悩んでいた疑問に、「納得」と思える説明に出会いました。
山本芳久著『アリストテレス『ニコマコス倫理学』』(2022年、NHK出版)を読みました。そこに、アリストテレスの倫理学は「幸福論的倫理学」であり、カントの倫理学は「義務論的倫理学」であると説明されています(14ページ)。
幸福論的倫理学は、人間の行為や存在の究極目的は幸福にあると考える倫理学で、それをどのように実現していくかを考えます。幸福という目的が焦点になっているので「目的論的倫理学」とも呼ばれます。
他方、義務論的倫理学は、人間は義務に基づいた行為をする必要があり、道徳法則に対する尊敬が重要であると主張します。そして「○○すべきだ」「××してはいけない」という義務や禁止に基づいて倫理を考えます。詳しい方には常識のことなのでしょうが、素人は知らないことでした。
拙稿「公共を創る」で、政府が個人に関与する場合、特に内面に関与する場合の問題を取り上げました。倫理学は私は門外漢で、法学・政治学からの知識で執筆するのに、苦労しました。他者と共存するためにしてはいけないことがあることは分かります。
他方で、どのような生き方がよいかは、各人に任せられていますが、宗教や親の教えが希薄になった現代では、それを一人で考えることは難しいことです。では、学校で教える道徳はどのようにあるべきか。それは、倫理学とはどのような関係にあるのか。それを考えながら書きました。
この幸福論的倫理学と義務論的倫理学の二つがあることを知って、頭がはっきりしました。私の疑問に即して考えれば、前者は個人の善き生き方を考えるものであり、後者は社会で共存するためのものです。倫理といっても、この二つがあるのです。正確ではないでしょうが、私の議論からは、このように理解しましょう。
アリストテレスが古代ギリシャの哲学者で後世の学問に大きな影響を与えたことは知っていますが、ニコマコス倫理学は名前を聞いたことはあっても読んだ人は少ないでしょう。私もそうでした。「NHK100分で名著」シリーズは、難しい古典を易しく解説してくれるので、ありがたいです。
難しい学問分野の本を読んで理解する際に、素人に役に立つのは解説書です。それも、各原典を要約したような紹介でなく、その分野の全体像を一枚の地図にしたような解説がわかりやすいです。その原典や学者がどのような新しい機軸を打ち出したのか、何が従来と異なり、それは後世にどのような影響を及ぼしたのか。そして現在では、各学説はどのような位置にいるのかです。