カテゴリー別アーカイブ: 社会と政治

社会と政治

薄給の保育士

8月25日の朝日新聞東京版「薄給の保育士 国の基準で、できっこない」、認可保育園を運営する元帝京大教授(保育学)の村山祐一さんの発言から。

――保育士の処遇改善がなかなか進みません。

国が「保育に必要な額」として算出した公定価格が、認可保育園の運営費です。人件費もここに含まれますが、あくまでも国の配置基準の人数分。ただ、「配置基準では足りない」というのが保育界の常識です。
例えば、3歳児15人を1人で8時間保育できますか。食事や昼寝などいろんな時間がある中で、子どもたちの様子をつぶさに見ながら対応し、記録をつけ、保護者と連携して子どもの育ちを支える。国の配置基準では、できっこないです。
実際、多くの現場では配置基準の1・6~2倍ほどの職員を置いています。配置基準に応じて支給される運営費を、倍近い人数に分配しているのです。

国が想定している保育士の給与額は、国家公務員給与法を参考にしていますが、国家公務員は勤務年数に応じて格付けが上がり、昇給するのに対し、保育士は経験が反映されません。
公費である委託費を全国一律に計算するため、1年目の人も10年目の人も同額で計算される。想定する給与額に経験年数による加配がないため、初任給を高くすれば経験者の給料が低く抑えられる状況です。

――なぜ抜本的な改善にならないのですか。

保育士の仕事が軽視されているとしか考えられません。子どものことを本気で考えていない。どれだけ人手がかかり、子どもの思いを受け止めるのはどれだけ大変なのか。専門性が認められていません。
背景には、政治家の中に「子育ては家庭で」という価値観が根深くあると思わざるを得ません。現場の状況と、国が示す職員の配置基準や公定価格が、とにかく合っていないのです。

――今後、どのようなことが懸念されますか。

なり手は既に減っています。一部の養成校では「定員に満たない」とも聞きます。
心配なのは、子どもの育ちが保障されなくなること。待機児童問題が、これまでと別の形で出てくると思います。預けたい子どもはいても、職員がおらず、園の定員を縮小せざるを得ない。だから預けられない、という問題です。十分な保育士を確保できるだけの給与と配置基準にしないといけません。

日本語苦手な子7万人、10年で倍増

8月9日の日経新聞に「日本語苦手な子、6.9万人で最多 学習環境追いつかず」が載っていました。

・・・外国生まれなどで日本語指導が必要な小中高生が2023年度時点で約6万9000人に上り、約10年前から倍増したことが8日、文部科学省の調査で分かった。このうち1割が日本語について特別な指導を受けておらず、支援体制の構築が追いついていない現状も明らかになった。
政府は国内の人手不足を補うため、海外人材の受け入れを拡大し、家族呼び寄せの道も広げている。子どもの学習機会を確保し、人材の定着を促すことが急務だ。

調査は各教育委員会を対象とし、日本語で日常会話が十分にできない公立小中高校の児童生徒らについて聞いた。前回調査の21年度時点(約5万8000人)から18.6%増え、12年度時点(約3万3000人)からは約2倍になっていた。
国内では23年末時点の在留外国人数が約341万人で過去最多となり、学校に通う子どもも増えている・・・

・・・外国籍児童生徒の母語別の在籍割合を見ると、ブラジルなどで使われるポルトガル語(20.8%)が最も多く、中国語(20.6%)やフィリピノ語(15.4%)が続いた。
要支援者が増える一方、学校側の対応は追いついてない。日本語の基礎を学ぶプログラムや各教科の補習など、特別な指導を受けている児童生徒は外国籍で90.4%、日本国籍で86.6%。21年度比でそれぞれ0.6ポイント、1.5ポイント減少した。
特別な指導を行っていない自治体からは、理由として「日本語指導の教員がいない」「個別に対応する人材が不足している」といった声が寄せられ、国への要望として人材配置や財政面での支援などが挙がった。
進学状況にも依然として課題がみられた。中学生の高校などへの進学率は全中学生を8.7ポイント下回る90.3%で、高校生の大学などへの進学率は全高校生を28.4ポイント下回る46.6%。高校段階での中退率も全高校生の7.7倍にあたる8.5%だった。日本語能力が学習や学校生活における困難につながっている可能性がある・・・

