カテゴリーアーカイブ:社会と政治

オルテガ『大衆の反逆』

2019年2月12日   岡本全勝

NHKEテレ「100分 de 名著」2月は、オルテガ「大衆の反逆」です。

政治学や法律学では、土地や親族や組織に縛られた中世や封建時代から、近代革命によって、「自由な個人」が生まれることを学びました。これは良いことなのですが、他方でそれが孤立を生むことを、社会学は指摘します。そして、社会主義革命による共産党独裁、ヒットラーによる独裁もありました。
本を読むことで、理解はしたのですが。それを乗り越えたことによって、民主主義は次の段階に進んだと、思っていました。
東西対立の冷戦もありましたが、西欧諸国の安定と経済発展、そして日本の安定と驚異的な経済発展の光の前に、独裁国家や孤独の問題はかすんでいました。

近年になって、ヨーロッパや南米諸国、さらにはアメリカでのポピュリズムや排外主義が強くなることで、「自由主義、民主主義社会での孤独、大衆の暴走」が改めて問題になっています。
「大衆の反逆」は1930年に出版されています。大恐慌が起き、ヒットラーが政権を取る直前です。現在に、当時と似た状況を思わざるを得ません。今回、NHKがこの本を取り上げているのも、そのような理由でしょう。
また、原著を読むこと以上に、このような解説がわかりやすいです。

「民主主義が持続するためには経済成長が必要だ」という説があります。国民は夢を求め、他方で安心と安定を求め、また豊かな生活と生きがいを求めます。そのよう生活ができる社会を望み、その役割を国家に期待します。それが達成されないときに、国民は不満を持ちます。
社会において一つの安定装置は、中間団体です。親族、地縁社会、会社、様々な団体(結社)、政党など、「安心を提供してくれる団体への参加」です。大衆社会は、この中間集団がなくなったときに暴走します。

大衆社会論は、大学時代にいくつかかじりました。『孤独な群衆』『自由からの逃走』、西部邁先生の本も。久しぶりに思い出しました。
引き続き、中間集団の役割を考えています。「結社が支える市民社会」「ポピュリズムの背景、制度不信や中間団体の衰退」「NPO、公共を担う思想の広がり

『フランス現代史』

2019年2月6日   岡本全勝

小田中直樹著『フランス現代史』(2018年、岩波新書)が勉強になります。
1940年代から現在までを、10年ごとに区切って、それぞれの時代の特徴を明らかにしています。そして、全体を通して、社会・国民の間の分裂をどのように統合してきたかという視点で、分析しています。
著者が最初に述べているように、フランスはかつてはお手本とする先進国でしたが、経済面などで「追いついた」日本にとって、以前のようなお手本ではなくなりました。
しかし、欧州統合、移民問題、ポピュリズムなど、内外の変化から生まれる社会の分断に取り組む姿は、いずれ日本のお手本になるでしょう。

社会の分裂と統合。政治の大きな役割です。日本では、それが大きな問題になっていません。たぶん、60年安保闘争が、社会の分裂として政治問題になった最後でしょう。もちろん、都会対田舎、高齢者対若者、正規対非正規、貧富の格差など、社会の亀裂は生まれているのですが。
社会の分裂を政治が統合した例として、イギリスの経験を紹介したことがあります。「社会の分断、それを解決する政治」。アメリカもまた、そのことに悩んでいます。

この本は、現代史と銘打っていますが、経済社会の変化が生む課題とそれに取り組む政治が内容です。かつての歴史書は、政治史でしたが、この本のように社会の変化を視野に入れた政治史まで広がっています。
もちろん、生活や文化などを含めた、もっと広い社会史や文化史も期待したいところです。

新書という分量でまとめるのは、大変な力量が必要です。本書は、それに成功していると思います。お勧めです。日本についても、このような本が書かれると良いですね。

制度不信や中間団体の衰退、その2

2019年2月4日   岡本全勝

ポピュリズムの背景、制度不信や中間団体の衰退」の続きです。
1月31日の水島治郎・千葉大学教授の論考には、政治に限らず、現代社会の技術と経済の変化が、社会や私たちの思考と行動に大きな変化をもたらしていることが指摘されています。

・・・ただここで考えるべきは、中抜き現象が政治面に限らず、経済社会のほとんどの分野で進行していることだ。経済の分野では、流通業者を介さずに生産者が消費者に直接販売する取引が増えている。米エアビーアンドビーやメルカリのように運営会社が「場」を提供しつつも、売り手と買い手が直接取引するシェア経済の比重が高まっている。
メディアの世界では、新聞や雑誌、テレビといった「中」の存在感の低下は明らかで、既存メディアはむしろネット上で批判の対象となる。芸能の世界でも、事務所を通さずユーチューブやネットテレビで視聴者の熱い応援を受け、ブレイクする例も出てきた。

