予見可能性と不確実性の「平和共存」こそが、株式市場の品質向上につながるのではないか・・・
原文をお読みください。

佐藤さんは、1月6日のリーダーの本棚に「バッハにみる悠久の秩序」も、書いておられます。