現実と離れた移民政策

8月8日の日経新聞経済教室、鈴木江理子・国士舘大学教授の「移民政策のいま、現実直視し社会統合進めよ」から。

・・・2024年6月、技能実習制度を発展的に解消し、育成就労制度を創設する改定入管法などが成立した。深刻な人口減少・労働力不足を踏まえれば、労働力確保として活用されている技能実習制度の実態から目を背け「国際貢献」という目的を掲げ続けることの限界に、ようやく向き合った制度改定といえる。
だが一方で、法案審議の参院本会議で、岸田文雄首相は「政府としては、国民の人口に比して一定程度の規模の外国人およびその家族を、期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする、いわゆる移民政策をとる考えはない」と答弁している。成長戦略の一つとして「外国人材の活用」を打ち出した安倍晋三元首相の発言を継承する見解だが、一般的な移民政策の定義からすると奇異である。
移民政策には、国境通過にかかる移動局面の政策と国境通過後の居住局面の政策の2つがある。前者は好ましい移民(外国人)と好ましくない移民の線引きによる出入国政策であり、後者は領土内に居住する移民に対する社会保障や政治参加、住居や言語、労働や教育などの政策である・・・

・・・では、なぜ政府は移民を否定するのか。
移民の明確な定義はないが、通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも12カ月間居住する人を「(長期)移民」とする国連定義に照らせば、技能実習生も留学生も移民となる。
日本は「期限を設けることなく」外国人を新規に受け入れてはいないが、家族帯同が可能で、永住や国籍取得への道が開かれている定住型の外国人を移民ととらえれば、日本で暮らす約340万人の外国人(23年末時点)の8割強が移民だ。日本生まれの2世や3世も増えている。
にもかかわらず、移民ではなく「外国人材」という言葉にこだわるのは、有用性を強調することで、欧米諸国が直面している移民問題とは無縁だと、人びとの警戒心や不安を払拭する意図があるとも推測される。
だがかえって誤ったメッセージを与え、人びとの理解を妨げているのではないか。受け入れ後発国である日本は移民社会の現実と向き合い、欧米の教訓を学ぶ必要がある。「われわれは労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」というスイスの作家マックス・フリッシュの言葉が示唆する通り、居住局面の政策が極めて肝要だ。移民政策の国際比較(20年)によれば、日本は56カ国中35位で「統合なき受け入れ」グループに分類される・・・

・・・日本語学習機会の提供など、取り組みの多くが自治体任せであることも変わっていない。19年6月に日本語教育推進法が施行されたが、ドイツやフランス、韓国などで実施されている公用語学習の公的支援制度はいまだ導入されていない。
日本語学習環境の整備や情報の多言語化など、言葉の壁を越える取り組みが地域で実践されている一方で、権利の拡大にかかる施策はなく、制度の壁の解消は進んでいない。
外国籍の子どもの就学実態全国調査が実施されるようになったが、外国人は義務教育の対象ではないとする政府見解は変わらず、今なお学びの権利が奪われている子どもがいる。第2世代以降の社会統合が重要な鍵であることは欧米の経験に照らせば明らかだろう・・・

学童保育の問題

朝日新聞が8月5日、6日と「学童保育はいま 反響編」を載せていました。「上 新年度、全職員が辞めた 保護者困惑」「下 待遇悪く集まらぬ人、子ども守れない

・・・「子どもを安心して預けられない」――。4月に連載した「学童保育はいま」に対し、たくさんの反響が寄せられました。放課後児童クラブ(学童保育)の現場では、何が起きているのでしょうか。読者の声をもとに取材しました。