総じて言えるのは、人々の行動に強い影響を与えてきた「既成の権威」が衰退する一方で、個々人が「中」に頼らずに必要なものを売買・発信・視聴し、情報を入手し判断する時代に入ったということだ。いわば中抜き時代の幕開けだ。中抜き政治の台頭は、その一つの表れにすぎない。
そこには危うさもある。中抜き政治のもと、所属する団体の指示を受けず、自分が主体的に選択したはずの投票行動が、フェイクニュースに踊らされた結果ということもあろう。またアンチ・エスタブリッシュメント政党に魅力があるとすれば、往々にして既成政治を批判する歯切れの良さだけであり、政権を担当した後にこれらの政党が様々な困難に直面することも多い。

しかし旧来の中間団体に回帰すべきだという議論にも説得力がない。そもそも人々を包摂していたかつての中間団体は、多くが男性優位的・権威主義的で、年長者への服従を要求し、男女平等や個々人の自由な選択を阻んできた。平成期にこれらの団体が、自分らしさを求める若い世代に見放されたことには、十分な理由があったとみるべきだ。
時代は着実に変化している。中抜き時代の先にどんな社会が来るのか、確たることは言えない。強いて言えば、特定の団体に属して忠誠を尽くすよりも、窮屈な人間関係を離れ、一人ひとりがそれぞれ複数のアドホック(暫定的)なネットワークを作り上げ、網の目の中を動きながら人とつながり人生を豊かにしていく時代になるのではないか。そしてそれは日本人の属する最大の団体、「カイシャ」と個人の関係についても近い将来広く生じると考えている・・・
原文をお読みください。

ポピュリズムの背景、制度不信や中間団体の衰退

2019年2月3日   岡本全勝

日経新聞経済教室連載「ポピュリズムに揺れる世界」が、良い分析をしています。その中から、ポピュリズムが生まれる背景、さらにはこれまでの安定した民主主義が揺らいでいる基盤の指摘が的確です。

1月30日の中山俊宏・慶応義塾大学教授の論考には「米国社会を構成してきた7つの制度に対する信頼度」が載っています。教会・宗教団体、公立学校、最高裁判所、連邦議会、新聞、労働組合、大企業の7つです。公的制度や団体です。
1980年代まで(一時を除き)45%近くあった信頼度は、その後急速に低下し、30%を切っています。

1月31日の水島治郎・千葉大学教授の論考には、日本の有権者の団体加入の変化が載っています。1989年(平成元年)と2018年(平成30年)の比較です。自治会・町内会は68%から25%に、農業団体は11%から3%に。他方で加入していないは、17%から44%に増えています。

・・・人々を束ねる中間団体が弱体化する中で、団体に属さない「無組織層」は激増した。今や有権者の半数に迫る。無組織層の増加は、無党派層の増加と裏表の関係にある。
無組織層の人々にとって、地縁や仕事絡みで団体に加入し系列の政治家・政党を支持する従来のルートはもはや縁がない。既成政党や既存の団体への不信も強い。選挙では団体の指示でなく、メディアやネットの情報を基に自分で判断する。既成政党に挑戦しようとする政治家も無組織層に直接アピールすることを狙い、既成政党や既存の団体を「既得権益」と批判する。既成の政党や団体を批判することが、無組織層にアピールするうえで効果的な戦略だ。
政党組織や中間団体などの媒体を経由しないという「中」を抜いた政治、すなわち「中抜き」政治が有力な政治のあり方となっている。中抜き政治の時代には、既成の政党や団体は20世紀型の古い政治を代表する旧来型システムの名残として批判の対象となる・・・
この項続く。

世界の長期的構造変化、改革と被害者

2019年1月23日   岡本全勝

1月21日の日経新聞「月曜経済観測」、玉木林太郎・国際金融情報センター理事長の「試練の世界経済 長期の構造問題、議論必要」から。

・・・今の世界経済をどうみますか。
「世界は長期的な大きな構造変化期にある。グローバル化がモノやカネから人にまで及び様々な問題を引き起こす。デジタル化が企業や社会生活そのものを完全に変えようとしている。温暖化防止への脱炭素という課題ものしかかる。こうした要因が所得、資産の格差を拡大する方向に働き、政治的にはポピュリズム(大衆迎合主義)、反移民感情などにあらわれる」
「かつては経済の先行きはマクロ経済のトレンドをみればよかったが、今は長いスパンの構造問題の議論が必要だ」

―構造問題への対応が進んでいる国は。
「驚くかもしれないが、ある意味で中国、インドなど新興国はできあがったシステムがないので、解決法も見いだしやすい。先進国はできあがったシステムを壊さなければならない」
「トランプ米政権は炭鉱労働者を保護せざるを得ないが、中国は国全体の排出量取引市場を作った。やることが大胆でスピード感がある。デジタル化もそうだ。守るべきものがある人々と、ない人々の差だ」

―日本では過激な反動は起きていません。
「大きな抗議行動がないのは、敗者を生まないシステムだということだ。日銀は金融緩和をずっと続け、大胆な経済開放、規制緩和に踏み切らず、基本はゆっくりとした改革を続けている。徐々に競争力は低下するが、被害者という勢力は出てこない面もある」・・・