「春には、今いる職員の大半が辞めます」
今年2月。関西地方の町にある学童保育に子どもを通わせる30代の女性は、職員との面談で聞かされて驚いた。
それまで町が担っていたこの学童保育の運営は、4月から民間企業に委託されることになり、運営者の変更に伴って職員も変わるという。
実際に4月になると、もといた職員5人が引き継ぎに残ったほかは、全員が辞めた。5月には引き継ぎの職員も退職し、新しい職員だけになった・・・
・・・童保育の需要が急増する中で、近年、行政が民間企業に運営を委託するケースが増えている。
全国学童保育連絡協議会(全国連協)が昨年、全国の約3万6千クラスを対象に行った調査によると、運営主体は公営27%、民間企業15%、NPO法人、社会福祉協議会、父母会や地域の役職者でつくる地域運営委員会がそれぞれ10%ほどとなっている。前年と比べると、公営や社会福祉協議会、地域運営委員会は減少しているのに対し、民間企業は増加傾向にあった。
全国連協の佐藤愛子事務局次長は、急増する学童保育の需要に自治体の対応が追いついておらず、アウトソーシングの流れもあって学童保育の民間委託が進んでいると指摘する。一方で、民間企業が学童保育の事業で利益を追求するあまり、保育の質や職員の待遇が悪化することもあり得るという。
佐藤さんは「学童保育の現場の人手不足や、職員の質の底上げという課題は民間企業だけの問題ではない」としたうえで、「どこが運営者であっても、市区町村の条例や国の『運営指針』に基づき、子どもたちにとって望ましい保育ができているかどうか、事業の実施主体である行政が責任を持って監督する必要がある」と指摘する・・・

・・・学童保育は、親が仕事で留守の小学生らを、放課後や長期休みに学校や児童館などで預かる事業だ。1998年施行の改正児童福祉法で法制化された。ただし、事業の実施は自治体の努力義務。
共働き家庭の増加を背景に、利用希望者は都市部を中心に増えている。こども家庭庁の調査によると全国の登録児童数は、5月1日現在の速報値で約151万5千人と過去最多だった。待機児童数も約1万8千人にのぼり、子どもたちの居場所確保が社会問題になっている。
受け皿が足りず、希望しても学童保育に入れず保護者が仕事を続けられないケースもある。重大事故も相次ぎ、狭い空間に多くの子どもが密集している施設もある。職員の過酷な労働環境や人手不足も課題だ・・・

学童保育は、働く親にとって保育園や小学校と同じように必須の施設だと思うのですが。

東京の火葬料、千葉の15倍

8月1日の日経新聞に「東京の火葬料、千葉の15倍」が載っていました。

・・・日本に住むほとんどの人が人生の最後に迎える「火葬」。東京23区の料金は全国でも際立って高い。6月に9万円に上がり、6000円で済む千葉市の15倍になった。背景には、域内9カ所の火葬場のうち7つが民営という特殊性がある。電力や鉄道と異なり、寡占企業が価格を上げやすい状況だ。火葬は「事業」か「公共サービス」か――。その境界は曖昧だ。

火葬料は自治体によって異なる。総務省の小売物価統計(6月時点)によると、東京23区の料金は9万円と全国で断トツだ。2位の那覇市は2万5000円で、火葬が有料の自治体のなかで最安の津市(3000円)とは30倍もの開きがある。札幌市や新潟市などは無料だ。
23区とそれ以外で差が大きいのは、火葬場の運営主体が違うためだ。厚生労働省によると、東京以外のほとんどは地方自治体が運営する公営だ。公費の補助があり安く抑えられる場合が多い。一方の23区は9カ所のうち公営が2、民営が7。民営のうち6カ所を広済堂ホールディングス傘下の東京博善が手掛ける・・・

銭湯の入浴料は知事が決めます。火葬料も、入浴料に近い性格だと思いますが。